かつお節をもらった日
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休日の昼下がり。
窓から差し込む太陽の光が心地よい社員寮で、私はこの時間になっても姿を見ていないダニエルさんの様子を見に行っているところだった。
あと一階分というところで、気怠げなダニエルさんとちょうど鉢合わせる。
「あ、起きたんですねダニエルさん」
「おー、腹減ったからコンビニ……と思ったが、いいもん持ってねえか?」
「食べるかなと思って。インスタントのお味噌汁と、おにぎりだけですけど」
私は肘に引っ掛けたビニール袋と、ラップのされたお皿を少し持ち上げる。
「気が利くじゃねえか。なら部屋戻るか……、お前もこれから昼飯なんだろ」
「はい、一緒に食べるつもりで自分の分も持ってきました」
「おーおー、よしよし」
「わ」
頭をわしゃっと撫でられた私が抗議の声をあげるより先に、ダニエルさんはくるりと踵を返した。
そんな彼の後ろ姿を追うようにして、階段を上がる。
両手は塞がっているので髪は乱れたままだ。
「二日酔いですか?」
「ちょっとなー。新しく入れてもらった酒が美味くて、飲み過ぎた」
そんな話をしながらたどり着いた扉を開けたダニエルさんは、先に私を通してくれる。
ローテーブルにおにぎりの乗った皿を置いてから、電気ポットに水を入れてスイッチを入れた。
そして振り返れば、ダニエルさんは早速皿に被さっていたラップを剥がしていた。
「これ、名無しが握ったのか」
「ええ。朝ご飯の鮭の残りを入れたやつと、おかかチーズです。2個で足りますか? 足りなければまだご飯あったんで、追加で握りますけど」
「いや、足りる。炭水化物摂り過ぎてもいけねえし」
「そこ気にするならお酒と煙草の量減らしたらどうですか」
「うるせーな」
言葉とは裏腹に、決してうるさいとは思っていなさそうな顔で笑う。
「酒飲む俺も煙草吸う俺も好きなくせに」
「……それとは別に心配してるんです」
「そりゃありがたいことで」
開き直った態度のダニエルさんがおにぎりにかぶりつく。鮭は雪にぃが焼いてくれたやつだし、おかかとチーズは既製品だから問題ないだろうが、塩加減は大丈夫だっただろうか。
確認しようとした時、足元に柔らかな温もりを感じ目を落とした。
「にゃー!」
「どうしたPT、お前はさっき飯食べただろ」
「あ、もしかしたらこれ、気づいてるのかも」
何が、と聞くダニエルさんに、下げていたビニール袋から取り出した、使いかけのかつお節パックを見せる。
「おにぎり作ったときに余っちゃいまして。ダニエルさん、PTにあげて良いですか? もちろん添加物とかは何も入ってないです」
「にゃあ、にゃあ!」
「PTがそれだけ欲しがってるなら駄目とは言えねえなー。皿に出してやってくれるか」
「はい。おいで〜、PT」
かつお節が貰えることがわかったのか、私の足元に体を擦り付けながら歩くPTを蹴らないように慎重に餌入れまで向かう。
皿に小分けパックの残りを出してやると、PTは早速ぺろぺろと舐め取り始めた。うにゃうにゃと鳴きながら食べる様子が愛おしい。
その時ちょうど、電気ポットのお湯が沸いたことを知らせる音が鳴り始める。
お湯を注いだインスタントカップの味噌汁を両手にダニエルさんの横に座ったときには、ダニエルさんは2個目のおにぎりに手を伸ばしていた。
「塩加減、大丈夫でした?」
「おう。美味い」
「それなら良かったです」
自分の分のおにぎりを手に取り、口にする。ダニエルさんの言葉はお世辞ではなさそうで安心した。
「そう言えば、その格好のままコンビニ行こうとしてたんですか?」
ダニエルさんのヘアセットされていない髪の間から見える眉毛が、片方だけ上がる。
「あ? 別にいいだろ、コンビニ行くだけなんだから」
「…………」
「え、何、そういうの許せない感じ?」
「かっこよすぎるから嫌です」
「はぁ?」
「いや普段からかっこいいですよ?! 私はオールバック大好きですけど! でも髪下ろされると他の人の目にも付きやすくなるから……そのまま出かけないでください……逆ナンされちゃう……」
駄々っ子のような言葉に彼は驚いた様子を見せたものの、すぐに目を細め、私(か彼の愛猫)しか知らない顔を作っていた。
「なんだそりゃ。褒めてんのか文句言ってんのかどっちだよ」
「両方です」
口を尖らせて無茶を言う私に、ダニエルさんはくつくつと笑った。
「ま、今日はもう出かける必要なくなったけどな。昨日飲み過ぎたし、ルーティンこなす以外はダラダラするかね」
「それもです」
「どれだよ」
味噌汁を啜りながら目線を向けられる。
「ダニエルさん、一人で飲みに行っちゃうんですもん」
「なんだ? お前も行きたかったのか。飲みたきゃ後からでも夢十夜に来れば……」
「飲みに行きたかったと言うより、……ダニエルさんと一緒にいたかったです」
そこまで言い終わった後に、もしかしてだいぶ恥ずかしいことを言ってしまったのではないかと気づき、俯く。
「……お前って、マジで俺のこと大好きだなあ……」
しばらくの沈黙のあと放たれた、間延びして他人事にも思っていそうなダニエルさんの声に結局顔を上げることとなるのだが。
「そうですよ。文句あるんですか」
「そんなこと言ってないだろ。なんかこう、改めて思ったっつーか……」
味噌汁をローテーブルに置いたあと、ダニエルさんが自分の前髪を弄る。
「さっきの髪下ろしたらどうのこうのー……もだけどよ、そんなに俺のこと好きなのお前だけだと思うぜ? そりゃあ、髪下ろすだけでモテるんなら願ったり叶ったり……いてて、つねるな! 冗談だって!」
ダニエルさんの太い腕から手を離す。
相変わらずフラフラした言動に心をかき乱され、またそっぽを向くしかなくなってしまった。
そっぽを向いても、ダニエルさんが気まずそうにしている空気は伝わってくる。
「あー……悪かった。他の女のウケ狙おうなんて考えてねえって。な?」
「……わかってますけど」
そう、ダニエルさんが浮気をするような人ではないことはわかっている。私も彼を信用していないわけではない。
それでもへそを曲げずにはいられなかった。
「どうせ、子供っぽいとか、面倒くさいって思ってるんでしょ」
沈黙が気まずくて、余計な一言まで足してしまう。
一緒にお昼を食べようと思っただけなのに。
私たちの空気を察しているのかいないのか、目の端にはPTが満足気に毛繕いをしている姿が映っていた。
すみません、何でもありませんでした、忘れてください。
そう言おうとしたとき、また間延びした声で目線を戻される。
「愛されてんのな〜、俺」
「はい?」
「違えの?」
「違くは、ない、ですけど……」
目を瞬かせるダニエルさんに、こちらはもじもじと返事をする。
私が肯定したことに満足したのか、彼は口の端を上げた。
「拗ねんのが可愛くて、ついからかいたくなるんだよ。面倒くさいって思ってればわざわざそんなことしねえし」
「……意地悪ですね」
「他の奴には見せねえだろ、そういう態度。だから愛されてんなーって」
私の嫌な態度にも気を悪くすることなく、ずっと余裕を見せてくれることが、悔しいと同時にありがたかった。
ずっと手に持ったまま食べるのを中断していたおにぎりに口をつけながら、ダニエルさんに身を寄せる。
「よし、じゃあ今日は一緒に飲みに行こうぜ。昨日入れてもらった酒、飲ませてやるよ」
「二日酔いの人は今日は飲みに行っちゃ駄目です」
「……『嬉しい!』って言われる想定だったんだが……」
苦い顔をするダニエルさんの姿に笑う私を見ながら、PTが大きなあくびをしていた。
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