花見企画
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電灯に照らされた桜の木を見上げながらダニエルは缶ビールを煽った。
桜の花は精々三分咲きという少し早い時期、加えて夜だからか他に花見客などいない。
喉を過ぎていく満足感を味わった後、片眉を上げて隣の名無しを見やる。
「なーんか思ってたのとちげえ」
「文句あるんですか? ダニエルさんが私に企画しろって言ったんですよ」
「いやまあ、言ったけどよ」
「ビールがあって、おつまみがあって、桜はまだ見頃じゃないですけど……それでも綺麗で。何が不満だって言うんですか」
名無しが膨れてみせれば、ダニエルがその頬を片手で挟む。
間抜けな顔になった名無しを見てダニエルが笑った。
「不満なんかねえよ、そう拗ねるなって。思ってたのと違うのは本当だけどな」
「むぐ」
「会社の飲み会なら経費で飲み食いできるだろ」
「んん」
「まさか俺とお前の2人で花見とはなー」
「うー……、っもう! いい加減離してください!」
名無しがもがいて顔をダニエルの手からなんとか抜いた後、押さえる為かはたまたただ甘えたいだけか、彼の腕に抱き着いて頭を擦り寄せる。
「離してください、って言いながらくっつくのか」
「さっきから文句ばっかり」
「文句じゃねえって。今だって離れろとか言ってないだろ」
「……ダニエルさん、私がダニエルさんと2人でのお花見を企画しないと本当に思ったんですか? 実は少しそれを狙って言ったんじゃないんですか?」
「あー、はいはい、そうだなー」
「うわ、テキトーだなあ」
「何を今更。それよりほら、お前も飲め」
ん、とダニエルが飲んでいた缶ビールを名無しに差し出す。
名無しがダニエルから身体を離して彼を見上げた。
「ビール飲めないんですよ、苦いから」
「これは苦味を抑えてあっから飲めるだろ」
「本当ですか? それなら……にがっ、苦いじゃないですか!」
「はは、ガキだなあ」
眉毛を寄せて顔をしかめる相手が愛しくて仕方がない。からかいがいがありすぎるコイツが悪いとすら思う。
そんなことを考えながら、ダニエルは突き返されたビールに再度口をつけた。
口直しに名無しも甘い酒に手を伸ばす。
「一応これでも下見のつもりで来てるんですよ」
「ほう」
「HAMAツアーズの皆でもお花見したいし。ダニエルさんに言われた後、可不可にも相談して許可も貰いました」
「おっ、そうかそうか。頑張れよ〜、主任」
「なに他人事にしてるんですか。ダニエルさんの提案だってのも言ってありますから、ちゃんとお手伝いしてください」
「やだよ。タダ働きだろ?」
「買い出しとか場所取りとか、全部私にさせるつもりですか?」
「主任ならできる、俺は信じてるぜ」
「出た、都合のいいときだけそういうこと言うんですもん」
「いやいや、いつも信じてるって」
「なら信頼できる私と一緒に企画側として働いてください」
「それとこれとは別……だがそうだな、何か対価があるってんなら考える」
「対価って……可不可に相談してみます? 一応勤務時間内に開催する方向なんですけど、確かに手当が出ないか交渉する余地はあるかも……?」
「まあそれもいいんだけどよ」
ダニエルが上半身を屈めて名無しの顔を覗き込む。それからにやりと口角を上げた。
「俺は主任から対価を貰いてえなって」
「ええ、私からですか?」
「おう。対価っつっても、お前から貰いてえのは金じゃねえぞ。……わかんだろ?」
弧を描いた瞳から覗く、真っ黒い瞳孔が名無しを捕らえる。要求を察した名無しは何とも言えない表情で口をもごもごとさせた。
「わ……かりません!」
「嘘つけ」
頭を軽く叩かれたあと、そのまま手を滑らせて耳に触れられると、名無しはくすぐったさに思わず肩を竦める。ダニエルはそのまま優しく耳や頬を指の背でしばらく撫でていた。
甘い言葉は滅多に吐かないが、熱のこもった触れ方をしてくれることは多い。
言葉にも熱を乗せてくれればいいのに、と思わなくもないが、そういうところも引っくるめて惚れてしまった名無しがそれを口にすることはない。惚れた方が喚いても見苦しいだけだ。
「で? 結局対価はちゃんとくれんのか」
相変わらずふてぶてしく言い放つダニエルに、「仕方ないですね」と言うのが精一杯だった。
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