アズカバンの囚人
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車掌のスタンがバスの扉を開けた。馴染みのあるニキビ面がへらっと笑った。
「なんだあ、ナマエ!またおめえか。懲りねえなあ、え?行き先は『漏れ鍋』だな?」
「よう、スタン。久しぶり!うん、頼むよ」
ナマエはさっきまでの苛立ちを落ち着かせて、にっこり笑った。大きなトランクを抱えて、髪を邪魔そうに振りながら『ナイト・バス』乗り込んだ。すると、突然自分の名前が呼ばれた。
「ナマエ!」
くしゃくしゃの黒髪で、メガネをかけた少年──ハリーだった。
「ハ──むぐ、ぐ!」
ナマエが目を丸くしてハリーの名前を叫びそうになると、ハリーが咄嗟にその口を抑えて「ネビル、僕はネビルだ」と小声で訴えた。
「何?ネビル……?」
「なんだあ、ネビル。友達か?このミョウジの坊ちゃんは、とんだ放蕩息子だぜぇ。すーぐ俺たちを呼び出す」
ナマエは困惑したが、スタンの言葉に笑いながら、トランクと代金を押し付けた。
「やあ、アーン」
ナマエが運転手に挨拶すると、アーンはこっくり頷いた。スタンはナマエのトランクを受け取って荷台に乗せた。
ハリーが手招きしたので、ナマエは、ハリーのベッドに座った。
「おい、こんなところでハ──ネビルに会えるなんて思っても見なかったよ。どういうことだ?どこいくんだ?何してる?あれ、ヘドウィグは?」
ナマエが質問攻めをしたので、ハリーは周囲をきょろきょろ見回してから声を潜めて話し出した。
ハリーは、血のつながらない親戚のマージおばさんに両親を侮辱され、怒りのあまりにマージおばさんを魔法でふくらませてしまったことを打ち明けた。そのままダーズリー家を飛び出たものの行く当てがなく、偶然このバスに乗ったこと。どうしようもないので、とりあえずロンドンに向かっていることを話した。ハリーは、未成年魔法使用禁止と、魔法使い機密保持法を犯したことで、ホグワーツを退学──むしろ、逮捕されるのではないかと恐れていた。
ナマエは愉快そうにその話を聞いて、ハリーの肩を叩いた。
「大丈夫だって!だって去年の違反は結局、あんたじゃなくてドビーがやったんだろ?じゃあ初犯だし、そんなに心配しなくていいさ。マグルの家は大変だなあ」
「そうかな……そうだといいんだけど……」
「そうさ」
ナマエがきっぱり言うと、ハリーはふう、と息をついた。思いがけなく友人に出会えたことで気持ちが軽くなったらしい。
「──ナマエ、君はどうしてここに?」
「あんたと似たようなもんだよ」
ハリーはナマエの顔をまじまじと見た。初めてホグワーツ特急でハリーと出会った時の、ナマエの腫れた頬を思い出したのだろうと思った。
「お父さんと喧嘩したの?」
「喧嘩できるならまだマシだ」
ナマエはぼすん、とハリーのベッドに上半身を預けた。
「──ハーマイオニーからの手紙を捨てられたんだ。息子がマグル生まれとつるんでいるのが気に食わないのさ」
ナマエは指で首元のネックレスを弄りながら言った。
「……君のパパは、どうしてマグルが嫌いなの?」
「知らない。マルフォイにでも聞いたらわかるかもな」
ナマエは自分の言葉が刺々しい気がして、ハリーに背中を向けて寝返りを打った。八つ当たりしたいわけではないのに、父親のことを考えると苛立ちが抑えられなかった。
「──あの人!マグルのニュースで見たよ!」
しばらく黙っていると、突然、ハリーが声を上げた。スタンがクスクス笑った。
スタンのほうに目をやると、スタンは、「日刊予言者新聞」を広げていた。一面記事に大きな写真があり、もつれた長い髪の頬のこけた男──シリウス・ブラックが、ゆっくりと瞬きしていた。
「あたぼうよ。こいつぁマグルのニュースになってらぁ。ネビル、どっか遠いとこでも行ってたか?」
ハリーが呆気にとられているのを見て、スタンはなんとなく得意げなクスクス笑いをしてハリーに新聞を渡しにきた。
「ネビル、もっと新聞を読まねぇといけねぇよ」
ナマエは寝転んだまま、ぼーっとハリーが新聞を読むのを眺めていた。
「この人、十三人も殺したの?」
新聞をスタンに返しながらハリーが聞いた。
「たった一つの呪文で?」
「あいな。目撃者なんてぇのもいるし。真っ昼間だ。てーした騒ぎだったなぁ。ブラックは『例のあのしと』の一の子分だった」
「え?ヴォルデモートの?」
ナマエは、思わずガバッと起き上がった。スタンはニキビまで真っ青になり、アーンはいきなりハンドルを切ったので、バスを避けるのに農家が一軒まるまる飛びのいた。
「気はたしかか?」スタンの声が上ずっていた。
「なんであのしとの名めえを呼んだりした?」
「ごめん、えっと、忘れてた」
ハリーが慌てて言った。
「本当に勘弁してくれ」
ナマエはまた横に伸びて唸った。
「それで──それでブラックは『例のあの人』の支持者だったんだね?」
ハリーは謝りながらも答えを促した。
「んだ、ブラックはマグルで混み合ってる道のど真ん中で追いつめられっちまって、そいでブラックが杖を取り出して、そいで道の半分ほどぶっ飛ばしっちまった。巻き添え食ったのは魔法使いが一人と、ちょうどそこにいあわせたマグル十二人てぇわけよ。しでえ話じゃぁねえか?」
アーンがブレーキを思いっきり踏みつけ、「ナイト・バス」は急停車した。小さな、みすぼらしいパブ、「漏れ鍋」の前だった。その裏にダイアゴン横丁への魔法の入口がある。
「もう着いたのか」ナマエがそう言って起き上がって伸びをした。
「一緒に泊まろうぜ、ネビル」
「君、お金はあるの?」
「自分の分だけならな」
ハリーは笑った。二人はアーンとスタンに礼を言った。
ハリーがバスを先に降り、ナマエが続いた。スタンが、ハリーとナマエのトランクとヘドウィグの籠を歩道に降ろすのを手伝った。ふとパブから誰かが出てきた。それを見たナマエは胃がひゅっと縮むのを感じた。コーネリウス・ファッジ、魔法大臣だ。
「それじゃ、さよなら!」気がついていないハリーがスタンに言った。
しかし、スタンは聞いてもいなかった。ナマエと同じように、魔法大臣に目が釘付けになっていた。
「ハリー、やっと見つけた」
ハリーが振り返る間もなく、ファッジがハリーの肩に手を置いた。と同時に、スタンが大声をあげた。
「おったまげた。アーン、来いよ。こっち来て、見ろよ!」
スタンがバスから歩道に飛び降りた。
「大臣、ネビルのことをなーんて呼びなすった?」
スタンは興奮していた。ファッジは小柄なでっぷりとした体に細縞の長いマントをまとい、寒そうに、疲れた様子で立っていた。
「ネビル?」ファッジが眉をひそめながら繰り返した。
「ハリー・ポッターだが」
「ちげぇねぇ!」スタンは大喜びだった。
「アーン!アーン!ネビルが誰か当ててみな!アーン!このしと、アリー・ポッターだ!したいの傷が見えるぜ!」
「そうだ」ファッジが煩しそうに言った。
「まあ、『ナイト・バス』がハリーを拾ってくれて大いにうれしい。だが、私はもう、ハリーと二人で『漏れ鍋』に入らねば……君は?」
ファッジはナマエに目をとめた。
「あ……ナマエ・ミョウジです。友人です」
「おお、君がチチオヤの息子か。すまないが、ハリーと話があるんだ。二人きりにしてもらえるかね?」
また、パブから一人出てきた。パブの店主、トムだ。
「大臣、捕まえなすったかね!……おお、ミョウジさんもご一緒ですか」
「トム、個室を頼む」
ファッジがことさらはっきり言った。
ナマエたちは『漏れ鍋』に入った。ファッジとハリーは、トムに案内されてカウンターの奥の個室に向かっていった。ハリーの肩には、まだファッジの手がしっかりと回されていた。
ナマエがファッジとハリーを追いかけようとするのを、トムが制した。
「こら、お待ちなさい。大臣はハリーと話がおありなんです」
「何の話を?」
ナマエは内心焦っていた。ハリーに心配するなと大見えを切ったのに、あろうことか魔法大臣のいる場所に連れてきてしまった。もし、ハリーが退学になったら、逮捕されてしまったら……。ナマエの顔を見て、トムは安心させるように笑った。
「そりゃ……安全の話でしょう。ああ、ハリーがすぐに見つかって本当によかった。大臣は本当に心配していなすった」
「安全?」
ナマエは怪訝な顔をした。トムはポットに紅茶をたっぷりこしらえ、クランペットを皿に持って、ファッジとハリーの部屋に向かって姿を消した。
ナマエはカウンターに座ってそわそわと待った。トムが帰ってくると、ナマエは金貨を何枚か差し出した。目線はハリーとファッジがいる部屋に釘付けのままだった。
「ああ、ミョウジさん、また家出ですかい」
「うん。新学期まで泊めてほしい。人手がいるなら店の仕事も手伝います」
トムはナマエにも紅茶を淹れて差し出した。ナマエはようやっとトムの方を見た。
「そいじゃ、また湿布を作ってもらいましょう。お代はそれで十分です」
「ありがとう……」
ナマエはおずおずと紅茶を受け取った。そのとき、ファッジが大股で部屋から出てきた。
「大臣!」
ナマエはガタッと立ち上がり、ファッジに駆け寄った。
「ハリーは、その、尋問を受けるんでしょうか?」
ファッジは一瞬驚いたが、まるで父親か、優しい叔父のようににこやかに微笑んだ。ナマエは予想外のファッジの表情にきょとんとした。
「ああ、いや、そんなことは必要ない。君はハリーと親しいね?ここに泊まるのかね?つまり、新学期までずっと?」
「えっと、はい。そのつもりです」
「それはよかった!ハリーもそうするように取り計らいたい。君も一緒にいてあげてくれるかね?もちろん、マグルの街へは行かないように」
ファッジはナマエが何か言う隙を与えずに捲し立て、トムの方を向いた。
「トム、いいかね?空き部屋はあるかね?」
「ええ、十一号室が空いています」
「よろしい、よろしい、では、来てくれたまえ」
ファッジはトムを従えて、再びハリーがいる部屋に慌ただしく戻っていった。
ナマエはその後ろ姿をまじまじと見つめた。何かが決定的におかしい。いったいどうして、ファッジは「漏れ鍋」でハリーを待ち受けていたんだ?たかが未成年の魔法使用事件に、魔法大臣直々でお出ましは普通ではない。
ナマエはカウンターに座り直して紅茶のカップに口をつけた。ふとある考えが浮かび、点と点が結びついていくのを感じた。ナマエはほとんど確信して、思わず呟いた。
「シリウス、ブラック……」