アズカバンの囚人
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
こんな奇妙な群れに加わったのはナマエにとって初めてだった。
クルックシャンクスが先頭を進み、その後をナマエ、ルーピンがペテグリューに杖を突きつけてムカデのように繋がって歩いた。シリウスがスネイプを浮かせて運び、ハリーはその後、しんがりはハーマイオニーとロンだった。
ナマエの背後ではごんごんと音が鳴り、スネイプの頭が低い天井にぶつかってばかりいた。ナマエはシリウスがわざと避けないようにしているような気がした。
「……シリウス」
ナマエがたしなめるように振り返って杖振った。スネイプの頭が天井から離れた。シリウスは不服そうに鼻を鳴らし、ルーピンはふっと笑った。ナマエはシリウスを見て言った。
「あんたって荒っぽすぎる。雑なんだ。だから誤解される」
シリウスは頭を掻いて、助けを求めるようにルーピンを見た。
「リーマス……」
「わたしもナマエに同意見だよ」
ルーピンは笑った。
「……ハリー、君の友達は小言が多いな」
シリウスはそう言ってハリーと話し始めた。ナマエがため息をつくと、ルーピンが柔らかに笑った。
「──人間にアクシオを唱えるのは難しい。よくやった、ナマエ」
「でも、こいつ、ネズミの姿だったから……」
ルーピンがナマエを褒めると、ナマエは少し照れ臭くなって答えた。
トンネルの出口についた。這い出ると、校庭はすでに真っ暗だった。明りといえば、遠くに見える城の窓からもれる灯だけだ。無言で、全員が歩き出した。ペティグリューは相変わらずゼイゼイと息をし、時折ヒーヒー泣いていた。ナマエは横目でペテグリューを睨んだ。
「……ピーター・ペテグリュー」
ナマエは、自分から思ったよりも低い声が出たことに驚いた。ナマエが名を呼んだので、ペテグリューは大袈裟にびくりと跳ねた。ルーピンは黙ってそれを見た。
「──お前が逃げる時、あの場所で爆発を起こしたのは、偶然なのか」
ナマエは歩きながら低い声で尋ねた。ずっと疑問に思っていたことだった。
マルフォイの言う通り、ナマエの母親はシリウスの逃亡に巻き込まれて死んだのだとして、 シリウスが無実だとわかったいまや、その犯人はペテグリューだ。
本当に、ただ巻き込まれただけなのか?シリウスから逃げるためだけに、マグルを大量に殺すような大爆発を起こす必要があったのか?
ペテグリューはヒーヒー泣きながら目線を泳がせた。
「な、なんのことやら……あ──!」
ペテグリューはナマエの顔に目をやり、突然何かを思い出したかのように目玉をギョロリと見開いた。ナマエは、「みぞの鏡」で見た通りに、自分の容姿は母親似なのだろうと悟った。
「脅されていたんだ!」
ペテグリューが叫んだ。
ルーピンが何か言いたそうにナマエをちらと見たが、ナマエは続けた。
「脅されて何をしたんだ」
「血を、血を絶つためだと──」
「ナマエ!リーマス!」
ペテグリューの声を遮ったのは、シリウスの叫び声だった。その瞬間、雲が切れた。突然校庭にぼんやりとした影が落ちた。一行は月明りを浴びていた。
ナマエはルーピンの黒い影のような姿を見た。その姿は硬直していた。そして、手足が震えだした。
「あの薬を今夜飲んでないわ!危険よ!」
ハーマイオニーが絶句した。
「逃げろ」 シリウスが低い声で言った。
「わたしに任せて──逃げるんだ!」
恐ろしい唸り声がした。ルーピンの頭が長く伸びた。体も伸びた。背中が盛り上がった。顔といわず手といわず、見る見る毛が生えだした。手は丸まって鉤爪が生えたクルックシャンクスの毛が再び逆立ち、たじたじと後ずさりしていた。
ペテグリューがすぐさまルーピンの落とした杖に飛びついて、ナマエに呪文を放った。
「──おえ、おええっ!」
ナマエの視界は白黒と点滅し、胃の中がひっくり返って盛大に嘔吐した。揺れる視界の中で、ペテグリューがネズミに変身して逃げていくのを見た。
──言い争う声が聞こえた。ハリー、ハーマイオニー、校医のマダム・ポンフリー、スネイプ──それからおそらく、魔法大臣のファッジ。そのやりとりでシリウスが捕まったらしいことがわかった。
ペテグリューの呪いを受けてからどれほどの時間が経ったのだろう。ナマエは重い瞼を上げた。医務室の天井が見えた。
隣のベッドにはロンが足を固定されて横たわっていた。
新たに誰かが医務室に入ってくる気配がした。ナマエは身を起こさずに顔だけ扉に向けたが、入ってきた人物を見て飛び起きた。
──チチオヤだった。隣にはダンブルドアもいた。
ダンブルドアはハリーたちと話し始めた。スネイプとファッジはダンブルドアに退出を促されて医務室を出て行った。
マダム・ポンフリーがチチオヤをナマエのもとへと連れてきた。チチオヤはいつもしかめっつらだが、今日はいつにも増して額の皺が濃かった。ナマエは口をはくはくさせて、やっとの思いで声を絞り出した。
「ち──父上、違うんだ!シリウスじゃない!」
マダム・ポンフリーが「この子も錯乱しているわ」と呟いた。ナマエは構わず続けた。
「母上を殺したのはペテグリューだ!ペテグリューが!シリウスに濡れ衣を着せたんだ!奴は生きてる!ネズミの動物もどきなんだ、逃げられた、俺はペテグリューにやられた──!」
ナマエは一息に訴えると、荒い息を吐いて恐る恐る父親を見上げた。
──怒鳴りつけられるか、無視されるか。そう思った。
「──そうか」
落ち着いた言葉がぽつりと返ってきた。ナマエは目を瞬いて父親の顔を見た。険しくしかめられた眉が、疲れたように垂れた。
ナマエはまだ聞きたいことが山ほどあった。どうして母親が殺されたのか?母親は何者で、自分が赤ん坊のときに何が起こっていたのか?
しかし、口を開いた瞬間、言葉の代わりに再び盛大に嘔吐した。
マダム・ポンフリーが慌ただしく洗面器を持ってきて周囲を清めた。
「さあ、さあ、おやすみなさい。その呪いは体力さえあればすぐに治ります。──この子は療養が必要です。いいですね?チチオヤ」
ナマエが何か言う前に、マダム・ポンフリーがチチオヤを連れて離れて行った。
「──ナマエ、ごめん」
ナマエが呆然としていると、ロンが呟いた。ナマエははっとロンを振り返った。
「スキャバーズがあんなやつだったなんて、僕──」
「いいんだ。話さなかったのは俺だし。それに、これくらいならナメクジを吐くより楽だ」
ロンと話していると、ガチャンと医務室の扉が閉まる音が聞こえた。辺りにはもうハリーとハーマイオニーしか残っていなかった。
ロンが二人に問いかけた。
「シリウスはどうなるの?」
「今、塔の上に捕まってるわ。もうすぐ吸魂鬼が『キス』をしに来る。でも、わたしたちがなんとかする。──あなたたちは連れていけないから、置いて行くわね」
ハーマイオニーは一息にそう言うと、ポケットから長い鎖を取り出して自分の首とハリーの首にかけた。ハリーとロンの戸惑いをよそに、ハーマイオニーは砂時計を三回引っくり返した。──時間を逆転させたのだ。
ナマエはハーマイオニーの意図を悟った。時間を巻き戻して、シリウスを助けるのだ。
ハリーとハーマイオニーの二人は鎖に吸い込まれるように跡形もなく消えた。ロンが悲鳴を上げた。
「何したんだ?ハーマイオニーたちは」
「すぐ帰ってくるよ、ほら──」
再びハーマイオニーとハリーが、医務室の扉の方からやってきた。
「うまくいったのか」
ナマエが聞くと、二人はにっこり頷いた。ロンはきょとんとナマエとハリー、ハーマイオニーの顔を交互に見た。
「どういうこと?今、君たちはここにいたのに!」
「君が説明してあげて」
ハリーがハーマイオニーに言うと、今度はバーンと病室のドアが猛烈な勢いで開いた。
ファッジ、スネイプ、ダンブルドアがつかつかと中に入ってきた。ダンブルドアだけが涼しい顔だ。むしろかなり楽しんでいるようにさえ見えた。ファッジは怒っているようだった。スネイプのほうは逆上していた。
「白状しろ、ポッター!」
スネイプが吠えた。
「いったい何をした?」
「スネイプ先生!」
事務室からやってきたマダム・ポンフリーが金切り声を上げた。
「場所をわきまえていただかないと!」
「スネイプ、まあ、無茶を言うな」
ファッジだ。
「ドアには鍵が掛かっていた。いま見たとおり──」
「こいつらがヤツの逃亡に手を貸した。わかっているぞ!」
スネイプはハリーとハーマイオニーを指差し、喚いた。顔は歪み、泡を飛ばして叫んでいた。
「もう充分じゃろう、セブルス」
ダンブルドアが静かに言った。
グラグラ煮えたぎらんばかりのスネイプは、その場に棒立ちになり、まずファッジを、そしてダンブルドアを睨みつけた。ファッジは、キレたスネイプに完全にショックを受けたようだったが、ダンブルドアはメガネの奥でキラキラと目を輝かせていた。スネイプはくるりと背を向け、ローブをシュッと翻し、病室から嵐のように出ていった。
「あの男、どうも精神不安定じゃないかね」
スネイプの後ろ姿を見つめながら、ファッジが言った。
「私が君の立場なら、ダンブルドア、目を離さないようにするがね」
「いや、不安定なのではない」ダンブルドアが静かに言った。
「ただ、ひどく失望して、打ちのめされておるだけじゃ」
「それは、あの男だけではないわ!」
ファッジが声を荒らげた。
「『日刊予言者新聞』はお祭り騒ぎだろうよ!省のほうに知らせないと……」
「それで、吸魂鬼は?」
ダンブルドアが聞いた。
「学校から引き揚げてくれるのじゃろうな?」 「ああ、そのとおり。連中は出ていかねばならん」
ダンブルドアが満足そうに笑うと、ファッジは慌ただしく出て行った。
ナマエはおずおずと声をかけた。
「ダンブルドア先生、あの──」
「チチオヤはペテグリューを探すと言って出て行ったよ」
ダンブルドアは問われる前に答えた。ナマエとハリーは顔を見合わせた。
「君のパパ、信用してくれたんだね?」ハリーが言った。ナマエは迷いながらこくりと頷いた。
「マーリンの髭!」
ロンが驚きの歓声を上げた。ダンブルドアは落ち着いた声で続けた。
「じゃが、この闇夜で一匹のネズミを──人狼を避けながら探すのは困難じゃろう」
ナマエはダンブルドアの言う通りだと思った。それよりも、ペテグリューを探すよりもここに戻ってきて欲しかった。息子の元に戻って、全てを説明して欲しかった。
ダンブルドアは見透かしたような瞳で全員を見渡して、「おやすみ」と言い残して出て行った。
マダム・ポンフリーがドアのところに飛んでいき、がちゃんと鍵を掛けた。
クルックシャンクスが先頭を進み、その後をナマエ、ルーピンがペテグリューに杖を突きつけてムカデのように繋がって歩いた。シリウスがスネイプを浮かせて運び、ハリーはその後、しんがりはハーマイオニーとロンだった。
ナマエの背後ではごんごんと音が鳴り、スネイプの頭が低い天井にぶつかってばかりいた。ナマエはシリウスがわざと避けないようにしているような気がした。
「……シリウス」
ナマエがたしなめるように振り返って杖振った。スネイプの頭が天井から離れた。シリウスは不服そうに鼻を鳴らし、ルーピンはふっと笑った。ナマエはシリウスを見て言った。
「あんたって荒っぽすぎる。雑なんだ。だから誤解される」
シリウスは頭を掻いて、助けを求めるようにルーピンを見た。
「リーマス……」
「わたしもナマエに同意見だよ」
ルーピンは笑った。
「……ハリー、君の友達は小言が多いな」
シリウスはそう言ってハリーと話し始めた。ナマエがため息をつくと、ルーピンが柔らかに笑った。
「──人間にアクシオを唱えるのは難しい。よくやった、ナマエ」
「でも、こいつ、ネズミの姿だったから……」
ルーピンがナマエを褒めると、ナマエは少し照れ臭くなって答えた。
トンネルの出口についた。這い出ると、校庭はすでに真っ暗だった。明りといえば、遠くに見える城の窓からもれる灯だけだ。無言で、全員が歩き出した。ペティグリューは相変わらずゼイゼイと息をし、時折ヒーヒー泣いていた。ナマエは横目でペテグリューを睨んだ。
「……ピーター・ペテグリュー」
ナマエは、自分から思ったよりも低い声が出たことに驚いた。ナマエが名を呼んだので、ペテグリューは大袈裟にびくりと跳ねた。ルーピンは黙ってそれを見た。
「──お前が逃げる時、あの場所で爆発を起こしたのは、偶然なのか」
ナマエは歩きながら低い声で尋ねた。ずっと疑問に思っていたことだった。
マルフォイの言う通り、ナマエの母親はシリウスの逃亡に巻き込まれて死んだのだとして、 シリウスが無実だとわかったいまや、その犯人はペテグリューだ。
本当に、ただ巻き込まれただけなのか?シリウスから逃げるためだけに、マグルを大量に殺すような大爆発を起こす必要があったのか?
ペテグリューはヒーヒー泣きながら目線を泳がせた。
「な、なんのことやら……あ──!」
ペテグリューはナマエの顔に目をやり、突然何かを思い出したかのように目玉をギョロリと見開いた。ナマエは、「みぞの鏡」で見た通りに、自分の容姿は母親似なのだろうと悟った。
「脅されていたんだ!」
ペテグリューが叫んだ。
ルーピンが何か言いたそうにナマエをちらと見たが、ナマエは続けた。
「脅されて何をしたんだ」
「血を、血を絶つためだと──」
「ナマエ!リーマス!」
ペテグリューの声を遮ったのは、シリウスの叫び声だった。その瞬間、雲が切れた。突然校庭にぼんやりとした影が落ちた。一行は月明りを浴びていた。
ナマエはルーピンの黒い影のような姿を見た。その姿は硬直していた。そして、手足が震えだした。
「あの薬を今夜飲んでないわ!危険よ!」
ハーマイオニーが絶句した。
「逃げろ」 シリウスが低い声で言った。
「わたしに任せて──逃げるんだ!」
恐ろしい唸り声がした。ルーピンの頭が長く伸びた。体も伸びた。背中が盛り上がった。顔といわず手といわず、見る見る毛が生えだした。手は丸まって鉤爪が生えたクルックシャンクスの毛が再び逆立ち、たじたじと後ずさりしていた。
ペテグリューがすぐさまルーピンの落とした杖に飛びついて、ナマエに呪文を放った。
「──おえ、おええっ!」
ナマエの視界は白黒と点滅し、胃の中がひっくり返って盛大に嘔吐した。揺れる視界の中で、ペテグリューがネズミに変身して逃げていくのを見た。
──言い争う声が聞こえた。ハリー、ハーマイオニー、校医のマダム・ポンフリー、スネイプ──それからおそらく、魔法大臣のファッジ。そのやりとりでシリウスが捕まったらしいことがわかった。
ペテグリューの呪いを受けてからどれほどの時間が経ったのだろう。ナマエは重い瞼を上げた。医務室の天井が見えた。
隣のベッドにはロンが足を固定されて横たわっていた。
新たに誰かが医務室に入ってくる気配がした。ナマエは身を起こさずに顔だけ扉に向けたが、入ってきた人物を見て飛び起きた。
──チチオヤだった。隣にはダンブルドアもいた。
ダンブルドアはハリーたちと話し始めた。スネイプとファッジはダンブルドアに退出を促されて医務室を出て行った。
マダム・ポンフリーがチチオヤをナマエのもとへと連れてきた。チチオヤはいつもしかめっつらだが、今日はいつにも増して額の皺が濃かった。ナマエは口をはくはくさせて、やっとの思いで声を絞り出した。
「ち──父上、違うんだ!シリウスじゃない!」
マダム・ポンフリーが「この子も錯乱しているわ」と呟いた。ナマエは構わず続けた。
「母上を殺したのはペテグリューだ!ペテグリューが!シリウスに濡れ衣を着せたんだ!奴は生きてる!ネズミの動物もどきなんだ、逃げられた、俺はペテグリューにやられた──!」
ナマエは一息に訴えると、荒い息を吐いて恐る恐る父親を見上げた。
──怒鳴りつけられるか、無視されるか。そう思った。
「──そうか」
落ち着いた言葉がぽつりと返ってきた。ナマエは目を瞬いて父親の顔を見た。険しくしかめられた眉が、疲れたように垂れた。
ナマエはまだ聞きたいことが山ほどあった。どうして母親が殺されたのか?母親は何者で、自分が赤ん坊のときに何が起こっていたのか?
しかし、口を開いた瞬間、言葉の代わりに再び盛大に嘔吐した。
マダム・ポンフリーが慌ただしく洗面器を持ってきて周囲を清めた。
「さあ、さあ、おやすみなさい。その呪いは体力さえあればすぐに治ります。──この子は療養が必要です。いいですね?チチオヤ」
ナマエが何か言う前に、マダム・ポンフリーがチチオヤを連れて離れて行った。
「──ナマエ、ごめん」
ナマエが呆然としていると、ロンが呟いた。ナマエははっとロンを振り返った。
「スキャバーズがあんなやつだったなんて、僕──」
「いいんだ。話さなかったのは俺だし。それに、これくらいならナメクジを吐くより楽だ」
ロンと話していると、ガチャンと医務室の扉が閉まる音が聞こえた。辺りにはもうハリーとハーマイオニーしか残っていなかった。
ロンが二人に問いかけた。
「シリウスはどうなるの?」
「今、塔の上に捕まってるわ。もうすぐ吸魂鬼が『キス』をしに来る。でも、わたしたちがなんとかする。──あなたたちは連れていけないから、置いて行くわね」
ハーマイオニーは一息にそう言うと、ポケットから長い鎖を取り出して自分の首とハリーの首にかけた。ハリーとロンの戸惑いをよそに、ハーマイオニーは砂時計を三回引っくり返した。──時間を逆転させたのだ。
ナマエはハーマイオニーの意図を悟った。時間を巻き戻して、シリウスを助けるのだ。
ハリーとハーマイオニーの二人は鎖に吸い込まれるように跡形もなく消えた。ロンが悲鳴を上げた。
「何したんだ?ハーマイオニーたちは」
「すぐ帰ってくるよ、ほら──」
再びハーマイオニーとハリーが、医務室の扉の方からやってきた。
「うまくいったのか」
ナマエが聞くと、二人はにっこり頷いた。ロンはきょとんとナマエとハリー、ハーマイオニーの顔を交互に見た。
「どういうこと?今、君たちはここにいたのに!」
「君が説明してあげて」
ハリーがハーマイオニーに言うと、今度はバーンと病室のドアが猛烈な勢いで開いた。
ファッジ、スネイプ、ダンブルドアがつかつかと中に入ってきた。ダンブルドアだけが涼しい顔だ。むしろかなり楽しんでいるようにさえ見えた。ファッジは怒っているようだった。スネイプのほうは逆上していた。
「白状しろ、ポッター!」
スネイプが吠えた。
「いったい何をした?」
「スネイプ先生!」
事務室からやってきたマダム・ポンフリーが金切り声を上げた。
「場所をわきまえていただかないと!」
「スネイプ、まあ、無茶を言うな」
ファッジだ。
「ドアには鍵が掛かっていた。いま見たとおり──」
「こいつらがヤツの逃亡に手を貸した。わかっているぞ!」
スネイプはハリーとハーマイオニーを指差し、喚いた。顔は歪み、泡を飛ばして叫んでいた。
「もう充分じゃろう、セブルス」
ダンブルドアが静かに言った。
グラグラ煮えたぎらんばかりのスネイプは、その場に棒立ちになり、まずファッジを、そしてダンブルドアを睨みつけた。ファッジは、キレたスネイプに完全にショックを受けたようだったが、ダンブルドアはメガネの奥でキラキラと目を輝かせていた。スネイプはくるりと背を向け、ローブをシュッと翻し、病室から嵐のように出ていった。
「あの男、どうも精神不安定じゃないかね」
スネイプの後ろ姿を見つめながら、ファッジが言った。
「私が君の立場なら、ダンブルドア、目を離さないようにするがね」
「いや、不安定なのではない」ダンブルドアが静かに言った。
「ただ、ひどく失望して、打ちのめされておるだけじゃ」
「それは、あの男だけではないわ!」
ファッジが声を荒らげた。
「『日刊予言者新聞』はお祭り騒ぎだろうよ!省のほうに知らせないと……」
「それで、吸魂鬼は?」
ダンブルドアが聞いた。
「学校から引き揚げてくれるのじゃろうな?」 「ああ、そのとおり。連中は出ていかねばならん」
ダンブルドアが満足そうに笑うと、ファッジは慌ただしく出て行った。
ナマエはおずおずと声をかけた。
「ダンブルドア先生、あの──」
「チチオヤはペテグリューを探すと言って出て行ったよ」
ダンブルドアは問われる前に答えた。ナマエとハリーは顔を見合わせた。
「君のパパ、信用してくれたんだね?」ハリーが言った。ナマエは迷いながらこくりと頷いた。
「マーリンの髭!」
ロンが驚きの歓声を上げた。ダンブルドアは落ち着いた声で続けた。
「じゃが、この闇夜で一匹のネズミを──人狼を避けながら探すのは困難じゃろう」
ナマエはダンブルドアの言う通りだと思った。それよりも、ペテグリューを探すよりもここに戻ってきて欲しかった。息子の元に戻って、全てを説明して欲しかった。
ダンブルドアは見透かしたような瞳で全員を見渡して、「おやすみ」と言い残して出て行った。
マダム・ポンフリーがドアのところに飛んでいき、がちゃんと鍵を掛けた。