愛も垂らす
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「自己紹介を読んで欲しい?」
「正確にはプロフィールカードですが……これです」
天彦から手渡されたプロフィールカードを受け取ると、ぱっと見ただけでもそのファンシーな用紙には似つかわしくない卑猥な言葉が目に飛び込んできた。
貼られた写真も胸元から上とはいえ裸だ。きっと下も履いていない気がする。
「折角書いたのにこんな猥褻物読めないと褒められてしまって……」
「褒められてないよそれ」
「名無しさんなら読んでくださるかなと」
「まあ読んでもいいけど、天彦さんが期待するような反応できないよ?」
「いいえ、きっと貴方なら僕を満たしてくれます。さあ、口に出して読んで下さい……! さあ!」
「はいはい」
横で天彦がハァハァと湿っぽく呼吸する中、名無しはプロフィールカードを音読し始めた。
「名前は『天堂天彦』、『30』歳だよ。みんなからは『ワールドセクシーアンバサダー』と呼ばれているよ……本当に呼ばれてる?」
「呼ばれています」
「ほんとかなぁ……。誕生日は『12月6日』。プレゼントよろしくね……『コンドームとかが嬉しいです』……この間沢山買ったじゃん」
「いくらあっても困りませんよ」
天彦がそう言ってウインクするのを横目に、名無しは音読を再開する。
「……血液型は『B型』、相性のいい人は何型かな……何でここで『カラダの相性がいいのは名無しさんです』とか書いちゃうの!?」
「事実じゃないですか」
「そんなこと、このプロフィールカードは聞いてない。ああもういちいちツッコんでたら進まないな……」
「ツッコむ……!? どこにナニを……!」
「……星座は『射手座』、趣味は『セックス』、特技は『セックス』……でしょうね」
「はぁ……ああっ、名無しさん、もう一回読んでください……」
「……趣味はセックス、特技はセックス」
「エクスタシ〜ッ!」
まさにツッコむことを止めてもなお、天彦が喜ぶまた別の単語を口にするだけである。
「……で、好きな食べ物は『チェリー』……これはどういう意味で」
「そのままの意味です」
「性のカリスマのそのままの意味ねぇ……。そんで『アスパラガス』……」
「はあっ……アスパラガスケツパラガス……セクシー……!」
「何言っ……待って」
呆れた目をしていた名無しがふと真剣な面持ちになり天彦を見る。
「アスをAssと解釈してケツパラガスって言ってるの……? それはむしろ頭良いんじゃない……?」
「褒めてください」
確かにそれならケツパラガスだ……と思わず納得してしまったが、天彦のあまりに得意気な顔を見た名無しはまた目をじとりと細める。
「素直には褒めづらい。…………うわ、これはまた……」
名無しが一呼吸おいて、再び読み始める。
「自分の好きなところは『セクシーなところとちんこ』……ちんこて。30歳がちんこ」
「アアッ、そんな連呼するなんてサービス……!」
淡々と読み上げたにも関わらず、天彦は天を仰ぎ身悶える。
「今更だけど恥ずかしがるタイプじゃなくてもいいんだ……」
「名無しさんのお口からいやらしい言葉が聞けるならどんな言い方でも……。ああもちろん、もっと艶っぽく言ってくださるのは歓迎です」
「天彦さんのことは好きだけどそういう期待には応えられないんだよな。ああちょうどそんな質問欄にきた。好きな人は、いるよ…………『名無しさん』……」
好きな人がいるかいないか丸をつけさせた隣に『よければこっそり教えて?』なんて一歩間違えば大事故に繋がりそうな欄がある。そんな欄に名無しの名が書かれていた。
呟くように自らの名前を読み上げた名無しの顔を天彦が覗き込み、わくわくとその表情を伺っている。
「あっ、キュンキュンしました?」
「別に知ってるから……」
「その割にはスッと読めてませんでしたが?」
「……まあセックスだのちんこだのの後にこういう純粋なの来ちゃうと面食らうよね」
「ああ、またそんな卑猥な言葉を……いけない人ですね……」
「天彦さんが書いて読ませてるんだよ」
「名無しさんがこの天彦にエロいことを言わされてる……ふぅ……」
「抜かないで」
「セクシー!」
「…………」
確かにこれはキリがない。読まない選択をしたらしいシェアハウスの住人は、流石共に暮らしているだけあって判断能力に長けていたようだ。
その後も質問を曲解、あるいは無視して好きな体位や好きなAV、大人のオモチャ等の名前が並んでいる。
変わらず淡々と名無しが読み上げていく合間に、「セクシー!」「エクスタシー!」という天彦の合いの手が入った。
「はぁ……どうですか? 僕の曝け出された部分は……」
「天彦さんの趣味嗜好を知れるのは面白かった。……読ませて興奮するあたり天彦さんだけど」
「ありがとう」
「……どういたしまして」
名無しがプロフィールカードを返そうとすると、天彦が首を傾げる。
「まだ読み終わってませんよね?」
「…………天彦さん……」
「フリースペースにも書いてあるでしょう。ほら、読み上げてください。貴方の口で」
「……ド変態」
「ありがとう」
名無しの目には、読むのを避けたフリースペースの文字も当然目に入っていた。今までと同じく性の話題だが、今までと違って口にするのは容易いことではない。なんといっても、名無し自身に関わることだったからだ。
「私の名前がいくつも見えるの、おかしくない? 天彦さんのプロフィールカードでしょ?」
「ええ、ですから僕がセクシーだと思うことを書きました」
さあ、ほら、早く、と天彦が名無しを急かす。後ろから抱き込まれ、プロフィールカードを握る名無しの手の上から天彦の手が重ねられる。読み終わるまで離さない気なのだろう。
「名無しさん、読んでくれると約束したじゃないですか」
「でも流石にこれは」
「……わかりました、名無しさんが読んでくれないのなら仕方ない。シェアハウスの皆さんに改めてお見せします。リビングのテーブルにでも置いときましょう」
「ひ、卑怯な……」
「どうします?」
天彦がにこにこと笑みを浮かべる。物理的にも精神的にも逃げ場を失くした名無しは諦めてプロフィールカードに目を落とした。
「名無しさんの鼠径部のほくろがセクシーなので……毎回そこにキスをしています」
「ええ」
「…………ク……が弱……くて、爪、で…………」
「よく聞こえませんね、ちゃんと読んで」
「…………」
「ふふ、先程までの余裕はどうしたんですか」
「…………あ、天彦さん、もう……」
天彦の期待するような恥じらいを含む反応はできない、そう思っていた名無しだが、自らのこととなると流石に平気ではいられなかったらしい。
一転して弱々しい声を発しながら、顔を真っ赤にして天彦を見上げた。
天彦の背中にゾクゾクとしたものが走る。
「どういうプレイが好きなのか、どこをどうされるのが好きなのか、ちゃんと書きました。さあ、口に出して。全部」
そう耳元で囁かれ、名無しの身体が震えた。