愛も垂らす
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
日曜日の朝。名無しが目を覚ますと天彦がこちらを見てにこにこと笑みを浮かべていた。
「おはようございます、名無しさん」
「…………おはよう……」
「良く眠れました?」
「うん……でも、まだ……もう少し……」
「ああ……寝惚けている名無しさんもセクシーです……!」
寝ぼけた頭のままもう一度目を閉じようとしたとき。
被り直した布団の感触がいつもと違うことで突然自分が昨夜カリスマハウスに泊まったこと、与えてもらった空き部屋の鍵をかけてから寝たことを思い出し、飛び起きる。
「おや、急にお目覚めで……んぶっ」
「何で部屋にいるの……?」
天彦の顔に枕を押し付けながら、そう問いかけた。
「んぐ……何故って、せっかく一つ屋根の下にいるのに離れて眠るなんて寂しいじゃありませんか」
名無しの腕を枕ごとどかしながら、天彦がそう眉を下げる。
「理由じゃなくて手段を聞いたんだけど」
「セクシーイリュージョンです」
「…………」
「? セクシーイリュージョンです」
「寝起きの頭に理解できる内容じゃない……」
「では後でじっくりねっとり教えて差し上げますね」
「ああもう……そもそも、同じ部屋で寝るなんて皆に変な疑いもたれるから駄目って言ったじゃん!」
そう、昨夜も天彦の部屋に泊まれば良いと彼自身から提案されたが、招待された他人の住むシェアハウスで男と同じ部屋で夜を過ごすなど、あまりに常識がなさすぎる。情事を行おうが行わなかろうが、気を遣わせてしまうことは想像に難くない。他の住人にその程度の女だと思われたくもなかった。……天彦の為にも。
「とにかく、他の人に見つかる前に出て」
「…………冷たい……」
「冷たくない」
「目が覚めたなら一緒に洗面所に行きましょうよ」
「後から行くから先に行ってて。タイミングずらさないと」
「…………」
「バレたら私出禁になるかもしれないよ? 草薙くんとかそういうの厳しいでしょ? 女が泊まるってだけでパニックになってたんだから」
「……わかりました」
しぶしぶ天彦がベッドから抜け出す。部屋を出る前に再度こちらを恨めしそうに見るので、「タオル準備したらすぐ行くから」と名無しは答えておいた。
ゆうに5分は経ってから、タオルを片手に名無しが洗面所へ向かうと、開いたドアから天彦の背中が見え、「セクシー!」と叫ぶ声が聞こえた。よく中を見るとさらさらと揺れる金髪も見える。
先客が二人いるなら出直そうかと思った瞬間、「今朝もお美しい」という声に引き止められてしまった。
天彦はその美貌の持ち主……テラの周りをうろちょろしながら、落ち着かない様子で彼を褒めちぎっている様子だ。
「朝はまた違った魅力があります」「いい匂いがする」「ご自身の魅力にお気づきですか」……その辺りでそっと扉から離れた。
先程まで自分を口説いていた癖に、同じ口で他の人を口説いてしまう。それが天彦の性(さが)なのだから仕方がないと思いながらも苛々は拭えない。
苛々するならセフレなどと言わずに彼を受け入れ恋人になればいいじゃないかという考えと、恋人になってもあんな姿を見せられてしまえば今以上のショックを受けることになるのだからやっぱり今のままの関係でいたいという考えが堂々巡りしていた。
私を家に呼んだときくらい我慢できないのか、しかも洗面所に私が来ることだってわかっていた癖に。
そう名無しが心で愚痴った途端、「ほんとしんどい!」と言いながらテラが洗面所から出てきて、扉がバタンと音をたてて閉じた。
名無しと目が合ったテラはその大きな瞳でぱちぱちと瞬きをする。
彼は見目麗しい。同じ寝起きなのに自分とは天地の差だ。そんな自分の顔を見られるのが恥ずかしくて、「すみません」と何故謝るのか自分でもわからないまま名無しが慌てて顔を逸らすと、テラが何かに気づいたように頷いてから口を開く。
「なるほどね。僕の部屋おいでよ」
「えっ、でも」
「いいからいいから」
「私顔も洗ってない、ですけど……」
「だって今天彦が洗面所使ってるよ? 会いたくないでしょ? 洗顔シート貸してあげるからそれで我慢しな。ほら早く」
テラがその形の良い眉を潜めながら言うものだから、名無しは従うことにした。何より、今天彦に会いたくなかったのは図星だった。
「ほんとノンデリだよね、天彦って。アレと付き合うの大変でしょ。……いや付き合ってはないのか。あんなんだから」
「……はぁ……」
「でもさ。君も君で、ああいうの見たときは素直に嫉妬したって本人に言えばいいじゃん。変な意地張ってないで」
「……あんまり天彦さんのこと縛りたくなくて」
「天彦は縛られたら喜ぶと思うよ、色んな意味で」
全てを見透かしているらしいテラの言うこと一つ一つがもっともで、名無しは顔を拭いたシートを眺めることしかできない。
「わかった、じゃあ朝ご飯食べたらもっかいここに来て。洋服の整理手伝ってよ」
「洋服の整理……?」
「テラくんのお誘い、嬉しいでしょ? あのテラくんに誘ってもらえるなんて幸運なんだよ?」
「でも」
「天彦は一旦放っておけばいいから。ほら、リビング行こ」
私がいなくとも、どうせ他の住人の尻でも追いかけるだろう。そう思って誘いに乗ってから、テラと2人部屋を出ると、その天彦と鉢合わせてしまった。
「あっ、名無しさん! どこに行ったのかと思ってました、探したんですよ?」
「ああ、ごめんね。ちょっと用ができて」
「……テラさんとですか?」
「うん」
天彦がテラを見やるが、テラは天彦を見ることなくさっさとリビングへ向かって行った。
「……朝ご飯食べに行きましょう。依央利さんが準備して待っているでしょうから」
天彦が名無しに手を差し出す。名無しはその指先を遠慮がちに握った。
◇◇◇
「もう! いつまでもうろうろしてるくらいなら行けばいいじゃん!」
朝食後、皿を洗いながら天彦にそう言い放つのは依央利である。
名無しは事前の約束通り、天彦が引き止める暇もなくテラの部屋へ行ってしまった。
そのことが気になって仕方がない天彦は、その大きな体躯でリビングを歩き回っている。
「いつも相手のことなんか気にせず突撃する癖に。お風呂とか」
「それとこれとは
「その名無しさんは天彦さんが行ったら嫌がるの?」
「……わかりません」
嫌がるはずがない、そう言い切れる程の自信があればとっくに2人がいるであろうテラの部屋へ行っている。名無しの気持ちがわからず悩むのは、今に始まったことではない。
シェアハウスしているセクシーな住人たちへ自分が好いている女を紹介したかったし、仲良くなってくれるならそれに越したことはない。
ただ、まさか自分を放って誰かと二人っきりになってしまうなんて思いもしなかった。
流石にテラと名無しが『そういう』関係になるとは思っていないが、それはテラがテラ自身だけを愛するカリスマだからだ。……名無しの方がテラをどう思うかはわからない。
もちろん、彼女を信用していない訳ではないですが! と相変わらず歩き回りながら、天彦は自分自身に心で訂正を入れた。
「これはサイズが合わない……これは色がイマイチ……あ、こっちはアリ」
テラが自身の持っている洋服を次々と名無しにあてては仕分けていく。
「うん、オーバーサイズで着ようと思って買ったんだけど、思ったよりテラくんの美しさに釣り合わなかったんだよねえ。でも君にならちょうどいいかも」
「あの……テラさん、洋服の整理の手伝いじゃ」
「そうだけど?」
「だったら私に似合うかどうかは関係ない気が……」
「捨てる服をどう捨てるかを仕分けてるの。きみに押し付ける物を選んでるんだから黙ってて」
「……優しいですね」
「当たり前。綺麗でかっこよくて可愛くて性格も良くて……うわ、待って洋服からもすっごくいい匂いする! ああっ、どうしよう好き!!」
テラが洋服を握ったまま自分の身体を抱き締め、身悶える。
ナルシストと言ってしまえばそれまでなのかもしれないが、テラは自分しか思いやれない人間ではない。合って間もない名無しでも、それを感じ取ることができた。
「天彦さん、いる?」
午前が終わろうとする頃、名無しが紙袋を手に天彦の部屋のドアをノックする。
暫しの間があって扉が開き、部屋の主が名無しを招き入れながら目を丸くする。
見慣れない、普段の彼女とは違う雰囲気の服を纏っていたからだ。
「……どうしたんですか、それ」
「洋服貰っちゃった。せっかくだから今着てみなよって」
「テラさんのお下がりですか」
「うん。体系が全然違うからタイトな服は合わないけど……こういうゆったりしたやつなら私でも似合うって言ってくれて」
「新しい服が欲しかったのなら僕が買ってあげたのに」
「私が新しい服欲しくて強請ったんじゃなくて、テラさんがどうせ捨てるからってくれたの。……まあ、それは建前で気を遣ってくれたんだよね、私に」
要らないのは嘘じゃないだろうけど、と言いながら名無しは服の端をつまんで口角を緩める。
彼女の嬉しそうな顔は大好きなはずなのに、天彦は妙に苛立って仕方がなかった。
「暫くお出かけするときの服装に困らないな。こんなにいい服貰っちゃったから何かお礼をしないと……。天彦さん、テラさんへのお返し何がいいと思う?」
「……さあ、何でしょうねえ」
「一緒に住んでるんだから、好きな食べ物とか使ってる消耗品とか知らないの?」
「知りませんね」
「えー……そうなんだ。じゃあ本人に聞こうかな」
「それを聞くのは野暮ですよ」
「うーん……そっか……」
苛立ちを声に乗せないように、努めて穏やかな声と口調で答える。そのせいか名無しは能天気な態度を続けるものだから、天彦はより一層苛立ってしまった。それでも、彼女の前で余裕のない姿は見せたくないと踏みとどまる。
その代わり、テラへのプレゼントとして思い当たるものが無い訳ではなかったが、それを伝えないことくらいは許されたかった。
「特別何かを用意しなくても、僕からもお礼を言っておきますから。あとは……依央利さんにお願いしてテラさんの好物を夕食にしてもらうのもいいかもしれません」
「あ、それいいね……ってやっぱりテラさんの好きな食べ物知ってるの?」
「……僕ではなく、依央利さんが把握しているんですよ」
「ああ、そういうこと。流石だね」
またもや能天気に答える名無しに、天彦はぎこちなく笑った。
◇◇◇
依央利お手製の昼食を食べてから、帰る名無しを見送る為、シェアハウスの住人達が玄関に集っていた。『見送り? 絶対しねえ』と反発した猿川と、部屋から出てこない大瀬を除いて。
「では僕は彼女を送って来ます。そのまま泊まるので夕食は要らないです」
「は? ヨソでご飯食べるの? 僕のご飯じゃなくて? それなら早く言ってくれれば夕飯用のご飯用意して持たせたんだけど?」
憤慨する依央利の他、名無しも初めて聞いたと一瞬驚いた表情で天彦を見るが、特に何も言わなかった。
「すみません。代わりに何か頼み事を考えておきますから。……さ、行きましょう名無しさん」
「あ、うん。……それじゃあ皆さん、お邪魔しました。ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げた名無しの肩を天彦が抱き、扉へ促す。
「またおいで」というテラの声に名無しは振り向いたが、再度天彦の手に引き寄せられてしまってろくに返事をすることも叶わなかった。
「……で、今俺たちは何を見せられたんだろう」
「めんどくさッ……!」
「どっちもどっち」
「…………」
天彦と名無しを見送ったふみや、依央利、テラが口々に文句を垂れる。理解は天彦が名無しの肩を抱いた瞬間にフリーズしたまま動かない。
「泊まるんだって。やらしいね」
「うわ、ふみやさんやめてよそういうの」
「何で? 事実じゃん」
「天彦もあの子のこと好きなら僕たちに絡むの止めればよくない? あんなあからさまに嫉妬心向けられてもテラくん困るんだけど。自分が蒔いた種でしかないのにさ」
「なに、何かあったの」
ふみやがポーカーフェイスのまま興味津々といった声色でテラに尋ねる。今朝の出来事を話すテラと、それを聞きながら「うわー……」「修羅場じゃん」と感想を漏らすふみやと依央利の傍らで、やっと理解が笛に手を伸ばした。
◇◇◇
「……天彦さん、今日うちに泊まるの?」
「そのつもりですが、何か不都合でも? というか、もう家に上げておいて今更」
「いや……別に不都合ってことはないけど」
「じゃあお風呂入りましょう。準備しますね」
「真っ昼間なのに? もう? 私の家なのに我が物顔だね……」
名無しの家につくや否や、名無しのツッコミも気にせず天彦が風呂場へ向かう。
無理に止めるほどのことでもないと、名無しは自室に戻りテラから貰った服をクローゼットに仕舞うことにした。
「名無しさん、すぐお風呂沸きますから……おや」
名無しが一着一着眺めながら片付けていると、天彦がノックをした後に部屋へ入ってくる。
「テラさんに随分お洋服頂いたんですね」
「でしょ? 太っ腹だよね。これとかすごく可愛いし……天彦さんはどう思う?」
「どうとは?」
「え、この服可愛くない……かな?」
「……そうですねえ……僕はあまり好きではありません。貴方にも、似合わないと思います」
天彦が服から目線を逸らしてそう言い捨てる。
「そ……っか、じゃあこっちは?」
「…………」
「あんまり? それならこれは? 天彦さんが前に褒めたって聞いたんだけど……」
「よく覚えていませんね」
「覚えてなくても、今見たらどう?」
「……同じです。貴方には似合わない」
「……そう……」
名無しが肩を落として広げた服を畳む。クローゼットに仕舞う間もお互い無言のまま、気まずい空気が流れていた。
天彦がこんなにつっけんどんな態度を取るのは珍しい。テラお墨付きの洋服であれば天彦と会うときの服装に頭を悩ませる必要もないと思ったのだが、この様子では彼と会うときに着ることはできなさそうだ。
テラに似合うと言われていい気になっていたが、自分とは格差のある美貌の持ち主が着ていた服を着るのは、おこがましかったのかもしれない。
ため息を吐きそうになった瞬間、お湯が湧いたことを知らせる脳天気な機械音が鳴った。
「あ、お風呂沸きましたよ。入りましょう」
「……一緒に?」
「当然じゃないですか」
ほら早く、と天彦に急かされ、名無しは彼と共に浴室へと向かった。
「天彦さん怒ってるんじゃないの……?」
「……どうしてそう思うんですか?」
湯船の中、天彦に後ろから抱きかかえられるようにされながら名無しがぼそりと呟いた。
「洋服、似合わないとか言うから」
「似合わないと思ったから言っただけですよ」
「……普段の天彦さんならそんな言い方しない」
「…………」
「……ねえ、本当に似合わない? テラさんは似合うって言ってくれたんだけど、テラさんが着てたような服、私が着るのはおかしかった?」
「そうじゃありません」
天彦が名無しの首筋に鼻を擦り寄せる。
「はぁ……やっと落ちましたね、テラさんの匂い」
「テラさんの?」
「ええ、ずっと香ってました」
「いい匂いだったってこと?」
「貴方から香らなければね」
首筋に当たる吐息がくすぐったくて身を捩っても、狭い浴槽ではほとんど意味をなさない。そんな名無しを気にすることなく天彦は話し続けた。
「服だってそうです。貴方が自分で選んだものなら何だって構いません。ああ、あんまりセクシーなものは僕の前でだけ着て欲しいんですが……」
「それはつまり……嫉妬したから機嫌悪かったの?」
「好きな人が他の男のお下がりの服を着て嬉しそうにしている姿を見て平静でいられると思いますか。逆の立場だったらどうなんです」
確かに好きな人が異性から貰った服、しかもその人のお下がりを着て喜んでいたらもやもやしてしまうだろう。
だが、名無しにだって天彦に言いたいことがあった。
「天彦さんだってテラさんのこと好きじゃん」
「そりゃあ嫌いじゃないです」
「違う。嫌いどころか好きじゃん。私が来るのわかってた癖に洗面所であんなことして! 自分はテラさんを口説いておきながら私がテラさんと仲良くしたら怒るとかわがままじゃない!?」
名無しが身体を少し浮かせて無理やり天彦を見返り、入浴剤で白濁したお湯が揺らいだ。
「別に口説いた訳では……。テラさんじゃなくても僕にとってセクシーな人はたくさんいます。彼だけが特別なのではありません」
天彦がきょとんとした表情でそう答えれば名無しの表情がますます険しくなる。
「……やっぱり天彦さんって気が多いよね」
「それはつまり……名無しさんも嫉妬してるんですか?」
「反省してないし」
名無しがまた身体の向きを戻して、脱力する。もたれかかられた天彦は彼女の髪に頬や鼻を擦り付けながら、少し掠れた声で甘えた。
「貴方に放っておかれて寂しかったです」
「…………」
「他の人の部屋で二人っきりになるなんて、……もうしないでください」
「…………」
「……仲直り、してください……」
「あーもう、わかった、わかったから……」
天彦はずるい男である。そのことをもう何度も思い知らされている名無しは、これまでと同じようにため息をつきながらも彼を許した。天彦は一言も謝っていないというのに。
名無しの「わかった」を聞いた天彦の声は弾む。
「そしたら次のお休みは一緒にショッピングに行きましょう。貴方に合う洋服、天彦に見繕わせてください」
「テラさんから沢山洋服貰ったのに?」
「…………」
「ごめんって。顔を見なくても圧が伝わってくる」
背後にいる男が眉間に皺を寄せて厳しい顔をしていることを察した名無しは、すぐに謝って提案に乗ることにする。どうせ天彦の前ではテラから貰った服は着られないのだ。
「そこまで困ってないけど……天彦さんがそうしたいんだもんね?」
「ええ」
「なら甘えて買ってもらっちゃおうかな」
「いくらでも」
天彦がちゅ、ちゅ、と髪に唇を落とす。後頭部、こめかみ、頬とだんだん移動してきて、ほとんど唇同士が触れそうになったところで名無しが手のひらで遮った。
「何するんですか」
「こっちの台詞」
「仲直りセックスはお決まりでしょう」
「ここでする気?」
「満更でもない癖に」
「馬鹿」
天彦が手首を掴もうとするので、名無しがするりと腕を抜いた。湯の中で鬼ごっこをしていても仕方がないので、風呂から上がろうと浴槽の縁に手をかけたがしっかりと腰を抱きかかえられる。
「ちょっと……天彦さん」
「とっくに気づいていたでしょう。意地悪しないで」
天彦が腰を押し付けながらそう言うと、名無しは先程と同じようにため息をつくのだった。