アズカバンの囚人
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少し離れた場所でパンジー・パーキンソンがマルフォイを待つように立っていたが、マルフォイは顎で先に行くように促した。パーキンソンは不服そうに立ち去った。マルフォイは店と店の間の路地裏に移動した。ナマエは怪訝に思いながら、そのあとに続いた。マルフォイが立ち止まったので、ナマエは尋ねた。
「……俺に何か用?」
「お前の父君が、休暇中にうちにいらっしゃった」
思いも寄らない言葉に、ナマエは戸惑った。
「なっ、……なんで」
マルフォイは狼狽えるナマエを面白がるように、いつもの意地悪そうな笑みで言った。
「父上がお礼申し上げたいと、夕食に招待したのさ」
マルフォイは薄ら笑いを一瞬やめて、ちらりとナマエの腕を見た。
「──お前が僕を庇ったから」
ナマエはふん、と鼻を鳴らした。
「お門違いだな。礼ならお前が俺にすべきだ。お前の父親も俺の父親も関係ない」
マルフォイは顔を顰めたが、ナマエは続けた。
「そもそも、お前の父親は礼をする前に詫びるべきだ。俺は去年、お前の父親の企みで死にかけたんだぞ」
ナマエは話せば話すほど、苛立ちが募るような気持ちになった。
「──それに、お前の父親が訴えるせいで、あのヒッポグリフは処刑されるかもしれないんだ」
「当然の報いだ。あの鈍臭い大男に教師は務まらない。凶暴な化け物も、醜いデカブツ同士似合いだ。あの毛むくじゃらのウスノロデカが、なんとか自己弁護しようとするのを聞いてみたいよ……『こいつは何も悪さはしねえです。ほんとですだ──』とか……」
ナマエはたまらずマルフォイの胸ぐらを掴んで壁に押し付けた。手に持っていた荷物が地面にぼとりと落ちた。
「いい加減にしろよ!お前の父親はいつもしゃしゃり出て来て、余計なことばっかり──」
ナマエが言い終わる前に、マルフォイは胸ぐらを掴んでいるナマエの手首を強い力で握った。
「お前が父親に気にかけてもらえないからって、僕の父上を侮辱するな!」
マルフォイにしては、かなり核心に迫った反論だった。通行人が何事かとじろじろ見ていた。ナマエは言い返す言葉がなく、乱暴に手を離した。ナマエは袋と瓶を拾い上げた。
「ああ、そうだな。自分の息子よりも、マルフォイ家様との会食のが大事だなんて、見上げた父親だよな」
ナマエが自嘲的にそう吐き捨てて踵を返した。──マルフォイと話すといつもこうなる。確かにマルフォイは傲慢で卑劣で嫌なやつだが、ナマエはそれ以上に、彼が父親に溺愛されているという事実に嫉妬心を燻られていた。ナマエは早く切り上げて立ち去りたかったが、マルフォイがナマエの肩を掴んだ。
「待て、話はまだ終わってない」
「……何だよ」
マルフォイはナマエを睨みながら、ゆっくり口を開いた。
「チチオヤさんと父上が話しているのを少し聞いた。お前の父親はこう言っていたよ、『ブラックの逃走に巻き込まれて、妻は死んだ』ってね」
「……え?」
「お前が聞きたがっていた話だ。嘘じゃないし、それ以上は知らない。これでいいだろう?──その腕の貸し借りは無しだ」
マルフォイはそれだけ言うと、足早に立ち去った。ナマエは路地で呆然と立ち尽くして、その背中を見ていた。
──あの事件で死んだとされているのはマグルとペテグリューだけだったはずだ。マグルの中に母親がいたのか?いや、あの父親がマグルと結婚するなんて?あの、純血主義者のチチオヤが?
ナマエは蛇語を理解できる。幼い頃、蛇の言葉が聞こえるのだと、遠慮がちに父に打ち明けたことがある。ナマエの母がスリザリンの血筋を引いているからだと、妙に機嫌良く教えてくれたのだ。その人が、マグルであるはずがあろうか?
ナマエは考えながらも、めくらまし術をかけて、足跡を消しながら叫びの屋敷に向かった。
部屋に戻ると、大きな犬が鼻をひくひくさせながら近寄ってきた。
「ごめん、冷めちまった」
シリウスは後ろ脚で立ってナマエを急かした。ナマエは両手に抱えた食料を持ち上げて遠ざけた。
「一気に食べちゃだめだ、死ぬ。ゆっくり食べるんだ」
シリウスは人間の姿に戻った。
「わかった、わかったから。犬扱いはよせ」
ナマエはシリウスに一本ずつチキンを渡した。
「シリウスは、なんで実家と折り合いが悪いんだ?」
出し抜けにナマエが尋ねた。シリウスは、チキンを頬張りながら答えた。
「──考え方が合わなかった。私の家系は……知っているかもしれないが、純血貴族だ。高貴なる、由緒正しきブラック家。私の親は特に狂信的で……ブラック家が事実上の王族だとさえ信じていた」
シリウスは苦々しい記憶を振り払うように、チキンの骨を振った。ほとんど食べるところが残っていなかった。ナマエは食い下がった。
「でも、なぜ──あんたはそう考えなかったんだ?子供って、親の言うことを間に受けるもんじゃないの?」
ナマエの的を得ない質問を受けて、シリウスはじっとナマエの顔を見た。
「………君は、何を悩んでる?」
「……わからない……」
ナマエは、父親と自分の関係は、相容れない考えを持っているからだと納得したかった。
それでも、と考えてしまった。
もし、自分の父親が、息子を愛していると感じられたら、父親の考えを疑うことができただろうか?ナマエは無意識にマルフォイ親子を思い浮かべていた。
シリウスは親の愛情を跳ね除けてでも、光の道を歩いてきたんじゃないのか。命の危険を冒して、アズカバンに閉じ込められてでも。
──自分とは程遠い。すでに自覚してしまった。本当は自分も父親に、たった一人の家族から、愛されたいのだ。愛されない理由を反抗心で覆い隠しているのだ。──そう訴えるのはあまりにも幼い気がして、ナマエは黙り込んだ。
俯くナマエの肩に、シリウスの手が置かれた。
「人は誰しも──心に光と闇を持っている。重要なのは、どの道を選ぶかだ」
ナマエは顔を上げた。シリウスは真っ直ぐにナマエの目を見ていた。
「人はそこで決まるんだよ」
「……うん」
ナマエはそっぽを向いて震える声を絞り出した。目と喉がヒリヒリと熱かった。
「……俺に何か用?」
「お前の父君が、休暇中にうちにいらっしゃった」
思いも寄らない言葉に、ナマエは戸惑った。
「なっ、……なんで」
マルフォイは狼狽えるナマエを面白がるように、いつもの意地悪そうな笑みで言った。
「父上がお礼申し上げたいと、夕食に招待したのさ」
マルフォイは薄ら笑いを一瞬やめて、ちらりとナマエの腕を見た。
「──お前が僕を庇ったから」
ナマエはふん、と鼻を鳴らした。
「お門違いだな。礼ならお前が俺にすべきだ。お前の父親も俺の父親も関係ない」
マルフォイは顔を顰めたが、ナマエは続けた。
「そもそも、お前の父親は礼をする前に詫びるべきだ。俺は去年、お前の父親の企みで死にかけたんだぞ」
ナマエは話せば話すほど、苛立ちが募るような気持ちになった。
「──それに、お前の父親が訴えるせいで、あのヒッポグリフは処刑されるかもしれないんだ」
「当然の報いだ。あの鈍臭い大男に教師は務まらない。凶暴な化け物も、醜いデカブツ同士似合いだ。あの毛むくじゃらのウスノロデカが、なんとか自己弁護しようとするのを聞いてみたいよ……『こいつは何も悪さはしねえです。ほんとですだ──』とか……」
ナマエはたまらずマルフォイの胸ぐらを掴んで壁に押し付けた。手に持っていた荷物が地面にぼとりと落ちた。
「いい加減にしろよ!お前の父親はいつもしゃしゃり出て来て、余計なことばっかり──」
ナマエが言い終わる前に、マルフォイは胸ぐらを掴んでいるナマエの手首を強い力で握った。
「お前が父親に気にかけてもらえないからって、僕の父上を侮辱するな!」
マルフォイにしては、かなり核心に迫った反論だった。通行人が何事かとじろじろ見ていた。ナマエは言い返す言葉がなく、乱暴に手を離した。ナマエは袋と瓶を拾い上げた。
「ああ、そうだな。自分の息子よりも、マルフォイ家様との会食のが大事だなんて、見上げた父親だよな」
ナマエが自嘲的にそう吐き捨てて踵を返した。──マルフォイと話すといつもこうなる。確かにマルフォイは傲慢で卑劣で嫌なやつだが、ナマエはそれ以上に、彼が父親に溺愛されているという事実に嫉妬心を燻られていた。ナマエは早く切り上げて立ち去りたかったが、マルフォイがナマエの肩を掴んだ。
「待て、話はまだ終わってない」
「……何だよ」
マルフォイはナマエを睨みながら、ゆっくり口を開いた。
「チチオヤさんと父上が話しているのを少し聞いた。お前の父親はこう言っていたよ、『ブラックの逃走に巻き込まれて、妻は死んだ』ってね」
「……え?」
「お前が聞きたがっていた話だ。嘘じゃないし、それ以上は知らない。これでいいだろう?──その腕の貸し借りは無しだ」
マルフォイはそれだけ言うと、足早に立ち去った。ナマエは路地で呆然と立ち尽くして、その背中を見ていた。
──あの事件で死んだとされているのはマグルとペテグリューだけだったはずだ。マグルの中に母親がいたのか?いや、あの父親がマグルと結婚するなんて?あの、純血主義者のチチオヤが?
ナマエは蛇語を理解できる。幼い頃、蛇の言葉が聞こえるのだと、遠慮がちに父に打ち明けたことがある。ナマエの母がスリザリンの血筋を引いているからだと、妙に機嫌良く教えてくれたのだ。その人が、マグルであるはずがあろうか?
ナマエは考えながらも、めくらまし術をかけて、足跡を消しながら叫びの屋敷に向かった。
部屋に戻ると、大きな犬が鼻をひくひくさせながら近寄ってきた。
「ごめん、冷めちまった」
シリウスは後ろ脚で立ってナマエを急かした。ナマエは両手に抱えた食料を持ち上げて遠ざけた。
「一気に食べちゃだめだ、死ぬ。ゆっくり食べるんだ」
シリウスは人間の姿に戻った。
「わかった、わかったから。犬扱いはよせ」
ナマエはシリウスに一本ずつチキンを渡した。
「シリウスは、なんで実家と折り合いが悪いんだ?」
出し抜けにナマエが尋ねた。シリウスは、チキンを頬張りながら答えた。
「──考え方が合わなかった。私の家系は……知っているかもしれないが、純血貴族だ。高貴なる、由緒正しきブラック家。私の親は特に狂信的で……ブラック家が事実上の王族だとさえ信じていた」
シリウスは苦々しい記憶を振り払うように、チキンの骨を振った。ほとんど食べるところが残っていなかった。ナマエは食い下がった。
「でも、なぜ──あんたはそう考えなかったんだ?子供って、親の言うことを間に受けるもんじゃないの?」
ナマエの的を得ない質問を受けて、シリウスはじっとナマエの顔を見た。
「………君は、何を悩んでる?」
「……わからない……」
ナマエは、父親と自分の関係は、相容れない考えを持っているからだと納得したかった。
それでも、と考えてしまった。
もし、自分の父親が、息子を愛していると感じられたら、父親の考えを疑うことができただろうか?ナマエは無意識にマルフォイ親子を思い浮かべていた。
シリウスは親の愛情を跳ね除けてでも、光の道を歩いてきたんじゃないのか。命の危険を冒して、アズカバンに閉じ込められてでも。
──自分とは程遠い。すでに自覚してしまった。本当は自分も父親に、たった一人の家族から、愛されたいのだ。愛されない理由を反抗心で覆い隠しているのだ。──そう訴えるのはあまりにも幼い気がして、ナマエは黙り込んだ。
俯くナマエの肩に、シリウスの手が置かれた。
「人は誰しも──心に光と闇を持っている。重要なのは、どの道を選ぶかだ」
ナマエは顔を上げた。シリウスは真っ直ぐにナマエの目を見ていた。
「人はそこで決まるんだよ」
「……うん」
ナマエはそっぽを向いて震える声を絞り出した。目と喉がヒリヒリと熱かった。