アズカバンの囚人
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ハーマイオニーが悲鳴をあげた。シリウスはさっと立ち上がり、ナマエは再び杖を構えた。
「『暴れ柳』の根元でこれを見つけましてね」
スネイプが、杖をまっすぐルーピンの胸に突きつけたまま「透明マント」を脇に投げ捨てた。
「ポッター、なかなか役に立ったよ。感謝する……」
スネイプは少し息切れしてはいたが、勝利の喜びを抑えきれない顔だった。
「君の部屋に行ったよ、ルーピン。今夜、例の薬を飲むのを忘れたようだから、我輩がゴブレットに入れて持っていった。持っていったのは、まことに幸運だった……我輩にとってだがね。君の机に何やら地図があってね。一目見ただけで、我輩に必要なことはすべてわかった。君がこの通路を走っていき、姿を消すのを見たのだ」
「セブルス──」
ルーピンが何か言いかけたが、スネイプはかまわず続けた。
「我輩は校長に繰り返し進言した。君が旧友のブラックを手引きして城に入れているとね。ルーピン、これがいい証拠だ」
「セブルス、君は誤解している」
ルーピンが切羽詰まったように言った。
「君は、話を全部聞いていないんだ。説明させてくれ。シリウスはハリーを殺しにきたのではない──」
「今夜、また二人、アズカバン行きが出る」
スネイプの目がいまや狂気を帯びて光っていた。
「ダンブルドアがどう思うか、見物ですな……ダンブルドアは君が無害だと信じきっていた。わかるだろうね、飼い慣らされた人狼さん」
「愚かな。学生時代の恨みで、無実の者をまたアズカバンに送り返すというのかね?」
「あの、スネイプ先生───」
ナマエが杖を下げ、スネイプに一歩近づくと、憎しみのこもった形相でスネイプが叫んだ。
「口を挟むな!!」
「先生、このネズミを見てください!先生──」
ナマエは一瞬怯んだが、いまや傷だらけになった手で握りしめているスキャバーズを見せた。しかし、スネイプは一瞥もくれずにシリウスに近づいた。
「復讐は蜜より甘い──おまえを捕まえるのが我輩であったらと、どんなに願ったことか……」
スネイプの目には、いままで見たこともない狂気の光があった。──もはや理性を失っている。聞く耳を持ってもらえない……ナマエは意を決した。ぎゅっと杖を握り直して叫んだ。
「──エクスペリアームス!」
その瞬間、四本の閃光がスネイプを貫いた。
増幅した武装解除呪文はスネイプの体を壁まで吹っ飛ばし、ずるずると床に崩れた。頭からは血が流れていた。叫んだのはナマエだけではなかったのだ。
ナマエ、ハリー、ロン、ハーマイオニーは奇しくも同時にスネイプに武装解除呪文を放ってしまった。スネイプの杖は高々と舞い上がり、いつのまにかそこにいたクルックシャンクスが見事にキャッチした。
事態を理解したナマエは素早くスネイプに駆け寄った。息はある──しかし、完全にノックアウトされていた。
「先生を攻撃してしまった……先生を……」
ハーマイオニーは、ぐったりしているスネイプを怯えた目で見つめながら、泣きそうな声を出した。
「大丈夫、生きてる」
ナマエはそう言いながらスキャバーズをルーピンに渡すと、てきぱきとスネイプの体勢を整えて、止血した。
ルーピンはしっかりとスキャバーズを握りしめてハリーを見た。
「── ハリー、ありがとう」
「まだ信用するとは言ってません。──君のことも」
ハリーはナマエに目を向けた。ルーピンもナマエを見た。
ナマエはふたりの視線を受けて立ち上がった。
「……俺がシリウスと会ったのはほとんど偶然だ。ハリー、約束しただろ?──死神犬をとっ捕まえて、ただの犬だって証明してやるって」
ナマエが親指でシリウスを指差すと、ルーピンとシリウスが顔を見合わせた。ハリーも虚をつかれたような奇妙な顔をした。
「──そしたら、ほら言ったとおり。死神犬なんかじゃなかった」
スキャバーズがルーピンの手の中でキーキーと喚く音が響いた。少し間をおいて、ハリーが尋ねた。
「君はなぜ、この人を信用できたの」
ナマエは少し考えて、口を開いた。
「……俺を口封じすることもできたのに、シリウスはそうしなかった。話も筋が通ってた。──それに、」
ナマエはハリーを見つめ返した。
「シリウスは、『友達を裏切るくらいなら死を選ぶ』と言ったんだ。──俺もあんたのためならそうしたい」
ナマエは、シリウスは自分と似ているような、そうでありたいような気持ちがあった。由緒正しきブラック家に生まれながら、純血主義に反抗した彼に、憧れに近い感情を抱いていた。
ハリーがナマエからシリウスに目を移した。
「──わかった。あなたを信じる」
その途端、スキャバーズは死刑宣告を受けたかのようにルーピンの手の中でのた打ち回り、小さな黒い目が飛び出しそうだった。
「ありがとう」
シリウスがくぐもった声でハリーに礼を言った。目がきらっと光っていた。
「シリウス、準備は?」
ルーピンがネズミを抑え込みながら言った。
「もちろんいつでも」
言いながらシリウスがネズミに近づき、杖を向けた。ルーピンがじっとシリウスの杖を見ていると、シリウスがじれったそうに付け加えた。
「ああ、こいつは森の中で密猟者から拝借したんだ。──さあ、やろう」
ルーピンが頷くと、青白い光が二本の杖からほとばしった。一瞬、スキャバーズは宙に浮き、そこに静止した。小さな黒い姿が激しく捩れた。ロンが叫び声をあげた。
ネズミは床にボトリと落ちた。もう一度、目も眩むような閃光が走り──次の瞬間、スキャバーズがいたところに、一人の男が、手を捩り、後ずさりしながら立っていた。
クルックシャンクスがベッドで背中の毛を逆立て、シャーッ、シャーッと激しい音を出し、唸った。
小柄な男だ。ナマエやハリーの背丈とあまり変わらない。
「やあ、ピーター」
ネズミがにょきにょきと旧友に変身して身近に現れるのをしょっちゅう見慣れているかのような口ぶりで、ルーピンが朗らかに声をかけた。
「シ、シリウス……リ、リーマス……」
ペティグリューは、声までキーキーとネズミ声だ。目がドアのほうに素早く走った。
「友よ……なつかしの友よ……誤解だ、私は無実だ……!シリウスが、リリーとジェームズを殺した!今度は私を殺しに来たんだ!」
シリウスの杖腕が上がったが、ルーピンがその手首を押さえ、たしなめるような目でブラックを見た。それからまたペティグリューに向かって、さりげない軽い声で言った。
「はっきり言って、ピーター、なぜ無実の者が、十二年もネズミに身をやつして過ごしたいと思ったのかは、理解に苦しむ」
感情の起伏を示さず、ルーピンが言った。ペテグリューの返事を待たず、シリウスが答えた。
「お前は昔の仲間から逃れていたんだろう。闇の陣営はみな、裏切り者がまた寝返って自分たちを裏切ったと思っているようだった。ヴォルデモートはおまえの情報でポッターの家に行った……そこでヴォルデモートが破滅した」
それから、シリウスはハリーたちに裏切りの真相を説明し始めた。どうやって脱獄したのかまで、詳らかに──聞きながら、ナマエはずっと、マルフォイに言われた言葉を考えていた。
──お前の父親はこう言っていたよ、「ブラックの逃走に巻き込まれて、妻は死んだ」ってね──
ナマエは自分の母親を「みぞの鏡」でしか見たことがなかった。あれが本当に母親の姿なのかもわからない。この男がハリーの両親を裏切らなかったら、この男が爆発を起こさなければ──
ペテグリューは聞き取れないような甲高い声で何かをボソボソ呟いた。かすかに「ありえない」「間違いだ」などという言葉が聞こえた。
目の前の男が音を立てるたび、ナマエの心の奥は冷ややかになっていくようだった。
シリウスとルーピンはペテグリューに杖を向けていた。ナマエはただその光景を眺めていた。
「──殺しちゃだめだ!」
突然、ハリーが叫んだ。全員が驚いたようにハリーを見た。
「──こいつをアズカバンに連れて行く、そしたらあなたの濡れ衣も晴れる」
ハリーは絞りだすようにシリウスに言った。シリウスの目が再びきらりと光った気がした。
「……君が、そうしたいというなら」
シリウスとルーピンはハリーの意志に頷いた。
ナマエは気抜けしたような、どこかでハリーならこうするとわかっていたような心地でふうと息を吐いた。
ルーピンがてきぱきとペテグリューを縛り上げ、片方の手を自分の手に繋いだ。ナマエも前に進み出た。
「俺とも繋いでくれ」
ナマエとルーピンがペテグリューの両脇に立ち、シリウスがスネイプを浮かせた。ロンは自分のペットだった男を汚らわしそうに睨んでいた。
クルックシャンクスがひらりとベッドから飛び降り、先頭に立って部屋を出た。瓶洗いブラシのような尻尾を誇らしげにきりっと上げながら。
「『暴れ柳』の根元でこれを見つけましてね」
スネイプが、杖をまっすぐルーピンの胸に突きつけたまま「透明マント」を脇に投げ捨てた。
「ポッター、なかなか役に立ったよ。感謝する……」
スネイプは少し息切れしてはいたが、勝利の喜びを抑えきれない顔だった。
「君の部屋に行ったよ、ルーピン。今夜、例の薬を飲むのを忘れたようだから、我輩がゴブレットに入れて持っていった。持っていったのは、まことに幸運だった……我輩にとってだがね。君の机に何やら地図があってね。一目見ただけで、我輩に必要なことはすべてわかった。君がこの通路を走っていき、姿を消すのを見たのだ」
「セブルス──」
ルーピンが何か言いかけたが、スネイプはかまわず続けた。
「我輩は校長に繰り返し進言した。君が旧友のブラックを手引きして城に入れているとね。ルーピン、これがいい証拠だ」
「セブルス、君は誤解している」
ルーピンが切羽詰まったように言った。
「君は、話を全部聞いていないんだ。説明させてくれ。シリウスはハリーを殺しにきたのではない──」
「今夜、また二人、アズカバン行きが出る」
スネイプの目がいまや狂気を帯びて光っていた。
「ダンブルドアがどう思うか、見物ですな……ダンブルドアは君が無害だと信じきっていた。わかるだろうね、飼い慣らされた人狼さん」
「愚かな。学生時代の恨みで、無実の者をまたアズカバンに送り返すというのかね?」
「あの、スネイプ先生───」
ナマエが杖を下げ、スネイプに一歩近づくと、憎しみのこもった形相でスネイプが叫んだ。
「口を挟むな!!」
「先生、このネズミを見てください!先生──」
ナマエは一瞬怯んだが、いまや傷だらけになった手で握りしめているスキャバーズを見せた。しかし、スネイプは一瞥もくれずにシリウスに近づいた。
「復讐は蜜より甘い──おまえを捕まえるのが我輩であったらと、どんなに願ったことか……」
スネイプの目には、いままで見たこともない狂気の光があった。──もはや理性を失っている。聞く耳を持ってもらえない……ナマエは意を決した。ぎゅっと杖を握り直して叫んだ。
「──エクスペリアームス!」
その瞬間、四本の閃光がスネイプを貫いた。
増幅した武装解除呪文はスネイプの体を壁まで吹っ飛ばし、ずるずると床に崩れた。頭からは血が流れていた。叫んだのはナマエだけではなかったのだ。
ナマエ、ハリー、ロン、ハーマイオニーは奇しくも同時にスネイプに武装解除呪文を放ってしまった。スネイプの杖は高々と舞い上がり、いつのまにかそこにいたクルックシャンクスが見事にキャッチした。
事態を理解したナマエは素早くスネイプに駆け寄った。息はある──しかし、完全にノックアウトされていた。
「先生を攻撃してしまった……先生を……」
ハーマイオニーは、ぐったりしているスネイプを怯えた目で見つめながら、泣きそうな声を出した。
「大丈夫、生きてる」
ナマエはそう言いながらスキャバーズをルーピンに渡すと、てきぱきとスネイプの体勢を整えて、止血した。
ルーピンはしっかりとスキャバーズを握りしめてハリーを見た。
「── ハリー、ありがとう」
「まだ信用するとは言ってません。──君のことも」
ハリーはナマエに目を向けた。ルーピンもナマエを見た。
ナマエはふたりの視線を受けて立ち上がった。
「……俺がシリウスと会ったのはほとんど偶然だ。ハリー、約束しただろ?──死神犬をとっ捕まえて、ただの犬だって証明してやるって」
ナマエが親指でシリウスを指差すと、ルーピンとシリウスが顔を見合わせた。ハリーも虚をつかれたような奇妙な顔をした。
「──そしたら、ほら言ったとおり。死神犬なんかじゃなかった」
スキャバーズがルーピンの手の中でキーキーと喚く音が響いた。少し間をおいて、ハリーが尋ねた。
「君はなぜ、この人を信用できたの」
ナマエは少し考えて、口を開いた。
「……俺を口封じすることもできたのに、シリウスはそうしなかった。話も筋が通ってた。──それに、」
ナマエはハリーを見つめ返した。
「シリウスは、『友達を裏切るくらいなら死を選ぶ』と言ったんだ。──俺もあんたのためならそうしたい」
ナマエは、シリウスは自分と似ているような、そうでありたいような気持ちがあった。由緒正しきブラック家に生まれながら、純血主義に反抗した彼に、憧れに近い感情を抱いていた。
ハリーがナマエからシリウスに目を移した。
「──わかった。あなたを信じる」
その途端、スキャバーズは死刑宣告を受けたかのようにルーピンの手の中でのた打ち回り、小さな黒い目が飛び出しそうだった。
「ありがとう」
シリウスがくぐもった声でハリーに礼を言った。目がきらっと光っていた。
「シリウス、準備は?」
ルーピンがネズミを抑え込みながら言った。
「もちろんいつでも」
言いながらシリウスがネズミに近づき、杖を向けた。ルーピンがじっとシリウスの杖を見ていると、シリウスがじれったそうに付け加えた。
「ああ、こいつは森の中で密猟者から拝借したんだ。──さあ、やろう」
ルーピンが頷くと、青白い光が二本の杖からほとばしった。一瞬、スキャバーズは宙に浮き、そこに静止した。小さな黒い姿が激しく捩れた。ロンが叫び声をあげた。
ネズミは床にボトリと落ちた。もう一度、目も眩むような閃光が走り──次の瞬間、スキャバーズがいたところに、一人の男が、手を捩り、後ずさりしながら立っていた。
クルックシャンクスがベッドで背中の毛を逆立て、シャーッ、シャーッと激しい音を出し、唸った。
小柄な男だ。ナマエやハリーの背丈とあまり変わらない。
「やあ、ピーター」
ネズミがにょきにょきと旧友に変身して身近に現れるのをしょっちゅう見慣れているかのような口ぶりで、ルーピンが朗らかに声をかけた。
「シ、シリウス……リ、リーマス……」
ペティグリューは、声までキーキーとネズミ声だ。目がドアのほうに素早く走った。
「友よ……なつかしの友よ……誤解だ、私は無実だ……!シリウスが、リリーとジェームズを殺した!今度は私を殺しに来たんだ!」
シリウスの杖腕が上がったが、ルーピンがその手首を押さえ、たしなめるような目でブラックを見た。それからまたペティグリューに向かって、さりげない軽い声で言った。
「はっきり言って、ピーター、なぜ無実の者が、十二年もネズミに身をやつして過ごしたいと思ったのかは、理解に苦しむ」
感情の起伏を示さず、ルーピンが言った。ペテグリューの返事を待たず、シリウスが答えた。
「お前は昔の仲間から逃れていたんだろう。闇の陣営はみな、裏切り者がまた寝返って自分たちを裏切ったと思っているようだった。ヴォルデモートはおまえの情報でポッターの家に行った……そこでヴォルデモートが破滅した」
それから、シリウスはハリーたちに裏切りの真相を説明し始めた。どうやって脱獄したのかまで、詳らかに──聞きながら、ナマエはずっと、マルフォイに言われた言葉を考えていた。
──お前の父親はこう言っていたよ、「ブラックの逃走に巻き込まれて、妻は死んだ」ってね──
ナマエは自分の母親を「みぞの鏡」でしか見たことがなかった。あれが本当に母親の姿なのかもわからない。この男がハリーの両親を裏切らなかったら、この男が爆発を起こさなければ──
ペテグリューは聞き取れないような甲高い声で何かをボソボソ呟いた。かすかに「ありえない」「間違いだ」などという言葉が聞こえた。
目の前の男が音を立てるたび、ナマエの心の奥は冷ややかになっていくようだった。
シリウスとルーピンはペテグリューに杖を向けていた。ナマエはただその光景を眺めていた。
「──殺しちゃだめだ!」
突然、ハリーが叫んだ。全員が驚いたようにハリーを見た。
「──こいつをアズカバンに連れて行く、そしたらあなたの濡れ衣も晴れる」
ハリーは絞りだすようにシリウスに言った。シリウスの目が再びきらりと光った気がした。
「……君が、そうしたいというなら」
シリウスとルーピンはハリーの意志に頷いた。
ナマエは気抜けしたような、どこかでハリーならこうするとわかっていたような心地でふうと息を吐いた。
ルーピンがてきぱきとペテグリューを縛り上げ、片方の手を自分の手に繋いだ。ナマエも前に進み出た。
「俺とも繋いでくれ」
ナマエとルーピンがペテグリューの両脇に立ち、シリウスがスネイプを浮かせた。ロンは自分のペットだった男を汚らわしそうに睨んでいた。
クルックシャンクスがひらりとベッドから飛び降り、先頭に立って部屋を出た。瓶洗いブラシのような尻尾を誇らしげにきりっと上げながら。