アズカバンの囚人
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翌朝、ナマエは大広間で朝食を食べながら時間割をわくわくしながら見つめていた。
「おい、ナマエ」
マイケルがナマエの肩越しに覗き込んで顔をしかめた。
「君の時間割、メチャクチャじゃないか。ほら、一日に十科目もあるぜ。そんなに時間があるわけない」
「なんとかなるさ。マクゴナガル先生と一緒に決めたし、いくつかは他の寮のクラスで受ける。ハーマイオニーなんて、俺より一教科多いんだ」
テリーが笑いだした。
「でも、この日の午前中……九時、『マグル学』。それから、『数占い学』も九時じゃないか」
「なあそれ、いらないならもらうけど」
ナマエがテリーの言葉を遮って、テリーの皿のバターロールをひょいと掴んだ。
朝食を終えた生徒が各々最初の授業に向かいはじめ、大広間がだんだん空になってきた。
アンソニーが立ち上がった。
「僕たちも行ったほうがいい。ほら、『占い学』は北塔のてっぺんでやるんだ。着くのに十分はかかる……」
「俺は『マグル学』に行くよ」
ナマエも朝食をすませ、来た時と同じように大広間を横切った。アンソニーたちと別れて、ナマエはマグル学の教室へと歩いた。後ろの方の席に座ると、隣にハーマイオニーがやってきた。
ハーマイオニーはなぜかぷりぷりしながら席に着いた。
「よう。──『逆転』はうまくいったんだな?」
「ええ、ちょうど今、『占い学』を受けてきたわ。でも、あなたの言う通りね。まったくのインチキだわ!」
ナマエはハーマイオニーの不機嫌の理由がわかって、くっくっと笑った。
「それに、トレローニー先生ったら!ハリーに、グリムが取り憑いているだのなんのって言って脅しまくるのよ。ほんといい加減だわ」
「グリムだって?」
ナマエはハリーが「黒い大きな犬」を見たと言っていたのを思い出して、笑いが引っ込んだ。
ちょうどそのとき、マグル学のチャリティ・バーベッジ先生が入ってきた。マグル学の内容は、ナマエにとっては興味深く面白いものであったが、ハーマイオニーにとっては、当然ながら知ってることばかりで退屈なようだった。マグル学の授業が終わると、二人は空き教室に急いで、誰もいないことを確認してから逆転時計を首に掛けた。
「次は『数占い』だな」
「ええ、いくわよ」
ハーマイオニーが逆転時計をひっくり返した。ハーマイオニーにとっては二回目の、ナマエにとっては初めての、時間の巻き戻しだ。暗い教室が溶けるようになくなった。ナマエはなんだか、とても速く、後ろ向きに飛んでいるような気がした。ぼやけた色や形が、どんどん二人を追い越していく。耳がガンガン鳴った。やがて固い地面に足が着くのを感じた。するとまた周りの物がはっきり見えだした。
「すごい」
ナマエが教室の時計を見て感嘆すると、ハーマイオニーがいそいそと逆転時計をしまった。
「急ぎましょう!遅れちゃうわ!」
ハーマイオニーはすでに廊下に出て、ナマエを急かした。
「──やっと昼食だ、腹ぺこで死ぬところだった」
ナマエはハーマイオニーと昼食を取るために大広間にいた。午前中に人の倍の授業を終え、二人はへとへとだった。
ハーマイオニーは「数占い」の復習をしながら笑った。後からロンとハリーもやってきた。
「ナマエ、なんで君も?」
ハリーが尋ねた。ナマエは手当たり次第の食事を口に放り込んで、飲み込んでから答えた。
「むぐ……科目を取りすぎて時間割が合わないから、俺だけ合同授業は──つまり魔法薬学と魔法生物学は、グリフィンドールと受けることになってるんだ」
合同授業は二時間続きの教科だ。グリフィンドールの三年生の合同授業は、残念ながらスリザリンと一緒だった。
ハリーとナマエが話していると、ロンとハーマイオニーがなにやら険悪な雰囲気を漂わせ始めた。
「『占い学』って、とってもいい加減だわ。言わせていただくなら、当てずっぽうが多すぎる」
「あのカップの中の死神犬は全然いい加減なんかじゃなかった!」
ロンはカッカしていた。
「そうかしら?ナマエだって、『占い学』には懐疑的よ。そうよね?」
ハーマイオニーが突然ナマエを参戦させたので、ナマエはじゃがいもを喉に詰まらせた。
「トレローニー先生は君にまともなオーラがないって言った!君ったら、たった一つでも、自分がクズに見えることが気に入らないんだ」
これはハーマイオニーの弱みを衝いた。ハーマイオニーは「数占い」の教科書でテーブルをバーンと叩いた。あまりの勢いに、肉やらにんじんやらがそこら中に飛び散った。
「『占い学』で優秀だってことが、お茶の葉の塊に死の予兆を読むふりをすることなんだったら、私、この学科といつまでおつき合いできるか自信がないわ!あの授業は『数占い』のクラスに比べたら、まったくのクズよ!」
ハーマイオニーはカバンを引っつかみ、つんつんしながら去っていった。
「……『占い学』を取らなくて正解だった」
ナマエは自分の胸をどんどん叩いてじゃがいもを飲み込んだ。杖で散らばった食事をかき集めて、自分の皿に乗せ、再びもくもくと食べ始めた。
ロンはハーマイオニーの後ろ姿にしかめっ面をした。
昼食のあと、ナマエたちは「魔法生物飼育学」の最初の授業に向かっていた。ロンとハーマイオニーは互いに口をきかない。ハリーとナマエも黙って二人の脇を歩き、禁じられた森の端にあるハグリッドの小屋をめざして、芝生を下っていった。マルフォイがクラッブとゴイルに生き生きと話しかけ、二人がゲラゲラ笑っていた。次のクラスはスリザリンとの合同授業なのだ。
ハグリッドが小屋の外で生徒を待っていた。厚手木綿のオーバーを着込み、足元にボアハウンド犬のファングを従え、早く始めたくてうずうずしている様子で立っていた。
「さあ、急げ。早く来いや!」
生徒が近づくとハグリッドが声をかけた。
「みんな、ここの柵の周りに集まれ!」
ハグリッドが号令をかけた。
「そーだ──ちゃんと見えるようにしろよ。さーて、イッチ番先にやるこたぁ、教科書を開くこった──」
「どうやって?」
ドラコ・マルフォイの冷たい気取った声だ。
マルフォイは「怪物的な怪物の本」を取り出したが、紐でぐるぐる巻きに縛ってあった。他の生徒も本を取り出した。ベルトで縛っている生徒もあれば、きっちりした袋に押し込んだり、大きなクリップで挟んでいる生徒もいた。
「だ、だーれも教科書をまだ開けなんだのか?いや──ナマエ!お前さんは読んだのか?」
ハグリッドはナマエを見た。ナマエの教科書だけは、おとなしく開かれていた。
ナマエはハグリッドににっこりして頷いた。
「で、どうやって?」
マルフォイが暴れ出しそうな本を両手で押さえながら冷たく繰り返した。
「そいつにキスしてやればいいのさ」
ナマエが言うと、ロンがプーっと吹き出した。冗談だと思ったらしい。
マルフォイは眉根を上げた。ナマエは唸ってから、マルフォイの「怪物的な怪物の本」をひったくって、ぐるぐる巻かれた紐を解いた。
暴れ出す本の表紙にナマエが口付けると、途端に、ブルッと震えてパタンと開き、本はおとなしくなった。
「──ほら、言っただろ」
ナマエは得意げにパラパラめくってみせた。ロンとハリー、ハーマイオニーはポカンとした。
ネビルがナマエを見て同じように本にキスをしようとして、鼻に噛みつかれた。
「ははははは!みんな、列を作れ!プリンス・ミョウジが本にキスしてくれるぞ!」
マルフォイはそう言ってゲラゲラ笑い、スリザリンの寮生もどっと笑った。
しかし、ナマエがマルフォイに本を投げ返した途端、本は再び凶暴性を取り戻して持ち主に襲いかかり、マルフォイは悲鳴をあげた。
「やめんかい!こら!撫ぜりゃーいいだけだ、背表紙を撫ぜりゃ」
ハグリッドはハーマイオニーの教科書を取り上げ、本を縛りつけていたスペロテープをビリリと剥がした。ハグリッドの巨大な親指で背表紙をひと撫でされると、ハグリッドの手の中でおとなしくなった。
「僕たちの手を噛み切ろうとする本を持たせるなんて、まったくユーモアたっぷりだ!」
「黙れ、マルフォイ」
ハリーが静かに言った。ハグリッドはうなだれていた。
「えーと、そんじゃ」
ハグリッドは何を言うつもりだったか忘れてしまったらしい。
「そんで……えーと、教科書はある、と。そいで……えーと……こんだぁ、魔法生物が必要だ。ウン。そんじゃ、俺が連れてくる。待っとれよ……」
ハグリッドは大股で森へと入り、姿が見えなくなった。
「まったく、この学校はどうなってるんだろうねぇ」
マルフォイが声を張りあげた。
「あのウドの大木が教えるなんて、父上に申し上げたら、卒倒なさるだろうなぁ」
「黙れ、マルフォイ」
ハリーが繰り返し言った。ナマエとロンもマルフォイを睨みつけていた。
「オォォォォォォー!」
突然、ラベンダー・ブラウンが放牧場の向こう側を指差して、甲高い声を出した。生き物が十数頭、早足でこっちへ向かってくる。胴体、後脚、尻尾は馬で、前脚と羽、そして頭部は巨大な鳥のように見えた。鋼色の残忍な嘴と、大きくギラギラしたオレンジ色の目が、鷲そっくりだ。前脚の鉤爪は十五、六センチもあろうか。それぞれ分厚い革の首輪をつけ、それをつなぐ長い鎖の端をハグリッドの大きな手が全部まとめて握っていた。
「──ヒッポグリフだ」
ナマエは息を呑んだ。ハグリッドはヒッポグリフの後ろから駆け足で放牧場に入ってきた。
「ドウ、ドウ!」
ハグリッドが大きくかけ声をかけ、鎖を振るってヒッポグリフを生徒たちの立っている柵のほうへ追いやった。ハグリッドが生徒のところへやってきて、柵につないだ時は、みんながじわっと後ずさりした。
「ヒッポグリフだ!美しかろう、え?」
ハグリッドの言うように、ヒッポグリフの輝くような毛並みが羽から毛へと滑らかに変わっていくさまは、確かに見応えがあった。
「まんず、イッチ番先にヒッポグリフについて知らなければなんねえことは、こいつらは誇り高い。すぐ怒るぞ、ヒッポグリフは。絶対、侮辱してはなんねぇ。そんなことをしてみろ、それがおまえさんたちの最後の仕業になるかもしんねぇぞ」
マルフォイ、クラッブ、ゴイルは、聞いてもいなかった。何やらひそひそ話している。どうやったらうまく授業をぶち壊しにできるか企んでいるのではと、いやな予感がした。
「かならず、ヒッポグリフのほうが先に動くのを待つんだぞ」
ハグリッドの話は続く。
「それが礼儀ってもんだろう。な?こいつのそばまで歩いてゆく。そんでもってお辞儀する。そんで、待つんだ。こいつがお辞儀を返したら、触ってもいいっちゅうこった。もしお辞儀を返さなんだら、素早く離れろ。こいつの鉤爪は痛いからな」
「よーし、誰が一番乗りだ?」
答える代わりに、ほとんどの生徒がますます後ずさりした。
「僕、やるよ」
ハリーが名乗り出た。すぐ後ろで、あっと息を呑む音がして、ラベンダーとパーバティが囁いた。
「あぁぁー、だめよ、ハリー。お茶の葉を忘れたの!」
ハリーは二人を無視して、放牧場の柵を乗り越えたので、ナマエとハーマイオニーは目を合わせてにやっとした。
「よーし、そんじゃ、バックビークとやってみよう」
ハグリッドは鎖を一本解き、灰色のヒッポグリフを群れから引き離し、革の首輪をはずした。放牧場の柵の向こうでは、クラス全員が息を止めているかのようだった。マルフォイは意地悪く目を細めていた。
「さあ、落ち着け、ハリー」
バックビークは巨大な、鋭い頭をハリーのほうに向け、猛々しいオレンジ色の目の片方だけでハリーを睨んでいた。
「ハリー、それでええ……それ、お辞儀だ……」
ハリーは言われたとおりにした。軽くお辞儀し、また目を上げた。バックビークはまだ気位高くハリーを見据えていた。動かない。
「あー」
ハグリッドの声が心配そうだった。
「よーし……さがれ、ハリー。ゆっくりだ──」
しかし、その時だ。驚いたことに、突然バックビークが、鱗に覆われた前脚を折り、どう見てもお辞儀だと思われる格好をしたのだ。
「やったぞ、ハリー!」
ハグリッドが狂喜した。
「よーし――触ってもええぞ!嘴を撫ぜてやれ、ほれ!」
ハリーはゆっくりとバックビークに近より、手を伸ばした。何度か嘴を撫でると、バックビークはそれを楽しむかのようにとろりと目を閉じた
クラス全員が拍手した。マルフォイ、クラッブ、ゴイルだけは、ひどくがっかりしたようだった。
「よーし、そんじゃ、ハリー、こいつはおまえさんを背中に乗せてくれると思うぞ」
ハグリッドがハリーを抱き上げてバックビークの背に乗せた。バックビークが立ち上がった。
「そーれ行け!」
ハグリッドがバックビークの尻をパシンと叩いた。何の前触れもなしに、四メートルもの翼がハリーの左右で開き、羽撃いた。
「おお……」
ナマエは感嘆した。大きな風を生みながら、バックビークとハリーは上空に舞い上がり、旋回してまた元の場所に着地した。
「よーくできた、ハリー!」
ハグリッドは大声を出し、マルフォイ、クラッブ、ゴイル以外の全員が歓声をあげた。
「よーしと。ほかにやってみたい者はおるか?」
ハリーの成功に励まされ、他の生徒も恐々放牧場に入ってきた。
ハグリッドは一頭ずつヒッポグリフを解き放ち、やがて放牧場のあちこちで、みんながおずおずとお辞儀を始めた。
ネビルのヒッポグリフは膝を折ろうとしなかったので、ネビルは何度も慌てて逃げた。
「──ネビル、瞬きを減らすんだ。ヒッポグリフがあんたを信用できるか疑ってる」
ナマエはネビルに助言して、お辞儀をしてみせた。ナマエにはなぜだかヒッポグリフたちの感情の機微がわかるような気がした。自分もヒッポグリフも、翼があるからだろうか。
ロンとハーマイオニーは、ハリーが見ているところで栗毛のヒッポグリフで練習した。マルフォイ、クラッブ、ゴイルは、ハリーのあとにバックビークに向かった。バックビークがお辞儀したので、マルフォイは尊大な態度でその嘴を撫でていた。
「簡単じゃぁないか」
もったいぶって、わざとハリーに聞こえるようにマルフォイが言った。
「ポッターにできるんだ、簡単に違いないと思ったよ。……おまえ、全然危険なんかじゃないなぁ?」
マルフォイはバックビークに話しかけた。バックビークの瞳孔が少し開いた。ナマエは嫌な予感がした。
「そうだろう?──醜いデカブツの野獣君」
ナマエは、咄嗟にマルフォイに駆け寄って突き飛ばした。バックビークの怒りを感じたのだ。
鋼色の鉤爪が光った。ナマエの腕に鋭い痛みが走った。マルフォイがヒッーと悲鳴をあげ、次の瞬間ハグリッドがバックビークに首輪をつけようと格闘していた。
「ナマエ!」
ハリーが叫び、生徒の悲鳴が聞こえた。バックビークはマルフォイを襲おうともがき、うずくまったナマエのローブが見る見る血に染まり、マルフォイはナマエの下で身を丸めていた。
「僕、死んじゃう。見てよ!あいつ、僕を襲った!」
マルフォイが喚いた。クラス中がパニックに陥っていた。
「お前さんは死にゃせん!」
ハグリッドはぴしゃりと言ってナマエに駆け寄った。
「誰か、手伝ってくれ。──この子を、ナマエをこっから連れ出さにゃ」
「いっ……だっ、大丈夫、ハグリッド。大丈夫、ただの切り傷だ!このくらい、自分で治せる──」
「だめだ、校医に見てもらわにゃいかん!」
ナマエは痛みに顔を顰めながら反論したが、ハグリッドはナマエを軽々と抱え上げ、ハーマイオニーが走っていってゲートを開けた。
ナマエの腕の深々と長い裂け目から、血が草地に点々と飛び散るのを見て、クラス中が恐怖に包まれた。
ナマエはハグリッドに抱えられながら、必死でローブをまさぐって杖を取り出した。
杖を傷口に当て、呪文を唱えた。血が止まり、少しだけ傷口が小さくなったような気がした。
ふっと息を吐いてからナマエはハグリッドの顔をチラリと見た。不安でいっぱいの表情だった。
「──ハグリッド、俺は大丈夫だ。ほら、血も止まってるし、自分で歩ける。──ハグリッド!」
「ああ、ああ、大丈夫だな」
ハグリッドは上の空で答えた。
医務室に着くと、マダム・ポンフリーが忙しなくやってきて、ナマエの腕を診察した。
ハグリッドは不安そうにそれを見つめた。
「授業中にヒッポグリフの爪にやられたんでさ」
「いや、ちょっと掠っただけです、本当に」
ナマエは血濡れたローブをこっそり清めながら言った。
「──応急処置は済んでいるようですね、すぐに良くなるでしょう。傷跡が残るかもしれませんが」
マダム・ポンフリーはてきぱきと傷口を確認すると、ハナハッカのエキスを塗り、包帯をきっちり巻いた。
ナマエは傷口がじぐじぐと痛むことよりも、ハグリッドの授業が台無しになってしまったことで胸がいっぱいだった。
医務室を出ると夕食の時間になっていた。
ハグリッドはナマエを大広間に連れて行ってくれた。その道中、ハグリッドは何度もナマエに謝り、しょげきっていた。
「こいつぁ新記録だ」
ハグリッドがどんよりと言った。
「一日しかもたねえ先生なんざ、これまでいなかったろう。だけんど、時間の問題だわな……」
「ハグリッドは悪くない。先生の言うことを聞いてないバカが悪いよ、絶対に」
ナマエが即座に言った。
「すまなかったな、ナマエよ」
ハグリッドはそう言って、とぼとぼと大きな背中を丸めて小屋に戻っていった。
大広間に入ると、がやがやと食事をしていた生徒たちがちらちらとナマエを見た。
ハーマイオニーが駆け寄ってきて、そのあとにハリーとロンもやってきた。
「ナマエ、大丈夫?」
「なんともない、大袈裟なんだ。ほら、大丈──大丈夫」
ナマエは包帯が巻かれたほうの拳を握ったり開いたりして、一瞬痛みで顔を顰めたが、取り繕って笑った。このままカササギの姿に変身したらどうなるのだろうとぼんやり思った。
「マルフォイのやつ、自分がけしかけたくせに襲われただの吹聴してるよ」
ロンがスリザリンのテーブルを睨んだ。
ナマエもスリザリンのほうに目をやると、一瞬マルフォイと目があったが、すぐに逸らされた。
「まあ、マルフォイがやられなくてよかったよ、絶対にややこしいことになってた」
ナマエが言った。
「もうなってるかも」
ハーマイオニーがため息をついた。
「理事に報告がいったらしいのよ。授業中に魔法生物が生徒を襲ったって」
ナマエはうなだれた。
「体を張った甲斐があるよ、ほんと」
「僕たち、ハグリッドのところに行ってくるよ。すごく落ち込んでるだろうし」
ハリーはそう言って、三人は大広間を出ていった。
レイブンクローのテーブルに向かうと、パドマがナマエを呼んだ。生徒たちが一斉にナマエを見た。
「ナマエ!パーバティから聞いたわよ。腕は大丈夫?」
「大丈夫、ありがと」
ナマエはへにゃりと笑って、マイケルの隣に座った。
「災難だったな。さすがにマルフォイも、懲りておとなしくなるんじゃないか」
「だといいけど」
ナマエははあ、とため息をついてチキンにフォークを刺した。
「おい、ナマエ」
マイケルがナマエの肩越しに覗き込んで顔をしかめた。
「君の時間割、メチャクチャじゃないか。ほら、一日に十科目もあるぜ。そんなに時間があるわけない」
「なんとかなるさ。マクゴナガル先生と一緒に決めたし、いくつかは他の寮のクラスで受ける。ハーマイオニーなんて、俺より一教科多いんだ」
テリーが笑いだした。
「でも、この日の午前中……九時、『マグル学』。それから、『数占い学』も九時じゃないか」
「なあそれ、いらないならもらうけど」
ナマエがテリーの言葉を遮って、テリーの皿のバターロールをひょいと掴んだ。
朝食を終えた生徒が各々最初の授業に向かいはじめ、大広間がだんだん空になってきた。
アンソニーが立ち上がった。
「僕たちも行ったほうがいい。ほら、『占い学』は北塔のてっぺんでやるんだ。着くのに十分はかかる……」
「俺は『マグル学』に行くよ」
ナマエも朝食をすませ、来た時と同じように大広間を横切った。アンソニーたちと別れて、ナマエはマグル学の教室へと歩いた。後ろの方の席に座ると、隣にハーマイオニーがやってきた。
ハーマイオニーはなぜかぷりぷりしながら席に着いた。
「よう。──『逆転』はうまくいったんだな?」
「ええ、ちょうど今、『占い学』を受けてきたわ。でも、あなたの言う通りね。まったくのインチキだわ!」
ナマエはハーマイオニーの不機嫌の理由がわかって、くっくっと笑った。
「それに、トレローニー先生ったら!ハリーに、グリムが取り憑いているだのなんのって言って脅しまくるのよ。ほんといい加減だわ」
「グリムだって?」
ナマエはハリーが「黒い大きな犬」を見たと言っていたのを思い出して、笑いが引っ込んだ。
ちょうどそのとき、マグル学のチャリティ・バーベッジ先生が入ってきた。マグル学の内容は、ナマエにとっては興味深く面白いものであったが、ハーマイオニーにとっては、当然ながら知ってることばかりで退屈なようだった。マグル学の授業が終わると、二人は空き教室に急いで、誰もいないことを確認してから逆転時計を首に掛けた。
「次は『数占い』だな」
「ええ、いくわよ」
ハーマイオニーが逆転時計をひっくり返した。ハーマイオニーにとっては二回目の、ナマエにとっては初めての、時間の巻き戻しだ。暗い教室が溶けるようになくなった。ナマエはなんだか、とても速く、後ろ向きに飛んでいるような気がした。ぼやけた色や形が、どんどん二人を追い越していく。耳がガンガン鳴った。やがて固い地面に足が着くのを感じた。するとまた周りの物がはっきり見えだした。
「すごい」
ナマエが教室の時計を見て感嘆すると、ハーマイオニーがいそいそと逆転時計をしまった。
「急ぎましょう!遅れちゃうわ!」
ハーマイオニーはすでに廊下に出て、ナマエを急かした。
「──やっと昼食だ、腹ぺこで死ぬところだった」
ナマエはハーマイオニーと昼食を取るために大広間にいた。午前中に人の倍の授業を終え、二人はへとへとだった。
ハーマイオニーは「数占い」の復習をしながら笑った。後からロンとハリーもやってきた。
「ナマエ、なんで君も?」
ハリーが尋ねた。ナマエは手当たり次第の食事を口に放り込んで、飲み込んでから答えた。
「むぐ……科目を取りすぎて時間割が合わないから、俺だけ合同授業は──つまり魔法薬学と魔法生物学は、グリフィンドールと受けることになってるんだ」
合同授業は二時間続きの教科だ。グリフィンドールの三年生の合同授業は、残念ながらスリザリンと一緒だった。
ハリーとナマエが話していると、ロンとハーマイオニーがなにやら険悪な雰囲気を漂わせ始めた。
「『占い学』って、とってもいい加減だわ。言わせていただくなら、当てずっぽうが多すぎる」
「あのカップの中の死神犬は全然いい加減なんかじゃなかった!」
ロンはカッカしていた。
「そうかしら?ナマエだって、『占い学』には懐疑的よ。そうよね?」
ハーマイオニーが突然ナマエを参戦させたので、ナマエはじゃがいもを喉に詰まらせた。
「トレローニー先生は君にまともなオーラがないって言った!君ったら、たった一つでも、自分がクズに見えることが気に入らないんだ」
これはハーマイオニーの弱みを衝いた。ハーマイオニーは「数占い」の教科書でテーブルをバーンと叩いた。あまりの勢いに、肉やらにんじんやらがそこら中に飛び散った。
「『占い学』で優秀だってことが、お茶の葉の塊に死の予兆を読むふりをすることなんだったら、私、この学科といつまでおつき合いできるか自信がないわ!あの授業は『数占い』のクラスに比べたら、まったくのクズよ!」
ハーマイオニーはカバンを引っつかみ、つんつんしながら去っていった。
「……『占い学』を取らなくて正解だった」
ナマエは自分の胸をどんどん叩いてじゃがいもを飲み込んだ。杖で散らばった食事をかき集めて、自分の皿に乗せ、再びもくもくと食べ始めた。
ロンはハーマイオニーの後ろ姿にしかめっ面をした。
昼食のあと、ナマエたちは「魔法生物飼育学」の最初の授業に向かっていた。ロンとハーマイオニーは互いに口をきかない。ハリーとナマエも黙って二人の脇を歩き、禁じられた森の端にあるハグリッドの小屋をめざして、芝生を下っていった。マルフォイがクラッブとゴイルに生き生きと話しかけ、二人がゲラゲラ笑っていた。次のクラスはスリザリンとの合同授業なのだ。
ハグリッドが小屋の外で生徒を待っていた。厚手木綿のオーバーを着込み、足元にボアハウンド犬のファングを従え、早く始めたくてうずうずしている様子で立っていた。
「さあ、急げ。早く来いや!」
生徒が近づくとハグリッドが声をかけた。
「みんな、ここの柵の周りに集まれ!」
ハグリッドが号令をかけた。
「そーだ──ちゃんと見えるようにしろよ。さーて、イッチ番先にやるこたぁ、教科書を開くこった──」
「どうやって?」
ドラコ・マルフォイの冷たい気取った声だ。
マルフォイは「怪物的な怪物の本」を取り出したが、紐でぐるぐる巻きに縛ってあった。他の生徒も本を取り出した。ベルトで縛っている生徒もあれば、きっちりした袋に押し込んだり、大きなクリップで挟んでいる生徒もいた。
「だ、だーれも教科書をまだ開けなんだのか?いや──ナマエ!お前さんは読んだのか?」
ハグリッドはナマエを見た。ナマエの教科書だけは、おとなしく開かれていた。
ナマエはハグリッドににっこりして頷いた。
「で、どうやって?」
マルフォイが暴れ出しそうな本を両手で押さえながら冷たく繰り返した。
「そいつにキスしてやればいいのさ」
ナマエが言うと、ロンがプーっと吹き出した。冗談だと思ったらしい。
マルフォイは眉根を上げた。ナマエは唸ってから、マルフォイの「怪物的な怪物の本」をひったくって、ぐるぐる巻かれた紐を解いた。
暴れ出す本の表紙にナマエが口付けると、途端に、ブルッと震えてパタンと開き、本はおとなしくなった。
「──ほら、言っただろ」
ナマエは得意げにパラパラめくってみせた。ロンとハリー、ハーマイオニーはポカンとした。
ネビルがナマエを見て同じように本にキスをしようとして、鼻に噛みつかれた。
「ははははは!みんな、列を作れ!プリンス・ミョウジが本にキスしてくれるぞ!」
マルフォイはそう言ってゲラゲラ笑い、スリザリンの寮生もどっと笑った。
しかし、ナマエがマルフォイに本を投げ返した途端、本は再び凶暴性を取り戻して持ち主に襲いかかり、マルフォイは悲鳴をあげた。
「やめんかい!こら!撫ぜりゃーいいだけだ、背表紙を撫ぜりゃ」
ハグリッドはハーマイオニーの教科書を取り上げ、本を縛りつけていたスペロテープをビリリと剥がした。ハグリッドの巨大な親指で背表紙をひと撫でされると、ハグリッドの手の中でおとなしくなった。
「僕たちの手を噛み切ろうとする本を持たせるなんて、まったくユーモアたっぷりだ!」
「黙れ、マルフォイ」
ハリーが静かに言った。ハグリッドはうなだれていた。
「えーと、そんじゃ」
ハグリッドは何を言うつもりだったか忘れてしまったらしい。
「そんで……えーと、教科書はある、と。そいで……えーと……こんだぁ、魔法生物が必要だ。ウン。そんじゃ、俺が連れてくる。待っとれよ……」
ハグリッドは大股で森へと入り、姿が見えなくなった。
「まったく、この学校はどうなってるんだろうねぇ」
マルフォイが声を張りあげた。
「あのウドの大木が教えるなんて、父上に申し上げたら、卒倒なさるだろうなぁ」
「黙れ、マルフォイ」
ハリーが繰り返し言った。ナマエとロンもマルフォイを睨みつけていた。
「オォォォォォォー!」
突然、ラベンダー・ブラウンが放牧場の向こう側を指差して、甲高い声を出した。生き物が十数頭、早足でこっちへ向かってくる。胴体、後脚、尻尾は馬で、前脚と羽、そして頭部は巨大な鳥のように見えた。鋼色の残忍な嘴と、大きくギラギラしたオレンジ色の目が、鷲そっくりだ。前脚の鉤爪は十五、六センチもあろうか。それぞれ分厚い革の首輪をつけ、それをつなぐ長い鎖の端をハグリッドの大きな手が全部まとめて握っていた。
「──ヒッポグリフだ」
ナマエは息を呑んだ。ハグリッドはヒッポグリフの後ろから駆け足で放牧場に入ってきた。
「ドウ、ドウ!」
ハグリッドが大きくかけ声をかけ、鎖を振るってヒッポグリフを生徒たちの立っている柵のほうへ追いやった。ハグリッドが生徒のところへやってきて、柵につないだ時は、みんながじわっと後ずさりした。
「ヒッポグリフだ!美しかろう、え?」
ハグリッドの言うように、ヒッポグリフの輝くような毛並みが羽から毛へと滑らかに変わっていくさまは、確かに見応えがあった。
「まんず、イッチ番先にヒッポグリフについて知らなければなんねえことは、こいつらは誇り高い。すぐ怒るぞ、ヒッポグリフは。絶対、侮辱してはなんねぇ。そんなことをしてみろ、それがおまえさんたちの最後の仕業になるかもしんねぇぞ」
マルフォイ、クラッブ、ゴイルは、聞いてもいなかった。何やらひそひそ話している。どうやったらうまく授業をぶち壊しにできるか企んでいるのではと、いやな予感がした。
「かならず、ヒッポグリフのほうが先に動くのを待つんだぞ」
ハグリッドの話は続く。
「それが礼儀ってもんだろう。な?こいつのそばまで歩いてゆく。そんでもってお辞儀する。そんで、待つんだ。こいつがお辞儀を返したら、触ってもいいっちゅうこった。もしお辞儀を返さなんだら、素早く離れろ。こいつの鉤爪は痛いからな」
「よーし、誰が一番乗りだ?」
答える代わりに、ほとんどの生徒がますます後ずさりした。
「僕、やるよ」
ハリーが名乗り出た。すぐ後ろで、あっと息を呑む音がして、ラベンダーとパーバティが囁いた。
「あぁぁー、だめよ、ハリー。お茶の葉を忘れたの!」
ハリーは二人を無視して、放牧場の柵を乗り越えたので、ナマエとハーマイオニーは目を合わせてにやっとした。
「よーし、そんじゃ、バックビークとやってみよう」
ハグリッドは鎖を一本解き、灰色のヒッポグリフを群れから引き離し、革の首輪をはずした。放牧場の柵の向こうでは、クラス全員が息を止めているかのようだった。マルフォイは意地悪く目を細めていた。
「さあ、落ち着け、ハリー」
バックビークは巨大な、鋭い頭をハリーのほうに向け、猛々しいオレンジ色の目の片方だけでハリーを睨んでいた。
「ハリー、それでええ……それ、お辞儀だ……」
ハリーは言われたとおりにした。軽くお辞儀し、また目を上げた。バックビークはまだ気位高くハリーを見据えていた。動かない。
「あー」
ハグリッドの声が心配そうだった。
「よーし……さがれ、ハリー。ゆっくりだ──」
しかし、その時だ。驚いたことに、突然バックビークが、鱗に覆われた前脚を折り、どう見てもお辞儀だと思われる格好をしたのだ。
「やったぞ、ハリー!」
ハグリッドが狂喜した。
「よーし――触ってもええぞ!嘴を撫ぜてやれ、ほれ!」
ハリーはゆっくりとバックビークに近より、手を伸ばした。何度か嘴を撫でると、バックビークはそれを楽しむかのようにとろりと目を閉じた
クラス全員が拍手した。マルフォイ、クラッブ、ゴイルだけは、ひどくがっかりしたようだった。
「よーし、そんじゃ、ハリー、こいつはおまえさんを背中に乗せてくれると思うぞ」
ハグリッドがハリーを抱き上げてバックビークの背に乗せた。バックビークが立ち上がった。
「そーれ行け!」
ハグリッドがバックビークの尻をパシンと叩いた。何の前触れもなしに、四メートルもの翼がハリーの左右で開き、羽撃いた。
「おお……」
ナマエは感嘆した。大きな風を生みながら、バックビークとハリーは上空に舞い上がり、旋回してまた元の場所に着地した。
「よーくできた、ハリー!」
ハグリッドは大声を出し、マルフォイ、クラッブ、ゴイル以外の全員が歓声をあげた。
「よーしと。ほかにやってみたい者はおるか?」
ハリーの成功に励まされ、他の生徒も恐々放牧場に入ってきた。
ハグリッドは一頭ずつヒッポグリフを解き放ち、やがて放牧場のあちこちで、みんながおずおずとお辞儀を始めた。
ネビルのヒッポグリフは膝を折ろうとしなかったので、ネビルは何度も慌てて逃げた。
「──ネビル、瞬きを減らすんだ。ヒッポグリフがあんたを信用できるか疑ってる」
ナマエはネビルに助言して、お辞儀をしてみせた。ナマエにはなぜだかヒッポグリフたちの感情の機微がわかるような気がした。自分もヒッポグリフも、翼があるからだろうか。
ロンとハーマイオニーは、ハリーが見ているところで栗毛のヒッポグリフで練習した。マルフォイ、クラッブ、ゴイルは、ハリーのあとにバックビークに向かった。バックビークがお辞儀したので、マルフォイは尊大な態度でその嘴を撫でていた。
「簡単じゃぁないか」
もったいぶって、わざとハリーに聞こえるようにマルフォイが言った。
「ポッターにできるんだ、簡単に違いないと思ったよ。……おまえ、全然危険なんかじゃないなぁ?」
マルフォイはバックビークに話しかけた。バックビークの瞳孔が少し開いた。ナマエは嫌な予感がした。
「そうだろう?──醜いデカブツの野獣君」
ナマエは、咄嗟にマルフォイに駆け寄って突き飛ばした。バックビークの怒りを感じたのだ。
鋼色の鉤爪が光った。ナマエの腕に鋭い痛みが走った。マルフォイがヒッーと悲鳴をあげ、次の瞬間ハグリッドがバックビークに首輪をつけようと格闘していた。
「ナマエ!」
ハリーが叫び、生徒の悲鳴が聞こえた。バックビークはマルフォイを襲おうともがき、うずくまったナマエのローブが見る見る血に染まり、マルフォイはナマエの下で身を丸めていた。
「僕、死んじゃう。見てよ!あいつ、僕を襲った!」
マルフォイが喚いた。クラス中がパニックに陥っていた。
「お前さんは死にゃせん!」
ハグリッドはぴしゃりと言ってナマエに駆け寄った。
「誰か、手伝ってくれ。──この子を、ナマエをこっから連れ出さにゃ」
「いっ……だっ、大丈夫、ハグリッド。大丈夫、ただの切り傷だ!このくらい、自分で治せる──」
「だめだ、校医に見てもらわにゃいかん!」
ナマエは痛みに顔を顰めながら反論したが、ハグリッドはナマエを軽々と抱え上げ、ハーマイオニーが走っていってゲートを開けた。
ナマエの腕の深々と長い裂け目から、血が草地に点々と飛び散るのを見て、クラス中が恐怖に包まれた。
ナマエはハグリッドに抱えられながら、必死でローブをまさぐって杖を取り出した。
杖を傷口に当て、呪文を唱えた。血が止まり、少しだけ傷口が小さくなったような気がした。
ふっと息を吐いてからナマエはハグリッドの顔をチラリと見た。不安でいっぱいの表情だった。
「──ハグリッド、俺は大丈夫だ。ほら、血も止まってるし、自分で歩ける。──ハグリッド!」
「ああ、ああ、大丈夫だな」
ハグリッドは上の空で答えた。
医務室に着くと、マダム・ポンフリーが忙しなくやってきて、ナマエの腕を診察した。
ハグリッドは不安そうにそれを見つめた。
「授業中にヒッポグリフの爪にやられたんでさ」
「いや、ちょっと掠っただけです、本当に」
ナマエは血濡れたローブをこっそり清めながら言った。
「──応急処置は済んでいるようですね、すぐに良くなるでしょう。傷跡が残るかもしれませんが」
マダム・ポンフリーはてきぱきと傷口を確認すると、ハナハッカのエキスを塗り、包帯をきっちり巻いた。
ナマエは傷口がじぐじぐと痛むことよりも、ハグリッドの授業が台無しになってしまったことで胸がいっぱいだった。
医務室を出ると夕食の時間になっていた。
ハグリッドはナマエを大広間に連れて行ってくれた。その道中、ハグリッドは何度もナマエに謝り、しょげきっていた。
「こいつぁ新記録だ」
ハグリッドがどんよりと言った。
「一日しかもたねえ先生なんざ、これまでいなかったろう。だけんど、時間の問題だわな……」
「ハグリッドは悪くない。先生の言うことを聞いてないバカが悪いよ、絶対に」
ナマエが即座に言った。
「すまなかったな、ナマエよ」
ハグリッドはそう言って、とぼとぼと大きな背中を丸めて小屋に戻っていった。
大広間に入ると、がやがやと食事をしていた生徒たちがちらちらとナマエを見た。
ハーマイオニーが駆け寄ってきて、そのあとにハリーとロンもやってきた。
「ナマエ、大丈夫?」
「なんともない、大袈裟なんだ。ほら、大丈──大丈夫」
ナマエは包帯が巻かれたほうの拳を握ったり開いたりして、一瞬痛みで顔を顰めたが、取り繕って笑った。このままカササギの姿に変身したらどうなるのだろうとぼんやり思った。
「マルフォイのやつ、自分がけしかけたくせに襲われただの吹聴してるよ」
ロンがスリザリンのテーブルを睨んだ。
ナマエもスリザリンのほうに目をやると、一瞬マルフォイと目があったが、すぐに逸らされた。
「まあ、マルフォイがやられなくてよかったよ、絶対にややこしいことになってた」
ナマエが言った。
「もうなってるかも」
ハーマイオニーがため息をついた。
「理事に報告がいったらしいのよ。授業中に魔法生物が生徒を襲ったって」
ナマエはうなだれた。
「体を張った甲斐があるよ、ほんと」
「僕たち、ハグリッドのところに行ってくるよ。すごく落ち込んでるだろうし」
ハリーはそう言って、三人は大広間を出ていった。
レイブンクローのテーブルに向かうと、パドマがナマエを呼んだ。生徒たちが一斉にナマエを見た。
「ナマエ!パーバティから聞いたわよ。腕は大丈夫?」
「大丈夫、ありがと」
ナマエはへにゃりと笑って、マイケルの隣に座った。
「災難だったな。さすがにマルフォイも、懲りておとなしくなるんじゃないか」
「だといいけど」
ナマエははあ、とため息をついてチキンにフォークを刺した。