アズカバンの囚人
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「マグルと関わるな!何度も同じことを言わせるんじゃない!──早く、部屋に、行け!」
チチオヤは声を荒げてナマエに詰め寄った。
いつも、いつもそうだった。父は、マグルを嫌っている。彼についてそれ以外のことを、ナマエはほとんど知らない。
ナマエは自分の部屋へと階段を駆け上った。
後ろ手で戸を閉めて、ずるずると扉にもたれ掛かりながら座り込んだ。
さっきまでのいい気分が台無しだ。どうしていつもこうなってしまうんだろう。
もし、自分がウィーズリーの家の子なら、秘密の部屋から戻った時、両親に力一杯抱きしめられたかもしれない。
もし、自分がグレンジャー夫妻の子なら、自分たちと違う種族に興味を持つ我が子を、誇りに思ってくれたかもしれない。
ハリーがひどい仕打ちを受けているダーズリーでさえ、ハリーのいとこ──ダーズリーの一人息子のダドリーには、愛情を注いでいるじゃないか。
──やめよう、こんな虚しい考えは。
ナマエは頭を振って、立ち上がった。まっすぐベッドに飛び込んだ。
次に目が覚めたときには、すでに父親は家にいなかった。
広い長テーブルが置かれた、父子家庭には似つかわしくない奇妙に広い食卓で、ナマエは黙って夕食のオニオンパイとポテトスープを食べていた。
当て付けがましく父親の席に設置したラジオからは、『WWN 魔法ラジオネットワーク』がしきりにシリウス・ブラックの脱獄のニュースだけを垂れ流していた。
「──魔法省が今日発表したところによれば、アズカバンの囚人中で最も凶悪といわれるシリウス・ブラックは、いまだに追跡の手を逃れ逃亡中です。コーネリウス・ファッジ魔法大臣は、ブラックの再逮捕に全力であたっていると語り、平静を保つよう呼びかけています──」
「ファッジ大臣は、この危機をマグルの首相に知らせたそうですが──」
「ブラックがたった一度の呪いで十三人も殺した、あの十二年前のような大虐殺が起きるかもしれないのですから、当然の措置でしょう──」
ナマエは気が滅入ったので、ラジオを止めた。その時、シノビーがびくびくしながら何かを持って部屋に入ってきた。
「ナマエさま、ナマエさま、あの……シノビーは、ナマエさまにお渡しするものがございます」
「──ああ、うん?何?」
ナマエは返事をしながら立ち上がった。
「ナマエさま、シノビーはナマエさま宛てのお手紙をお持ちしました」
「本当か!」
ナマエにとってこれ以上ない気分転換だった。
ただ──その封筒を持つシノビーの手は包帯がぐるぐる巻きになっていた。
「どうしたんだ、その手。親父にやられたのか」
「いいえ、いいえ。めっそうもございません!」
シノビーは首をぶんぶん横に振りながら、二通の手紙をナマエに押し付けた。
手紙はどちらも封が開けられているようだった。明らかに、既にチチオヤが中身を読んでいたのだ。
ナマエは舌打ちをしてから読み始めた。
一つは、ホグワーツからの便りだった。いつもより分厚い。
それもそのはずだった。中には新学期の知らせと、必要な教科書のリストに加えて、ホグズミードの許可証が入っていた。
ホグズミードは、イギリスで唯一の魔法族だけの村だ。三年生からは、週末に何回かホグズミード村に行くことが許されている。──ただし、保護者の署名があれば。
「えっ?」
ナマエは目を疑った。半ば諦めながら許可証を眺めていると、すでにそこにはチチオヤの署名が書き込まれていた。
「こ、れ……シノビー?これ、おまえが書いたんじゃないよな?」
ナマエが手紙を読むのを恐る恐る観察していたシノビーは、またぶんぶんと首を横に振った。
マグルの街に行くくらいなら、ホグズミードに行ってくれた方がいいと考えただけだろうか?それとも、息子の週末を楽しませたいとでも、慮ってくれたのだろうか。
ナマエはやや興奮しながら丁寧に許可証を封筒に戻した。
二通目はアンソニーからだった。
────────
ナマエ
やあ、元気?無茶はしてないだろうね
僕は今、アメリカの親戚の家に来ているんだけど、偶然テリーに会ったんだ。テリーもアメリカに親戚がいるらしくて。
で、二人で話してたんだけど、成人したらマイケルと四人で世界旅行に行きたいよね。
そのころには姿現しもできるようになっているだろうし。
君もどこか、行きたいところがあれば考えておいて。
アンソニー
追伸
テリーはマイケルに手紙を書いてるよ。
────────
同封されている写真では、ゴールドスタイン一家とブート一家がぎゅうぎゅうに写真の中に収まって、にこにこ手を振っていた。ナマエは羨ましさと嬉しさで顔が綻んだ。
「──ナマエさま……」
ナマエが手紙を読み終えると、シノビーがおずおずと言った。
「シノビーは、もう一通ナマエさま宛の手紙を持っているのです」
「本当?嬉しいよ。誰から?」
シノビーは意を決したように、目をぎゅっと瞑って腕を突き出した。
その手紙はなぜか、一度捨てられた紙くずのようにくしゃくしゃになっていた。
ナマエは受け取って差出人の名前を見た。──ハーマイオニーからの手紙だ。
この手紙だけは、封が切られていなかった。ナマエは破かないように丁寧に封を開けて、それを読んだ。
────────
ナマエ、お元気?
あなたにこの手紙が届いているかしら。魔法使いの家に、マグルの郵便が届くか心配です。
マグルの建物にはそれぞれ住所というものが決められていて、それが合っていないと届かないの。
ハリーに電話はかけられたのかしら。ロンは失敗したみたい、ハリーが無事だといいんだけど。
このあいだ電話で話したけど、いまフランスに旅行に来ているの。
ロンとご家族の新聞を見た?賞金が当たって、エジプトに行っているんですって。古代エジプトの魔法ってすごいのよ。羨ましいわ。
ロンが休暇の最後の週にロンドンに行くんですって。あなたは来られる?ハリーも来るといいわね。もし、だめだったら、ホグワーツ特急で九月一日に会いましょうね!
ハーマイオニーより 友情を込めて
追伸
フランスのお土産を同封しています。マグルの間で有名な教会で買ったものです。
このメダイを身に着けていると、その人の窮地の時に奇跡が起きると言われているそうよ。
────────
ナマエはくしゃくしゃの封筒をひっくり返した。
すると、銀色のメダイがついたネックレスが出てきた。
ナマエはすぐにそれを首につけた。
「──似合う?」
「は、はい。もちろん!よくお似合いです」
シノビーは過剰に怯えて、ナマエの様子を伺っていた。ナマエはようやく全ての合点がいった。
「──シノビー、………親父が、ハーマイオニーの手紙を捨てたんだな?そうだろ?」
ナマエはできるだけ平静な声を出すように努めた。シノビーは何も言わなかったが、ナマエは続けた。
「おまえがくずかごから拾ってきてくれたんだな?」
シノビーは目を瞑って、口もぎゅっと閉じたままでこくこくと頷いた。
ナマエは膝をついて、小さなシノビーの両手からゆっくり包帯を取り去った。
手は赤黒く腫れていて、自分で自分に「お仕置き」をしたのだろうとわかった。
ナマエは杖でハナハッカの瓶を呼び寄せて、シノビーの手に塗った。
「シノビーは悪いしもべ妖精…シノビーは悪いしもべ妖精……」
シノビーがそうやってぶつぶつ繰り返していた。ナマエは、少しでも父親に期待した自分を悔いていた。
「シノビー、もう自分に仕置きをするな。俺が禁じる。いいな」
ナマエはそう言い残して自室に戻った。
一人になった瞬間に、シノビーの前で抑えていた怒りがふつふつと湧いてきた。
──父親なら、息子の友人を選ぶ権利があるとでもいうのか?
杖を乱暴に振り回し、十秒とたたずにトランクに荷物を詰め終えてまた部屋を出た。
シノビーが背後でキーキー言う声が聞こえた。ナマエは無視して、玄関を飛び出した。
悪態を吐きながらナマエは早歩きで大通りに出た。そして、杖腕を道路に向かって突き出した。
バーン!という大きな音が辺りに鳴り響いて、ナマエの目の前に、三階建てで紫色の派手なバスが現れた。それは、迷子の魔法使いを乗せる『夜の騎士バス』だった。
チチオヤは声を荒げてナマエに詰め寄った。
いつも、いつもそうだった。父は、マグルを嫌っている。彼についてそれ以外のことを、ナマエはほとんど知らない。
ナマエは自分の部屋へと階段を駆け上った。
後ろ手で戸を閉めて、ずるずると扉にもたれ掛かりながら座り込んだ。
さっきまでのいい気分が台無しだ。どうしていつもこうなってしまうんだろう。
もし、自分がウィーズリーの家の子なら、秘密の部屋から戻った時、両親に力一杯抱きしめられたかもしれない。
もし、自分がグレンジャー夫妻の子なら、自分たちと違う種族に興味を持つ我が子を、誇りに思ってくれたかもしれない。
ハリーがひどい仕打ちを受けているダーズリーでさえ、ハリーのいとこ──ダーズリーの一人息子のダドリーには、愛情を注いでいるじゃないか。
──やめよう、こんな虚しい考えは。
ナマエは頭を振って、立ち上がった。まっすぐベッドに飛び込んだ。
次に目が覚めたときには、すでに父親は家にいなかった。
広い長テーブルが置かれた、父子家庭には似つかわしくない奇妙に広い食卓で、ナマエは黙って夕食のオニオンパイとポテトスープを食べていた。
当て付けがましく父親の席に設置したラジオからは、『WWN 魔法ラジオネットワーク』がしきりにシリウス・ブラックの脱獄のニュースだけを垂れ流していた。
「──魔法省が今日発表したところによれば、アズカバンの囚人中で最も凶悪といわれるシリウス・ブラックは、いまだに追跡の手を逃れ逃亡中です。コーネリウス・ファッジ魔法大臣は、ブラックの再逮捕に全力であたっていると語り、平静を保つよう呼びかけています──」
「ファッジ大臣は、この危機をマグルの首相に知らせたそうですが──」
「ブラックがたった一度の呪いで十三人も殺した、あの十二年前のような大虐殺が起きるかもしれないのですから、当然の措置でしょう──」
ナマエは気が滅入ったので、ラジオを止めた。その時、シノビーがびくびくしながら何かを持って部屋に入ってきた。
「ナマエさま、ナマエさま、あの……シノビーは、ナマエさまにお渡しするものがございます」
「──ああ、うん?何?」
ナマエは返事をしながら立ち上がった。
「ナマエさま、シノビーはナマエさま宛てのお手紙をお持ちしました」
「本当か!」
ナマエにとってこれ以上ない気分転換だった。
ただ──その封筒を持つシノビーの手は包帯がぐるぐる巻きになっていた。
「どうしたんだ、その手。親父にやられたのか」
「いいえ、いいえ。めっそうもございません!」
シノビーは首をぶんぶん横に振りながら、二通の手紙をナマエに押し付けた。
手紙はどちらも封が開けられているようだった。明らかに、既にチチオヤが中身を読んでいたのだ。
ナマエは舌打ちをしてから読み始めた。
一つは、ホグワーツからの便りだった。いつもより分厚い。
それもそのはずだった。中には新学期の知らせと、必要な教科書のリストに加えて、ホグズミードの許可証が入っていた。
ホグズミードは、イギリスで唯一の魔法族だけの村だ。三年生からは、週末に何回かホグズミード村に行くことが許されている。──ただし、保護者の署名があれば。
「えっ?」
ナマエは目を疑った。半ば諦めながら許可証を眺めていると、すでにそこにはチチオヤの署名が書き込まれていた。
「こ、れ……シノビー?これ、おまえが書いたんじゃないよな?」
ナマエが手紙を読むのを恐る恐る観察していたシノビーは、またぶんぶんと首を横に振った。
マグルの街に行くくらいなら、ホグズミードに行ってくれた方がいいと考えただけだろうか?それとも、息子の週末を楽しませたいとでも、慮ってくれたのだろうか。
ナマエはやや興奮しながら丁寧に許可証を封筒に戻した。
二通目はアンソニーからだった。
────────
ナマエ
やあ、元気?無茶はしてないだろうね
僕は今、アメリカの親戚の家に来ているんだけど、偶然テリーに会ったんだ。テリーもアメリカに親戚がいるらしくて。
で、二人で話してたんだけど、成人したらマイケルと四人で世界旅行に行きたいよね。
そのころには姿現しもできるようになっているだろうし。
君もどこか、行きたいところがあれば考えておいて。
アンソニー
追伸
テリーはマイケルに手紙を書いてるよ。
────────
同封されている写真では、ゴールドスタイン一家とブート一家がぎゅうぎゅうに写真の中に収まって、にこにこ手を振っていた。ナマエは羨ましさと嬉しさで顔が綻んだ。
「──ナマエさま……」
ナマエが手紙を読み終えると、シノビーがおずおずと言った。
「シノビーは、もう一通ナマエさま宛の手紙を持っているのです」
「本当?嬉しいよ。誰から?」
シノビーは意を決したように、目をぎゅっと瞑って腕を突き出した。
その手紙はなぜか、一度捨てられた紙くずのようにくしゃくしゃになっていた。
ナマエは受け取って差出人の名前を見た。──ハーマイオニーからの手紙だ。
この手紙だけは、封が切られていなかった。ナマエは破かないように丁寧に封を開けて、それを読んだ。
────────
ナマエ、お元気?
あなたにこの手紙が届いているかしら。魔法使いの家に、マグルの郵便が届くか心配です。
マグルの建物にはそれぞれ住所というものが決められていて、それが合っていないと届かないの。
ハリーに電話はかけられたのかしら。ロンは失敗したみたい、ハリーが無事だといいんだけど。
このあいだ電話で話したけど、いまフランスに旅行に来ているの。
ロンとご家族の新聞を見た?賞金が当たって、エジプトに行っているんですって。古代エジプトの魔法ってすごいのよ。羨ましいわ。
ロンが休暇の最後の週にロンドンに行くんですって。あなたは来られる?ハリーも来るといいわね。もし、だめだったら、ホグワーツ特急で九月一日に会いましょうね!
ハーマイオニーより 友情を込めて
追伸
フランスのお土産を同封しています。マグルの間で有名な教会で買ったものです。
このメダイを身に着けていると、その人の窮地の時に奇跡が起きると言われているそうよ。
────────
ナマエはくしゃくしゃの封筒をひっくり返した。
すると、銀色のメダイがついたネックレスが出てきた。
ナマエはすぐにそれを首につけた。
「──似合う?」
「は、はい。もちろん!よくお似合いです」
シノビーは過剰に怯えて、ナマエの様子を伺っていた。ナマエはようやく全ての合点がいった。
「──シノビー、………親父が、ハーマイオニーの手紙を捨てたんだな?そうだろ?」
ナマエはできるだけ平静な声を出すように努めた。シノビーは何も言わなかったが、ナマエは続けた。
「おまえがくずかごから拾ってきてくれたんだな?」
シノビーは目を瞑って、口もぎゅっと閉じたままでこくこくと頷いた。
ナマエは膝をついて、小さなシノビーの両手からゆっくり包帯を取り去った。
手は赤黒く腫れていて、自分で自分に「お仕置き」をしたのだろうとわかった。
ナマエは杖でハナハッカの瓶を呼び寄せて、シノビーの手に塗った。
「シノビーは悪いしもべ妖精…シノビーは悪いしもべ妖精……」
シノビーがそうやってぶつぶつ繰り返していた。ナマエは、少しでも父親に期待した自分を悔いていた。
「シノビー、もう自分に仕置きをするな。俺が禁じる。いいな」
ナマエはそう言い残して自室に戻った。
一人になった瞬間に、シノビーの前で抑えていた怒りがふつふつと湧いてきた。
──父親なら、息子の友人を選ぶ権利があるとでもいうのか?
杖を乱暴に振り回し、十秒とたたずにトランクに荷物を詰め終えてまた部屋を出た。
シノビーが背後でキーキー言う声が聞こえた。ナマエは無視して、玄関を飛び出した。
悪態を吐きながらナマエは早歩きで大通りに出た。そして、杖腕を道路に向かって突き出した。
バーン!という大きな音が辺りに鳴り響いて、ナマエの目の前に、三階建てで紫色の派手なバスが現れた。それは、迷子の魔法使いを乗せる『夜の騎士バス』だった。