アズカバンの囚人
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ナマエが叫びの屋敷を出ると、日はとっぷり暮れていた。急いでホグワーツへと戻っていると、森の近くでハグリッドに呼び止められた。
「おお、ナマエ!」
ナマエはぎょっとした。ハグリッドは真っ赤な泣き腫らした目から滝のように涙を流していた。
「どうした、ハグリッド。大丈夫?」
ナマエが駆け寄ると、ハグリッドはナマエを力いっぱい抱きしめたので、ナマエは小さな悲鳴をあげた。ハグリッドはなにしろ普通の人の二倍はある。涙がもじゃもじゃの顎鬚を伝って滴り落ちてナマエの頭を濡らした。
「バックビークが処刑されちまう!」
「──えっ?な、なんで、俺は別になんともないのに」
ハグリッドはずずっと鼻をすすってナマエを解放した。ナマエは咳き込んでハグリッドを見上げた。顔が涙でテカテカ光っていた。
「ルシウス・マルフォイだ、ああ……ダンブルドアのお力で、俺は教師を続けられるよう取り計らってくだすったが、バックビークは──」
ハグリッドは再びしゃくりあげておいおい泣いた。
「──お前さん、ああ、お前さんに頼むのは筋違いだが、ナマエ……」
ハグリッドが縋るようにナマエの顔を覗き込んだ。ナマエはハグリッドの頼みを聞く前に答えた。
「わ、わかった、ハグリッド。俺が証人として尋問に出る。怪我した本人が、バックビークは悪くないって言えば、有罪になんて出来っこないだろ?」
「ああ、ああ、そうだな、ナマエ……ほんとにすまねえなあ、ありがとうよ……」
ハグリッドは顔をしわくちゃにして笑った。ナマエは腕を目一杯のばして、ハグリッドの背中をポンポン叩いた。
「明日また来るよ。俺は休暇中も城にいるから、一緒に考えよう。なっ?」
ハグリッドをなだめて別れた後、ナマエはどっと疲れを感じた。考えることが多すぎて頭がパンクしそうだった。クルックシャンクスとシリウスの話、スキャバーズの正体、父親のこと、バックビーク──ナマエは夕食も取らずに寮のベッドに直行して、誰とも顔を合わせずに泥のように眠った。
翌日、目を覚ますともう昼中だったが、休暇の初日でレイブンクローの寮はもぬけの殻だった。朝方にマイケルたちがナマエに声を掛けて出て行ったのをおぼろげに覚えていた。ナマエは起き上がって頭を振ると、妙に軽かったので手を頭にやった。あるはずの場所に髪がなかった。ベッドを降りて鏡を見ると、肩あたりで髪が千切れてしまったようだった。ナマエはクルックシャンクスに毟られた羽を思い出して、ため息をついた。
「よう来てくれた、よう来てくれた!」
ナマエはまず約束通り、ハグリッドの小屋を訪れた。ハグリッドに父親の話を少しでも聞き出せないかと淡い期待を抱いていたが、ハグリッドは昨日よりもさらに落ち込んでいた。ハグリッドはパンパンに腫れた目を拭いながらナマエを迎え入れた。机の上には、おそらくバックビークの知らせを聞いてからほったらかしにされていたであろうサンドイッチと、公式の手紙らしきものがあった。
「これ、食べるよ」
ナマエは急に空腹を思い出して、カチカチになったサンドイッチを食べながら手紙を読んだ。
─────
ハグリッド殿
ヒッポグリフが貴殿の授業で生徒を攻撃した件についての調査で、この残念な不祥事について、貴殿には何ら責任はないとするダンブルドア校長の保証を我々は受け入れることに決定いたしました。
しかしながら、我々は、当該ヒッポグリフに対し、懸念を表明せざるをえません。我々はルシウス・マルフォイ氏の正式な訴えを受け入れることを決定しました。従いまして、この件は、「危険生物処理委員会」に付託されることになります。事情聴取は四月二十日に行われます。当日、ヒッポグリフを伴い、ロンドンの当委員会事務所まで出頭願います。それまでヒッポグリフは隔離し、拘束しておく必要があります。
敬具
─────
手紙のあとに学校の理事の名前が連ねてあった。
「マルフォイは無傷だったのに」
ナマエは読み終えてため息をついた。
ハグリッドは、小屋の隅で寝そべっているバックビークにイタチの死骸を放り投げていた。バックビークはそれをバリバリ食いちぎって、その血が床一面に滲み出していた。
「こいつを雪ん中につないで放っておけねえ」
ハグリッドが喉を詰まらせた。
「たった一人で!クリスマスだっちゅうのに!」
ハグリッドがまたわんわん泣き出したころ、小屋の戸がノックされる音が響いた。
「──ハグリッド、誰か来た……俺が出るよ」
ナマエはハグリッドの代わりに戸を開けた。
「悪いけど今は──ああ」
「ナマエ!」
ハーマイオニーが驚いた顔をして言った。ハグリッドを訪ねてきたのは、ハリーたち三人だった。ハリーとロンも驚いたようだったが、何故かハリーはナマエからすぐに顔を逸らした。逆にロンとハーマイオニーは心配そうにそわそわしていた。
「──なんで君が?ハグリッドは?」
ハリーがナマエを見ようともせず、強い口調で言った。ナマエは少し困惑しながらも答えた。
「えっと……中で話そう。──ハグリッド、ハリーたちだよ。入れていいな?」
返事の代わりに大きなすすり泣きが聞こえた。ナマエは三人を小屋に招き入れた。
「何事なの?」
ハーマイオニーが唖然として聞いた。ナマエはテーブルの上の手紙を指差した。ハグリッドのすすり泣きが大きくなった。ハーマイオニーは戸惑いながら手紙を読み上げた。
「ウーン」
ロンが言った。
「だけど、ハグリッド、バックビークは悪いヒッポグリフじゃないって、そう言ってたじゃないか。絶対、無罪放免──」
「おまえさんは『危険生物処理委員会』ちゅうとこの怪物どもを知らんのだ!やつら、処理屋の悪魔め、連中はルシウス・マルフォイの手の内だ!やつを怖がっとる!もし俺が裁判で負けたら、バックビークは──」
ハグリッドは喉をかき切るように、指をさっと動かした。それからひと声大泣きし、前のめりになって両腕に顔を埋めた。
「ハグリッド、しっかりした強い弁護を打ち出さないといけないわ」
ハーマイオニーは腰掛けてハグリッドの小山のような腕に手を置いて言った。
「バックビークが安全だって、あなたがきっと証明できるわ」
「そんでも、同じこった!」
「ダンブルドアはどうなの、ハグリッド?」
ハリーが聞いた。
「あの方は、俺のためにもう十分すぎるほどやりなすった」
ハグリッドは呻くように言った。
「手一杯でおいでなさる。吸魂鬼のやつらが城の中さ入らんようにしとくとか、シリウス・ブラックがうろうろとか──」
ナマエはピクリと眉を動かしたが、ロンとハーマイオニーは、急いでハリーを見た。ナマエはその様子を怪訝に思ったが、ハリーが口を開いた。
「ねえ、ハグリッド。諦めちゃだめだ。ハーマイオニーの言うとおりだよ。ちゃんとした弁護が必要なだけだ」
「ああ、俺が証人として出るって言ったろ。大丈夫だ」
ナマエも言った。
ハグリッドはますます声を張りあげてオンオン泣いた。ナマエ、ハリー、ハーマイオニーは、どうにかしてよとロンのほうを見た。
「あー、──お茶でも入れようか?」
ロンが言った。三人は目を丸くしてロンを見た。
「誰か気が動転してるとき、ママはいつもそうするんだ」
ロンは肩をすくめてつぶやいた。ロンは大きなマグカップに五人分の紅茶を入れ、それぞれに手渡した。ロンは最後にナマエにマグカップを渡した。耳がピンク色になっていた。
「──はい、ナマエ」
「……ありがと」
ナマエは少し驚きながらも、ロンの和解の気持ちを汲み取って、にっと笑った。ロンは頭を掻いた。しかし、ロンの態度が柔らかくなったのとは裏腹に、ハリーはどこかピリピリしているように思った。
助けてあげる、とそれから何度も約束してもらい、目の前にぽかぽかの紅茶のマグカップを出してもらって、やっとハグリッドは落ち着き、テーブルクロスぐらい大きいハンカチでブーッと鼻をかみ、それから口を利いた。
「おまえさんたちの言うとおりだ。ここで俺がボロボロになっちゃいられねえ。しゃんとせにゃ……」
ボアハウンド犬のファングがおずおずとテーブルの下から現れ、ハグリッドの膝に頭を載せた。
「このごろ俺はどうかしとった」
ハグリッドがファングの頭を片手で撫で、もう一方で自分の顔を拭きながら言った。
「バックビークが心配だし、だーれも俺の授業を好かんし、それに、吸魂鬼のやつらだ。連中は俺をとことん落ち込ませる」
ハグリッドは急に身震いした。
「『三本の箒』に飲みにいくたんび、連中のそばを通らにゃなんねえ。アズカバンに戻されちまったような気分になる──バックビークをこのまんま逃がそうと思った。……遠くに飛んでいけばええと思った。……だけんどどうやってヒッポグリフに言い聞かせりゃええ?どっかに隠れていろって……ほんで──法律を破るのが俺は怖い……」
ハグリッドの目から、また涙がボロボロ流れ、顔を濡らした。
「俺は二度とアズカバンに戻りたくねえ」
ハグリッドの悲痛な言葉に、四人は暗い気持ちになった。ナマエは、シリウスのアズカバンで過ごした十二年間を思って胸が痛くなった。
「ねえ、ナマエ。どうしたの?その髪」
ハグリッドの小屋から出ると、ハーマイオニーが尋ねた。ナマエは千切れた毛先をつまんで言った。
「あー、……魔法に失敗したんだ」
「失敗?あなたが?──まあ、いいわ。治してあげる」
ハーマイオニーは杖を一振りした。ナマエの無惨な髪は瞬く間に元の長さに戻った。
「ありがとう」
「そっちのほうがいいわ」
ハリーはそんなやりとりに目もくれず、先頭に立ってずんずん城に向かって歩いた。そのあとを三人が早足で追った。ナマエはハリーの態度に疑問を抱いていたが、意を決して切り出した。
「ハリー、話が──」
「話すことなんてない、もうわかってる!」
ハリーは食い気味に叫んで、勢いよくナマエを振り返った。ロンとハーマイオニーは不安そうに二人を見た。ハリーは怒りのこもった目でナマエを睨んだ。
「わかってるんだ!君とマルフォイは知ってたんだろう?父さんの親友が、僕の父さんと母さんを裏切ったんだって──シリウス・ブラックが僕の親の仇だって、知ってて隠した!」
ナマエはたじろいだ。ハリーは踵を返して再び歩き出した。ハーマイオニーが慌ててその背を追ったが、ハリーは歩みを止めなかった。
「ハリー、待ってくれ!違うんだ、全部──」
ナマエが引き止めようとしたが、ロンが遮った。
「ナマエ、昨日聞いちゃったんだ。僕たち」
「聞いたって──」
「ハリーがこっそりホグズミードに来たんだ。僕たち、『三本の箒』で、ハグリッドとファッジとマクゴナガルが、シリウス・ブラックの話をしてるのをこっそり聞いちゃったんだ──それで、ハリーは……まあ、見ての通りさ」
ロンは肩をすくめた。
「──僕が君でも、言わなかったと思うよ。今、ハリーはなんでもかんでもシリウス・ブラックに結びつけちゃうんだ」
ハーマイオニーがちらちらとこちらを振り返って急かしたので、ロンはハリーたちの後を走っていった。ナマエはその場に呆然と立ち尽くして、項垂れた。
「おお、ナマエ!」
ナマエはぎょっとした。ハグリッドは真っ赤な泣き腫らした目から滝のように涙を流していた。
「どうした、ハグリッド。大丈夫?」
ナマエが駆け寄ると、ハグリッドはナマエを力いっぱい抱きしめたので、ナマエは小さな悲鳴をあげた。ハグリッドはなにしろ普通の人の二倍はある。涙がもじゃもじゃの顎鬚を伝って滴り落ちてナマエの頭を濡らした。
「バックビークが処刑されちまう!」
「──えっ?な、なんで、俺は別になんともないのに」
ハグリッドはずずっと鼻をすすってナマエを解放した。ナマエは咳き込んでハグリッドを見上げた。顔が涙でテカテカ光っていた。
「ルシウス・マルフォイだ、ああ……ダンブルドアのお力で、俺は教師を続けられるよう取り計らってくだすったが、バックビークは──」
ハグリッドは再びしゃくりあげておいおい泣いた。
「──お前さん、ああ、お前さんに頼むのは筋違いだが、ナマエ……」
ハグリッドが縋るようにナマエの顔を覗き込んだ。ナマエはハグリッドの頼みを聞く前に答えた。
「わ、わかった、ハグリッド。俺が証人として尋問に出る。怪我した本人が、バックビークは悪くないって言えば、有罪になんて出来っこないだろ?」
「ああ、ああ、そうだな、ナマエ……ほんとにすまねえなあ、ありがとうよ……」
ハグリッドは顔をしわくちゃにして笑った。ナマエは腕を目一杯のばして、ハグリッドの背中をポンポン叩いた。
「明日また来るよ。俺は休暇中も城にいるから、一緒に考えよう。なっ?」
ハグリッドをなだめて別れた後、ナマエはどっと疲れを感じた。考えることが多すぎて頭がパンクしそうだった。クルックシャンクスとシリウスの話、スキャバーズの正体、父親のこと、バックビーク──ナマエは夕食も取らずに寮のベッドに直行して、誰とも顔を合わせずに泥のように眠った。
翌日、目を覚ますともう昼中だったが、休暇の初日でレイブンクローの寮はもぬけの殻だった。朝方にマイケルたちがナマエに声を掛けて出て行ったのをおぼろげに覚えていた。ナマエは起き上がって頭を振ると、妙に軽かったので手を頭にやった。あるはずの場所に髪がなかった。ベッドを降りて鏡を見ると、肩あたりで髪が千切れてしまったようだった。ナマエはクルックシャンクスに毟られた羽を思い出して、ため息をついた。
「よう来てくれた、よう来てくれた!」
ナマエはまず約束通り、ハグリッドの小屋を訪れた。ハグリッドに父親の話を少しでも聞き出せないかと淡い期待を抱いていたが、ハグリッドは昨日よりもさらに落ち込んでいた。ハグリッドはパンパンに腫れた目を拭いながらナマエを迎え入れた。机の上には、おそらくバックビークの知らせを聞いてからほったらかしにされていたであろうサンドイッチと、公式の手紙らしきものがあった。
「これ、食べるよ」
ナマエは急に空腹を思い出して、カチカチになったサンドイッチを食べながら手紙を読んだ。
─────
ハグリッド殿
ヒッポグリフが貴殿の授業で生徒を攻撃した件についての調査で、この残念な不祥事について、貴殿には何ら責任はないとするダンブルドア校長の保証を我々は受け入れることに決定いたしました。
しかしながら、我々は、当該ヒッポグリフに対し、懸念を表明せざるをえません。我々はルシウス・マルフォイ氏の正式な訴えを受け入れることを決定しました。従いまして、この件は、「危険生物処理委員会」に付託されることになります。事情聴取は四月二十日に行われます。当日、ヒッポグリフを伴い、ロンドンの当委員会事務所まで出頭願います。それまでヒッポグリフは隔離し、拘束しておく必要があります。
敬具
─────
手紙のあとに学校の理事の名前が連ねてあった。
「マルフォイは無傷だったのに」
ナマエは読み終えてため息をついた。
ハグリッドは、小屋の隅で寝そべっているバックビークにイタチの死骸を放り投げていた。バックビークはそれをバリバリ食いちぎって、その血が床一面に滲み出していた。
「こいつを雪ん中につないで放っておけねえ」
ハグリッドが喉を詰まらせた。
「たった一人で!クリスマスだっちゅうのに!」
ハグリッドがまたわんわん泣き出したころ、小屋の戸がノックされる音が響いた。
「──ハグリッド、誰か来た……俺が出るよ」
ナマエはハグリッドの代わりに戸を開けた。
「悪いけど今は──ああ」
「ナマエ!」
ハーマイオニーが驚いた顔をして言った。ハグリッドを訪ねてきたのは、ハリーたち三人だった。ハリーとロンも驚いたようだったが、何故かハリーはナマエからすぐに顔を逸らした。逆にロンとハーマイオニーは心配そうにそわそわしていた。
「──なんで君が?ハグリッドは?」
ハリーがナマエを見ようともせず、強い口調で言った。ナマエは少し困惑しながらも答えた。
「えっと……中で話そう。──ハグリッド、ハリーたちだよ。入れていいな?」
返事の代わりに大きなすすり泣きが聞こえた。ナマエは三人を小屋に招き入れた。
「何事なの?」
ハーマイオニーが唖然として聞いた。ナマエはテーブルの上の手紙を指差した。ハグリッドのすすり泣きが大きくなった。ハーマイオニーは戸惑いながら手紙を読み上げた。
「ウーン」
ロンが言った。
「だけど、ハグリッド、バックビークは悪いヒッポグリフじゃないって、そう言ってたじゃないか。絶対、無罪放免──」
「おまえさんは『危険生物処理委員会』ちゅうとこの怪物どもを知らんのだ!やつら、処理屋の悪魔め、連中はルシウス・マルフォイの手の内だ!やつを怖がっとる!もし俺が裁判で負けたら、バックビークは──」
ハグリッドは喉をかき切るように、指をさっと動かした。それからひと声大泣きし、前のめりになって両腕に顔を埋めた。
「ハグリッド、しっかりした強い弁護を打ち出さないといけないわ」
ハーマイオニーは腰掛けてハグリッドの小山のような腕に手を置いて言った。
「バックビークが安全だって、あなたがきっと証明できるわ」
「そんでも、同じこった!」
「ダンブルドアはどうなの、ハグリッド?」
ハリーが聞いた。
「あの方は、俺のためにもう十分すぎるほどやりなすった」
ハグリッドは呻くように言った。
「手一杯でおいでなさる。吸魂鬼のやつらが城の中さ入らんようにしとくとか、シリウス・ブラックがうろうろとか──」
ナマエはピクリと眉を動かしたが、ロンとハーマイオニーは、急いでハリーを見た。ナマエはその様子を怪訝に思ったが、ハリーが口を開いた。
「ねえ、ハグリッド。諦めちゃだめだ。ハーマイオニーの言うとおりだよ。ちゃんとした弁護が必要なだけだ」
「ああ、俺が証人として出るって言ったろ。大丈夫だ」
ナマエも言った。
ハグリッドはますます声を張りあげてオンオン泣いた。ナマエ、ハリー、ハーマイオニーは、どうにかしてよとロンのほうを見た。
「あー、──お茶でも入れようか?」
ロンが言った。三人は目を丸くしてロンを見た。
「誰か気が動転してるとき、ママはいつもそうするんだ」
ロンは肩をすくめてつぶやいた。ロンは大きなマグカップに五人分の紅茶を入れ、それぞれに手渡した。ロンは最後にナマエにマグカップを渡した。耳がピンク色になっていた。
「──はい、ナマエ」
「……ありがと」
ナマエは少し驚きながらも、ロンの和解の気持ちを汲み取って、にっと笑った。ロンは頭を掻いた。しかし、ロンの態度が柔らかくなったのとは裏腹に、ハリーはどこかピリピリしているように思った。
助けてあげる、とそれから何度も約束してもらい、目の前にぽかぽかの紅茶のマグカップを出してもらって、やっとハグリッドは落ち着き、テーブルクロスぐらい大きいハンカチでブーッと鼻をかみ、それから口を利いた。
「おまえさんたちの言うとおりだ。ここで俺がボロボロになっちゃいられねえ。しゃんとせにゃ……」
ボアハウンド犬のファングがおずおずとテーブルの下から現れ、ハグリッドの膝に頭を載せた。
「このごろ俺はどうかしとった」
ハグリッドがファングの頭を片手で撫で、もう一方で自分の顔を拭きながら言った。
「バックビークが心配だし、だーれも俺の授業を好かんし、それに、吸魂鬼のやつらだ。連中は俺をとことん落ち込ませる」
ハグリッドは急に身震いした。
「『三本の箒』に飲みにいくたんび、連中のそばを通らにゃなんねえ。アズカバンに戻されちまったような気分になる──バックビークをこのまんま逃がそうと思った。……遠くに飛んでいけばええと思った。……だけんどどうやってヒッポグリフに言い聞かせりゃええ?どっかに隠れていろって……ほんで──法律を破るのが俺は怖い……」
ハグリッドの目から、また涙がボロボロ流れ、顔を濡らした。
「俺は二度とアズカバンに戻りたくねえ」
ハグリッドの悲痛な言葉に、四人は暗い気持ちになった。ナマエは、シリウスのアズカバンで過ごした十二年間を思って胸が痛くなった。
「ねえ、ナマエ。どうしたの?その髪」
ハグリッドの小屋から出ると、ハーマイオニーが尋ねた。ナマエは千切れた毛先をつまんで言った。
「あー、……魔法に失敗したんだ」
「失敗?あなたが?──まあ、いいわ。治してあげる」
ハーマイオニーは杖を一振りした。ナマエの無惨な髪は瞬く間に元の長さに戻った。
「ありがとう」
「そっちのほうがいいわ」
ハリーはそんなやりとりに目もくれず、先頭に立ってずんずん城に向かって歩いた。そのあとを三人が早足で追った。ナマエはハリーの態度に疑問を抱いていたが、意を決して切り出した。
「ハリー、話が──」
「話すことなんてない、もうわかってる!」
ハリーは食い気味に叫んで、勢いよくナマエを振り返った。ロンとハーマイオニーは不安そうに二人を見た。ハリーは怒りのこもった目でナマエを睨んだ。
「わかってるんだ!君とマルフォイは知ってたんだろう?父さんの親友が、僕の父さんと母さんを裏切ったんだって──シリウス・ブラックが僕の親の仇だって、知ってて隠した!」
ナマエはたじろいだ。ハリーは踵を返して再び歩き出した。ハーマイオニーが慌ててその背を追ったが、ハリーは歩みを止めなかった。
「ハリー、待ってくれ!違うんだ、全部──」
ナマエが引き止めようとしたが、ロンが遮った。
「ナマエ、昨日聞いちゃったんだ。僕たち」
「聞いたって──」
「ハリーがこっそりホグズミードに来たんだ。僕たち、『三本の箒』で、ハグリッドとファッジとマクゴナガルが、シリウス・ブラックの話をしてるのをこっそり聞いちゃったんだ──それで、ハリーは……まあ、見ての通りさ」
ロンは肩をすくめた。
「──僕が君でも、言わなかったと思うよ。今、ハリーはなんでもかんでもシリウス・ブラックに結びつけちゃうんだ」
ハーマイオニーがちらちらとこちらを振り返って急かしたので、ロンはハリーたちの後を走っていった。ナマエはその場に呆然と立ち尽くして、項垂れた。