アズカバンの囚人
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ハーマイオニーとロンの言い合いを聞きながら、四人は「漏れ鍋」へと向かった。ウィーズリー氏が「日刊予言者新聞」を読みながら、バーに座っていた。もうすっかりお馴染みのシリウス・ブラックが、一面記事から目をぎらつかせていた。
「ハリー!──ナマエ、君も!」
ウィーズリー氏が目を上げて二人に笑いかけた。
「元気かね?」
「はい。元気です」
ハリーが答え、ナマエは頷いた。
四人は買物をどっさり抱えてウィーズリー氏のそばに座った。
その時ウィーズリー夫人がバーに入ってきた。山のように買物を抱えている。後ろに引き連れているのは、ホグワーツの五年生に進級する双子のフレッドとジョージ、全校首席に選ばれたパーシー、ウィーズリー家の末っ子で一人娘のジニーだった。ジニーはハリーを見たとたん、いつもよりなおいっそ真っ赤になった。その顔を隠すように、ハリーから顔を背けてナマエに向かって「こんにちは」と消え入るように言った。
「やあ」
ナマエはにやっと笑ってハリーを肘で小突いた。
「こんにちは、ジニー」
ハリーはできるだけジニーの緊張をほぐそうと愛想良く答えた。
一方パーシーは、まるでハリーとは初対面でもあるかのようにまじめくさって挨拶した。
「ハリー、お目にかかれてまことにまことにうれしい」
「やあ、パーシー」
ハリーとナマエは必死で笑いをこらえた。
「お変わりないでしょうね?」
ハリーと握手しながらパーシーがもったいぶって聞いた。なんだか市長にでも紹介されているような感じだった。
「パーシー殿、俺もいらっしゃいますけれども」
ナマエは腰に両手を当てて言った。すると、フレッドがパーシーを肘で押しのけ、前に出て深々とお辞儀をした。
「パーシーめのご無礼をお許しください。お懐かしきご尊顔を拝し、なんたる光栄」
フレッドを押しのけて、今度はジョージがナマエの手を取った。
「恭悦至極に存じたてまつり」
ナマエがくっくっと笑うと、パーシーが顔をしかめた。
「いい加減におやめなさい」
ウィーズリー夫人は空いている椅子に買物を置いた。
「こんにちは、ハリー、ナマエ。わが家のすばらしいニュースを聞いたでしょう?」
パーシーの胸に光る真新しい金バッジを指差し、ウィーズリー夫人が晴れがましさに胸を張って言った。
「わが家の二人目の首席なのよ!」
「そして最後のね」
フレッドが声をひそめて言った。
その夜の夕食は楽しかった。宿の亭主のトムが食堂のテーブルを三つつなげてくれて、ウィーズリー家の七人、ナマエ、ハリー、ハーマイオニーの全員がフルコースのおいしい食事を次々と平らげた。
「パパ、明日、どうやってキングズ・クロス駅に行くの?」
豪華なチョコレート・ケーキのデザートにかぶりつきながら、フレッドが聞いた。
「魔法省が車を二台用意してくれる」
ウィーズリー氏が答えた。みんないっせいにウィーズリー氏の顔を見た。
「どうして?」
ジョージが尋ねた。
「そりゃ、私たちにはもう車がなくなってしまったし、それに、私が勤めているので、ご好意で……」
何気ない言い方だったが、ウィーズリー氏の耳が真っ赤になったのをナマエは見逃さなかった。何かプレッシャーがかかったときのロンと同じだ。
「大助かりだわ」
ウィーズリー夫人がきびきびと言った。
「みんな、どんなに大荷物なのかわかってるの?マグルの地下鉄なんかに乗ったら、さぞかし見物でしょうよ……」
夕食も終わり、みんな満腹で眠くなった。明日持っていくものを確かめるため、一人、また一人と階段を上ってそれぞれの部屋に戻った。
ロンとパーシーはナマエとハリーの隣部屋だった。
「マグルの地下鉄も使ってみたかったんだけどな──」
ナマエがハリーに話しかけたその時、誰かの怒鳴り声が壁越しに聞こえてきた。ナマエとハリーは何事かと部屋を出た。十二号室のドアが半開きになって、パーシーが怒鳴っていた。
「ここに、ベッド脇の机にあったんだぞ!磨くのにはずしておいたんだから──」
「いいか、僕は触ってないぞ」
ロンも怒鳴り返した。
「どうしたんだ?」
ナマエが聞いた。
「僕の首席バッジがなくなった」
ナマエたちのほうを振り向きざま、パーシーが言った。
「スキャバーズのネズミ栄養ドリンクもないんだ」
ロンはトランクの中身をポイポイ放り出して探していた。
「もしかしたらバーに忘れたかな──」
「僕のバッジを見つけるまでは、どこにも行かせないぞ!」
パーシーが叫んだ。
「僕、スキャバーズのほう、探してくる。僕は荷造りが終わったから」
ハリーは、ロンにそう言って階段を下りた。
ナマエはうまく逃げたハリーを恨めしげに目で追いながら、パーシーに話しかけた。
「パーシー、バッジに呼び寄せ呪文を使えばいいじゃないか」
パーシーははっとして「アクシオ、首席バッジ!」と唱えた。
部屋の外から「うわっ」という声が聞こえ、パーシーの手にきらめくバッジが飛び込んできた。
ただ──バッジには「首席」ではなく「石頭」と書いてあった。
階下から双子の笑い声が聞こえ、パーシーの顔がみるみる赤くなっていったので、ナマエは新たな火種が爆発する前にそそくさと自室に戻った。
荷造りが終わっていたナマエは、ベッドに寝転んで、バーカウンターに放置されていた「変身現代」を読んでいた。
もちろん、雑誌の中でもシリウス・ブラックの話題は事欠かなかった。ナマエは記事を流し読みしていると、ある名前が目に止まった。
「ポッター夫妻……?」
──シリウス・ブラックは魔法法執行部により逮捕され、爆発呪文で十三人を殺した罪とポッター夫妻の居場所を明かして死に追いやった罪、「例のあの人」に仕えた罪で、裁判無しにバーティ・クラウチ・シニア氏によりアズカバンでの終身刑を言い渡された。生き残ったマグルたちはマグル対策口実委員会により、爆発呪文の代わりにガス爆発が起きたという記憶を与えられた。現場から指が発見されたことからピーター・ペティグリューはブラックに立ち向かったとされ、マーリン勲章勲一等を授与され───
ナマエは緊張しながらシリウス・ブラックについての記事を読んでいると、ハリーが戻ってきた。
ナマエは咄嗟に雑誌を閉じて飛び起きた。
「──ナマエ、君の言う通りだった」
「な、何が?」
ハリーがため息をつきながらベッドに座った。
「シリウス・ブラックが僕を狙ってるって、ウィーズリーおじさんが話してるのを聞いた」
ナマエはどきりとした。──ハリーは、まだ知らないのだ。シリウス・ブラックがポッター夫妻を例のあの人に売ったという事実を。
「……心配するなよ、アズカバンの看守もブラックを探しているんだし」
「心配なんかしてない。むしろ、みんなが心配しすぎなくらいだ。ブラックが捕まるまで、僕はずっとみんなに監視されるんだろうな」
「そりゃ、そうかもしれないけど。四六時中護衛がつくわけじゃないだろ」
ハリーは答えずに、どさりとベッドに倒れ込んだ。
「──僕は殺されたりしない」
ハリーは力んだ声で言った。ナマエはハリーが何を思っているのかあまりわからなかったが、自分も横になった。
──それは、ハリー。あんたの額のその傷が、あんたを守るからか?
ナマエはついぞハリーの傷に触れたときのことを、誰にも言えないまま夏休みを終えた。
翌朝はてんやわんやの大騒ぎだった。パーシーとロンはいまだに険悪なムードで起きてきた。動物を飼っているものはなだめすかしてなんとか籠に入れ、どたばたと朝食を終えてみんなで魔法省の用意した車に乗り込んだ。
キングス・クロスまでの道のりは「夜の騎士バス」よりもあっけなく終わった。ぞろぞろと大所帯で九と四分の三番線に向かう間、ウィーズリー氏はぴったりとハリーにくっついていた。
ウィーズリー夫人は子どもたち全員にキスをし、それからハーマイオニー、ナマエ、最後にハリーにキスした。ナマエは夫人にぎゅっと抱きしめられてとてもうれしかった。それと同時に、家を飛び出てから一度も連絡のない父親のことを思い出して、胃がちくりと痛んだ。
列車に乗り込もうとすると、ハリーがウィーズリー氏に呼ばれているのが見えた。シリウス・ブラックのことだろうか。
ナマエはコンパートメントの窓からそれを見ながら、空いている席を探した。
「ナマエ!」
ふと名前を呼ばれて、ハリーから目を離した。コンパートメントからナマエを手招きしているのは、テリー、マイケル、アンソニーだった。
「よお!久しぶり」
ナマエは招かれた席に座った。三人とも少し日焼けしたようだった。
「夏休みはどうだった?」
テリーが言った。
「まあまあ、そっちは楽しんだみたいだな」
まもなくホグワーツ特急が動き出し、四人でそれぞれの夏休みの話で盛り上がった。
汽車がさらに北へ進むと、雨も激しさを増した。窓の外は雨足が微かに光るだけの灰色一色で、その色も墨色に変わり、やがて通路と荷物棚にポッとランプが点った。汽車はガタゴト揺れ、雨は激しく窓を打ち、風は唸りをあげた。
「もう着くころだ」
アンソニーが身を乗り出し、もう真っ暗になっている窓の外を見て言った。突然、汽車がガクンと止まった。どこか遠くのほうから、ドサリ、ドシンと荷物棚からトランクが落ちる音が聞こえてきた。そして、何の前触れもなく、明りがいっせいに消え、あたりが急に真っ暗闇になった。
「……何だ?」
ナマエは手探りでコンパートメントの扉を開けた。その途端、凍えるような冷気が滑り込んできた。
「ナマエ!閉めて!──吸魂鬼だ!」
窓際にいたアンソニーが叫んだ。
「吸魂──!っハリー!」
ナマエは咄嗟に通路に飛び出てコンパートメントの戸を閉めた。
アズカバンの看守が、吸魂鬼 がいる。つまり──シリウス・ブラックがここにいる。
ハリーが危ない。
ナマエは暗い通路に一歩踏み出した。しかし、行く手から泣き叫びながら誰かが走ってきた。
「うわあああ!」
声の主がナマエに正面からぶつかり、ナマエはよろめいた。
「誰だ?!」
「──ばかっ!」
ナマエは突然、ぐいと首元を後ろから掴まれた。マイケルがナマエをコンパートメントに連れ戻したのだ。
ナマエにぶつかってきた人物も息も絶え絶えコンパートメントに駆け込んできた。
アンソニーが杖灯りを向けると、なんと──怯えてひいひい悲鳴をあげているマルフォイだった。
「ナマエ!あんまり吸魂鬼に近づくと魂を抜かれるぞ!」
マイケルはマルフォイを無視してナマエに怒鳴った。テリーとアンソニーも青い顔をしていた。
「ごめん……」
普段ならガタガタ震えているマルフォイをからかいたいところだが、全員そんな気は全く起こらなかった。体の内側が凍って、楽しい思いは二度と味わえないような心地がした。
沈黙の中、しばらくすると冷たい空気が去り、ゆっくりと列車が動き出した。
到着まで、みんな口数が少なかった。気が付くとマルフォイはいなくなっていた。やっと、汽車はホグズミード駅で停車し、みんなが下車するのでひと騒動だった。
「さっきの騒動で、ハリーが気絶したらしいよ」
馬車に乗り込みながら、テリーが言った。
「襲われたのか?吸魂鬼に?」
「さあ、そこまでは」
生徒の群がる石段を、ナマエは群れに混じって上がり、正面玄関の巨大な樫の扉を通り、広々とした玄関ホールに入った。そこは松明で明々と照らされ、上階に通ずる壮大な大理石の階段があった。右のほうに大広間への扉が開いていた。四人は群れの流れについて中に入った。
ナマエがきょろきょろとあたりを見渡していると、マイケルがため息をついた。
「どうしてそんなにハリーを気にかける?」
「だって──」
その時、誰かが名前を呼んだ。
「ミスター・ミョウジ!いらっしゃい。話があります」
マクゴナガル先生だった。驚いたことに、ハリーとハーマイオニーを連れていた。
マクゴナガル先生は、厳格さが服を着て歩いているような威厳があった。四角いメガネの奥の鋭い眼光で、心当たりがあるなしに関わらず、自分が何かしでかしたのを見透かされているような気がした。
「俺、ですか?」
「そんな心配そうな顔をしなくてよろしい。おいでなさい」
ナマエはマイケルたちに手を振って、マクゴナガル先生に従った。先生はナマエ、ハリー、ハーマイオニーを引き連れて、にぎやかな生徒の群れから離れていった。
「ハリー!──ナマエ、君も!」
ウィーズリー氏が目を上げて二人に笑いかけた。
「元気かね?」
「はい。元気です」
ハリーが答え、ナマエは頷いた。
四人は買物をどっさり抱えてウィーズリー氏のそばに座った。
その時ウィーズリー夫人がバーに入ってきた。山のように買物を抱えている。後ろに引き連れているのは、ホグワーツの五年生に進級する双子のフレッドとジョージ、全校首席に選ばれたパーシー、ウィーズリー家の末っ子で一人娘のジニーだった。ジニーはハリーを見たとたん、いつもよりなおいっそ真っ赤になった。その顔を隠すように、ハリーから顔を背けてナマエに向かって「こんにちは」と消え入るように言った。
「やあ」
ナマエはにやっと笑ってハリーを肘で小突いた。
「こんにちは、ジニー」
ハリーはできるだけジニーの緊張をほぐそうと愛想良く答えた。
一方パーシーは、まるでハリーとは初対面でもあるかのようにまじめくさって挨拶した。
「ハリー、お目にかかれてまことにまことにうれしい」
「やあ、パーシー」
ハリーとナマエは必死で笑いをこらえた。
「お変わりないでしょうね?」
ハリーと握手しながらパーシーがもったいぶって聞いた。なんだか市長にでも紹介されているような感じだった。
「パーシー殿、俺もいらっしゃいますけれども」
ナマエは腰に両手を当てて言った。すると、フレッドがパーシーを肘で押しのけ、前に出て深々とお辞儀をした。
「パーシーめのご無礼をお許しください。お懐かしきご尊顔を拝し、なんたる光栄」
フレッドを押しのけて、今度はジョージがナマエの手を取った。
「恭悦至極に存じたてまつり」
ナマエがくっくっと笑うと、パーシーが顔をしかめた。
「いい加減におやめなさい」
ウィーズリー夫人は空いている椅子に買物を置いた。
「こんにちは、ハリー、ナマエ。わが家のすばらしいニュースを聞いたでしょう?」
パーシーの胸に光る真新しい金バッジを指差し、ウィーズリー夫人が晴れがましさに胸を張って言った。
「わが家の二人目の首席なのよ!」
「そして最後のね」
フレッドが声をひそめて言った。
その夜の夕食は楽しかった。宿の亭主のトムが食堂のテーブルを三つつなげてくれて、ウィーズリー家の七人、ナマエ、ハリー、ハーマイオニーの全員がフルコースのおいしい食事を次々と平らげた。
「パパ、明日、どうやってキングズ・クロス駅に行くの?」
豪華なチョコレート・ケーキのデザートにかぶりつきながら、フレッドが聞いた。
「魔法省が車を二台用意してくれる」
ウィーズリー氏が答えた。みんないっせいにウィーズリー氏の顔を見た。
「どうして?」
ジョージが尋ねた。
「そりゃ、私たちにはもう車がなくなってしまったし、それに、私が勤めているので、ご好意で……」
何気ない言い方だったが、ウィーズリー氏の耳が真っ赤になったのをナマエは見逃さなかった。何かプレッシャーがかかったときのロンと同じだ。
「大助かりだわ」
ウィーズリー夫人がきびきびと言った。
「みんな、どんなに大荷物なのかわかってるの?マグルの地下鉄なんかに乗ったら、さぞかし見物でしょうよ……」
夕食も終わり、みんな満腹で眠くなった。明日持っていくものを確かめるため、一人、また一人と階段を上ってそれぞれの部屋に戻った。
ロンとパーシーはナマエとハリーの隣部屋だった。
「マグルの地下鉄も使ってみたかったんだけどな──」
ナマエがハリーに話しかけたその時、誰かの怒鳴り声が壁越しに聞こえてきた。ナマエとハリーは何事かと部屋を出た。十二号室のドアが半開きになって、パーシーが怒鳴っていた。
「ここに、ベッド脇の机にあったんだぞ!磨くのにはずしておいたんだから──」
「いいか、僕は触ってないぞ」
ロンも怒鳴り返した。
「どうしたんだ?」
ナマエが聞いた。
「僕の首席バッジがなくなった」
ナマエたちのほうを振り向きざま、パーシーが言った。
「スキャバーズのネズミ栄養ドリンクもないんだ」
ロンはトランクの中身をポイポイ放り出して探していた。
「もしかしたらバーに忘れたかな──」
「僕のバッジを見つけるまでは、どこにも行かせないぞ!」
パーシーが叫んだ。
「僕、スキャバーズのほう、探してくる。僕は荷造りが終わったから」
ハリーは、ロンにそう言って階段を下りた。
ナマエはうまく逃げたハリーを恨めしげに目で追いながら、パーシーに話しかけた。
「パーシー、バッジに呼び寄せ呪文を使えばいいじゃないか」
パーシーははっとして「アクシオ、首席バッジ!」と唱えた。
部屋の外から「うわっ」という声が聞こえ、パーシーの手にきらめくバッジが飛び込んできた。
ただ──バッジには「首席」ではなく「石頭」と書いてあった。
階下から双子の笑い声が聞こえ、パーシーの顔がみるみる赤くなっていったので、ナマエは新たな火種が爆発する前にそそくさと自室に戻った。
荷造りが終わっていたナマエは、ベッドに寝転んで、バーカウンターに放置されていた「変身現代」を読んでいた。
もちろん、雑誌の中でもシリウス・ブラックの話題は事欠かなかった。ナマエは記事を流し読みしていると、ある名前が目に止まった。
「ポッター夫妻……?」
──シリウス・ブラックは魔法法執行部により逮捕され、爆発呪文で十三人を殺した罪とポッター夫妻の居場所を明かして死に追いやった罪、「例のあの人」に仕えた罪で、裁判無しにバーティ・クラウチ・シニア氏によりアズカバンでの終身刑を言い渡された。生き残ったマグルたちはマグル対策口実委員会により、爆発呪文の代わりにガス爆発が起きたという記憶を与えられた。現場から指が発見されたことからピーター・ペティグリューはブラックに立ち向かったとされ、マーリン勲章勲一等を授与され───
ナマエは緊張しながらシリウス・ブラックについての記事を読んでいると、ハリーが戻ってきた。
ナマエは咄嗟に雑誌を閉じて飛び起きた。
「──ナマエ、君の言う通りだった」
「な、何が?」
ハリーがため息をつきながらベッドに座った。
「シリウス・ブラックが僕を狙ってるって、ウィーズリーおじさんが話してるのを聞いた」
ナマエはどきりとした。──ハリーは、まだ知らないのだ。シリウス・ブラックがポッター夫妻を例のあの人に売ったという事実を。
「……心配するなよ、アズカバンの看守もブラックを探しているんだし」
「心配なんかしてない。むしろ、みんなが心配しすぎなくらいだ。ブラックが捕まるまで、僕はずっとみんなに監視されるんだろうな」
「そりゃ、そうかもしれないけど。四六時中護衛がつくわけじゃないだろ」
ハリーは答えずに、どさりとベッドに倒れ込んだ。
「──僕は殺されたりしない」
ハリーは力んだ声で言った。ナマエはハリーが何を思っているのかあまりわからなかったが、自分も横になった。
──それは、ハリー。あんたの額のその傷が、あんたを守るからか?
ナマエはついぞハリーの傷に触れたときのことを、誰にも言えないまま夏休みを終えた。
翌朝はてんやわんやの大騒ぎだった。パーシーとロンはいまだに険悪なムードで起きてきた。動物を飼っているものはなだめすかしてなんとか籠に入れ、どたばたと朝食を終えてみんなで魔法省の用意した車に乗り込んだ。
キングス・クロスまでの道のりは「夜の騎士バス」よりもあっけなく終わった。ぞろぞろと大所帯で九と四分の三番線に向かう間、ウィーズリー氏はぴったりとハリーにくっついていた。
ウィーズリー夫人は子どもたち全員にキスをし、それからハーマイオニー、ナマエ、最後にハリーにキスした。ナマエは夫人にぎゅっと抱きしめられてとてもうれしかった。それと同時に、家を飛び出てから一度も連絡のない父親のことを思い出して、胃がちくりと痛んだ。
列車に乗り込もうとすると、ハリーがウィーズリー氏に呼ばれているのが見えた。シリウス・ブラックのことだろうか。
ナマエはコンパートメントの窓からそれを見ながら、空いている席を探した。
「ナマエ!」
ふと名前を呼ばれて、ハリーから目を離した。コンパートメントからナマエを手招きしているのは、テリー、マイケル、アンソニーだった。
「よお!久しぶり」
ナマエは招かれた席に座った。三人とも少し日焼けしたようだった。
「夏休みはどうだった?」
テリーが言った。
「まあまあ、そっちは楽しんだみたいだな」
まもなくホグワーツ特急が動き出し、四人でそれぞれの夏休みの話で盛り上がった。
汽車がさらに北へ進むと、雨も激しさを増した。窓の外は雨足が微かに光るだけの灰色一色で、その色も墨色に変わり、やがて通路と荷物棚にポッとランプが点った。汽車はガタゴト揺れ、雨は激しく窓を打ち、風は唸りをあげた。
「もう着くころだ」
アンソニーが身を乗り出し、もう真っ暗になっている窓の外を見て言った。突然、汽車がガクンと止まった。どこか遠くのほうから、ドサリ、ドシンと荷物棚からトランクが落ちる音が聞こえてきた。そして、何の前触れもなく、明りがいっせいに消え、あたりが急に真っ暗闇になった。
「……何だ?」
ナマエは手探りでコンパートメントの扉を開けた。その途端、凍えるような冷気が滑り込んできた。
「ナマエ!閉めて!──吸魂鬼だ!」
窓際にいたアンソニーが叫んだ。
「吸魂──!っハリー!」
ナマエは咄嗟に通路に飛び出てコンパートメントの戸を閉めた。
アズカバンの看守が、
ハリーが危ない。
ナマエは暗い通路に一歩踏み出した。しかし、行く手から泣き叫びながら誰かが走ってきた。
「うわあああ!」
声の主がナマエに正面からぶつかり、ナマエはよろめいた。
「誰だ?!」
「──ばかっ!」
ナマエは突然、ぐいと首元を後ろから掴まれた。マイケルがナマエをコンパートメントに連れ戻したのだ。
ナマエにぶつかってきた人物も息も絶え絶えコンパートメントに駆け込んできた。
アンソニーが杖灯りを向けると、なんと──怯えてひいひい悲鳴をあげているマルフォイだった。
「ナマエ!あんまり吸魂鬼に近づくと魂を抜かれるぞ!」
マイケルはマルフォイを無視してナマエに怒鳴った。テリーとアンソニーも青い顔をしていた。
「ごめん……」
普段ならガタガタ震えているマルフォイをからかいたいところだが、全員そんな気は全く起こらなかった。体の内側が凍って、楽しい思いは二度と味わえないような心地がした。
沈黙の中、しばらくすると冷たい空気が去り、ゆっくりと列車が動き出した。
到着まで、みんな口数が少なかった。気が付くとマルフォイはいなくなっていた。やっと、汽車はホグズミード駅で停車し、みんなが下車するのでひと騒動だった。
「さっきの騒動で、ハリーが気絶したらしいよ」
馬車に乗り込みながら、テリーが言った。
「襲われたのか?吸魂鬼に?」
「さあ、そこまでは」
生徒の群がる石段を、ナマエは群れに混じって上がり、正面玄関の巨大な樫の扉を通り、広々とした玄関ホールに入った。そこは松明で明々と照らされ、上階に通ずる壮大な大理石の階段があった。右のほうに大広間への扉が開いていた。四人は群れの流れについて中に入った。
ナマエがきょろきょろとあたりを見渡していると、マイケルがため息をついた。
「どうしてそんなにハリーを気にかける?」
「だって──」
その時、誰かが名前を呼んだ。
「ミスター・ミョウジ!いらっしゃい。話があります」
マクゴナガル先生だった。驚いたことに、ハリーとハーマイオニーを連れていた。
マクゴナガル先生は、厳格さが服を着て歩いているような威厳があった。四角いメガネの奥の鋭い眼光で、心当たりがあるなしに関わらず、自分が何かしでかしたのを見透かされているような気がした。
「俺、ですか?」
「そんな心配そうな顔をしなくてよろしい。おいでなさい」
ナマエはマイケルたちに手を振って、マクゴナガル先生に従った。先生はナマエ、ハリー、ハーマイオニーを引き連れて、にぎやかな生徒の群れから離れていった。