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強さを求めて入門した筈が、私は別の門を開いてしまったらしい。
まさか自分にそんな趣味があるとは思わなかったが、リュウさんがあんなものを見せつけてくるのが悪い。
「よし、最後に手合わせするか」
「は……はい、お願いします」
鼓動が高鳴り口内に唾液が溜まるのは、師匠との手合わせへの緊張だけが理由ではない。
リュウさんが頭に巻いた鉢巻を締め直す瞬間、筋骨隆々とした腕が上がり、ボロボロの柔道着から覗く筋肉がより強調される。
(来た……ッ)
毎回毎回、何よりもその腋に目を奪われてしまうのだ。本人にその気はないのはわかっているが、何故そう見せつけるのかと文句を言いたくなる。
「……まだまだ修行が足らんな」
「……ぐうう……」
当然のようにストレート負けして地面に倒れ込む私を、リュウさんが上から覗き込んだ。
開き直って下から見る胸筋の圧力を楽しんでいたのだが、手を差し出されたので掴んで立ち上がる。
「次の手合わせで勝てたら褒美をやろうか」
「勝っ……勝ったらご褒美……!?」
土を払っていると思わぬ提案をされ、声が上ずってしまった。
リュウさんがうむ、と頷く。
「時々集中できていないようだからな。趣向を変えてみようかと」
「……ごめんなさい」
「あとそうだな……。まずはちゃんと相手の目を見ろ。闘うときに目を合わせられないのもよくない。もちろん今もだ」
「……善処します」
まさか「あなたの腋を見てしまうんです」とは言えず弟子として大人しく謝ると、説教モードになってしまったらしいリュウさんに続けて苦言を呈されてしまう。
そりゃあそんなムチムチの胸筋が目の前にあったらそっちを見てしまうだろうが、という言葉は飲み込んだが、リュウさんは納得いかないようで口をへの字に曲げた。
「そう言うなら目線を上げろ」
「……身長差があるのでどうしてもこうなってしまうんです」
「え……あ、ああ、そうか、きみのような小柄な女性では見上げっぱなしも首を痛めてしまうか……」
私の師匠はお人好しだ。こんな言い訳を叱らず受け入れてくれるのだから。私にそういう目で見られていることなど思いもしていないのだろう。
これまでにも石鹸やタオルを届けるフリをして何度風呂に突撃したことか。……ちなみに、リュウさんは毎回「ちゃんとあるぞ、そそっかしいな」と言いながら笑ってくれる。
そんなことを考えていると、「それでさっきの話だが」とリュウさんが顎に手を当てた。
「何がいいんだ? 蕎麦でも奢ってやろうか。それとも何か希望があるなら遠慮なく言ってくれ」
「……本当に遠慮なく言っていいんですか」
「ああ」
「じゃあ、……揉ませてください」
「……むっ?」
「雄っぱい、揉ませてください……!」
「!?」
どんな褒美が欲しいか遠慮なく言えなどと言われてしまえば、先程飲み込んだ言葉は簡単に出てしまうに決まっている。
なんとでもなれだ。せっかくのチャンスを蕎麦にしてしまうのは惜しい。
「…………正気か?」
「はいっ」
「俺は男だぞ……? 胸はない」
「もちろんわかってますよ! あ、いえ、男なのはわかってますが胸はあるでしょう! 胸筋を鍛えていないとでも!?」
「あ、ああ、確かに胸はあるがその……きみのいうようなものはない。とにかく、他の褒美に……」
「…………」
「…………」
「…………」
「……何でこういうときは目が合うんだ?」
珍しくリュウさんが私から視線を逸らし、やれやれと頭を振った。
「人を見る目はあるつもりだったが……弟子にしたのは間違いだったか……?」
「……リュウさん、さっきから何か勘違いされてませんか? 何も破廉恥な意味でお願いしてるんじゃないんですよ」
「そうなのか?」
「身体作りのお手本にしたいだけです!」
「……なるほど……?」
調子に乗りすぎたせいでご褒美どころか破門されてしまうかもしれないという焦りからか、自分でも驚くほどペラペラと言い訳が出てくる。こんな言い訳さえ信じてしまうのだから、やっぱりリュウさんはお人好しだ。
不埒な輩に狙われていたりしないだろうか、と自分を棚に上げて心配したが、すぐに先程惨敗したことを思い出した。例え狙われたとしてもコテンパンにされるのが関の山だ。
「だから勝ったら揉ま……、いえ、研究させて下さい!」
それなら遠慮は無用だと拳を握った直後、「強くなる為なら褒美じゃなくて今触った方が良いんじゃないのか」と言われてひっくり返ることになるのは5秒後の話である。
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