秘密の部屋
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「楽しみだなあ」
ナマエは自分のベッドに仰向けに寝そべっていた。
ロンから、ロンの住んでいる『隠れ穴』への招待の手紙が来たのだ。
ナマエはふくろうを飼っていなかったので、配達してきたふくろうを呼び止めてその場で急いで手紙の裏に返事を書きつけた。
ナマエは父親とナマエ、そして屋敷しもべのシノビーの三人きりで暮らしていた。三人で住むには持て余し気味の広くて古い洋館だ。昔、昔そのまた昔は身分の高いマグルが別荘として使っていたらしい。
ナマエの自室はただ寝るだけにしては広く、壁や柱や天井には瀟洒な彫刻や飾りつけが施されていた。ベッドは天蓋付きで、ドレッサーや洋服箪笥が置かれていた。家具はどれも昔から置かれていたもので、ナマエのものではなかった。おそらくマグルの貴族の娘が使っていたんだろうとナマエは推測していた。
ナマエの荷物は、トランク一つ分のホグワーツに持って行っていった分と、床やサイドテーブルに積み上げられた本だけだった。
せめて本棚があればよかったかもしれない。
「シノビー、お父上様は?」
ナマエが誰もいない空間に向かって呟くと、パチン!と音が鳴り、屋敷しもべ妖精が現れた。
屋敷しもべ妖精はくたびれて穴の開いたナイトキャップをワンピースのように着こなしていた。
「ナマエさま!旦那さまは……」
シノビーは目を泳がせて言い淀んだ。
「いい、言えないならいいよ」
ナマエはそう言って寝返りを打ち、シノビーに背を向けた。
「ナマエさま!旦那さまは、旦那さまはスウェーデンに行かれました。ダームストラングの理事会に参加されるとおっしゃり………!!」
シノビーは言い終わる前に地面に頭を打ちつけ、ゴンゴンと鈍い音が響いた。
「シノビーは!!悪い!!しもべ!!妖精!!」
「やめろ、シノビー……わかった。ありがとう」
ナマエは慣れたようにシノビーをひょいと抱き上げた。ベッドの上であぐらをかいてシノビーをその上に座らせ、杖を取り出した。
「エピスキー、癒えよ」
たちまちシノビーの額の赤みが引いた。
「いけません、ナマエさま!ナマエさまはまだ学校の外で魔法をお使いになってはいけないのです!」
「あっはは。お前のそばにいるんだから、どっちが使ったかわかるもんか」
ナマエはケラケラと笑ってシノビーを抱きしめた。そうすれば反論されないとわかっていたのだ。
案の定、シノビーは恐縮して何も言えなかった。
「シノビー、俺は今日から友達の家に泊まって、そのままホグワーツに帰るよ」
「……旦那さまはご存知でしょうか?」
シノビーは大きな目を見開いておそるおそるナマエの顔を見上げた。
「書き置きはしたけど、見てないだろうな。まあ、行くのはウィーズリー家だから……父上のお眼鏡にも叶うだろうよ」
ナマエはうんざりして言った。父親は昔からの、根っからの、純血主義者なのだ。
ナマエはシノビーを解放して、荷造りを終えた。
トランクを引きずって応接室の暖炉に向かうと、シノビーが見送りについてきた。
「行ってくるよ、またな」
「お気をつけて!ナマエさま!」
ナマエは暖炉の脇に置いてある鉢からキラキラ光る粉をひとつまみ取り出すと、暖炉の火に近づき、炎に粉を振りかけた。ゴーッという音とともに炎はエメラルド・グリーンに変わり、高く燃え上がった。ナマエはその中に入り、「ダイアゴン横丁」と叫んだ。
ナマエは「漏れ鍋」の火格子から出てダイアゴン横丁に到着すると、さっさと新学期の買い物を済ませてフローリシュ・アンド・ブロッツ書店にいた。
ロンたちとこの店で落ち合う約束だったのだ。しかし、今日はいつもよりも店内は人でごった返していた。
誰か有名な著者がサイン会に来るらしく、そのファンらしい女性たちが押し合っていた。ナマエはできるだけ人混みを避けて、奥の本棚を物色していた。
「おや、ミョウジじゃないか」
気取った声がした。マルフォイだ。ナマエは横目でマルフォイをちらりと見て、無視することに決めて本を開いた。
「先日は君の父上にお会いしたよ。僕のような息子がいればよかったとたいそう褒めてくださった。ああ、君の話はまったくしていなかったから、てっきり息子がいないのかと思ったほどだ」
ナマエはパン!と音を立てて本を閉じた。マルフォイに言い返そうと顔を上げたが、邪魔が入った。
「これはこれはきれいなお嬢さん!僕のファンかな?」
ナマエの視界に入り込んできた男は、店中に貼られたポスターの写真にいる人物、ギルデロイ・ロックハートだった。白い歯を見せびらかして、瞳の色にぴったりの忘れな草色のローブを着ていた。波打つ髪に、魔法使いの三角帽を小粋な角度でかぶっている。
ナマエは自分の周りをきょろきょろ見回して、きょとんとロックハートを見返した。
ナマエが困惑していると、マルフォイが面白そうににやにや笑った。
「『お嬢さん』!よかったなあ、サインをもらうといい」
「もちろん、今日は私のサイン会に来てくれたんでしょうね?さあ、おいで!」
ロックハートは輝く笑顔を見せ、ナマエの肩を強引に掴んで連れて行こうとした。
「ちょっ、あの!俺は、あなたの本が教科書になっているから買いに来たけど……まだ読んでない」
「…………なんと!」
ロックハートはナマエの女の子にしては低い声に驚いたのか、自分のファンではないことが心底不思議だったのか、目を丸くした。
「そうか、そうか!では、君。これからファンになるだろうけど、手伝ってくれるかな?」
ロックハートはナマエを引っ張って人だかりのど真ん中に連れていった。
積み上げられた本とサイン用の羽ペンが置かれた机があり、周りにはロックハートの写真がずらりと飾られていた。取り囲むように主に女性客がひしめき合って大混雑していた。
ナマエは人混みの中に、ハリーとロン、そしてハーマイオニーとウィーズリー夫人を見つけた。
ナマエとハリーたちはお互いにびっくりした顔をした。
ロックハートが現れると人垣がいっせいに拍手した。
しかし、ナマエの顔を見ると怪訝なヒソヒソ声が聞こえてくるようだった。「だれ、あの子?」「とってもきれい」「アシスタントかな」「私がお手伝いしたかったのに……」
ナマエは居た堪れなくなって、カメラマンのアングルに入らないように努力した。
「今日はとってもキュートな助手を連れて参りました、彼女は──」
「彼、だよ」
ナマエは投げやりに訂正した。人垣から手のひらを返したように控えめな歓声が上がった。「男の子ですって」「かわいい!」「親戚かしら?」ナマエは勘弁してくれと言う顔をしてハリーたちを見たが、ハーマイオニーとウィーズリー夫人は頬を上気させてロックハートを見つめていた。
「失礼、彼はまもなく、私の本『私はマジックだ』ばかりでなく、もっともっとよいものをもらえるでしょう。みなさん、ここに、大いなる喜びと、誇りを持って発表いたします。この九月から、私はホグワーツ魔法魔術学校にて、『闇の魔術に対する防衛術』の担当教授職をお引き受けすることになりました」
人垣がワーッと沸き、拍手した。カメラがパシャパシャ音を立ててフラッシュを焚いた。
ナマエは半分目を瞑って耐えた。顔がほてっていくのがわかった。こっそりハリーとロンに向かってげえっと舌を出す真似をした。すると、ロックハートがナマエの目線に気づいて、まずロンを見て──それからハリーを見た。じっと見つめた。それから勢いよく立ち上がり、叫んだ。
「もしや、ハリー・ポッターでは?」
興奮した囁き声があがり、人垣がパッと割れて道を開けた。ロックハートが列に飛び込み、ハリーの腕をつかみ、正面に引き出した。ハリーは人ごとのように笑っていたので、ナマエはいい気味だと思い、ハリーににやっとした。ハリーは眉を上げた。人垣がいっせいに拍手した。
「ハリー、それから君も。にっこり笑って!」
ロックハートが輝くような歯を見せながら言った。ハリーとナマエは両脇でがっちり掴まれていた。
「生き残った男の子と、この控えめな美少年と……私、ギルデロイ・ロックハートとで一面大見出し記事ですよ」
人垣がワーッと沸き、拍手し、どさくさに紛れてナマエとハリーはなんとかスポットライトの当たる場所から抜け出し、部屋の隅に逃れた。そこにはロンの妹のジニーが大鍋を抱えて立っていた。
「あ…やあ」
ナマエはおそるおそる挨拶した。ジニーの返事の代わりに嫌味な声が聞こえた。
「いい気分だったろうねぇ、ポッター?」
身を起こすと、いつもの薄ら笑いを浮かべているドラコ・マルフォイと真正面から顔が合った。
「有名人のハリー・ポッター。ちょっと書店に行くのでさえ、一面大見出し記事かい?」
「ほっといてよ。ハリーが望んだことじゃないわ!」
ジニーが言った。ナマエはジニーが口をきいたのを見るのは初めてだった。
彼女はマルフォイをはったと睨みつけていた。
「ポッター、ガールフレンドができたじゃないか!しかも、二人目だ!」
マルフォイがナマエとジニーを見て言った。ジニーは真っ赤になった。ナマエがマルフォイの胸ぐらを掴みかかろうとしたその時、ロンとハーマイオニーがロックハートの本をひと山ずつしっかり抱えて、人混みをかき分けて現れた。
「なんだ、君か。そんなにたくさん買い込んで、君の両親はこれから一ヵ月は飲まず食わずだろうね」
ロンが、妹と同じぐらい真っ赤っ赤になった。
ハリーとハーマイオニーが、マルフォイに飛びかかりそうなロンとナマエの上着の背中をそれぞれしっかりつかまえた。
「ロン!」
ウィーズリーおじさんが、フレッドとジョージと一緒にこちらに来ようと人混みと格闘しながら呼びかけた。
「何してるんだ?ここはひどいもんだ。早く外に出よう……ああ!ナマエだね?」
「こんにちは」
「これは、これは、これは──アーサー・ウィーズリー。それに……誰だったかな?」
ナマエの挨拶はまたしても遮られた。声の主はブロンドを靡かせたマルフォイの父……ルシウス・マルフォイだった。ドラコの肩に手を置き、ドラコとそっくり同じ薄ら笑いを浮かべて立っていた。
ナマエはマルフォイ氏の嫌味に気づかないフリをすることにした。
マルフォイ家とナマエの父親は懇意にしているようだが、父子ともにナマエ対しては親しみを尽くす気は無いようだった。
マルフォイ氏はジニーの大鍋に手を突っ込み、使い古しのすり切れた本を一冊引っ張り出した。「変身術入門」だ。
「なんと、まあ……痛ましい。満足に給料も貰えないのでは、わざわざ魔法使いの面汚しになる甲斐がないですねぇ?」
ウィーズリー氏は、ロンやジニーよりももっと深々と真っ赤になった。
「マルフォイ、魔法使いの面汚しがどういう意味かについて、私たちは意見が違うようだが」
「さようですな」
マルフォイ氏の薄灰色の目が、心配そうになりゆきを見ているグレンジャー夫妻のほうに移った。
「ウィーズリー、こんな連中とつき合ってるようでは……君の家族はもう落ちるところまで落ちたと思っていたんですがねぇ」
マルフォイ氏は手に持っていた教科書をジニーのほうに突き出しながら捨て台詞を言った。
「ほら、君の本だ──君の父親にしてみればこれが精一杯だろう」
ウィーズリー氏は飛びかかる寸前で店員に止められた。外に出て、みんなは急いで歩いた。グレンジャー夫妻は恐ろしさに震え、ウィーズリー夫人は怒りに震えていた。
「子どもたちに、なんてよいお手本を見せてくれたものですこと……ギルデロイ・ロックハートがいったいどう思ったか……ああ、そうだわ。ナマエは彼とお知り合いいなの?」
「え?あ、いいえ全く。急に手伝えって言われました」
「きっと、見せ物が増えた方が嬉しいんだろ」
ロンが吐き捨てた。
一行はしょんぼりして「漏れ鍋」の暖炉に向かった。そこから煙突飛行粉で、ナマエと、ハリーと、ウィーズリー一家と、買物一式が「隠れ穴」に帰ることになった。グレンジャー一家は、そこから裏側のマグルの世界に戻るので、みんなはお別れを言い合った。ナマエは残念がった。
「あんたも隠れ穴に行くのかと思ってた」
「すぐ会えるわよ」
ハーマイオニーは嬉しそうに微笑んだ。
ナマエは自分のベッドに仰向けに寝そべっていた。
ロンから、ロンの住んでいる『隠れ穴』への招待の手紙が来たのだ。
ナマエはふくろうを飼っていなかったので、配達してきたふくろうを呼び止めてその場で急いで手紙の裏に返事を書きつけた。
ナマエは父親とナマエ、そして屋敷しもべのシノビーの三人きりで暮らしていた。三人で住むには持て余し気味の広くて古い洋館だ。昔、昔そのまた昔は身分の高いマグルが別荘として使っていたらしい。
ナマエの自室はただ寝るだけにしては広く、壁や柱や天井には瀟洒な彫刻や飾りつけが施されていた。ベッドは天蓋付きで、ドレッサーや洋服箪笥が置かれていた。家具はどれも昔から置かれていたもので、ナマエのものではなかった。おそらくマグルの貴族の娘が使っていたんだろうとナマエは推測していた。
ナマエの荷物は、トランク一つ分のホグワーツに持って行っていった分と、床やサイドテーブルに積み上げられた本だけだった。
せめて本棚があればよかったかもしれない。
「シノビー、お父上様は?」
ナマエが誰もいない空間に向かって呟くと、パチン!と音が鳴り、屋敷しもべ妖精が現れた。
屋敷しもべ妖精はくたびれて穴の開いたナイトキャップをワンピースのように着こなしていた。
「ナマエさま!旦那さまは……」
シノビーは目を泳がせて言い淀んだ。
「いい、言えないならいいよ」
ナマエはそう言って寝返りを打ち、シノビーに背を向けた。
「ナマエさま!旦那さまは、旦那さまはスウェーデンに行かれました。ダームストラングの理事会に参加されるとおっしゃり………!!」
シノビーは言い終わる前に地面に頭を打ちつけ、ゴンゴンと鈍い音が響いた。
「シノビーは!!悪い!!しもべ!!妖精!!」
「やめろ、シノビー……わかった。ありがとう」
ナマエは慣れたようにシノビーをひょいと抱き上げた。ベッドの上であぐらをかいてシノビーをその上に座らせ、杖を取り出した。
「エピスキー、癒えよ」
たちまちシノビーの額の赤みが引いた。
「いけません、ナマエさま!ナマエさまはまだ学校の外で魔法をお使いになってはいけないのです!」
「あっはは。お前のそばにいるんだから、どっちが使ったかわかるもんか」
ナマエはケラケラと笑ってシノビーを抱きしめた。そうすれば反論されないとわかっていたのだ。
案の定、シノビーは恐縮して何も言えなかった。
「シノビー、俺は今日から友達の家に泊まって、そのままホグワーツに帰るよ」
「……旦那さまはご存知でしょうか?」
シノビーは大きな目を見開いておそるおそるナマエの顔を見上げた。
「書き置きはしたけど、見てないだろうな。まあ、行くのはウィーズリー家だから……父上のお眼鏡にも叶うだろうよ」
ナマエはうんざりして言った。父親は昔からの、根っからの、純血主義者なのだ。
ナマエはシノビーを解放して、荷造りを終えた。
トランクを引きずって応接室の暖炉に向かうと、シノビーが見送りについてきた。
「行ってくるよ、またな」
「お気をつけて!ナマエさま!」
ナマエは暖炉の脇に置いてある鉢からキラキラ光る粉をひとつまみ取り出すと、暖炉の火に近づき、炎に粉を振りかけた。ゴーッという音とともに炎はエメラルド・グリーンに変わり、高く燃え上がった。ナマエはその中に入り、「ダイアゴン横丁」と叫んだ。
ナマエは「漏れ鍋」の火格子から出てダイアゴン横丁に到着すると、さっさと新学期の買い物を済ませてフローリシュ・アンド・ブロッツ書店にいた。
ロンたちとこの店で落ち合う約束だったのだ。しかし、今日はいつもよりも店内は人でごった返していた。
誰か有名な著者がサイン会に来るらしく、そのファンらしい女性たちが押し合っていた。ナマエはできるだけ人混みを避けて、奥の本棚を物色していた。
「おや、ミョウジじゃないか」
気取った声がした。マルフォイだ。ナマエは横目でマルフォイをちらりと見て、無視することに決めて本を開いた。
「先日は君の父上にお会いしたよ。僕のような息子がいればよかったとたいそう褒めてくださった。ああ、君の話はまったくしていなかったから、てっきり息子がいないのかと思ったほどだ」
ナマエはパン!と音を立てて本を閉じた。マルフォイに言い返そうと顔を上げたが、邪魔が入った。
「これはこれはきれいなお嬢さん!僕のファンかな?」
ナマエの視界に入り込んできた男は、店中に貼られたポスターの写真にいる人物、ギルデロイ・ロックハートだった。白い歯を見せびらかして、瞳の色にぴったりの忘れな草色のローブを着ていた。波打つ髪に、魔法使いの三角帽を小粋な角度でかぶっている。
ナマエは自分の周りをきょろきょろ見回して、きょとんとロックハートを見返した。
ナマエが困惑していると、マルフォイが面白そうににやにや笑った。
「『お嬢さん』!よかったなあ、サインをもらうといい」
「もちろん、今日は私のサイン会に来てくれたんでしょうね?さあ、おいで!」
ロックハートは輝く笑顔を見せ、ナマエの肩を強引に掴んで連れて行こうとした。
「ちょっ、あの!俺は、あなたの本が教科書になっているから買いに来たけど……まだ読んでない」
「…………なんと!」
ロックハートはナマエの女の子にしては低い声に驚いたのか、自分のファンではないことが心底不思議だったのか、目を丸くした。
「そうか、そうか!では、君。これからファンになるだろうけど、手伝ってくれるかな?」
ロックハートはナマエを引っ張って人だかりのど真ん中に連れていった。
積み上げられた本とサイン用の羽ペンが置かれた机があり、周りにはロックハートの写真がずらりと飾られていた。取り囲むように主に女性客がひしめき合って大混雑していた。
ナマエは人混みの中に、ハリーとロン、そしてハーマイオニーとウィーズリー夫人を見つけた。
ナマエとハリーたちはお互いにびっくりした顔をした。
ロックハートが現れると人垣がいっせいに拍手した。
しかし、ナマエの顔を見ると怪訝なヒソヒソ声が聞こえてくるようだった。「だれ、あの子?」「とってもきれい」「アシスタントかな」「私がお手伝いしたかったのに……」
ナマエは居た堪れなくなって、カメラマンのアングルに入らないように努力した。
「今日はとってもキュートな助手を連れて参りました、彼女は──」
「彼、だよ」
ナマエは投げやりに訂正した。人垣から手のひらを返したように控えめな歓声が上がった。「男の子ですって」「かわいい!」「親戚かしら?」ナマエは勘弁してくれと言う顔をしてハリーたちを見たが、ハーマイオニーとウィーズリー夫人は頬を上気させてロックハートを見つめていた。
「失礼、彼はまもなく、私の本『私はマジックだ』ばかりでなく、もっともっとよいものをもらえるでしょう。みなさん、ここに、大いなる喜びと、誇りを持って発表いたします。この九月から、私はホグワーツ魔法魔術学校にて、『闇の魔術に対する防衛術』の担当教授職をお引き受けすることになりました」
人垣がワーッと沸き、拍手した。カメラがパシャパシャ音を立ててフラッシュを焚いた。
ナマエは半分目を瞑って耐えた。顔がほてっていくのがわかった。こっそりハリーとロンに向かってげえっと舌を出す真似をした。すると、ロックハートがナマエの目線に気づいて、まずロンを見て──それからハリーを見た。じっと見つめた。それから勢いよく立ち上がり、叫んだ。
「もしや、ハリー・ポッターでは?」
興奮した囁き声があがり、人垣がパッと割れて道を開けた。ロックハートが列に飛び込み、ハリーの腕をつかみ、正面に引き出した。ハリーは人ごとのように笑っていたので、ナマエはいい気味だと思い、ハリーににやっとした。ハリーは眉を上げた。人垣がいっせいに拍手した。
「ハリー、それから君も。にっこり笑って!」
ロックハートが輝くような歯を見せながら言った。ハリーとナマエは両脇でがっちり掴まれていた。
「生き残った男の子と、この控えめな美少年と……私、ギルデロイ・ロックハートとで一面大見出し記事ですよ」
人垣がワーッと沸き、拍手し、どさくさに紛れてナマエとハリーはなんとかスポットライトの当たる場所から抜け出し、部屋の隅に逃れた。そこにはロンの妹のジニーが大鍋を抱えて立っていた。
「あ…やあ」
ナマエはおそるおそる挨拶した。ジニーの返事の代わりに嫌味な声が聞こえた。
「いい気分だったろうねぇ、ポッター?」
身を起こすと、いつもの薄ら笑いを浮かべているドラコ・マルフォイと真正面から顔が合った。
「有名人のハリー・ポッター。ちょっと書店に行くのでさえ、一面大見出し記事かい?」
「ほっといてよ。ハリーが望んだことじゃないわ!」
ジニーが言った。ナマエはジニーが口をきいたのを見るのは初めてだった。
彼女はマルフォイをはったと睨みつけていた。
「ポッター、ガールフレンドができたじゃないか!しかも、二人目だ!」
マルフォイがナマエとジニーを見て言った。ジニーは真っ赤になった。ナマエがマルフォイの胸ぐらを掴みかかろうとしたその時、ロンとハーマイオニーがロックハートの本をひと山ずつしっかり抱えて、人混みをかき分けて現れた。
「なんだ、君か。そんなにたくさん買い込んで、君の両親はこれから一ヵ月は飲まず食わずだろうね」
ロンが、妹と同じぐらい真っ赤っ赤になった。
ハリーとハーマイオニーが、マルフォイに飛びかかりそうなロンとナマエの上着の背中をそれぞれしっかりつかまえた。
「ロン!」
ウィーズリーおじさんが、フレッドとジョージと一緒にこちらに来ようと人混みと格闘しながら呼びかけた。
「何してるんだ?ここはひどいもんだ。早く外に出よう……ああ!ナマエだね?」
「こんにちは」
「これは、これは、これは──アーサー・ウィーズリー。それに……誰だったかな?」
ナマエの挨拶はまたしても遮られた。声の主はブロンドを靡かせたマルフォイの父……ルシウス・マルフォイだった。ドラコの肩に手を置き、ドラコとそっくり同じ薄ら笑いを浮かべて立っていた。
ナマエはマルフォイ氏の嫌味に気づかないフリをすることにした。
マルフォイ家とナマエの父親は懇意にしているようだが、父子ともにナマエ対しては親しみを尽くす気は無いようだった。
マルフォイ氏はジニーの大鍋に手を突っ込み、使い古しのすり切れた本を一冊引っ張り出した。「変身術入門」だ。
「なんと、まあ……痛ましい。満足に給料も貰えないのでは、わざわざ魔法使いの面汚しになる甲斐がないですねぇ?」
ウィーズリー氏は、ロンやジニーよりももっと深々と真っ赤になった。
「マルフォイ、魔法使いの面汚しがどういう意味かについて、私たちは意見が違うようだが」
「さようですな」
マルフォイ氏の薄灰色の目が、心配そうになりゆきを見ているグレンジャー夫妻のほうに移った。
「ウィーズリー、こんな連中とつき合ってるようでは……君の家族はもう落ちるところまで落ちたと思っていたんですがねぇ」
マルフォイ氏は手に持っていた教科書をジニーのほうに突き出しながら捨て台詞を言った。
「ほら、君の本だ──君の父親にしてみればこれが精一杯だろう」
ウィーズリー氏は飛びかかる寸前で店員に止められた。外に出て、みんなは急いで歩いた。グレンジャー夫妻は恐ろしさに震え、ウィーズリー夫人は怒りに震えていた。
「子どもたちに、なんてよいお手本を見せてくれたものですこと……ギルデロイ・ロックハートがいったいどう思ったか……ああ、そうだわ。ナマエは彼とお知り合いいなの?」
「え?あ、いいえ全く。急に手伝えって言われました」
「きっと、見せ物が増えた方が嬉しいんだろ」
ロンが吐き捨てた。
一行はしょんぼりして「漏れ鍋」の暖炉に向かった。そこから煙突飛行粉で、ナマエと、ハリーと、ウィーズリー一家と、買物一式が「隠れ穴」に帰ることになった。グレンジャー一家は、そこから裏側のマグルの世界に戻るので、みんなはお別れを言い合った。ナマエは残念がった。
「あんたも隠れ穴に行くのかと思ってた」
「すぐ会えるわよ」
ハーマイオニーは嬉しそうに微笑んだ。