秘密の部屋
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クィディッチ競技場から笛の音が聞こえて、ナマエははっと我に帰った。
クィディッチの選手はこんなに朝早くから練習しているなんて……と、思わず感心したが、自分の目的を思い出した。ともかく自分は、動物もどきの材料を集めるために早起きしているのだ。
ナマエは拾った日記をローブのポケットに突っ込んで歩き出した。──早く採集しないと朝露が乾いてしまう。
無事、採集を終えたナマエは、露で満たされた小瓶を満足げに眺めながら、寮に戻ろうと歩いていた。
「ナマエ!」
突然名前を呼ばれたナマエは一瞬びくりとして、小瓶をポケットに滑り込ませた。振り返ると、クィディッチのユニフォームを着たハリーだった。ロン、ハーマイオニーも一緒だ。
ハリーは、ハーマイオニーと一緒にロンを両脇から支えていた。ロンの顔は青白く、今にも吐きそうだった。
「ハリー、ハーマイオニー……ロン!?どうした?」
「杖が逆噴射したのよ、マルフォイを呪おうとしたの!」
ナマエが三人に駆け寄ると、ハーマイオニーが急いで説明した。ロンが大きなナメクジを口から吐き出したので、ナマエは思わずロンを見つめた。
「うわっ、すごいな……その呪い、難しいだろ」
「感心してる場合じゃないわよ!」
ハーマイオニーに叱りつけられると、ナマエはごめん、と謝りながらロンに杖を向けた。
「フィニートインカンターテム、呪文よ終われ!」
ナマエが唱えると、ロンの口から出てくるナメクジの大きさがひとまわり小さくなった。……が、やはり吐き続けていた。
「ああ……だめか………あ、そうだ。ハグリッドがナメクジ駆除に詳しいんじゃないか」
「そうだね、ハグリッドのところへ行こう」
ハリーが頷いた。ナマエはロンの肩をぽんぽん叩いて、ハグリッドの小屋とは逆の方向に体を向けた。
「任せろ、ロン。俺が代わりに呪ってきてやる」
意気揚々とクィディッチ競技場に向かおうとするナマエの腕をハーマイオニーが掴んだ。
「だめよナマエ!それより、あなたも手伝って!」
「……わかった。ハーマイオニー、代わって。俺とハリーで担ぐ」
ナマエがハーマイオニーに代わってロンの左側を担いだ。ハーマイオニーが後ろを歩いて、ロンが吐き出したナメクジを杖で駆除しながらハグリッドの小屋に急いだ。
四人はハグリッドの小屋に到着し、ハリーが慌ただしく戸を叩いた。
ハグリッドがすぐに出てきた。不機嫌な顔だったが、客が誰だかわかったとたん、パッと顔が輝いた。
「いつ来るんか、いつ来るんかと待っとったぞ!さあ入った、入った。実はロックハート先生がまーた来たかと思ったんでな」
ハリーとナマエはロンを抱えて敷居をまたがせ、後ろにハーマイオニーが続いて、一部屋しかない小屋に入った。ハリーはロンを椅子に座らせながら、手短に事情を説明したが、ハグリッドはロンのナメクジ問題にまったく動じなかった。
「出てこんよりは出たほうがええ」
ロンの前に大きな銅の洗面器をポンと置き、ハグリッドは朗らかに言った。
「ロン、みんな吐いっちまえ」
ハグリッドはいそいそとお茶の用意に飛び回った。飼い犬のファングは、ナマエを涎でべとべとにしていた。
「なぁ、ハグリッド。ロックハートに付きまとわれてるのか?」
ファングの耳をカリカリ指で撫でながらナマエが聞いた。
「ああ、井戸の中から水魔を追っ払う方法を俺に教えようとしてな」
唸るように答えながら、ハグリッドはティーポットをテーブルに置いた。
「まるで俺が知らんとでもいうようにな。その上、自分が泣き妖怪とか何とかを追っ払った話を、さんざぶち上げとった。やっこさんの言っとることが一つでもほんとだったら、俺はへそで茶を沸かしてみせるわい」
ホグワーツの先生を批判するなんて、まったくハグリッドらしくなかった。ハリーは驚いてハグリッドを見つめていた。ハーマイオニーはいつもよりちょっと上ずった声で反論した。
「それって、少し偏見じゃないかしら。ダンブルドア先生は、あの先生が一番適任だとお考えになったわけだし──」
「ほかにだーれもおらんかったんだ」
ハグリッドは糖蜜ヌガーを皿に入れて四人にすすめながら言った。ロンがその脇でゲボゲボと咳き込みながら洗面器に吐いていた。
ナマエはハグリッドの言葉にかなり嬉しそうな顔をしていたので、ハーマイオニーに睨まれた。
「人っ子ひとりおらんかったんだ。闇の魔術の先生をする者を探すのが難しくなっちょる。ここんとこ、だーれも長続きした者はおらんしな。それで?やっこさん、誰に呪いをかけるつもりだったんかい?」
ハグリッドはロンのほうを顎で指しながらナマエに聞いた。ナマエはハリーを振り返った。
「俺も知りたいよ、どうなんだ?」
「マルフォイがハーマイオニーのことを何とかって呼んだんだ。ものすごくひどい悪口なんだと思う。だって、みんなカンカンだったもの」
「ほんとにひどい悪口さ」
テーブルの下からロンの汗だらけの青い顔がひょいと現れ、嗄れ声で言った。
「マルフォイのやつ、ハーマイオニーのこと『穢れた血』って言ったんだよ」
ロンの顔がまたひょいとテーブルの下に消えた。次のナメクジの波が押し寄せてきたのだ。
ナマエは思わずカップを床に取り落とし、陶器が割れる音が響いた。顔が怒りで蒼白になっているのが自分でもわかった。
ハグリッドも大憤慨して、ハーマイオニーのほうを見て唸り声をあげた。
「そんなこと、本当に言うたのか!」
「言ったわよ。でも、どういう意味だか私は知らない。もちろん、ものすごく失礼な言葉だということはわかったけど……」
「ナマエを捕まえて!」ロンの顔がまた現れて叫んだ。
ロンの言葉で全員がパッとナマエを振り返った。ナマエは小屋のドアを蹴破る寸前だった。ハリーは咄嗟にナマエを背後から羽交い締めにした。
「どうしたんだ、ナマエ!」
「離せハリー!あいつ、あのクソドラコ!痛い目みないとわからないんだ!自分が何を言ったのか、理解させてやる!」
ハリーはナマエの肘鉄を避けながら必死に体を押さえたが、ナマエの怒りはおさまらなかった。困惑しているハリーとハーマイオニーに、ロンが説明した。
「『穢れた血』って、マグルから生まれたっていう意味の──つまり両親とも魔法使いじゃない者を指す最低の汚らわしい呼び方なんだ。魔法使いの中には、たとえばマルフォイ一族みたいに、みんなが『純血』って呼ぶものだから、自分たちが誰よりも偉いって思っている連中がいるんだ」
ロンは小さなゲップをした。ナメクジが一匹だけ飛び出し、ロンの伸ばした手の中にスポッと落ちた。ロンはそれを洗面器に投げ込んでから話を続けた。
「もちろん、そういう連中以外は、そんなことまったく関係ないって知ってるよ。ネビルを見てごらんよ──あいつは純血だけど、鍋を逆さまに火にかけかねないぜ」
ナマエはハリーにぐいぐい押されて、さっき座っていた椅子に押し込められた。ハリーはナマエの肩に両手を置いて牽制した。ナマエは堪忍して、「わかった、わかったよ」とため息をついた。
「……ロンの言う通りだ。俺はほとんど純血だけど、箒に乗れたのは一度きりだ。でも、ああいう奴らは小さい頃から箒に乗れるのが『純血の証明』だとかいう迷信を信じてる。まったく、根拠がないよなあ」
ナマエは自嘲ぎみな笑いをあげて、自分が壊したカップに「レパロ」と唱えた。カップはみるみる元の形を取り戻した。
「『ほとんど』純血って?」
「あぁ……本当の本当に純血の魔法使いなんてほとんどいないと思う。だいたいどっかしらでマグルと混ざってる。マルフォイ家だってどうだか知れないぜ、なあ」
「そうそう。いま時、魔法使いはほとんど混血なんだ。もしマグルと結婚してなかったら、僕たちとっくに絶滅しちゃってたよ」
ナマエとロンがうんうんと頷きあって言った。こういう時、ナマエはロンとかなり意見が合うようで、嬉しかった。
「んだ。それに、俺たちのハーマイオニーが使えねえ呪文は、いままでにひとっつもなかったぞ」
ハグリッドが誇らしげに言ったので、ハーマイオニーはパーッと頬を紅潮させた。
「他人のことをそんなふうに罵るなんて、むかつくよ」
ロンは震える手で汗びっしょりの額を拭いながら話し続けた。
「『穢れた血』だなんて、まったく。卑しい血だなんて。狂ってるよ」
ゲーゲーが始まり、またまたロンの顔がひょいと消えた。
「ウーム、そりゃ、ロン、やつに呪いをかけたくなるのも無理はねぇ」
大量のナメクジが、ドサドサと洗面器の底に落ちる音を、かき消すような大声でハグリッドが言った。ナマエが力強く頷いた。
「……ナマエがあの場にいなくてよかったわ」
「なんでだよ?俺の杖は折れてないから、マルフォイを確実に呪えたのに」
ハーマイオニーの言葉にナマエは不服そうに噛み付いた。
「マルフォイは新品の箒を持って選手としてやってきたのよ?ナマエの飛行術をからかうに決まってるわ」
「失礼だぞ、ハーマイオニー」
ナマエがむくれてそっぽを向き、ハグリッドの糖蜜ヌガーに手を伸ばしたが、口に含んでいるマンドレイクの葉がくっついてしまいそうな気がして、手を引っ込めた。
「食べないの?君はいつでもなんでも食べるのに」
ハリーが不思議そうに聞いたので、ナマエはどきりとしたが、しらを切ることにした。
「人をいやしんぼうみたいに言うな」
ナマエはハリーから目を逸らすと、ふとハグリッドの小屋の壁にある棚に目が止まった。使い古された木箱に、小さな丸い塊がぎっしり詰まっていた。ナマエの胸が高鳴った。
「……ハグリッド、これ何だ?」
「おう、そいつは……ドクロメンガタスズメだな。今は繭の中に入っちょる」
ナマエの顔が思わず綻んだ。動物もどきの材料がこんなところで見つかるなんて、なんて運がいいんだろう。
「なにそれ?」
ロンがまた現れた。洗面器はナメクジで溢れ返って今にもこぼれ落ちそうだった。
「魔法薬の材料になるものよ」即座にハーマイオニーが答えた。
「ああ、こいつは森ん中にぎょうさんおる。そいつの繭はよう使えるから見つけたら拾って──」
「は、ハグリッド、これいくつか貰えないかな?駄目か?」
ナマエは前のめりになってハグリッドを遮った。自分でも押さえられないほど興奮していた。
「うん?もちろんええが──」
「何に使うつもり?」
今度はハーマイオニーがとげのある言い方でハグリッドを遮った。
「内緒、内緒」
ナマエはハーマイオニーをあしらい、ポケットから空き小瓶を取り出して、その中に繭を入れた。
「ねえ、ナマエ。あなた、さっき私たちと会ったときに何か隠したでしょう?」
出会い頭のナマエの不審な行動に、ハーマイオニーは気づいていたらしく、眉を上げた。
「だから内緒だって。悪いことには使わないよ。──ああハグリッド、安心してよ!大丈夫だ。校則を破ったりはしてないし、しない」
ナマエは、ハグリッドを安心させるように、にっと歯を見せて笑った。
そろそろ昼食の時間だった。ハグリッドにさよならを言い、四人は城へと歩いた。
ハーマイオニーはナマエの隠し事に納得していないようで、問い詰めようとしたが、なんとかはぐらかしていた。
城に到着し、ひんやりした玄関ホールに足を踏み入れたとたん、声が響いた。
「ポッター、ウィーズリー、そこにいましたか」
マクゴナガル先生が厳しい表情でこちらに歩いてきた。
「二人とも、処罰は今夜になります」
「先生、僕たち、何をするんでしょうか?」
ロンがなんとかゲップを押し殺しながら聞いた。
「あなたは、フィルチさんと一緒にトロフィー・ルームで銀磨きです。ウィーズリー、魔法はだめですよ。自分の力で磨くのです」
ロンは絶句した。管理人のアーガス・フィルチは学校中の生徒からひどく嫌われている。
「ポッター。あなたはロックハート先生がファンレターに返事を書くのを手伝いなさい」
「えーっ、そんな……僕もトロフィー・ルームのほうではいけませんか?」
ハリーが絶望的な声で頼んだ。
「もちろんいけません」
マクゴナガル先生は眉を吊り上げた。
「ロックハート先生はあなたをとくにご指名です。二人とも、八時きっかりに」
ハリーとロンはがっくりと肩を落とし、うつむきながら大広間に入っていった。
ナマエは心底同情したような顔をして口を開いた。
「ファンレターを他人に書かせるなんて、誠意がないな」
「ロックハート先生はお忙しいのに返事を出しているなんて、それだけでもすごいことよ」
ハーマイオニーに反論されて、ナマエは「はいはい」とため息をついてレイブンクローのテーブルに向かった。
クィディッチの選手はこんなに朝早くから練習しているなんて……と、思わず感心したが、自分の目的を思い出した。ともかく自分は、動物もどきの材料を集めるために早起きしているのだ。
ナマエは拾った日記をローブのポケットに突っ込んで歩き出した。──早く採集しないと朝露が乾いてしまう。
無事、採集を終えたナマエは、露で満たされた小瓶を満足げに眺めながら、寮に戻ろうと歩いていた。
「ナマエ!」
突然名前を呼ばれたナマエは一瞬びくりとして、小瓶をポケットに滑り込ませた。振り返ると、クィディッチのユニフォームを着たハリーだった。ロン、ハーマイオニーも一緒だ。
ハリーは、ハーマイオニーと一緒にロンを両脇から支えていた。ロンの顔は青白く、今にも吐きそうだった。
「ハリー、ハーマイオニー……ロン!?どうした?」
「杖が逆噴射したのよ、マルフォイを呪おうとしたの!」
ナマエが三人に駆け寄ると、ハーマイオニーが急いで説明した。ロンが大きなナメクジを口から吐き出したので、ナマエは思わずロンを見つめた。
「うわっ、すごいな……その呪い、難しいだろ」
「感心してる場合じゃないわよ!」
ハーマイオニーに叱りつけられると、ナマエはごめん、と謝りながらロンに杖を向けた。
「フィニートインカンターテム、呪文よ終われ!」
ナマエが唱えると、ロンの口から出てくるナメクジの大きさがひとまわり小さくなった。……が、やはり吐き続けていた。
「ああ……だめか………あ、そうだ。ハグリッドがナメクジ駆除に詳しいんじゃないか」
「そうだね、ハグリッドのところへ行こう」
ハリーが頷いた。ナマエはロンの肩をぽんぽん叩いて、ハグリッドの小屋とは逆の方向に体を向けた。
「任せろ、ロン。俺が代わりに呪ってきてやる」
意気揚々とクィディッチ競技場に向かおうとするナマエの腕をハーマイオニーが掴んだ。
「だめよナマエ!それより、あなたも手伝って!」
「……わかった。ハーマイオニー、代わって。俺とハリーで担ぐ」
ナマエがハーマイオニーに代わってロンの左側を担いだ。ハーマイオニーが後ろを歩いて、ロンが吐き出したナメクジを杖で駆除しながらハグリッドの小屋に急いだ。
四人はハグリッドの小屋に到着し、ハリーが慌ただしく戸を叩いた。
ハグリッドがすぐに出てきた。不機嫌な顔だったが、客が誰だかわかったとたん、パッと顔が輝いた。
「いつ来るんか、いつ来るんかと待っとったぞ!さあ入った、入った。実はロックハート先生がまーた来たかと思ったんでな」
ハリーとナマエはロンを抱えて敷居をまたがせ、後ろにハーマイオニーが続いて、一部屋しかない小屋に入った。ハリーはロンを椅子に座らせながら、手短に事情を説明したが、ハグリッドはロンのナメクジ問題にまったく動じなかった。
「出てこんよりは出たほうがええ」
ロンの前に大きな銅の洗面器をポンと置き、ハグリッドは朗らかに言った。
「ロン、みんな吐いっちまえ」
ハグリッドはいそいそとお茶の用意に飛び回った。飼い犬のファングは、ナマエを涎でべとべとにしていた。
「なぁ、ハグリッド。ロックハートに付きまとわれてるのか?」
ファングの耳をカリカリ指で撫でながらナマエが聞いた。
「ああ、井戸の中から水魔を追っ払う方法を俺に教えようとしてな」
唸るように答えながら、ハグリッドはティーポットをテーブルに置いた。
「まるで俺が知らんとでもいうようにな。その上、自分が泣き妖怪とか何とかを追っ払った話を、さんざぶち上げとった。やっこさんの言っとることが一つでもほんとだったら、俺はへそで茶を沸かしてみせるわい」
ホグワーツの先生を批判するなんて、まったくハグリッドらしくなかった。ハリーは驚いてハグリッドを見つめていた。ハーマイオニーはいつもよりちょっと上ずった声で反論した。
「それって、少し偏見じゃないかしら。ダンブルドア先生は、あの先生が一番適任だとお考えになったわけだし──」
「ほかにだーれもおらんかったんだ」
ハグリッドは糖蜜ヌガーを皿に入れて四人にすすめながら言った。ロンがその脇でゲボゲボと咳き込みながら洗面器に吐いていた。
ナマエはハグリッドの言葉にかなり嬉しそうな顔をしていたので、ハーマイオニーに睨まれた。
「人っ子ひとりおらんかったんだ。闇の魔術の先生をする者を探すのが難しくなっちょる。ここんとこ、だーれも長続きした者はおらんしな。それで?やっこさん、誰に呪いをかけるつもりだったんかい?」
ハグリッドはロンのほうを顎で指しながらナマエに聞いた。ナマエはハリーを振り返った。
「俺も知りたいよ、どうなんだ?」
「マルフォイがハーマイオニーのことを何とかって呼んだんだ。ものすごくひどい悪口なんだと思う。だって、みんなカンカンだったもの」
「ほんとにひどい悪口さ」
テーブルの下からロンの汗だらけの青い顔がひょいと現れ、嗄れ声で言った。
「マルフォイのやつ、ハーマイオニーのこと『穢れた血』って言ったんだよ」
ロンの顔がまたひょいとテーブルの下に消えた。次のナメクジの波が押し寄せてきたのだ。
ナマエは思わずカップを床に取り落とし、陶器が割れる音が響いた。顔が怒りで蒼白になっているのが自分でもわかった。
ハグリッドも大憤慨して、ハーマイオニーのほうを見て唸り声をあげた。
「そんなこと、本当に言うたのか!」
「言ったわよ。でも、どういう意味だか私は知らない。もちろん、ものすごく失礼な言葉だということはわかったけど……」
「ナマエを捕まえて!」ロンの顔がまた現れて叫んだ。
ロンの言葉で全員がパッとナマエを振り返った。ナマエは小屋のドアを蹴破る寸前だった。ハリーは咄嗟にナマエを背後から羽交い締めにした。
「どうしたんだ、ナマエ!」
「離せハリー!あいつ、あのクソドラコ!痛い目みないとわからないんだ!自分が何を言ったのか、理解させてやる!」
ハリーはナマエの肘鉄を避けながら必死に体を押さえたが、ナマエの怒りはおさまらなかった。困惑しているハリーとハーマイオニーに、ロンが説明した。
「『穢れた血』って、マグルから生まれたっていう意味の──つまり両親とも魔法使いじゃない者を指す最低の汚らわしい呼び方なんだ。魔法使いの中には、たとえばマルフォイ一族みたいに、みんなが『純血』って呼ぶものだから、自分たちが誰よりも偉いって思っている連中がいるんだ」
ロンは小さなゲップをした。ナメクジが一匹だけ飛び出し、ロンの伸ばした手の中にスポッと落ちた。ロンはそれを洗面器に投げ込んでから話を続けた。
「もちろん、そういう連中以外は、そんなことまったく関係ないって知ってるよ。ネビルを見てごらんよ──あいつは純血だけど、鍋を逆さまに火にかけかねないぜ」
ナマエはハリーにぐいぐい押されて、さっき座っていた椅子に押し込められた。ハリーはナマエの肩に両手を置いて牽制した。ナマエは堪忍して、「わかった、わかったよ」とため息をついた。
「……ロンの言う通りだ。俺はほとんど純血だけど、箒に乗れたのは一度きりだ。でも、ああいう奴らは小さい頃から箒に乗れるのが『純血の証明』だとかいう迷信を信じてる。まったく、根拠がないよなあ」
ナマエは自嘲ぎみな笑いをあげて、自分が壊したカップに「レパロ」と唱えた。カップはみるみる元の形を取り戻した。
「『ほとんど』純血って?」
「あぁ……本当の本当に純血の魔法使いなんてほとんどいないと思う。だいたいどっかしらでマグルと混ざってる。マルフォイ家だってどうだか知れないぜ、なあ」
「そうそう。いま時、魔法使いはほとんど混血なんだ。もしマグルと結婚してなかったら、僕たちとっくに絶滅しちゃってたよ」
ナマエとロンがうんうんと頷きあって言った。こういう時、ナマエはロンとかなり意見が合うようで、嬉しかった。
「んだ。それに、俺たちのハーマイオニーが使えねえ呪文は、いままでにひとっつもなかったぞ」
ハグリッドが誇らしげに言ったので、ハーマイオニーはパーッと頬を紅潮させた。
「他人のことをそんなふうに罵るなんて、むかつくよ」
ロンは震える手で汗びっしょりの額を拭いながら話し続けた。
「『穢れた血』だなんて、まったく。卑しい血だなんて。狂ってるよ」
ゲーゲーが始まり、またまたロンの顔がひょいと消えた。
「ウーム、そりゃ、ロン、やつに呪いをかけたくなるのも無理はねぇ」
大量のナメクジが、ドサドサと洗面器の底に落ちる音を、かき消すような大声でハグリッドが言った。ナマエが力強く頷いた。
「……ナマエがあの場にいなくてよかったわ」
「なんでだよ?俺の杖は折れてないから、マルフォイを確実に呪えたのに」
ハーマイオニーの言葉にナマエは不服そうに噛み付いた。
「マルフォイは新品の箒を持って選手としてやってきたのよ?ナマエの飛行術をからかうに決まってるわ」
「失礼だぞ、ハーマイオニー」
ナマエがむくれてそっぽを向き、ハグリッドの糖蜜ヌガーに手を伸ばしたが、口に含んでいるマンドレイクの葉がくっついてしまいそうな気がして、手を引っ込めた。
「食べないの?君はいつでもなんでも食べるのに」
ハリーが不思議そうに聞いたので、ナマエはどきりとしたが、しらを切ることにした。
「人をいやしんぼうみたいに言うな」
ナマエはハリーから目を逸らすと、ふとハグリッドの小屋の壁にある棚に目が止まった。使い古された木箱に、小さな丸い塊がぎっしり詰まっていた。ナマエの胸が高鳴った。
「……ハグリッド、これ何だ?」
「おう、そいつは……ドクロメンガタスズメだな。今は繭の中に入っちょる」
ナマエの顔が思わず綻んだ。動物もどきの材料がこんなところで見つかるなんて、なんて運がいいんだろう。
「なにそれ?」
ロンがまた現れた。洗面器はナメクジで溢れ返って今にもこぼれ落ちそうだった。
「魔法薬の材料になるものよ」即座にハーマイオニーが答えた。
「ああ、こいつは森ん中にぎょうさんおる。そいつの繭はよう使えるから見つけたら拾って──」
「は、ハグリッド、これいくつか貰えないかな?駄目か?」
ナマエは前のめりになってハグリッドを遮った。自分でも押さえられないほど興奮していた。
「うん?もちろんええが──」
「何に使うつもり?」
今度はハーマイオニーがとげのある言い方でハグリッドを遮った。
「内緒、内緒」
ナマエはハーマイオニーをあしらい、ポケットから空き小瓶を取り出して、その中に繭を入れた。
「ねえ、ナマエ。あなた、さっき私たちと会ったときに何か隠したでしょう?」
出会い頭のナマエの不審な行動に、ハーマイオニーは気づいていたらしく、眉を上げた。
「だから内緒だって。悪いことには使わないよ。──ああハグリッド、安心してよ!大丈夫だ。校則を破ったりはしてないし、しない」
ナマエは、ハグリッドを安心させるように、にっと歯を見せて笑った。
そろそろ昼食の時間だった。ハグリッドにさよならを言い、四人は城へと歩いた。
ハーマイオニーはナマエの隠し事に納得していないようで、問い詰めようとしたが、なんとかはぐらかしていた。
城に到着し、ひんやりした玄関ホールに足を踏み入れたとたん、声が響いた。
「ポッター、ウィーズリー、そこにいましたか」
マクゴナガル先生が厳しい表情でこちらに歩いてきた。
「二人とも、処罰は今夜になります」
「先生、僕たち、何をするんでしょうか?」
ロンがなんとかゲップを押し殺しながら聞いた。
「あなたは、フィルチさんと一緒にトロフィー・ルームで銀磨きです。ウィーズリー、魔法はだめですよ。自分の力で磨くのです」
ロンは絶句した。管理人のアーガス・フィルチは学校中の生徒からひどく嫌われている。
「ポッター。あなたはロックハート先生がファンレターに返事を書くのを手伝いなさい」
「えーっ、そんな……僕もトロフィー・ルームのほうではいけませんか?」
ハリーが絶望的な声で頼んだ。
「もちろんいけません」
マクゴナガル先生は眉を吊り上げた。
「ロックハート先生はあなたをとくにご指名です。二人とも、八時きっかりに」
ハリーとロンはがっくりと肩を落とし、うつむきながら大広間に入っていった。
ナマエは心底同情したような顔をして口を開いた。
「ファンレターを他人に書かせるなんて、誠意がないな」
「ロックハート先生はお忙しいのに返事を出しているなんて、それだけでもすごいことよ」
ハーマイオニーに反論されて、ナマエは「はいはい」とため息をついてレイブンクローのテーブルに向かった。