アズカバンの囚人
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ナマエは重い足取りで談話室に戻った。誰もいないソファに寝そべって、深いため息をついた。
ナマエが頭を悩ませている間に、城ではいつもの大がかりなクリスマスの飾りつけが進んでいた──それを楽しむはずの生徒はほとんど学校に残っていなかったが。
クリスマスの朝、プレゼントがベッドの足元に転がっていた。ウィーズリー夫人から手編みのセーターとミンスパイ、ハーマイオニーからは豚毛のヘアブラシが贈られていた。ナマエはセーターを頭からかぶって、新品のブラシで髪を梳かした。ぼさぼさだった髪はさらりと艶を放って肩に滑り落ちた。
「こりゃいいや」
ナマエは、父親からのクリスマスプレゼントが無いことに気づかないふりをして、大広間に向かった。
昼食に大広間に下りていくと、各寮のテーブルは壁に立て掛けられ、広間の中央にテーブルが一つ、食器が十三人分用意されていた。ダンブルドア、マクゴナガル、スネイプ、スプラウト、フリットウィックの諸先生が並び、管理人のフィルチも、いつもの茶色の上着ではなく、古びたかび臭い燕尾服を着て座っている。生徒はナマエたちの他に三人しかいない。緊張でガチガチの一年生が二人、ふてくされた顔のスリザリンの五年生が一人だった。
「メリー・クリスマス!」
ナマエが席につくと、ダンブルドアが挨拶した。ハリー、ロン、ハーマイオニーもテーブルにやってきた。
「これしかいないのだから、寮のテーブルを使うのはいかにも愚かに見えたのでのう。……さあ、お座り!」
ナマエの隣にハーマイオニー、ハリー、ロンの順で座った。
「メリークリスマス」
ナマエが三人に言うと、ハーマイオニーだけが俯いて小さく返事をした。三人はどこかピリピリしていた。ナマエは気になったが、無理に話しかける元気がなかったので教師陣のほうに目をやった。すると、見知った顔が足りないことに気がついた。
「あの、ルーピン先生はいらっしゃらないんですか」
「気の毒に、先生はまたご病気での」
ナマエが尋ねると、ダンブルドアはみんなに食事をするよう促しながら言った。
「クリスマスにこんなことが起こるとは、まったく不幸なことじゃ。しかしセブルス、ルーピン先生にまた薬を造ってさし上げたのじゃろう?」
「はい、校長」
スネイプが答えた。
「結構。それなれば、ルーピン先生はすぐによくなって出ていらっしゃるじゃろう……。デレク、チポラータ・ソーセージを食べてみたかね?おいしいよ」
一年坊主が、ダンブルドア校長に直接声をかけられて、見る見る真っ赤になり、震える手でソーセージの大皿を取った。ナマエは怪訝な顔でスネイプを見た。
「──何の薬ですか?」
「……我輩ではなく、ルーピン先生に質問するがいい」
スネイプは一蹴した。それから生徒たちはほとんど喋らず、ご馳走を黙々と平らげた。ハリーとロンは最初に席を立ち、ハーマイオニーはマクゴナガル先生と何やら話し込んでいた。ナマエは最後まで食事を口に運びながら考え込んだ。
──バックビークの尋問は四月だ。まだ時間はあるし、これは後で考えるとしよう。
シリウスの問題を解決するなら、やはりスキャバーズを捕まえるのが一番手っ取り早い。誰かのペットのふりをしてグリフィンドールに忍び込もうか?おどおどしている一年生を見ながら考えた。確か、ハリーとロンは同室だ。ハリーはナマエがカササギであることを知っているし──
「──ミスターミョウジ、もう部屋に戻りなさい」
ナマエははっと顔を上げた。フリットウィック先生だった。
目の前には空の銀食器だけが残っていて、座っているのはもはやナマエだけだった。
ナマエは残りの休暇を図書室で過ごすことにした。ナマエが解決しなければならない課題はネズミ捕りだけではなかった。無理をしてほとんどの授業を取っているせいで、山のような宿題が待ち受けていたのだ。
クリスマスに図書館を使う生徒などナマエ一人きりかと思いきや、先客がいた。ナマエよりもひとつ多く授業を取っているハーマイオニーが、うずたかく積み上げられた本に埋もれて課題をこなしていた。
「進んでる?」
ナマエが声をかけると、ハーマイオニーは羽ペンを置いて、勢いよくナマエに顔を向けた。
「クリスマスにハリーに箒が届いたの!」
「え?」
ナマエは思っても見ない言葉が返ってきたので、きょとんと聞き返した。ハーマイオニーは憤慨していた。
「すごく高価なものらしいんだけど、届け人がわからないのよ」
ナマエは、『漏れ鍋』に泊まっている間じゅう、ハリーが毎日『ファイアボルト』という箒を熱心に見物していたことを思い出した。
「ハリーのファンじゃないのか、ドビーみたいな──」
ナマエの言葉を遮って、ハーマイオニーは苛立たしげにばしっと机を叩いた。ナマエはチラッとマダム・ピンスの様子を盗み見た。幸い、こちらに注意を払ってはいなかった。
「もう!貴方ならわかるでしょう?──シリウス・ブラックよ!」
「えっ?」
ナマエはまたもや、想定外の返事に素っ頓狂な声を上げた。
「ブラックが箒に呪いをかけて贈ったんじゃないかと思うの。だから私、マクゴナガル先生にお知らせしたのよ──それで、それでロンとハリーったら、私を悪者みたいに言うのよ!」
「──ああ、うん、なるほど」
確かに、シリウスがハリーを狙っていると考えていれば、自分もそう予想したかもしれない。凶悪犯といえど、ブラック家の最後の生き残りだ。グリンゴッツに財産があっても不思議ではないし、小鬼は人間社会に関与しない。たとえそれが、アズカバンの脱獄囚だったとしてもだ。
──それに、シリウスはハリーを息子のように思っている。ナマエはまた、自分の父親と比べてじわりと胃が締め付けられた。
「私、間違ったことをしたと思わないわ。箒よりもハリーの命の方が大事に決まってるもの」
「うん、あんたの言う通りだよ」
ハーマイオニーは、ほっとしたような笑顔になった。それとは裏腹に、ナマエはなぜかみじめな気持ちになった。
年が明けて、まもなくみんなが学校に戻り、レイブンクロー塔がまたがやがやと混み合ってきたのが、ナマエにはうれしいことだった。
ナマエはいよいよ、授業に忙殺されはじめた。いつも談話室の片隅でテーブルをいくつも占領し、教科書やら、数占い表、古代ルーン語の辞書やらマグルが重いものを持ち上げる図式、それに細かく書き込んだノートの山また山を広げていた。ほとんど誰とも口を利かず、黙々と羽ペンを走らせて、やっとの思いで宿題をこなしていた。
ある日、いつものように時間を逆転させるためにハーマイオニーを待っていると、ハーマイオニーはまたもやカリカリした様子で現れた。ナマエは苦笑いして尋ねた。
「ハーマイオニー、何かあった?」
「ロンのスキャバーズがいなくなったの!」
ハーマイオニーは食い気味に答えた。このニュースにはナマエも驚いた。
「えっ?う、嘘だろ?」
「ロンはクルックシャンクスが犯人だって決めつけて、蹴飛ばそうとしたわ!ハリーもロンの味方をするし、正直言って、猫に偏見を持ってるのよ!」
ハーマイオニーは捲し立てた。ロンのベッドにいたはずのスキャバーズは消え、代わりに血痕とオレンジ色の毛が残されていたと話した。ロンはかなり激怒しているらしかった。一方ハーマイオニーは、クルックシャンクスがスキャバーズを食べてしまったという証拠がないと猛烈に主張した。
ナマエは動揺したが、ハーマイオニーの剣幕に気圧されながら意見を述べた。
「──いや、でも、俺もスキャバーズはまだ生きてると思う」
ハーマイオニーはナマエを見つめた。ナマエは、クルックシャンクスに首根っこを咥えられて、シリウスのもとに運ばれたことを思い出していた。
「クルックシャンクスは力加減がわかってる。賢い猫だから、殺すはずない──」
すると突然、ハーマイオニーがナマエにぎゅっと抱きついた。
「ナマエ!わかってくれるのね!」
「う、うん」
ナマエはどぎまぎしながらされるがままになっていた。なんとなく、一年生の時にトイレで泣いていたハーマイオニーを思い出した。あの時は、ハリーとロンに除け者にされたハーマイオニーには、ナマエの慰めは届いていないような疎外感を感じていた。しかし、今は自分を拠り所のひとつにしてくれているような気がして、なぜだか嬉しかった。
ナマエが頭を悩ませている間に、城ではいつもの大がかりなクリスマスの飾りつけが進んでいた──それを楽しむはずの生徒はほとんど学校に残っていなかったが。
クリスマスの朝、プレゼントがベッドの足元に転がっていた。ウィーズリー夫人から手編みのセーターとミンスパイ、ハーマイオニーからは豚毛のヘアブラシが贈られていた。ナマエはセーターを頭からかぶって、新品のブラシで髪を梳かした。ぼさぼさだった髪はさらりと艶を放って肩に滑り落ちた。
「こりゃいいや」
ナマエは、父親からのクリスマスプレゼントが無いことに気づかないふりをして、大広間に向かった。
昼食に大広間に下りていくと、各寮のテーブルは壁に立て掛けられ、広間の中央にテーブルが一つ、食器が十三人分用意されていた。ダンブルドア、マクゴナガル、スネイプ、スプラウト、フリットウィックの諸先生が並び、管理人のフィルチも、いつもの茶色の上着ではなく、古びたかび臭い燕尾服を着て座っている。生徒はナマエたちの他に三人しかいない。緊張でガチガチの一年生が二人、ふてくされた顔のスリザリンの五年生が一人だった。
「メリー・クリスマス!」
ナマエが席につくと、ダンブルドアが挨拶した。ハリー、ロン、ハーマイオニーもテーブルにやってきた。
「これしかいないのだから、寮のテーブルを使うのはいかにも愚かに見えたのでのう。……さあ、お座り!」
ナマエの隣にハーマイオニー、ハリー、ロンの順で座った。
「メリークリスマス」
ナマエが三人に言うと、ハーマイオニーだけが俯いて小さく返事をした。三人はどこかピリピリしていた。ナマエは気になったが、無理に話しかける元気がなかったので教師陣のほうに目をやった。すると、見知った顔が足りないことに気がついた。
「あの、ルーピン先生はいらっしゃらないんですか」
「気の毒に、先生はまたご病気での」
ナマエが尋ねると、ダンブルドアはみんなに食事をするよう促しながら言った。
「クリスマスにこんなことが起こるとは、まったく不幸なことじゃ。しかしセブルス、ルーピン先生にまた薬を造ってさし上げたのじゃろう?」
「はい、校長」
スネイプが答えた。
「結構。それなれば、ルーピン先生はすぐによくなって出ていらっしゃるじゃろう……。デレク、チポラータ・ソーセージを食べてみたかね?おいしいよ」
一年坊主が、ダンブルドア校長に直接声をかけられて、見る見る真っ赤になり、震える手でソーセージの大皿を取った。ナマエは怪訝な顔でスネイプを見た。
「──何の薬ですか?」
「……我輩ではなく、ルーピン先生に質問するがいい」
スネイプは一蹴した。それから生徒たちはほとんど喋らず、ご馳走を黙々と平らげた。ハリーとロンは最初に席を立ち、ハーマイオニーはマクゴナガル先生と何やら話し込んでいた。ナマエは最後まで食事を口に運びながら考え込んだ。
──バックビークの尋問は四月だ。まだ時間はあるし、これは後で考えるとしよう。
シリウスの問題を解決するなら、やはりスキャバーズを捕まえるのが一番手っ取り早い。誰かのペットのふりをしてグリフィンドールに忍び込もうか?おどおどしている一年生を見ながら考えた。確か、ハリーとロンは同室だ。ハリーはナマエがカササギであることを知っているし──
「──ミスターミョウジ、もう部屋に戻りなさい」
ナマエははっと顔を上げた。フリットウィック先生だった。
目の前には空の銀食器だけが残っていて、座っているのはもはやナマエだけだった。
ナマエは残りの休暇を図書室で過ごすことにした。ナマエが解決しなければならない課題はネズミ捕りだけではなかった。無理をしてほとんどの授業を取っているせいで、山のような宿題が待ち受けていたのだ。
クリスマスに図書館を使う生徒などナマエ一人きりかと思いきや、先客がいた。ナマエよりもひとつ多く授業を取っているハーマイオニーが、うずたかく積み上げられた本に埋もれて課題をこなしていた。
「進んでる?」
ナマエが声をかけると、ハーマイオニーは羽ペンを置いて、勢いよくナマエに顔を向けた。
「クリスマスにハリーに箒が届いたの!」
「え?」
ナマエは思っても見ない言葉が返ってきたので、きょとんと聞き返した。ハーマイオニーは憤慨していた。
「すごく高価なものらしいんだけど、届け人がわからないのよ」
ナマエは、『漏れ鍋』に泊まっている間じゅう、ハリーが毎日『ファイアボルト』という箒を熱心に見物していたことを思い出した。
「ハリーのファンじゃないのか、ドビーみたいな──」
ナマエの言葉を遮って、ハーマイオニーは苛立たしげにばしっと机を叩いた。ナマエはチラッとマダム・ピンスの様子を盗み見た。幸い、こちらに注意を払ってはいなかった。
「もう!貴方ならわかるでしょう?──シリウス・ブラックよ!」
「えっ?」
ナマエはまたもや、想定外の返事に素っ頓狂な声を上げた。
「ブラックが箒に呪いをかけて贈ったんじゃないかと思うの。だから私、マクゴナガル先生にお知らせしたのよ──それで、それでロンとハリーったら、私を悪者みたいに言うのよ!」
「──ああ、うん、なるほど」
確かに、シリウスがハリーを狙っていると考えていれば、自分もそう予想したかもしれない。凶悪犯といえど、ブラック家の最後の生き残りだ。グリンゴッツに財産があっても不思議ではないし、小鬼は人間社会に関与しない。たとえそれが、アズカバンの脱獄囚だったとしてもだ。
──それに、シリウスはハリーを息子のように思っている。ナマエはまた、自分の父親と比べてじわりと胃が締め付けられた。
「私、間違ったことをしたと思わないわ。箒よりもハリーの命の方が大事に決まってるもの」
「うん、あんたの言う通りだよ」
ハーマイオニーは、ほっとしたような笑顔になった。それとは裏腹に、ナマエはなぜかみじめな気持ちになった。
年が明けて、まもなくみんなが学校に戻り、レイブンクロー塔がまたがやがやと混み合ってきたのが、ナマエにはうれしいことだった。
ナマエはいよいよ、授業に忙殺されはじめた。いつも談話室の片隅でテーブルをいくつも占領し、教科書やら、数占い表、古代ルーン語の辞書やらマグルが重いものを持ち上げる図式、それに細かく書き込んだノートの山また山を広げていた。ほとんど誰とも口を利かず、黙々と羽ペンを走らせて、やっとの思いで宿題をこなしていた。
ある日、いつものように時間を逆転させるためにハーマイオニーを待っていると、ハーマイオニーはまたもやカリカリした様子で現れた。ナマエは苦笑いして尋ねた。
「ハーマイオニー、何かあった?」
「ロンのスキャバーズがいなくなったの!」
ハーマイオニーは食い気味に答えた。このニュースにはナマエも驚いた。
「えっ?う、嘘だろ?」
「ロンはクルックシャンクスが犯人だって決めつけて、蹴飛ばそうとしたわ!ハリーもロンの味方をするし、正直言って、猫に偏見を持ってるのよ!」
ハーマイオニーは捲し立てた。ロンのベッドにいたはずのスキャバーズは消え、代わりに血痕とオレンジ色の毛が残されていたと話した。ロンはかなり激怒しているらしかった。一方ハーマイオニーは、クルックシャンクスがスキャバーズを食べてしまったという証拠がないと猛烈に主張した。
ナマエは動揺したが、ハーマイオニーの剣幕に気圧されながら意見を述べた。
「──いや、でも、俺もスキャバーズはまだ生きてると思う」
ハーマイオニーはナマエを見つめた。ナマエは、クルックシャンクスに首根っこを咥えられて、シリウスのもとに運ばれたことを思い出していた。
「クルックシャンクスは力加減がわかってる。賢い猫だから、殺すはずない──」
すると突然、ハーマイオニーがナマエにぎゅっと抱きついた。
「ナマエ!わかってくれるのね!」
「う、うん」
ナマエはどぎまぎしながらされるがままになっていた。なんとなく、一年生の時にトイレで泣いていたハーマイオニーを思い出した。あの時は、ハリーとロンに除け者にされたハーマイオニーには、ナマエの慰めは届いていないような疎外感を感じていた。しかし、今は自分を拠り所のひとつにしてくれているような気がして、なぜだか嬉しかった。