秘密の部屋
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クリスマス休暇にホグワーツに残った生徒はほとんどおらず、レイブンクロー寮はナマエひとりだけだった。
ナマエはむしろ、この静けさに安心していた。自分が誰かを襲ったりする心配をしなくて済むことで、ゆっくり体を休めることができた。
久しぶりに睡眠をとったような気がした。クリスマスの朝、ベッドの脇にはプレゼントが積まれていた。
ナマエが一番嬉しかったのは、ウィーズリー夫人からもらった手編みのセーターだった。去年、ロンたちが着ているのを見て羨ましく思ったのだった。グレーの毛糸で編まれたセーターはナマエの心もあたためた。こんなに嬉しい気持ちになったのは久しぶりだった。
ナマエは、誰もいない談話室でクリスマスプレゼントの菓子を食べながら、記憶がない間に溜め込んでしまった課題と格闘して過ごした。
夕食の時間になり、大広間に降りると、着席しているのは同学年ではナマエと、ハリー、ロン、ハーマイオニー、そしてマルフォイ、クラッブ、ゴイルだけだった。
ナマエは、マルフォイを見て疑問に思った。何故、やつは学校に残ってるんだろう?去年は家に帰っていたはずだ。
それに、マルフォイはハロウィーンの日、壁に描かれた文字を見て、一番最初に声を上げていた。スリザリンの継承者のことを、何か知っているような口ぶりだった。
ナマエはスリザリンのテーブルに向かった。ハリーたちは、ナマエが自分たちのそばに来るだろうと手招きしていたので、驚いていた。
「メリークリスマス」
ナマエがマルフォイに声をかけると、クラッブとゴイルがぽかんと振り返った。マルフォイは、一瞬虚をつかれたような顔をしてから、気取って顎を上げた。
「何の用だ?」
「別に、一人で食べるのは寂しいからさ」
ナマエはそう言ってマルフォイの隣に座った。向かいに座っているクラッブとゴイルの興味は、ナマエよりもクリスマス・ディナーに移っていた。マルフォイは眉を寄せた。
「ここはスリザリンのテーブルだ」
「知ってるよ、どうも」
ナマエは無遠慮に目の前のローストチキンを一本掴んだ。それを見たゴイルは、その皿からこれ以上肉を取られないようにと自分のほうにぐいと寄せた。
「お前はスリザリン生じゃない。あっちへ行け」
ナマエはチキンを飲み込んでから答えた。
「……もし、俺がスリザリンの継承者でも?」
ナマエはマルフォイにしか聞こえないように低い声で言った。
マルフォイは眉をまたぴくりとさせた。
「──お前が?」
マルフォイは目を丸くしてナマエを見た。
ナマエはチキンを食べながら、マルフォイの反応を探るように慎重にその表情を見た。マルフォイは、継承者について自分よりも詳しく知っているかもしれない。少しでも、何か聞き出したかった。
「マルフォイ、あんたもハリーが継承者だと思ってるんだな」
ナマエは大袈裟にがっかりしたような声を出した。マルフォイが話に乗ることを願った。
「そんなはずがないだろう、あの聖ポッターが、スリザリンを継承できるわけがない」
「じゃあ、あんたは──誰がふさわしいと思ってるんだ?」
マルフォイは、ナマエを品定めするようにじっと見た。頬が赤くなっていた。きっと、自分が最も相応しいと言いたいに違いない。
マルフォイ自身が継承者なら、蛇語をひけらかして、マグル生まれの生徒を脅していてもおかしくないと、ナマエは思った。
ナマエはチキンをきれいに骨だけになるまで食べながらマルフォイがの答えを待ったが、マルフォイは何も言わなかった。ナマエはもう十分だと思った。
ナマエは、マルフォイが手をつけていないトライフルの皿を引き寄せた。
「なあ、何で学校に残ってるんだ?マルフォイ。クリスマスなのに、家に帰ってこなくていいって、ママに怒られたのか?」
ナマエはトライフルをスプーンで掬いながら意地悪くニヤッと笑った。この言葉は、去年マルフォイが言った台詞だった。
途端にマルフォイは顔を顰めた。
「お前には関係ない」
マルフォイは席を立って、大広間を出て行った。
クラッブとゴイルは、一瞬マルフォイを見たが、目の前の食事の方が大事だったらしく、トライフルを掻っ込む作業に戻った。
ナマエはそんなクラッブ達を見ながら、互いに一言も交わさずに、奇妙な気持ちでスプーンを口に運んだ。
ナマエはデザートを食べ終え、グリフィンドールのテーブルを振り返った。
ハリーたちの方に向かおうと思ったが、すでに席には誰もいなかった。
ナマエは残念に思いながら、大広間を出てレイブンクローの寮に戻ることにした。しんとした廊下を歩きながら、ナマエはふと思い出した。
「──ここは女子トイレよ!あなたは最近いつもここにくるわ」
ナマエは、ハロウィーンの日にマートルにそう言われたのだ。ナマエの記憶の中では、自ら進んで三階の女子トイレを訪れたことなどなかった。ナマエはくるりと向きを変えた。そうだ、マートルに、自分がそこでいつも、何をしていたのか聞きにいこう。
ナマエは、自分の意思で初めて女子トイレに向かってみることにした。何か……あそこに、何かあるはずだ。
三階の女子トイレには「故障中」の貼り紙があった。ナマエは無視してトイレに足を踏み入れると、何故かほのかにニワヤナギの香りがした。
「また来たの?今度は何の用?」
ねっとりとした高い声がした。マートルが、ふわふわと宙に浮いていた。
「マートル、あんたに会いに来たんだ」
マートルは目を丸くして、腕を組んでナマエを頭からつま先までじろりと見た。
「──私に会いに?」
心なしか、マートルの言葉が柔らかくなった。
「うん。あんたと話したかった。でも、──二人きりじゃないみたいだな」
トイレの個室を顎でしゃくった。一室だけ、扉が閉まっている個室があった。
扉の上からは黒い煙がもくもくと上がっていて、明らかに人の気配があった。
♢♢♢
ハリー、ロン、ハーマイオニーは、三階の女子トイレでこっそりポリジュース薬を作っていた。一ヶ月前から、ハーマイオニーが丹精込めて調合していたものだ。
ハリーたちは、マルフォイがスリザリンの継承者について何か知っているか、むしろその張本人だと考えていた。マルフォイに真相を聞き出す為、ポリジュース薬でクラッブとゴイルに変身する計画なのだ。
あとはこれを飲むだけ──というときだった。
ほとんど生徒がいないはずの学校で、廊下から、カツカツと足音が聞こえた。近づいてくる。
「しっ、誰か来た!」
ハリーが声をひそめて二人に言った。
「……パーシーかもしれない、僕が校則を破るんじゃないかといつも……」
ロンが小声でそう言いかけると、話し声が聞こえてきたので、ハーマイオニーが手で制した。
「この声、マートルと……誰かしら」
足音が再び動き出した。カツカツと音を立ててこちらに近づいてくる。そして、ハリー達の扉の目の前で、音が止まった。
「確認だけど、ここのトイレって故障中だよな?」
「そうね、私が全部壊しちゃったもの」
ナマエの声だった。ハリーたちは目を丸くした。なぜ、ナマエがここに?
「──じゃあ、女子が使用中ってわけじゃなさそうだな」
ナマエがコンコン、と扉をノックした。三人は顔を見合わせて、迷った。
何も答えずにいると、ナマエとマートルの声が聞こえてきた。
「マートル、あんたはここに誰がいるのか知ってるよな?」
「ええ、教えてあげましょうか?教えたら何をしてくれるの?」
しばらくして、マートルの嬉しそうなくすくす笑いが聞こえたので、ハリーたちは驚いて再び顔を見合わせた。
「じゃあ、教えてあげるわ。ここにいるのは──」
マートルの声を遮って、ハリーは扉を開けた。
「ナマエ、僕たちだ」
ナマエは、険しい顔で杖をこちらに向けていた。ハリーたちの顔を見ると、すぐに杖を下ろした。そばに浮かんでいたマートルはハリーを不満そうに見た。
「ハリー!ロン、ハーマイオニー……道理でどこにもいないわけだ。寂しかったぜ」
ナマエは冗談ぽく笑って見せたが、かなりやつれていた。目の下のクマがひどく、いつもより虚な目で便器の上でぐつぐつ煮える大鍋を見ていた。
「三人で何してるんだ?」
「ポリジュース薬よ」
ハーマイオニーが即座に答えたので、ロンが続けた。
「クラッブとゴイルと、ミリセントに化けて、マルフォイに『スリザリンの継承者』のことを聞きに行くんだ。あいつ、ずーっと、何か知ってる風の態度だろ?」
「これが、ポリジュース薬…………すごいな」
ナマエは素直に感心して、鍋の中を見つめた。それを見たハーマイオニーが、誇らしそうに頬を少し染めた。
「君は、こんなところで何をしてるの?」
ハリーがナマエに尋ねた。
ナマエは、──ハリーの見間違いでなければだが──ほんの一瞬、泣きそうな顔をして、いつものように片方の口角をあげた。
「ちょっと、マートルとデートの約束をね」
ナマエがそう言うと、満足そうな顔のマートルが、上からふわふわと降りてきて、ナマエの首に腕を回した。
「私、歳下には興味ないけど……仕方ないわね」
マートルは偉そうにナマエの頭を撫でるような動きをして、得意気に言った。こんなに嬉しそうなマートルは初めて見た。
ハリー、ロン、ハーマイオニーはその状況がよく理解できず、一瞬何も言えなかった。ロンが出し抜けにナマエに尋ねた。
「君、さっき夕食で、マルフォイといただろう。何の話をしてたんだ?」
「……ああ!そうそう。スリザリンの継承者は誰だと思うか聞いてみたんだ」ナマエは思い出したように言った。
「直接聞いたの?!」ハーマイオニーが驚いて言った。
「うん、マルフォイは何も言わなかったけど……あと、何でクリスマスなのに家に帰らないのかって──」
ナマエの話を聞いて、ハリー、ロン、ハーマイオニーが呆れたように大きくため息をついたので、ナマエは眉を下げた。
「なんだよ、もっと上手く聞き出せって?でも、少なくともマルフォイは継承者じゃないと思う」
ナマエは絡みつくマートルから身を捩りながら腕を組んだ。
「どのみち、あんたたちが今から聞きに行くってんなら、一緒じゃないか。──な、それを飲むところ見ててもいいか」
ナマエがマートルとほとんど重なりながら言った。ゴーストと重なっているせいで、ナマエの顔色が余計に悪く見えた。
「別にいいけど、笑ったりしないでね」
ナマエは嬉しそうに「もちろん」と頷いた。
◆◆◆
ナマエは、ポリジュース薬を飲んで見事にクラッブとゴイルの姿になったハリーとロンを見送った。
しかし、ハーマイオニーは個室に閉じこもったままで、十五分は経っていた。
「ハーマイオニー、大丈夫か?」
返事はなかった。ポリジュース薬の効果は一時間だと言っていた。こんなに時間を使ってしまっていいのだろうか、それとも、失敗したのだろうか。
「……ハーマイオニー、出ておいで。ポリジュース薬で元に戻らなかった人はいない」
返事の代わりに啜り泣きが聞こえた。ナマエは、一年生の時にハーマイオニーがトイレで泣いていたときのことを思い出した。
「大丈夫だ。あんたがどんな姿でも笑ったりしないから」
ゆっくり個室のドアが開いた。ナマエは驚いて後ずさった。ハーマイオニーの顔は黒い毛で覆われ、目は黄色に変わっていたし、髪の毛の中から、長い三角耳が突き出していた。
「あれ、ね、猫の毛だったの!」
ハーマイオニーが泣き喚き、マートルがゲラゲラ大笑いした。
「ミ、ミリセント・ブルストロードは猫を飼ってたに、ち、違いないわ!それに、このせ、煎じ薬は動物変身に使っちゃいけないの!」
「あんた、ひどーくからかわれるわよ」マートルはうれしそうだ。
「大丈夫だ、ハーマイオニー」
ナマエは即座に言った。
「医務室に行こう。マダム・ポンフリーはうるさく追及しない人だから」
ハーマイオニーにトイレから出るよう説得するのに、ずいぶん時間がかかった。
ナマエはずっとハーマイオニーを心配していたので、マートルはかなり腹を立てたようだった。
トイレを出て行く時には、今度はマートルが個室に閉じこもってめそめそ泣き始めた。もう、マートルからは何も聞けそうになかった。
「マートル!ハリーたちが帰ってきたら、事情を説明してやってくれないか。頼むよ」
ナマエはそう言い残して、ハーマイオニーを医務室に連れて行った。
その晩、ナマエは寮に戻ってから、いつものように、トム・リドルの日記を開こうとすると、異変に気がついた。
ローブのポケットに入れて、肌身離さず持っていたはずなのに、無い。
トムとの会話はもはや日課になっていたのに、トムにだけ、自分の悩みを打ち明けていたのに……ナマエは途方に暮れた。
落としたんだろうか。だとしたら、女子トイレかもしれない……。ナマエは、マートルを思うと気が滅入った。
ナマエはむしろ、この静けさに安心していた。自分が誰かを襲ったりする心配をしなくて済むことで、ゆっくり体を休めることができた。
久しぶりに睡眠をとったような気がした。クリスマスの朝、ベッドの脇にはプレゼントが積まれていた。
ナマエが一番嬉しかったのは、ウィーズリー夫人からもらった手編みのセーターだった。去年、ロンたちが着ているのを見て羨ましく思ったのだった。グレーの毛糸で編まれたセーターはナマエの心もあたためた。こんなに嬉しい気持ちになったのは久しぶりだった。
ナマエは、誰もいない談話室でクリスマスプレゼントの菓子を食べながら、記憶がない間に溜め込んでしまった課題と格闘して過ごした。
夕食の時間になり、大広間に降りると、着席しているのは同学年ではナマエと、ハリー、ロン、ハーマイオニー、そしてマルフォイ、クラッブ、ゴイルだけだった。
ナマエは、マルフォイを見て疑問に思った。何故、やつは学校に残ってるんだろう?去年は家に帰っていたはずだ。
それに、マルフォイはハロウィーンの日、壁に描かれた文字を見て、一番最初に声を上げていた。スリザリンの継承者のことを、何か知っているような口ぶりだった。
ナマエはスリザリンのテーブルに向かった。ハリーたちは、ナマエが自分たちのそばに来るだろうと手招きしていたので、驚いていた。
「メリークリスマス」
ナマエがマルフォイに声をかけると、クラッブとゴイルがぽかんと振り返った。マルフォイは、一瞬虚をつかれたような顔をしてから、気取って顎を上げた。
「何の用だ?」
「別に、一人で食べるのは寂しいからさ」
ナマエはそう言ってマルフォイの隣に座った。向かいに座っているクラッブとゴイルの興味は、ナマエよりもクリスマス・ディナーに移っていた。マルフォイは眉を寄せた。
「ここはスリザリンのテーブルだ」
「知ってるよ、どうも」
ナマエは無遠慮に目の前のローストチキンを一本掴んだ。それを見たゴイルは、その皿からこれ以上肉を取られないようにと自分のほうにぐいと寄せた。
「お前はスリザリン生じゃない。あっちへ行け」
ナマエはチキンを飲み込んでから答えた。
「……もし、俺がスリザリンの継承者でも?」
ナマエはマルフォイにしか聞こえないように低い声で言った。
マルフォイは眉をまたぴくりとさせた。
「──お前が?」
マルフォイは目を丸くしてナマエを見た。
ナマエはチキンを食べながら、マルフォイの反応を探るように慎重にその表情を見た。マルフォイは、継承者について自分よりも詳しく知っているかもしれない。少しでも、何か聞き出したかった。
「マルフォイ、あんたもハリーが継承者だと思ってるんだな」
ナマエは大袈裟にがっかりしたような声を出した。マルフォイが話に乗ることを願った。
「そんなはずがないだろう、あの聖ポッターが、スリザリンを継承できるわけがない」
「じゃあ、あんたは──誰がふさわしいと思ってるんだ?」
マルフォイは、ナマエを品定めするようにじっと見た。頬が赤くなっていた。きっと、自分が最も相応しいと言いたいに違いない。
マルフォイ自身が継承者なら、蛇語をひけらかして、マグル生まれの生徒を脅していてもおかしくないと、ナマエは思った。
ナマエはチキンをきれいに骨だけになるまで食べながらマルフォイがの答えを待ったが、マルフォイは何も言わなかった。ナマエはもう十分だと思った。
ナマエは、マルフォイが手をつけていないトライフルの皿を引き寄せた。
「なあ、何で学校に残ってるんだ?マルフォイ。クリスマスなのに、家に帰ってこなくていいって、ママに怒られたのか?」
ナマエはトライフルをスプーンで掬いながら意地悪くニヤッと笑った。この言葉は、去年マルフォイが言った台詞だった。
途端にマルフォイは顔を顰めた。
「お前には関係ない」
マルフォイは席を立って、大広間を出て行った。
クラッブとゴイルは、一瞬マルフォイを見たが、目の前の食事の方が大事だったらしく、トライフルを掻っ込む作業に戻った。
ナマエはそんなクラッブ達を見ながら、互いに一言も交わさずに、奇妙な気持ちでスプーンを口に運んだ。
ナマエはデザートを食べ終え、グリフィンドールのテーブルを振り返った。
ハリーたちの方に向かおうと思ったが、すでに席には誰もいなかった。
ナマエは残念に思いながら、大広間を出てレイブンクローの寮に戻ることにした。しんとした廊下を歩きながら、ナマエはふと思い出した。
「──ここは女子トイレよ!あなたは最近いつもここにくるわ」
ナマエは、ハロウィーンの日にマートルにそう言われたのだ。ナマエの記憶の中では、自ら進んで三階の女子トイレを訪れたことなどなかった。ナマエはくるりと向きを変えた。そうだ、マートルに、自分がそこでいつも、何をしていたのか聞きにいこう。
ナマエは、自分の意思で初めて女子トイレに向かってみることにした。何か……あそこに、何かあるはずだ。
三階の女子トイレには「故障中」の貼り紙があった。ナマエは無視してトイレに足を踏み入れると、何故かほのかにニワヤナギの香りがした。
「また来たの?今度は何の用?」
ねっとりとした高い声がした。マートルが、ふわふわと宙に浮いていた。
「マートル、あんたに会いに来たんだ」
マートルは目を丸くして、腕を組んでナマエを頭からつま先までじろりと見た。
「──私に会いに?」
心なしか、マートルの言葉が柔らかくなった。
「うん。あんたと話したかった。でも、──二人きりじゃないみたいだな」
トイレの個室を顎でしゃくった。一室だけ、扉が閉まっている個室があった。
扉の上からは黒い煙がもくもくと上がっていて、明らかに人の気配があった。
♢♢♢
ハリー、ロン、ハーマイオニーは、三階の女子トイレでこっそりポリジュース薬を作っていた。一ヶ月前から、ハーマイオニーが丹精込めて調合していたものだ。
ハリーたちは、マルフォイがスリザリンの継承者について何か知っているか、むしろその張本人だと考えていた。マルフォイに真相を聞き出す為、ポリジュース薬でクラッブとゴイルに変身する計画なのだ。
あとはこれを飲むだけ──というときだった。
ほとんど生徒がいないはずの学校で、廊下から、カツカツと足音が聞こえた。近づいてくる。
「しっ、誰か来た!」
ハリーが声をひそめて二人に言った。
「……パーシーかもしれない、僕が校則を破るんじゃないかといつも……」
ロンが小声でそう言いかけると、話し声が聞こえてきたので、ハーマイオニーが手で制した。
「この声、マートルと……誰かしら」
足音が再び動き出した。カツカツと音を立ててこちらに近づいてくる。そして、ハリー達の扉の目の前で、音が止まった。
「確認だけど、ここのトイレって故障中だよな?」
「そうね、私が全部壊しちゃったもの」
ナマエの声だった。ハリーたちは目を丸くした。なぜ、ナマエがここに?
「──じゃあ、女子が使用中ってわけじゃなさそうだな」
ナマエがコンコン、と扉をノックした。三人は顔を見合わせて、迷った。
何も答えずにいると、ナマエとマートルの声が聞こえてきた。
「マートル、あんたはここに誰がいるのか知ってるよな?」
「ええ、教えてあげましょうか?教えたら何をしてくれるの?」
しばらくして、マートルの嬉しそうなくすくす笑いが聞こえたので、ハリーたちは驚いて再び顔を見合わせた。
「じゃあ、教えてあげるわ。ここにいるのは──」
マートルの声を遮って、ハリーは扉を開けた。
「ナマエ、僕たちだ」
ナマエは、険しい顔で杖をこちらに向けていた。ハリーたちの顔を見ると、すぐに杖を下ろした。そばに浮かんでいたマートルはハリーを不満そうに見た。
「ハリー!ロン、ハーマイオニー……道理でどこにもいないわけだ。寂しかったぜ」
ナマエは冗談ぽく笑って見せたが、かなりやつれていた。目の下のクマがひどく、いつもより虚な目で便器の上でぐつぐつ煮える大鍋を見ていた。
「三人で何してるんだ?」
「ポリジュース薬よ」
ハーマイオニーが即座に答えたので、ロンが続けた。
「クラッブとゴイルと、ミリセントに化けて、マルフォイに『スリザリンの継承者』のことを聞きに行くんだ。あいつ、ずーっと、何か知ってる風の態度だろ?」
「これが、ポリジュース薬…………すごいな」
ナマエは素直に感心して、鍋の中を見つめた。それを見たハーマイオニーが、誇らしそうに頬を少し染めた。
「君は、こんなところで何をしてるの?」
ハリーがナマエに尋ねた。
ナマエは、──ハリーの見間違いでなければだが──ほんの一瞬、泣きそうな顔をして、いつものように片方の口角をあげた。
「ちょっと、マートルとデートの約束をね」
ナマエがそう言うと、満足そうな顔のマートルが、上からふわふわと降りてきて、ナマエの首に腕を回した。
「私、歳下には興味ないけど……仕方ないわね」
マートルは偉そうにナマエの頭を撫でるような動きをして、得意気に言った。こんなに嬉しそうなマートルは初めて見た。
ハリー、ロン、ハーマイオニーはその状況がよく理解できず、一瞬何も言えなかった。ロンが出し抜けにナマエに尋ねた。
「君、さっき夕食で、マルフォイといただろう。何の話をしてたんだ?」
「……ああ!そうそう。スリザリンの継承者は誰だと思うか聞いてみたんだ」ナマエは思い出したように言った。
「直接聞いたの?!」ハーマイオニーが驚いて言った。
「うん、マルフォイは何も言わなかったけど……あと、何でクリスマスなのに家に帰らないのかって──」
ナマエの話を聞いて、ハリー、ロン、ハーマイオニーが呆れたように大きくため息をついたので、ナマエは眉を下げた。
「なんだよ、もっと上手く聞き出せって?でも、少なくともマルフォイは継承者じゃないと思う」
ナマエは絡みつくマートルから身を捩りながら腕を組んだ。
「どのみち、あんたたちが今から聞きに行くってんなら、一緒じゃないか。──な、それを飲むところ見ててもいいか」
ナマエがマートルとほとんど重なりながら言った。ゴーストと重なっているせいで、ナマエの顔色が余計に悪く見えた。
「別にいいけど、笑ったりしないでね」
ナマエは嬉しそうに「もちろん」と頷いた。
◆◆◆
ナマエは、ポリジュース薬を飲んで見事にクラッブとゴイルの姿になったハリーとロンを見送った。
しかし、ハーマイオニーは個室に閉じこもったままで、十五分は経っていた。
「ハーマイオニー、大丈夫か?」
返事はなかった。ポリジュース薬の効果は一時間だと言っていた。こんなに時間を使ってしまっていいのだろうか、それとも、失敗したのだろうか。
「……ハーマイオニー、出ておいで。ポリジュース薬で元に戻らなかった人はいない」
返事の代わりに啜り泣きが聞こえた。ナマエは、一年生の時にハーマイオニーがトイレで泣いていたときのことを思い出した。
「大丈夫だ。あんたがどんな姿でも笑ったりしないから」
ゆっくり個室のドアが開いた。ナマエは驚いて後ずさった。ハーマイオニーの顔は黒い毛で覆われ、目は黄色に変わっていたし、髪の毛の中から、長い三角耳が突き出していた。
「あれ、ね、猫の毛だったの!」
ハーマイオニーが泣き喚き、マートルがゲラゲラ大笑いした。
「ミ、ミリセント・ブルストロードは猫を飼ってたに、ち、違いないわ!それに、このせ、煎じ薬は動物変身に使っちゃいけないの!」
「あんた、ひどーくからかわれるわよ」マートルはうれしそうだ。
「大丈夫だ、ハーマイオニー」
ナマエは即座に言った。
「医務室に行こう。マダム・ポンフリーはうるさく追及しない人だから」
ハーマイオニーにトイレから出るよう説得するのに、ずいぶん時間がかかった。
ナマエはずっとハーマイオニーを心配していたので、マートルはかなり腹を立てたようだった。
トイレを出て行く時には、今度はマートルが個室に閉じこもってめそめそ泣き始めた。もう、マートルからは何も聞けそうになかった。
「マートル!ハリーたちが帰ってきたら、事情を説明してやってくれないか。頼むよ」
ナマエはそう言い残して、ハーマイオニーを医務室に連れて行った。
その晩、ナマエは寮に戻ってから、いつものように、トム・リドルの日記を開こうとすると、異変に気がついた。
ローブのポケットに入れて、肌身離さず持っていたはずなのに、無い。
トムとの会話はもはや日課になっていたのに、トムにだけ、自分の悩みを打ち明けていたのに……ナマエは途方に暮れた。
落としたんだろうか。だとしたら、女子トイレかもしれない……。ナマエは、マートルを思うと気が滅入った。
