愛も垂らす
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「いらっしゃい天彦さん、誕生日おめでとう!」
「……ありがとう、ございます……」
好いている女から誕生日を祝われれば天彦のような男は大層喜ぶはずだが、普段様々な言葉が流暢に流れ出るその唇からは静かなお礼だけが述べられた。
実際、名無しの家のドアを開けるまでは鼻歌を歌うほどうきうきとしていたのだ。ジップラインジャージ姿の彼女に迎えられるまでは。
部屋に招き入れられながら、天彦がどこか不満げな声で呟く。
「……てっきり、可愛らしい部屋着で迎えてくれるかと……いえ、どんな姿の貴方も好ましいですが……でも今日は僕の誕生日……」
「寒いんだもん。お風呂入っちゃったし」
「ええっ!? 天彦とお風呂入ってくれないんてすか!? 誕生日なのに!?」
「なら逆に誕生日だけでいいの? 一緒にお風呂入るの」
「うっ……うう……! 名無しさんの意地悪……!」
「誰が意地悪よ」
「お風呂上がりならせめて僕が以前プレゼントしたバスローブを来てくださっててもいいじゃないですか!」
「だから寒いんだって。ね、その持ってるやつ、本橋くんのお料理?」
「え、……ええ。そうですよ」
名無しに話を逸らされたが、彼女の言う通り天彦が下げている袋にはタッパーがこれでもかと詰まっていた。
シェアハウスの住人の誕生日に、服従のカリスマである本橋依央利が何もせずにいられる訳はない。本当は一日中奉仕したかったようだが、天彦本人の希望と周りの住人の気遣いもあって、お昼にお祝いすることと夕飯を持たせることで折れてくれたらしい。
「本橋くんお料理上手だから楽しみだな……先にご飯でいい?」
「名無しさんの手料理も食べたかったのですが」
「ああ……でもほら、本橋くんの料理の方が美味しいし」
「僕はどちらも好きです。なんなら、貴方の手料理を毎日食べられたら幸せだなと思っているくらいで」
意味、伝わりますか? と天彦が首を傾げた。天彦から目を逸らしたまま、名無しが口を開く。
「……ケーキ」
「ん?」
「……ケーキ、食べた……よね」
「? ええ、依央利さんが焼いてくださいました」
「クリーム系のやつ?」
「フルーツと生クリームのケーキでしたが……それが何か?」
「……焼こうと思ってたの。明日。でも本橋くんが作ってくれるんだろうなとも思ってて。ただでさえ二日連続も嫌かもしれないし、料理上手な人のケーキ食べた次の日なんて余計」
今食べる物とそうでない物を仕分けながら会話をしていたが、名無しの言葉で天彦が動きを止める。
「貴方が僕のために作ってくれるケーキ、食べたいです」
「ただ生地混ぜて焼くだけの簡単なやつだよ」
「構いません。むしろ全然違う物の方が嬉しいですから」
「……ありがとう」
「お礼を言うのは僕の方です。明日も楽しみだ」
頬にキスを落とされた名無しがくすぐったそうに笑った。
◆◆◆
「天彦さんに何をプレゼントしたらいいかわからなくて。何が欲しいか教えて欲しいんだけど、それだけなのも味気ないなって思って……天彦さんの好みかはわからないし、そもそもこういうプレゼント喜ぶかわかんないけど……」
夕食後、再び一緒に入浴できないことに拗ねた天彦を宥めて風呂に向かわせ、寝る準備を済ませた後。ベッドの上で名無しが歯切れの悪い言葉を繫ぎながらジップ部分を指差す。
「……下ろしていいよ、これ」
「ああ……なるほど。ふふっ、なんてセクシーなラッピングなんでしょう……。これだけでイけそうです」
天彦がジップ部分を指先で摘み、ゆっくりと下に下ろしていく。
素肌が覗き、下げきったところでジャージの前を広げる。胸を支える機能よりも見た目を重視した、下乳を隠しきれていないブラを見て天彦が目を細めた。
「これはこれは……本当に素敵なプレゼントを用意してくれていたんですね。下も確認しても?」
名無しが小さく頷き膝立ちになる。ズボンに手をかけこちらも引き下げれば、ブラと同じデザインをしたショーツが露わになった。左右の紐を天彦が指先でもてあそぶ。
「これは……どっちがプレゼントなんでしょう」
「どっちがって?」
「この下着がプレゼントですか? それとも、この下着もラッピングの一部で貴方がプレゼントですか?」
「あ、えっ?」
「紐を解く様はラッピングリボンのようなので、やはり貴方を僕に」
「まっ、待って、そこまで考えてない!」
慌てる名無しの腰を天彦が支えながら優しくベッドへ押し倒す。ズボンを引き抜いて床に投げながら、再度問いかけた。
「何をプレゼントするのか、本人がわかっていないことなんてあります?」
「うっ……」
「プレゼントのラッピングだけあげるなんてこと、おかしいですよね? もちろんラッピングは返して、というのもおかしいのでこの下着は僕が貰い受けますが」
「あ、違、そう! 体験! 体験のプレゼント!」
「体験?」
「こういう格好でお迎えするっていう……だけの……」
「…………」
「…………」
「…………」
「……そんな顔で見ないで……」
「だって。そんな破廉恥な姿でずっとこの時を待ってたんですよね? 涼しい顔して、身体はずっと火照らせてた。……そうでしょう?」
「そ、うじゃな……」
「くださいよ。僕に。貴方を」
自分に真っ直ぐ見つめられてしまえば、名無しは折れてくれることを天彦は知っている。
「名無しさん」
「……きょ……」
「…………」
「今日、だけ……」
「今日なんてもうあと1時間くらいしかないじゃないですか」
「じゃあ明日、明日まで……なら」
「……わかりました。明日までは僕が貴方を好きにして良いってことですね? それでは手始めに……貴方のスマホの電源、切っていいですか?」
「……意外と束縛するタイプ?」
「縛るのも縛られるのも得意ですよ」
「真面目に……」
真面目に聞いてるのに、という言葉は天彦の唇に飲み込まれる。相変わらずカリスマたる天彦のペースに巻き込まれるばかりなのだと再認識させられるのだった。
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