PTも賛成だってよ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
可不可に誘われたときは、「ジューンブライドのような季節のイベントに乗っかることも、HAMAツアーズの広告になるかも」とか、「相変わらず凪くんは一生懸命で優しいなあ」とか、「華やかなチャペルが見られるの、楽しみだな」とか、そんなことしか考えていなかった。
それが、いざ当日。会場に行ったらダニエルさんがいた。
潜さんがいたことも併せて、予想外のメンバーに驚きつつ、ダニエルさんにどうしてこの場にいるのかと問えば、「社長に騙された」とその大きな体を屈めてこっそり耳打ちしてくれた。
「お前こそなんでいるんだ」と聞き返されて、可不可に招待されたと答えれば、「あーあー、マジかよ。お前に見られるのか……」と頭を掻いている。
私も私で、ダニエルさんのイメムが楽しみなような、自分以外の人間にダニエルさんの貴重な一面を見られることが悔しいような、複雑な気持ちを抱えたのだった。
――潜さんの刺激的なイメムが強制終了された後、唐突に始まったダニエルさんのイメムは、急なプロポーズを除けばあまりにいつものダニエルさんだった。
いつも二人で飲みに行くような居酒屋で、いつもの口調で、いつも私の話を聞いてくれるときと同じ態度で、いつも私に言うような台詞。
な? と甘えてくる語尾も、何度聞いたことか。
お互いリラックスできる関係なんだから、結婚して一緒にいよう。そう考える人だと思っていなかった。
だからまさか、演技でもダニエルさんのプロポーズが聞けるだなんて。
こっそり泣いてしまった目元は、そっと隠した。
▶▶▶
無事イメムコンテストが終わってから、数日後。
生行くんが不在にしている犬部屋で、二人でPTと遊んでいたとき、ふとダニエルさんが口を開いた。
「この間のプロポーズ、どうだったよ」
「良かったと思いますよ。点数も高かったし、男性票も入っていましたし」
急にどうしてそんなことを聞くのか、と声色に乗せたが、ダニエルさんもダニエルさんで、答えがズレていることへの不満を声色に乗せてきた。
「そうじゃねえよ。お前がどう思ったか、って聞いてんの」
「だから……良かった、ですよ?」
「じゃあ、ああいうプロポーズで良いってことだよな?」
そう聞かれて、猫用のおもちゃを持っていた手が止まる。
「良かった良かった。まあ、タキシードに花束とか、ドラマみてえなプロポーズが良いとか言われても困るけどよ」
「ま、待ってください。何の話……」
「何のって……プロポーズの話」
「イメムですよね? あくまで演技……」
「ええ……?」
明らかに呆れた表情をしたダニエルさんはため息をつく。
「あのイメム、どう見てもお前相手だったろ」
「はい!?」
「いや、逆に俺が自分じゃない誰かにプロポーズすると思ったのかよ」
「だって、そういうコンテストだから……」
「……あのなー……」
再度ため息をついたダニエルさんが、視線をPTから私へ向ける。
自分の膝に頬杖をつくような形で口元を隠しながら、呆れた口調のままで話を続けた。
「mahorovaで自分の脳内イメージを再現、再生する機能を使って作られてるわけよ、あのイメムは」
「う、うん……」
「つまり、俺が脳内でちゃんとイメージしないと成立しねえの。プロポーズする時と相手を」
「……はい」
「そこでお前以外誰を想定して脳内イメージ作れってんだ?」
「…………う、嘘……本当に……?」
「だから本当だ……って泣くなよ!? 別に怒って……ああ、伝わってなかったのかよとは思ったけど……泣くようなことじゃ」
「私と結婚するのもいいって、思ってくれてるってことだって考えたら……嬉しくて……」
ぐすぐすと泣きながらそう言えば、ダニエルさんは安心したのか、フッと息を吐いて笑みを浮かべる。
「あのコンテストがあるまで正直具体的には考えてなかったけどよ。どうせお前に見られちまうなら、そのままプロポーズにしちまってもいいかなって。ああいうのは嫌だって言われたら考え直せるし。……まさか、それ以前の話だったとは思わなかったけどな」
「そりゃ、あの場で自分個人に宛てたプロポーズだなんて思いませんよ……! 返事するわけにもいかないですし」
「はは、……で、どうだ? お前も俺も、お互い一緒にいて息抜きできるなら……悪くねえだろ。結婚」
あの日イメムで聞いたような台詞を、もう一度言われる。
今度聞いているのはコンテスト会場の観客ではなく、私とPTだけだ。
「……もちろん。今後とも、よろしくお願いします」
「うにゃあん」
「お、PTも賛成だってよ」
そう言ってPTを抱え上げたダニエルさんの横顔を見て、ほんの少し彼の顔が赤いことに気づいてしまった。PTに構うことで誤魔化したらしい。
私の顔の方が赤くなっているだろうし、そのうえ、涙で酷くなっているだろうから指摘はしないけれど。
しばらくお互い黙っていた。その間ダニエルさんはPTを撫で、私は涙の跡を拭いていた。
そして落ち着いた頃、またもやダニエルさんが話しかけてくる。
「指輪、今度見に行くか」
「! ……行きたいです」
「ん。あとは……この会社って結婚してからも社員寮住みになんのか社長に確認しねえとな」
「結婚式は……」
「お前がしてえなら。あー……でも式を挙げる挙げないに関わらず、晴れ姿は見てえな」
「ダニエルさんは洋装も和装も似合いそう」
「親への挨拶もどっかで行かなきゃなー」
「わー……緊張するかも」
「大丈夫だって。……子どもは? 欲しいタイプだったっけ」
「まだはっきりとは考えられてないですけど、ジョー様の相手するダニエルさん見たときに、ちょっといいなって」
途中途中、PTが相槌を打ってくれるなか、将来を積み重ねていく。
考えなければならないことがたくさんあるのに、あの面倒くさがりのダニエルさんは嫌な顔一つしていない。
テキトーに見えたプロポーズでも、彼の本気が会話の端々からじんわりと染みてくる。
なんでもない顔で未来の話をするダニエルさんが、どうしようもなく愛しい。
じわじわと現状を認識して、また胸が押される感覚がする。
こんなに急に未来を詰め込まれるだなんて思ってなかったけれど、この胸を押される感覚は、不安ではなく幸せからくるものだ。
凪くんがコンテストのメンバーに何故ダニエルさんを入れたのかはわからない。自分の班のコンダクターだからと、とりあえず声をかけてみただけかもしれない。
それでもこうなったからには、凪くんに感謝だな。もし式を挙げるなら(そうでなくても、ブーケくらい)凪くんにお花を選んで欲しい。
またやらなきゃいけないことが増えたと一人で笑うと、ダニエルさんが私の頬に触れた。
「何にやけてんだ、さっきは泣いてたのに忙しい奴だな」
「全部ダニエルさんのせいです〜」
わざと拗ねた態度をとれば、「今度は怒んのか? ほんと忙しいな」と笑われた。
ちょうどそのとき、生行くんが部屋へ戻って来る。
「あ、主任。いらしてたんですか」
「うん、お邪魔してます」
「おー、丁度良かった。俺たち結婚すんだけどよ、うちの会社で必要な手続きって何かあったっけか」
「……は?」
何故か誰よりも早く私たちから結婚報告をされてしまった生行くんが、こめかみに指を当てて目を丸くする。
普段は冷静で、潜さんに言わせれば「せかせかしているおちびちゃん」な生行くんが、しばらく動けなかった姿は新鮮だった。
1/1ページ
