秘密の部屋
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ハーマイオニーは数週間医務室に泊まった。クリスマス休暇を終えて戻ってきた生徒たちは、当然、誰もがハーマイオニーは襲われたと思ったので、彼女の姿が見えないことで、さまざまな噂が乱れ飛んだ。
ナマエは、毎日ハーマイオニーの見舞いに行った。ハリーとロンも、毎日ハーマイオニーに宿題を届けていたので、たまに顔を合わせた。
結局、ハリー達もマルフォイは継承者について何も知らないという結論に至ったようだった。
ナマエはクリスマスの日から、無くしてしまったトムの日記を毎日探していたが、見つからなかった。一度、マートルの女子トイレを見に行ったが、そこに日記はなかった上に、マートルの恨み言をねちねちと聞かされる羽目になった。
二月になり、ハーマイオニーはすっかり元の姿に戻ったようだった。授業の移動中、渡り廊下で、髭のないハーマイオニーとでくわした。
「ハーマイオニー!戻ってよかった」
「ありがとう。あなたも、最近は顔色がいいみたいね」
ナマエはそう言われてみれば、近頃は身体の調子も記憶も問題ないような気がした。
ハーマイオニーが次の授業に行ってしまったあとで、アンソニーも言った。
「確かに、休暇明けからは調子が良さそうだね」
「よかったなあ」とテリーもナマエの背中を叩いて言った。
ナマエはほっとして笑った。
淡い陽光がホグワーツを照らす季節が再び巡ってきた。城の中には、わずかに明るいムードが漂いはじめた。ジャスティンと「ほとんど首無しニック」の事件以来、誰も襲われてはいなかった。
復活祭の休暇中に、二年生は新しい課題を与えられた。三年生で選択する科目を決める時期が来たのだ。
ナマエは中庭で、アンソニー達とああだこうだと言いながら科目のリストに目を通した。
「魔法生物飼育学は絶対取りたいな」
マイケルはそう言いながら選択科目の欄にチェックを入れた。
「占い学は?数占いとどっちかでいいかな」
アンソニーが言った。
「──ハーマイオニーと同じ科目を取りたいなあ……」
ナマエはぽろりと言った。アンソニー達が、突然がばっと顔を上げて、ナマエを見た。
「──君ってやっぱり、グレンジャーが好きなの?」テリーが言った。
「なっ……そういうんじゃない!」
ナマエは反射的に大きな声を出した。
「ただ、成績のライバルとして、一番手応えがある相手だから……」
我ながらしどろもどろな答えだと思った。ハーマイオニーのことは好きな友人だったし、ライバル心があるのも本当だった。
「ふうん、そう」マイケルはにやにやしながら相槌を打った。
「何を取るのか聞いてくれば?そこにいるみたいだし」
アンソニーが中庭の反対側の石段を指した。ハーマイオニーがいつものように分厚い本を読みながら腰掛けていた。アンソニーは親切心で言っているようだったので、ナマエは甘んじてその通りにすることにした。
「ハーマイオニー!」
ナマエが声をかけると、ハーマイオニーが本から目を離し、にこりと笑った。ハーマイオニーの傍にはハリーとロンの分であろう荷物が置いてあった。
「こんにちは、ナマエ」
「やあ、二人は?」
「トイレに行ったわ。これから図書館で宿題をするの」
「そうか……あのさ、ハーマイオニー。選択教科は何にするつもりか聞きたくて──」
ナマエは言いかけて声を失った。ハーマイオニーの足元に並んでいた鞄のうちの一つに目を奪われた。鞄の口が開いていて、その中に、黒い革表紙の本が見えたのだ。ナマエはそれがリドルの日記だと気がついた。
──なぜ、なぜ、日記がここに?
「──私はね、迷ったんだけど、全部受けることにしたの」
ナマエが困惑して立ち尽くしていると、ハーマイオニーの声が耳に入った。
「な、なんだって?」
ナマエは二重に困惑した。
「だから、全部の科目を受けることにしたの」
しかし、ハーマイオニーの言葉を理解するよりも、頭の中は焼き切れそうなほどに別の考え事が渦巻いていた。
──日記、この日記だ!俺がおかしくなったのは、この日記とやりとりを始めてからだった!トム・リドルと……!
日記のトムと話すようになってから、自分の記憶が曖昧になり、ホグワーツで謎の襲撃がはじまった。そして、ナマエが日記に触れていない期間は、体調も、記憶も、全く問題がない。現に、襲撃事件もぱたりと止んでいる。
ナマエは鞄に「H.P」と名前があるのを見た。ハリーの鞄だ。
俺が女子トイレで落として、ハリーが拾ったのか?ハリーはもう、何か書いてしまっただろうか?
ナマエは胃がズシンと重くなった。
「──ナマエは、何の科目を取るの?」
「えっ、と」
ナマエはハーマイオニーの話を聞いていなかった。ナマエは咄嗟に、脚をわざと鞄にひっかけた。ハリーの鞄の中身が石段にぶちまけられた。
「きゃっ」
「悪い!」
ナマエは散らばったカバンの中身を拾い集めるフリをして、その中からトム・リドルの日記をこっそり抜き取った。
ハーマイオニーも教科書や羊皮紙を集めるのを手伝った。幸い、ナマエの動きには気づいていないようだった。
「インク壺が割れなくてよかったわ」
「ごめん……」
ナマエはちくりと胸が痛んだ。
「──じゃあ、俺、戻るよ。また話そう」
「あら、そう?」
ナマエは中庭を横切って、アンソニーたちに、「ちょっと、寮に戻る!」と叫んでから早歩きで寮に向かった。
急いで自室に戻って、ハリーの鞄から持ち出した日記を開いた。
『トム。ハリーと何を話した?お前の目的は何なんだ?』
ナマエは羽ペンを走らせたが、返事はなかった。焦燥感に駆られて舌打ちをしながら、続けて書いた。
『お前が、俺に秘密の部屋を開けさせたのか』
ナマエの書いたインクはすぐに日記の中に消えた。やはり返事はないかと思ったが、しばらくして文字が浮かび上がった。
『君が知る必要は、無い』
「……っクソ!」
ナマエは下品な暴言を吐いて、日記を閉じた。
ふう、と一息ついて、決心した。
ナマエは杖を日記に向け、唱えた。
「ウィンガーディアム・レヴィオーサ……──インセンディオ!!」
宙に浮いた日記は一瞬にして炎に包まれた。
ナマエは慎重にその様子を見つめた。だんだんと炎が弱まり、真っ黒な日記は床に落ちた。
しかし、日記にはかすり傷一つついていなかった。
「嘘だろ……」
ナマエは、日記にさまざまな呪文をかけたり、手でページを破ろうとしたり、破壊のかぎりを尽くした。
しかし、日記は拾ったときと全く変わらない姿で存在していた。
「クソ、クソっ!なんなんだ……」
ナマエは忌々しげに床に落ちた日記を拾い上げた。途端に、ぐにゃりと視界が歪んだ。
「──今日のクィディッチは中止です!」
フリットウィック先生の声だった。
ナマエはレイブンクローの談話室の隅に立っていた。
周囲を見渡すと、寮生がほとんど全員談話室にいた。クィディッチの選手はユニフォームを着たままで、応援グッズを持っている生徒も大勢いた。
嘘だ、クィディッチの試合は明日だった──。
またしても、ナマエは直前までの記憶がなかった。さっきまで日記を破壊しようとしていたのに、今度は……自分は、一体何をしてしまったんだろう?
「おお、ミスターミョウジ。君は……君は、すぐに医務室に行ったほうがよろしい」
フリットウィック先生が、蒼白な顔のナマエに気づいて心配気に言った。
「俺……俺は大丈夫です。先生」
「そうではないのじゃよ、ミョウジ。ショックを受けるかもしれないが……とにかく、行きなさい」
ナマエの心臓が早鐘を打った。医務室に、何が……誰が、いるというのだろう。
ナマエは返事をする前に談話室を飛び出した。塔の階段を駆け下り、医務室に向かって全速力で走った。
息も絶え絶えで医務室に着くと、一つのベッドに人だかりがあった。
マダム・ポンフリー、マクゴナガル先生、そしてハリーとロンがいた。
「は……はっ………」
ナマエの足音でハリーとロンが振り返った。
「嘘だ、そんな……」
ナマエは恐怖でそれ以上近づけなかった。
ベッドに横たわっていたのは、紛れもなくハーマイオニー・グレンジャーだった。
「ナマエ……」
ハリーが声をかけたが、ナマエはそれ以上ハーマイオニーも、ハリーもロンも見ることができず、後ずさった。
──すぐに日記を破壊しなければならない。自分にはできなかった。
ダンブルドアなら……ダンブルドアに相談するしかない。
ナマエは踵を返して走った。校長室に向かっていた。ダンブルドアに日記を渡さなければ。
「お待ちなさい!」
後ろから声がした。マクゴナガル先生が追いかけてきたのだ。ナマエは振り返って、今度はマクゴナガル先生に詰め寄った。
「先生!っダンブルドア、ダンブルドア先生は、どこにいらっしゃいますかっ?」
マクゴナガル先生は一瞬驚いたようだったが、目を細めた。
「いいえ、残念ながら今はご不在です。何か、伝えたいことがあるのですか?」
「………………『ありません、なにも』」
ナマエは耳を疑った。自分の意思とは全く関係のない言葉が口をついて出た。
マクゴナガル先生は怪訝そうに顔をしかめたが、目にはほんの少し優しさが見えた。
「それなら、寮にお戻りなさい。不安なのはわかります。きっとあなたの友人もあなたを心配しているでしょう。さあ、わたしがレイブンクローの寮まで送って行きましょう」
ナマエの口はピクリとも動かず、黙ってマクゴナガル先生の後に続いて歩いた。
ナマエは恐怖と動揺で意識が朦朧としていた。それなのに、身体はまるでひとりでに動いているかのようだった。
夏は知らぬ間に城の周りに広がっていた。
しかし、ダンブルドアがいなくなったことで、恐怖感がこれまでになく広がった。陽射しが城壁を暖めても、窓の桟が太陽を遮っているかのようだった。
誰も彼もが、心配そうな、緊張した顔をしていた。笑い声は、廊下に不自然に甲高く響き渡るので、たちまち押し殺されてしまうのだった。
ナマエは、この頃は日記に一切手を触れないように気をつけていた。マフラーに包み、それをまたローブに包み、トランクの奥底にしまった。ダンブルドアが戻るまで、そうして絶対に触れないようにしようと決めていた。
ナマエは、日記に触れないようにすることで自分の行動を律することができると思っていた。
全校生徒は夕方六時までに、各寮の談話室に戻ることになっていた。授業に行く時は、先生の引率で移動し、クィディッチの練習も試合も、すべて延期になった。
レイブンクロー生がぞろぞろと朝食のために大広間へ移動している途中、大きな声で話すマルフォイの声が聞こえてきた。
「継承者がグレンジャーを仕留め損ねたのは残念だが、次は死ぬ。穢れた血は早く荷物をまとめた方がいいね!」
マルフォイは声をひそめようともせず話していた。ナマエは歯を食いしばって、唸り声を漏らした。
アンソニーとテリーがナマエの肩を叩いて制したが、ナマエは二人を押しのけてマルフォイににじり寄った。マルフォイは続けた。
「おまえたちに言って聞かせたろう。父上は、ダンブルドアがこの学校始まって以来の最悪の校長だと思ってるって。たぶん今度はもっと適切な校長が来るだろう。『秘密の部屋』を閉じたりすることを望まない誰かが……」
「黙れ、マルフォイ!」
ナマエの言葉に、マルフォイ、そしてその取り巻きの数人が大広間の前で立ち止まって振り返った。
不思議なことに、ナマエはマルフォイの言葉に怒りを覚える自分に安心していた。
「お前のクソ親父見てると、俺の親父がマシに思えるぜ」
「僕の父上を侮辱するな。片親のくせに!」
ナマエはマルフォイの胸ぐらを掴んで、壁に押し付けた。
「ナマエ!」マイケルが叫んだ。
しかし、次の瞬間にはクラッブがナマエの肩をぐいと後ろに逸らせて、拳を振り下ろした。
ゴチンと鈍い音がして、ナマエは床にうずくまり、マルフォイはせせら笑った。アンソニーが悲鳴を上げて、レイブンクローの何人かが立ち止まった。
ナマエは口の端から垂れる血を拭って、マルフォイを睨んだ。
「ふん、お前が秘密の部屋で飼ってるのはデカのゴリラ二匹だったな、マルフォイ!」
今度はゴイルがナマエの髪を掴んで無理やり立たせようとした。マイケルとテリーがそれを阻止しようとして、クラッブのタックルを喰らって吹っ飛んだ。
その時、新たな生徒の群れが現れた。グリフィンドール生だった。
「ナマエ!」
ハリーとロンがナマエたちに気づき、急いでナマエたちに駆け寄ろうとすると、グリフィンドールを引率してきたマクゴナガル先生もそれに気がついた。
「何をしているんです!そこのあなたたち!おやめなさい!」
マクゴナガル先生が杖を一振りすると、ナマエたちとマルフォイたちは見えない壁に押し出されたように距離をとった。
ナマエとマルフォイは荒い息で睨み合っていた。
「スリザリンとレイブンクローは十点ずつ減点です!さあ、早く大広間にお行きなさい!怪我をしている人は、私が医務室に連れて行きます」
「──俺は、大丈夫です」
ナマエがよろよろと立ち上がった。マイケルとテリーも頷いた。
マルフォイたちはすでにその場から去って、スリザリンのテーブルに向かっていた。
「では、大広間に入りなさい」
ナマエのそばにロンが駆け寄ってきて「わかるぜ、マルフォイのやつをぶん殴りたくなる気持ち」と言って、肩を叩いた。
「僕も、もしハリーとディーンに止められてなかったら、もう十回は殴りかかってる」
そう言って、ハリーとグリフィンドールのテーブルに去っていった。
マイケルとテリーは笑ったが、アンソニーは眉根を寄せた。
「誰だってマルフォイにはむかついてるよ。でも、手を出しちゃダメだ」
「……ごめん」
ナマエは罰が悪くなって俯いた。
義憤だけではなかった。マルフォイに腹を立てることで、自分が確かに自分の意思を持っていると思いたかったのだ。
自分は決して、マグル生まれの生徒が襲われることを望んでいない。そう信じたかった。
レイブンクローのテーブルに座りながら、ナマエは決意した。
ハリーとロンに全て話そう。あの日記のこと。そして、もしかしたら──自分こそが、ハーマイオニーを襲ったかもしれないことを。
ナマエは、毎日ハーマイオニーの見舞いに行った。ハリーとロンも、毎日ハーマイオニーに宿題を届けていたので、たまに顔を合わせた。
結局、ハリー達もマルフォイは継承者について何も知らないという結論に至ったようだった。
ナマエはクリスマスの日から、無くしてしまったトムの日記を毎日探していたが、見つからなかった。一度、マートルの女子トイレを見に行ったが、そこに日記はなかった上に、マートルの恨み言をねちねちと聞かされる羽目になった。
二月になり、ハーマイオニーはすっかり元の姿に戻ったようだった。授業の移動中、渡り廊下で、髭のないハーマイオニーとでくわした。
「ハーマイオニー!戻ってよかった」
「ありがとう。あなたも、最近は顔色がいいみたいね」
ナマエはそう言われてみれば、近頃は身体の調子も記憶も問題ないような気がした。
ハーマイオニーが次の授業に行ってしまったあとで、アンソニーも言った。
「確かに、休暇明けからは調子が良さそうだね」
「よかったなあ」とテリーもナマエの背中を叩いて言った。
ナマエはほっとして笑った。
淡い陽光がホグワーツを照らす季節が再び巡ってきた。城の中には、わずかに明るいムードが漂いはじめた。ジャスティンと「ほとんど首無しニック」の事件以来、誰も襲われてはいなかった。
復活祭の休暇中に、二年生は新しい課題を与えられた。三年生で選択する科目を決める時期が来たのだ。
ナマエは中庭で、アンソニー達とああだこうだと言いながら科目のリストに目を通した。
「魔法生物飼育学は絶対取りたいな」
マイケルはそう言いながら選択科目の欄にチェックを入れた。
「占い学は?数占いとどっちかでいいかな」
アンソニーが言った。
「──ハーマイオニーと同じ科目を取りたいなあ……」
ナマエはぽろりと言った。アンソニー達が、突然がばっと顔を上げて、ナマエを見た。
「──君ってやっぱり、グレンジャーが好きなの?」テリーが言った。
「なっ……そういうんじゃない!」
ナマエは反射的に大きな声を出した。
「ただ、成績のライバルとして、一番手応えがある相手だから……」
我ながらしどろもどろな答えだと思った。ハーマイオニーのことは好きな友人だったし、ライバル心があるのも本当だった。
「ふうん、そう」マイケルはにやにやしながら相槌を打った。
「何を取るのか聞いてくれば?そこにいるみたいだし」
アンソニーが中庭の反対側の石段を指した。ハーマイオニーがいつものように分厚い本を読みながら腰掛けていた。アンソニーは親切心で言っているようだったので、ナマエは甘んじてその通りにすることにした。
「ハーマイオニー!」
ナマエが声をかけると、ハーマイオニーが本から目を離し、にこりと笑った。ハーマイオニーの傍にはハリーとロンの分であろう荷物が置いてあった。
「こんにちは、ナマエ」
「やあ、二人は?」
「トイレに行ったわ。これから図書館で宿題をするの」
「そうか……あのさ、ハーマイオニー。選択教科は何にするつもりか聞きたくて──」
ナマエは言いかけて声を失った。ハーマイオニーの足元に並んでいた鞄のうちの一つに目を奪われた。鞄の口が開いていて、その中に、黒い革表紙の本が見えたのだ。ナマエはそれがリドルの日記だと気がついた。
──なぜ、なぜ、日記がここに?
「──私はね、迷ったんだけど、全部受けることにしたの」
ナマエが困惑して立ち尽くしていると、ハーマイオニーの声が耳に入った。
「な、なんだって?」
ナマエは二重に困惑した。
「だから、全部の科目を受けることにしたの」
しかし、ハーマイオニーの言葉を理解するよりも、頭の中は焼き切れそうなほどに別の考え事が渦巻いていた。
──日記、この日記だ!俺がおかしくなったのは、この日記とやりとりを始めてからだった!トム・リドルと……!
日記のトムと話すようになってから、自分の記憶が曖昧になり、ホグワーツで謎の襲撃がはじまった。そして、ナマエが日記に触れていない期間は、体調も、記憶も、全く問題がない。現に、襲撃事件もぱたりと止んでいる。
ナマエは鞄に「H.P」と名前があるのを見た。ハリーの鞄だ。
俺が女子トイレで落として、ハリーが拾ったのか?ハリーはもう、何か書いてしまっただろうか?
ナマエは胃がズシンと重くなった。
「──ナマエは、何の科目を取るの?」
「えっ、と」
ナマエはハーマイオニーの話を聞いていなかった。ナマエは咄嗟に、脚をわざと鞄にひっかけた。ハリーの鞄の中身が石段にぶちまけられた。
「きゃっ」
「悪い!」
ナマエは散らばったカバンの中身を拾い集めるフリをして、その中からトム・リドルの日記をこっそり抜き取った。
ハーマイオニーも教科書や羊皮紙を集めるのを手伝った。幸い、ナマエの動きには気づいていないようだった。
「インク壺が割れなくてよかったわ」
「ごめん……」
ナマエはちくりと胸が痛んだ。
「──じゃあ、俺、戻るよ。また話そう」
「あら、そう?」
ナマエは中庭を横切って、アンソニーたちに、「ちょっと、寮に戻る!」と叫んでから早歩きで寮に向かった。
急いで自室に戻って、ハリーの鞄から持ち出した日記を開いた。
『トム。ハリーと何を話した?お前の目的は何なんだ?』
ナマエは羽ペンを走らせたが、返事はなかった。焦燥感に駆られて舌打ちをしながら、続けて書いた。
『お前が、俺に秘密の部屋を開けさせたのか』
ナマエの書いたインクはすぐに日記の中に消えた。やはり返事はないかと思ったが、しばらくして文字が浮かび上がった。
『君が知る必要は、無い』
「……っクソ!」
ナマエは下品な暴言を吐いて、日記を閉じた。
ふう、と一息ついて、決心した。
ナマエは杖を日記に向け、唱えた。
「ウィンガーディアム・レヴィオーサ……──インセンディオ!!」
宙に浮いた日記は一瞬にして炎に包まれた。
ナマエは慎重にその様子を見つめた。だんだんと炎が弱まり、真っ黒な日記は床に落ちた。
しかし、日記にはかすり傷一つついていなかった。
「嘘だろ……」
ナマエは、日記にさまざまな呪文をかけたり、手でページを破ろうとしたり、破壊のかぎりを尽くした。
しかし、日記は拾ったときと全く変わらない姿で存在していた。
「クソ、クソっ!なんなんだ……」
ナマエは忌々しげに床に落ちた日記を拾い上げた。途端に、ぐにゃりと視界が歪んだ。
「──今日のクィディッチは中止です!」
フリットウィック先生の声だった。
ナマエはレイブンクローの談話室の隅に立っていた。
周囲を見渡すと、寮生がほとんど全員談話室にいた。クィディッチの選手はユニフォームを着たままで、応援グッズを持っている生徒も大勢いた。
嘘だ、クィディッチの試合は明日だった──。
またしても、ナマエは直前までの記憶がなかった。さっきまで日記を破壊しようとしていたのに、今度は……自分は、一体何をしてしまったんだろう?
「おお、ミスターミョウジ。君は……君は、すぐに医務室に行ったほうがよろしい」
フリットウィック先生が、蒼白な顔のナマエに気づいて心配気に言った。
「俺……俺は大丈夫です。先生」
「そうではないのじゃよ、ミョウジ。ショックを受けるかもしれないが……とにかく、行きなさい」
ナマエの心臓が早鐘を打った。医務室に、何が……誰が、いるというのだろう。
ナマエは返事をする前に談話室を飛び出した。塔の階段を駆け下り、医務室に向かって全速力で走った。
息も絶え絶えで医務室に着くと、一つのベッドに人だかりがあった。
マダム・ポンフリー、マクゴナガル先生、そしてハリーとロンがいた。
「は……はっ………」
ナマエの足音でハリーとロンが振り返った。
「嘘だ、そんな……」
ナマエは恐怖でそれ以上近づけなかった。
ベッドに横たわっていたのは、紛れもなくハーマイオニー・グレンジャーだった。
「ナマエ……」
ハリーが声をかけたが、ナマエはそれ以上ハーマイオニーも、ハリーもロンも見ることができず、後ずさった。
──すぐに日記を破壊しなければならない。自分にはできなかった。
ダンブルドアなら……ダンブルドアに相談するしかない。
ナマエは踵を返して走った。校長室に向かっていた。ダンブルドアに日記を渡さなければ。
「お待ちなさい!」
後ろから声がした。マクゴナガル先生が追いかけてきたのだ。ナマエは振り返って、今度はマクゴナガル先生に詰め寄った。
「先生!っダンブルドア、ダンブルドア先生は、どこにいらっしゃいますかっ?」
マクゴナガル先生は一瞬驚いたようだったが、目を細めた。
「いいえ、残念ながら今はご不在です。何か、伝えたいことがあるのですか?」
「………………『ありません、なにも』」
ナマエは耳を疑った。自分の意思とは全く関係のない言葉が口をついて出た。
マクゴナガル先生は怪訝そうに顔をしかめたが、目にはほんの少し優しさが見えた。
「それなら、寮にお戻りなさい。不安なのはわかります。きっとあなたの友人もあなたを心配しているでしょう。さあ、わたしがレイブンクローの寮まで送って行きましょう」
ナマエの口はピクリとも動かず、黙ってマクゴナガル先生の後に続いて歩いた。
ナマエは恐怖と動揺で意識が朦朧としていた。それなのに、身体はまるでひとりでに動いているかのようだった。
夏は知らぬ間に城の周りに広がっていた。
しかし、ダンブルドアがいなくなったことで、恐怖感がこれまでになく広がった。陽射しが城壁を暖めても、窓の桟が太陽を遮っているかのようだった。
誰も彼もが、心配そうな、緊張した顔をしていた。笑い声は、廊下に不自然に甲高く響き渡るので、たちまち押し殺されてしまうのだった。
ナマエは、この頃は日記に一切手を触れないように気をつけていた。マフラーに包み、それをまたローブに包み、トランクの奥底にしまった。ダンブルドアが戻るまで、そうして絶対に触れないようにしようと決めていた。
ナマエは、日記に触れないようにすることで自分の行動を律することができると思っていた。
全校生徒は夕方六時までに、各寮の談話室に戻ることになっていた。授業に行く時は、先生の引率で移動し、クィディッチの練習も試合も、すべて延期になった。
レイブンクロー生がぞろぞろと朝食のために大広間へ移動している途中、大きな声で話すマルフォイの声が聞こえてきた。
「継承者がグレンジャーを仕留め損ねたのは残念だが、次は死ぬ。穢れた血は早く荷物をまとめた方がいいね!」
マルフォイは声をひそめようともせず話していた。ナマエは歯を食いしばって、唸り声を漏らした。
アンソニーとテリーがナマエの肩を叩いて制したが、ナマエは二人を押しのけてマルフォイににじり寄った。マルフォイは続けた。
「おまえたちに言って聞かせたろう。父上は、ダンブルドアがこの学校始まって以来の最悪の校長だと思ってるって。たぶん今度はもっと適切な校長が来るだろう。『秘密の部屋』を閉じたりすることを望まない誰かが……」
「黙れ、マルフォイ!」
ナマエの言葉に、マルフォイ、そしてその取り巻きの数人が大広間の前で立ち止まって振り返った。
不思議なことに、ナマエはマルフォイの言葉に怒りを覚える自分に安心していた。
「お前のクソ親父見てると、俺の親父がマシに思えるぜ」
「僕の父上を侮辱するな。片親のくせに!」
ナマエはマルフォイの胸ぐらを掴んで、壁に押し付けた。
「ナマエ!」マイケルが叫んだ。
しかし、次の瞬間にはクラッブがナマエの肩をぐいと後ろに逸らせて、拳を振り下ろした。
ゴチンと鈍い音がして、ナマエは床にうずくまり、マルフォイはせせら笑った。アンソニーが悲鳴を上げて、レイブンクローの何人かが立ち止まった。
ナマエは口の端から垂れる血を拭って、マルフォイを睨んだ。
「ふん、お前が秘密の部屋で飼ってるのはデカのゴリラ二匹だったな、マルフォイ!」
今度はゴイルがナマエの髪を掴んで無理やり立たせようとした。マイケルとテリーがそれを阻止しようとして、クラッブのタックルを喰らって吹っ飛んだ。
その時、新たな生徒の群れが現れた。グリフィンドール生だった。
「ナマエ!」
ハリーとロンがナマエたちに気づき、急いでナマエたちに駆け寄ろうとすると、グリフィンドールを引率してきたマクゴナガル先生もそれに気がついた。
「何をしているんです!そこのあなたたち!おやめなさい!」
マクゴナガル先生が杖を一振りすると、ナマエたちとマルフォイたちは見えない壁に押し出されたように距離をとった。
ナマエとマルフォイは荒い息で睨み合っていた。
「スリザリンとレイブンクローは十点ずつ減点です!さあ、早く大広間にお行きなさい!怪我をしている人は、私が医務室に連れて行きます」
「──俺は、大丈夫です」
ナマエがよろよろと立ち上がった。マイケルとテリーも頷いた。
マルフォイたちはすでにその場から去って、スリザリンのテーブルに向かっていた。
「では、大広間に入りなさい」
ナマエのそばにロンが駆け寄ってきて「わかるぜ、マルフォイのやつをぶん殴りたくなる気持ち」と言って、肩を叩いた。
「僕も、もしハリーとディーンに止められてなかったら、もう十回は殴りかかってる」
そう言って、ハリーとグリフィンドールのテーブルに去っていった。
マイケルとテリーは笑ったが、アンソニーは眉根を寄せた。
「誰だってマルフォイにはむかついてるよ。でも、手を出しちゃダメだ」
「……ごめん」
ナマエは罰が悪くなって俯いた。
義憤だけではなかった。マルフォイに腹を立てることで、自分が確かに自分の意思を持っていると思いたかったのだ。
自分は決して、マグル生まれの生徒が襲われることを望んでいない。そう信じたかった。
レイブンクローのテーブルに座りながら、ナマエは決意した。
ハリーとロンに全て話そう。あの日記のこと。そして、もしかしたら──自分こそが、ハーマイオニーを襲ったかもしれないことを。
