アズカバンの囚人
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ナマエは夏休みに、父親と顔を合わせることにひどく緊張していた。秘密の部屋の騒動のあと、初めて対面するのだ。
キングスクロス駅でみんなと別れたナマエは、マグルのいない路地裏に向かって歩いた。いつも、屋敷しもべ妖精のシノビーがそこまで送迎してくれるのだ。
──いつもどおり、ナマエを迎えに来たのは屋敷しもべ妖精だけだった。
「シノビー」
付き添い姿くらましをする前に、ナマエは尋ねた。
「親父は、家にいるのか?」
「いいえ、ナマエさま。ここのところはとみにお忙しく、聖マンゴに泊まりきりです」
「そう……」
ナマエは拍子抜けした。ほっとしたような、腑に落ちないような、なんとも言えない感情になった。でも──普通、父親なら、自分の息子に何があったか知りたくはないのだろうか?それとも、知っていて、息子の口から改めて聞く必要はないと思っているのだろうか。
シノビーは心配そうに大きな目でナマエを見上げてから、ナマエの手を握って「パチン」と指を鳴らした。
ナマエとシノビーは自宅の近くの道に姿現しをした。歩いて玄関に向かいながら、ナマエは思い出したように再び尋ねた。
「シノビー、あのさ……マグルの、……だ、だんわ?の使い方って知ってる?」
シノビーは少し怯えたようにきょとんとして申し訳なさそうに答えた。
「いいえ、シノビーは存じ上げません」
「だよなあ、ハーマイオニーに聞こうっと」
「ナマエさま……旦那さまは快く思われないと──」
ナマエはわざと聞こえないふりをして、一年ぶりの自宅に足を踏み入れた。
◆◆◆
もう、夏休みが半分を過ぎようとしていた。
ハリーは毎年のように最低な夏休みを過ごしていた。
しかも、今年は去年よりも悪い。ハリーが学校の外で魔法を使えないと知ったダーズリー家には、ハリーの『脅し』が全く効かなくなってしまった。
さらに、ハリーの教科書や杖や箒、ホグワーツに関わるものは全て取り上げられてしまっていたので、夜中に隠れて宿題をする羽目になっていた。
その日も憂鬱な気分で、一家の誰にも存在を気づかれていないかのようにリビングで焦げた薄いトーストを食べていた。
ダドリーとバーノンおじさんは新しいダドリー専用の冷蔵庫を買いに出かけ、ペチュニアおばさんはダドリーがいないうちにテレビの周りをしつこく磨き上げていた。
突然、ジリリリリと電話が鳴り、ペチュニアおばさんがそれを取った。
「はい、もしもし。ダーズリーです」
粗末な食事を終えたハリーは食器を片付けていると、ペチュニアおばさんが不意にハリーを睨みつけたので、ハリーは音を立てないように皿を運んだ。しかし、「うるさくするな」という意味ではなかったようだった。
「どちら様?なんのご用ですか?」
ペチュニアおばさんは、受話器を握りしめながら再び、ハリーをぎろりと上から下まで睨んだ。ハリーはドキリとした。ロンからのとんちんかんな電話にバーノンおじさんが大憤慨してからは、誰からも電話はなかった。
どうせ切られてしまうだろうと思いきや、ペチュニアおばさんは、少し渋ったが、ハリーに受話器を突き出した。
「お前に電話だよ」
ハリーは驚いて一瞬、何を言われているのかわからなかった。慌てて、ペチュニアおばさんの気が変わらないうちに受話器を受け取った。
「……はい、ハリーです」
「ハリー!一日早いけど、誕生日おめでとう!」
「ナマエ!」
ハリーは喜びと驚きで大きな声を出してしまった。はっと自分の居場所を思い出して、声を落とした。
「君、どうやっておばさんを説得したんだ?」
ハリーが小声で尋ねたが、陽気な声が返ってきた。
「ええ?ハリーの誕生日だから、祝いたいって言っただけだよ……なあ、ハリーこれ、すごいなあ!画期的だ、どうなってるんだ?この──」
「電話!」
「そう、電話!声だけ交換できるなんて!ラジオみたいで変な感じだ!」
「きみ、上手だよ。ロンなんて大声を出しすぎて、すぐにおじさんに切られちゃったんだから」
ナマエはそれを聞いてくすくすと笑った。
「俺は、ハーマイオニーにやり方を聞いたんだ。それで、一度試しにハーマイオニーの家にもかけた。そのときは、途中で切れちまったんだ。コインを足さなきゃいけなかったんだって、あとで気づいた」
ハリーは思わず口角が上がった。二人が自分のために、時間を割いてくれたことが嬉しかった。
「ハーマイオニーは、あんたの立場が悪くなるから掛けない方がいいって言ってたんだけど、俺……試してみたくてさ」
ナマエは、うずうずしたような声で言った。ナマエはレイブンクロー生にしては珍しく、何にでも首を突っ込みたがる節がある。探究心があるのも、レイブンクローの素質になるのだろうか。
「ありがとう、本当に嬉しいよ!僕、もう夏休みに飽きてるとこだったんだ」
「そりゃよかった。俺、一番早く祝いたかったんだ。プレゼントは多分、今夜届くと思う!」
「うわあ、ありがとう。どうやって?すごく楽しみだよ」
「ヘドウィグだよ。たまに俺の家に来てたんだ。いろいろ教えてくれたぜ」
「君、ふくろうの言葉もわかるの?」
「わかんないよ。でもヘドウィグは、人間の言葉がわかるだろうな」
ハリーは確かに、と納得した。飼い主のひいき目なしにも、ヘドウィグは他のふくろうよりも賢い気がしていた。
「ハリー、俺もさ、夏休みはいつも暇なんだよ。それで──」
一瞬、ナマエの言葉が途切れた。
「それで?」
「──なあ、マグルのおっさんがずっとこっちを見てる。交代したほうがいいのか?そういうルールがあるのか?」
「ないよ、君に見惚れてるだけだと思う」
ハリーは電話を切られたくなかったので、咄嗟に適当なことを言った。
「なあんだ、そうか──」
ナマエが言い終わらないうちに怒鳴り声と、バン!という戸を叩くような音が聞こえた。
「おい!騙したな、ハリー。ウインクしてやったら、怒り出したぞ」
「あは、どうしてウインクなんか──あははっ!」
「こら、もう切るからな!ああでも、ハリー、新学期の前に一緒にダイアゴン横丁に行こう。また連絡するよ──」
プツッと、そのまま電話が切れてしまった。突然の別れが名残惜しく、呆然としていたが、ため息をついて受話器を置いた。
ペチュニアおばさんに何か言われないうちに、そそくさと自室に戻った。
そうか、明日──いや今夜は、僕の誕生日だったのか。
◆◆◆
ナマエは上機嫌だった。
途中邪魔が入ったものの、マグルの公衆電話を使って、ハリーに電話をかけることに成功したのだ。今夜はハリーの誕生日だから、すでにプレゼントと誕生日カードも、ヘドウィグに渡していた。プレゼントは、一時的に視力が猛禽類並みに良くなる目薬だった。
ナマエは全身に空気の抵抗を浴びて、目を閉じた。風が気持ちいい。
いいことはまだあった。ナマエは、この退屈な夏休みが始まった瞬間から、ある計画を再開していた。「動物もどき」になる計画だ。
去年この計画を思いついたときは、リドルの日記で酷い目にあっていたが、ホグワーツでの日々よりもひとりぼっちの夏休みのほうが、誰にも邪魔されずに儀式を進めることができた。
そして、ついに──成功したのだ。
ナマエは空を飛んでいた。箒ではなく、自分の翼で。
ナマエの姿はカラスに似ていた。ただ、カラスよりも一回りか二回り小さく、お腹と羽の一部が白い。──カササギだった。
動物もどきで変身できる動物は、自分で選ぶことができない。しかし、ナマエはカササギの姿をかなり気に入っていた。ナマエは、自分が箒に乗れなかったのはこのためだとすら思った。ナマエにはもう、空を飛ぶために箒は必要ないのだから。
ナマエは充分に空の旅を楽しんでから、自宅のそばの茂みに降り立った。周囲に人がいないことを確認して、人間の姿に戻って、何事もなかったかのように玄関に向かった。
ぎぃ、と音を立てて古い扉を開けた。すると、ナマエは驚いて後ずさった。
「──何処へ行っていた、ナマエ」
そこには、久しく顔を合わせていなかった父の姿があった。
チチオヤの片手でシノビーが胸ぐらを掴まれ、脚を宙に浮かせてパタパタさせてもがいていた。
ナマエが答えずにいると、チチオヤがシノビーを離した。哀れな屋敷しもべ妖精は「ぎゃっ」と声を上げて地面に落ちた。
「マグルの街に行っていたな?」
「あ……っ、………」
低く、怒りの込もった声だった。
キングスクロス駅でみんなと別れたナマエは、マグルのいない路地裏に向かって歩いた。いつも、屋敷しもべ妖精のシノビーがそこまで送迎してくれるのだ。
──いつもどおり、ナマエを迎えに来たのは屋敷しもべ妖精だけだった。
「シノビー」
付き添い姿くらましをする前に、ナマエは尋ねた。
「親父は、家にいるのか?」
「いいえ、ナマエさま。ここのところはとみにお忙しく、聖マンゴに泊まりきりです」
「そう……」
ナマエは拍子抜けした。ほっとしたような、腑に落ちないような、なんとも言えない感情になった。でも──普通、父親なら、自分の息子に何があったか知りたくはないのだろうか?それとも、知っていて、息子の口から改めて聞く必要はないと思っているのだろうか。
シノビーは心配そうに大きな目でナマエを見上げてから、ナマエの手を握って「パチン」と指を鳴らした。
ナマエとシノビーは自宅の近くの道に姿現しをした。歩いて玄関に向かいながら、ナマエは思い出したように再び尋ねた。
「シノビー、あのさ……マグルの、……だ、だんわ?の使い方って知ってる?」
シノビーは少し怯えたようにきょとんとして申し訳なさそうに答えた。
「いいえ、シノビーは存じ上げません」
「だよなあ、ハーマイオニーに聞こうっと」
「ナマエさま……旦那さまは快く思われないと──」
ナマエはわざと聞こえないふりをして、一年ぶりの自宅に足を踏み入れた。
◆◆◆
もう、夏休みが半分を過ぎようとしていた。
ハリーは毎年のように最低な夏休みを過ごしていた。
しかも、今年は去年よりも悪い。ハリーが学校の外で魔法を使えないと知ったダーズリー家には、ハリーの『脅し』が全く効かなくなってしまった。
さらに、ハリーの教科書や杖や箒、ホグワーツに関わるものは全て取り上げられてしまっていたので、夜中に隠れて宿題をする羽目になっていた。
その日も憂鬱な気分で、一家の誰にも存在を気づかれていないかのようにリビングで焦げた薄いトーストを食べていた。
ダドリーとバーノンおじさんは新しいダドリー専用の冷蔵庫を買いに出かけ、ペチュニアおばさんはダドリーがいないうちにテレビの周りをしつこく磨き上げていた。
突然、ジリリリリと電話が鳴り、ペチュニアおばさんがそれを取った。
「はい、もしもし。ダーズリーです」
粗末な食事を終えたハリーは食器を片付けていると、ペチュニアおばさんが不意にハリーを睨みつけたので、ハリーは音を立てないように皿を運んだ。しかし、「うるさくするな」という意味ではなかったようだった。
「どちら様?なんのご用ですか?」
ペチュニアおばさんは、受話器を握りしめながら再び、ハリーをぎろりと上から下まで睨んだ。ハリーはドキリとした。ロンからのとんちんかんな電話にバーノンおじさんが大憤慨してからは、誰からも電話はなかった。
どうせ切られてしまうだろうと思いきや、ペチュニアおばさんは、少し渋ったが、ハリーに受話器を突き出した。
「お前に電話だよ」
ハリーは驚いて一瞬、何を言われているのかわからなかった。慌てて、ペチュニアおばさんの気が変わらないうちに受話器を受け取った。
「……はい、ハリーです」
「ハリー!一日早いけど、誕生日おめでとう!」
「ナマエ!」
ハリーは喜びと驚きで大きな声を出してしまった。はっと自分の居場所を思い出して、声を落とした。
「君、どうやっておばさんを説得したんだ?」
ハリーが小声で尋ねたが、陽気な声が返ってきた。
「ええ?ハリーの誕生日だから、祝いたいって言っただけだよ……なあ、ハリーこれ、すごいなあ!画期的だ、どうなってるんだ?この──」
「電話!」
「そう、電話!声だけ交換できるなんて!ラジオみたいで変な感じだ!」
「きみ、上手だよ。ロンなんて大声を出しすぎて、すぐにおじさんに切られちゃったんだから」
ナマエはそれを聞いてくすくすと笑った。
「俺は、ハーマイオニーにやり方を聞いたんだ。それで、一度試しにハーマイオニーの家にもかけた。そのときは、途中で切れちまったんだ。コインを足さなきゃいけなかったんだって、あとで気づいた」
ハリーは思わず口角が上がった。二人が自分のために、時間を割いてくれたことが嬉しかった。
「ハーマイオニーは、あんたの立場が悪くなるから掛けない方がいいって言ってたんだけど、俺……試してみたくてさ」
ナマエは、うずうずしたような声で言った。ナマエはレイブンクロー生にしては珍しく、何にでも首を突っ込みたがる節がある。探究心があるのも、レイブンクローの素質になるのだろうか。
「ありがとう、本当に嬉しいよ!僕、もう夏休みに飽きてるとこだったんだ」
「そりゃよかった。俺、一番早く祝いたかったんだ。プレゼントは多分、今夜届くと思う!」
「うわあ、ありがとう。どうやって?すごく楽しみだよ」
「ヘドウィグだよ。たまに俺の家に来てたんだ。いろいろ教えてくれたぜ」
「君、ふくろうの言葉もわかるの?」
「わかんないよ。でもヘドウィグは、人間の言葉がわかるだろうな」
ハリーは確かに、と納得した。飼い主のひいき目なしにも、ヘドウィグは他のふくろうよりも賢い気がしていた。
「ハリー、俺もさ、夏休みはいつも暇なんだよ。それで──」
一瞬、ナマエの言葉が途切れた。
「それで?」
「──なあ、マグルのおっさんがずっとこっちを見てる。交代したほうがいいのか?そういうルールがあるのか?」
「ないよ、君に見惚れてるだけだと思う」
ハリーは電話を切られたくなかったので、咄嗟に適当なことを言った。
「なあんだ、そうか──」
ナマエが言い終わらないうちに怒鳴り声と、バン!という戸を叩くような音が聞こえた。
「おい!騙したな、ハリー。ウインクしてやったら、怒り出したぞ」
「あは、どうしてウインクなんか──あははっ!」
「こら、もう切るからな!ああでも、ハリー、新学期の前に一緒にダイアゴン横丁に行こう。また連絡するよ──」
プツッと、そのまま電話が切れてしまった。突然の別れが名残惜しく、呆然としていたが、ため息をついて受話器を置いた。
ペチュニアおばさんに何か言われないうちに、そそくさと自室に戻った。
そうか、明日──いや今夜は、僕の誕生日だったのか。
◆◆◆
ナマエは上機嫌だった。
途中邪魔が入ったものの、マグルの公衆電話を使って、ハリーに電話をかけることに成功したのだ。今夜はハリーの誕生日だから、すでにプレゼントと誕生日カードも、ヘドウィグに渡していた。プレゼントは、一時的に視力が猛禽類並みに良くなる目薬だった。
ナマエは全身に空気の抵抗を浴びて、目を閉じた。風が気持ちいい。
いいことはまだあった。ナマエは、この退屈な夏休みが始まった瞬間から、ある計画を再開していた。「動物もどき」になる計画だ。
去年この計画を思いついたときは、リドルの日記で酷い目にあっていたが、ホグワーツでの日々よりもひとりぼっちの夏休みのほうが、誰にも邪魔されずに儀式を進めることができた。
そして、ついに──成功したのだ。
ナマエは空を飛んでいた。箒ではなく、自分の翼で。
ナマエの姿はカラスに似ていた。ただ、カラスよりも一回りか二回り小さく、お腹と羽の一部が白い。──カササギだった。
動物もどきで変身できる動物は、自分で選ぶことができない。しかし、ナマエはカササギの姿をかなり気に入っていた。ナマエは、自分が箒に乗れなかったのはこのためだとすら思った。ナマエにはもう、空を飛ぶために箒は必要ないのだから。
ナマエは充分に空の旅を楽しんでから、自宅のそばの茂みに降り立った。周囲に人がいないことを確認して、人間の姿に戻って、何事もなかったかのように玄関に向かった。
ぎぃ、と音を立てて古い扉を開けた。すると、ナマエは驚いて後ずさった。
「──何処へ行っていた、ナマエ」
そこには、久しく顔を合わせていなかった父の姿があった。
チチオヤの片手でシノビーが胸ぐらを掴まれ、脚を宙に浮かせてパタパタさせてもがいていた。
ナマエが答えずにいると、チチオヤがシノビーを離した。哀れな屋敷しもべ妖精は「ぎゃっ」と声を上げて地面に落ちた。
「マグルの街に行っていたな?」
「あ……っ、………」
低く、怒りの込もった声だった。