おやすみ忍田さん
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名無しがリビングのソファでテレビを見ながらコーヒーを啜っていると、寝室の扉が開く。中から忍田が額に手を当てながら、のそのそと出てきた。
「あ、おはよう忍田さん」
「おはよう……。すまない、寝すぎた」
女がその言葉でテレビ画面の左上に映る時刻を確認する。
「まだ10時過ぎたとこだし寝すぎたことないと思うけど。むしろお昼くらいまで寝たほうがいいんじゃない?」
「そういう訳には……」
「でもまだ眠そう」
「……だが、きみを放っておくのは」
「私がいたら忍田さんが休めないって言うなら帰る」
「……それは嫌だ……」
忍田にそう言いながら首に抱きつかれれば、名無しは困ったように笑うしかない。コーヒーを溢さないようにしながらそっとテーブルに置いた。
「無理しないで二度寝したら? せっかくのお休みなんだから」
「…………」
「お昼何が食べたい? 私、忍田さんが寝てる間に買い物に……」
「行かなくていい」
「いいの?」
「出かけるくらいなら一緒に寝てくれ……」
「……随分疲れてるね、忍田さん」
「……そう思うなら一緒に」
「んふふ、わかったから。歯磨きしてくる。先にベッドに戻ってて」
名無しが自らの首に顔を埋めたままの忍田の背中を軽く叩いてそう答えた。
名無しがベッドに戻ると、既に忍田は目を閉じていた。寝ているかと思ったが毛布に潜り込むなり身体を引き寄せられ、思わずびくりとしてしまう。眠そうにしているからか、彼の体温はいつもより高いように感じた。
暫くそうしていると忍田は今度こそ眠ってしまったようで、名無しがそっとその顔を見上げたとき、急に何かが込み上げてきた。
いつもは凛とした表情が多い忍田の寝顔や、先程までの自分に甘えてくる仕草は私だけが見られるもので、他人には想像すらできないことかもしれない。
この人に一緒に寝て欲しいなんて頼まれた人間は、そうそういないだろう。
あのボーダーの本部長の腕の中にいる。その事実が急にとんでもないことのように感じて、名無しは耐えきれず両手で顔を覆った。
「…………好き……好きすぎる……はぁ……」
名無しがため息を吐きながら小声で呟く。それだけでは放出しきれなかった想いを、言葉にならない唸り声に変える。
「うう……。う……好き……」
「……んんっ」
「! ……んんっ?」
咳払いのような音に反応した名無しが手を外し、忍田の顔を見やれば、忍田は目こそ閉じているものの、眉をしかめ、その耳元は赤くなっている。明らかに起きている。
「し、忍田さん、起こしちゃった?」
「……起こされたというか……起きていた」
忍田がゆっくりと目を開いた。女が少し怒ったような口調になる。
「寝たふりしてたの!?」
「いや、別に騙そうとしていた訳では……ずっとうとうとしていただけで……」
「…………ってことは聞いてた?」
「……何をだ?」
「何を、って……」
「何を言っていたのか教えてくれ」
「……わざとでしょ、絶対聞いてた。自分で起きていたって言ってた」
「…………。ああいうことは起きているときに言って欲しい」
「起きてたじゃん」
「それは結果論だ。きみは寝ていると思ったから口に出したんだろう」
「……そうだけど」
「じゃあ、もう一度」
「……恥ずかしいからやだ」
「起きていたと言っても、ちゃんとは聞いていない」
忍田はそう言いつつ、名無しをより強く抱きしめる。
なんだかんだ言って、彼女は自分の言うことを聞いてくれる。それを知っているからだ。案の定反論を止めた恋人の頰に唇で触れながら、再度強請る。
「ほら、名無し」
唇で触れている名無しの頬に熱が集まっていく。この体温と感触ほど、忍田にとって愛おしいものはない。
忍田に逆らうことのない名無しが好きだと口にするのは、数秒先の未来である。
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