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「救護班を呼べ。人型
▽▽▽
「傷病者確認。
足音を鳴らしながら、様々な荷物を持った数名の救護員訓練室に入る。その中でも声を出しながら入ってきた1人が他の職員に声をかけながら忍田の方に近づいてきた。
「忍田本部長、救護班ただいま到着致しました。人型
「ああ、名無しくんか出てきてくれたのか。おそらくもう死んでしまっているが……何かしら得られる情報があるはずだ。鬼怒田さんとも協力して事にあたってくれ。それと、隊員によって遺体から通信機だけ回収させてもらっている。こちらは私の方から鬼怒田さんに回そう」
「わかりました。忍田本部長や隊員にお怪我は」
「皆トリオン体だから大丈夫だろう。もし何かあれば連絡する」
「ええ、その際にはご遠慮なくご連絡下さい。では一度失礼します」
人型
忍田や隊員たちは死んでいると評価したが、救護班は酸素マスクやモニターを付けて運んでいく。そのうちの1人は胸骨圧迫まで行っていた。
「はー……流石慣れてんなあ」
「もう死んでんのに無意味なことしてるけどね」
「彼らの判断は私たちとは違うんだろう。その道においては私たちの方が素人だ。……さて、皆ご苦労だった。まだ敵がいなくなった訳ではないから油断しないように。ただ無理はするな。
残った隊員たちにそう声をかけ、忍田は再び指揮を取るべく
▽▽▽
「先生。件の人型
「胸骨圧迫中止。酸素も外していい。診察を始めるが万が一のために護身用トリガーをすぐ使えるように構えておいて」
「はい」
「わかりました」
名無しや他の職員が血塗れのゴム手袋を脱ぎ捨て、護身用トリガーを構える。その様子を確認してから医師が診察を始めた。
「……
『全く……生きていればいろいろ聞けたんだがな』
「検死に移しますか」
『当然だ』
「わかりました。……そのまま検死室へ運んでくれ。きみたちはそこまででいい」
内線を使って鬼怒田と話をまとめた医師が、救護員へ指示を出す。名無したちは言われた通り検死室へ遺体を運び、仕事に一区切りをつけた。
相手が死んでしまっていれば救護員にできることは少ない。ほぼ運び屋だ。
医務室に戻り、別の救護班が搬送してきた傷病者の手当の補助に入る。
トリオン体で戦う隊員たちにとって名無したち救護員は一般人が思うほど重要な役割を持たない。
実際、普段は軽い熱中症や腹痛、施設内で転んで擦りむいたといったものが多く、先程のような大きな戦いでは、隊員たちは
一般の病院で働くより楽だと割り切って働いている職員と、名無しのようになんとなく落ち着かず、治療の合間にモニターで戦況を確認する職員、そして身近な人間が命を落としたことで震え上がってしまった職員とに分かれていた。
怯えてしまった職員を責めることはしない。心中では皆がどう考えているかわからないが、表立って批判したところでその職員が動けるようになるとは思えない。職場に敵が入り込み、部署が違うとはいえ職場の仲間が殺されてしまったとなればショックを受けて当然だ。また別の奴が入り込んでくる可能性も無いとは言い切れない。
怯えてしまった職員には、既に治療を終えた傷病者や、点滴を受けている傷病者の見守りを頼んだ。できることをやってもらうしかない。
(私は、忍田さんの指揮下なら怖くない。どんな結果になっても)
名無しの考えは、口に出すべきものではないし人に押し付けるものではない。特に、怪我をした職員、亡くなった職員、彼らの家族の前では。
それをわかっているから心の中で止めている。それに、……その本部長と付き合っているなら、尚更だ。
▽▽▽
しばらくしてから、人型
「すみません!」
「メガネ先輩が!」
血塗れの隊員と大きなキューブを抱えて、2人の隊員が大慌てで医務室へ入ってきた。米屋と夏目だ。
「これは……」
「チカ子を助けようとして! メガネ先輩、血がたくさん出てて……!」
「わかりました。落ち着いて。あなたはそのキューブを持って……それが隊員ってことなんですよね? それを持ってラボの方へ行って下さい。エンジニアが治してくれるはずです。大丈夫」
名無しの言葉に夏目は頷き、キューブを抱えて走り去っていく。
「男性隊員の方は、この人の名前と、わかれば怪我の原因を教えて下さいますか」
「コイツはB級の三雲修です。怪我の原因はわかりません。俺たち、三雲が本部前で倒れてるのを発見して、病院より本部の医務室の方が早いと思って。傷は縛ったんすけど」
名無しが米屋から話を聞いている間に、他の職員は三雲をストレッチャーに乗せ、診察の準備を進めていた。1人は医師に呼び出しをかける。
「……もしもし先生、急遽怪我をした隊員が運び込まれまして……。外傷です。原因はわかりませんが、明らかな出血が左足と腹部から……発見者によって傷は圧迫止血されてますが……ええ、お願いします」
内線を切った職員が他の職員に呼びかけた。
「全身観察して怪我の把握しながら待てってよ。モニターもちゃんと見ておけと。俺は他の部署に連絡するから頼むわ。先生が来て簡単に診察したら緊オペだな多分」
「わかった! ……あなたもありがとう。ここは一度私たちに任せて下さい」
名無しがそう言って米屋を外に出るよう促す。米屋と入れ替わりに、医師が医務室へと入っていった。
▽▽▽
緊張オペが終了するも、未だ意識を取り戻さない三雲を寝かせたベッドの横、床頭台の中に、名無しが彼の着ていた制服をしまう。
穴が空いてしまった制服は使いようがなくて捨ててしまうかもしれないが、血液は時間が経つほど落ちにくくなってしまうため名無しが急遽手洗いし、乾燥機へ突っ込んでおいたのだ。
その間にボーダー内での傷病者の確認は終了し、亡くなってしまった6人の搬送及び遺体の引き継ぎ、傷病者の対応は手分けして行っている。乾燥が終わる時間と、名無しが担当した対応が一区切りつく時間が丁度重なったため、三雲の病室へ向かったのだ。
早めに水で洗い流したおかげで、とりあえず血液汚れは目には見えなくなった。後は本人や家族が判断するだろう。
引き出しを閉めると同時に病室の扉が開く音が聞こえ、名無しが振り返るとそこには忍田の姿があった。
「……名無しくん」
「忍田本部長……!」
「三雲くんは」
「ひとまず命に別状はないかと。オペも成功しましたし、バイタル(※呼吸、体温、血圧、脈拍を基本とする生命の兆候)も安定しました。ただ、麻酔のせいかショックのせいか……意識は戻っていません」
「そうか……」
「医師によればそのうち目を覚ますだろう、とのことです。まだ若いですしこのまま寝たきりになることはないかと思いますが……」
「ああ、迅も三雲くんは大丈夫だと言っていた」
「迅くん……未来視の隊員ですね」
「そうだ」
未来視によって人の生死がわかってしまうのは、医療従事者には向かないな、と名無しは思った。救う人間と救わない人間を結果的に選んでしまうことになる。
そんな心労に耐えられているのか。その隊員の心のケアは誰がしているのだろう。
「名無しくんが面倒を見てくれているのか」
「あ……いや、別に面倒を見ているって程でも。処置は先生と看護師が行いましたし、私はベッドの準備と制服の洗濯くらいで」
「いや、助かるよ。そういう細かいところをきみが気にかけてくれるとありがたい」
「……早く意識が戻るといいですね」
「ああ。ご苦労だったな、名無しくんも」
「お給料貰ってますから」
冗談めかしてそう言うと、忍田も表情を柔らかくする。
「では私は戻るよ。やることがたくさんあってね。隙間をぬって三雲くんの様子を見に来たのだが、名無しくんにも会えて良かった。……また連絡する」
「……はい、待ってます。でも無理はしないで下さい。私、いくらでも待てますから」
連絡、が仕事上のものではなくプライベートのものであることを察した名無しの頭の上に伸びた手は途中で止まり、引っ込められる。そのまま忍田は病室を後にした。
▽▽▽
波乱の記者会見を乗り越え、更に数日後。忍田の部屋で、その部屋の主の腕の中に名無しはいた。
お互い仕事が終わってから、本部から離れた場所で待ち合わせて忍田の家に向かい、夕飯と風呂を済ませた後のことだ。
「本当にお疲れ様。忍田さん」
「冷や冷やしたよ。根付さんも三雲くんも城戸司令も……全く……」
「ふふ。三雲くんって子は凄いね、あの状況であれだけしっかり自分の考えを持ってて、大人相手に物怖じしないでそれを言えて」
「……そうだな」
「でも私はもっと冷や冷やした」
「何故だ?」
「忍田さんに決まってるでしょ! 人型
「なんだ、私が負けると思ったか?」
「まさか! 忍田さんが負けることはないってわかってる、わかってるけど。だからって全く心配しないような女だと思ってるの?」
「すまない、悪かった。拗ねないでくれ」
忍田が腕の中の名無しの頭をあやすように撫でる。
「……忍田さんに撫でて貰えるの好きだから、許す」
「ありがとう。私もきみを甘やかすのが好きだよ」
「あは、本部長がそれでいいの?」
「駄目だな。だが、今の私は名無しにとってただの恋人だから問題ない。きみこそ、今、私のことを本部長と扱っていないだろうに」
「確かに」
くすくすと笑う名無しの髪を指先で梳きながら、忍田が小さな声で呟く。
「まあ……この間はつい手が伸びてしまったが」
「ああ、三雲くんの病室のとき? やっぱり撫でようとしてくれてたんだ」
「あれだけの大きな戦いの後できみの姿を見て、つい安心してしまったんだろうな。我ながらまだまだ未熟だ」
「……忍田さんの戦闘、モニターで見てたけど。最強にかっこよかった」
「それは本望だな。惚れ直してくれたか?」
「そりゃもう。呼ばれたときも同僚の前でボロ出さないよう必死だったもん。仕事柄マスクで助かった」
「そんなにか? 大分冷静に対応していたようだが」
「そんなに。人型
トリオン体だってわかっているけど、それでも傷ついた忍田さんの側に早く行きたかったの。他の誰よりも私が。
そう告げた名無しが忍田の胸板に顔を埋める。
「今日は随分甘えただな」
「忍田さんが無事だったことを噛み締めてるの。……嫌?」
「いいや、嬉しいよ。いつも頑張ってるきみが、こうして私の前だけで見せる一面も愛しく思う。素直で可愛い」
「……んー……」
名無しは顔を埋めたまま唸る。覗く耳が赤くなっていて、隠していても照れているのは丸わかりだった。しかし、忍田はそれを指摘するほど野暮でもない。
「……私だってきみが心配で堪らなかった。きみは
「……そうだね」
……もしあの人型
勤務中において、本部長である忍田が一般職員に優劣をつけてはならない。忍田個人としては名無しを失わないために最優先で助けに行きたいが、それは許されないし、そもそもきっと間に合わない。間に合うようなら、今回の犠牲者は出ていない。
だから名無しも私を守って、とは言わないし、忍田も約束しないのだ。
「忍田さん、キスしたい」
「……ここでか?」
「駄目なら我慢するけど」
「いや、駄目じゃない」
忍田が名無しの頬を片手で包み、上を向かせる。軽く触れるだけのキスをして、名無しがふにゃりと笑った。
「ん……ふふ、ありがとう、忍田さん」
「……これだけでいいのか」
「え」
「私は満足していないが」
そのまま再度口付ける。一瞬戸惑いを見せた名無しも首に手を回して応えた。
「……っ、……ぁ」
角度を変えて何度も唇を合わせ、舌を絡ませる。どちらともなく漏れ出る吐息が熱くなっていく。
「っは、しの、ださ……」
「……っ……」
「……っは……っ……あ……」
暫くしてようやく口を離すと、お互いの唾液が糸を引いてぷつりと切れる。
「……っ……ふぅ……」
「名無し。ベッドに行こう」
「……うん」
「お互い明日は非番だしな。……たくさんしてもいいだろう? 久しぶりにきみが欲しい」
「っ、もう……!」
もう一度、今度は軽いリップ音を立ててキスをすると、忍田が名無しを抱き上げてベッドへと運ぶ。
「っわ、ちょっと、歩ける! 恥ずかしいから降ろして!」
「ははは、悪い」
「絶対思ってない……!」
ベッドへ降ろされた名無しの上に忍田が覆いかぶさるようにすると、ベッドが二人分の体重を受けて軋む。
「逃げられては困るからな」
「……それも思ってないでしょ」
「ふふ……そうだな。今日の名無しは素直で甘えただった。逃げる訳がなかったか」
「忍田さん!」
喉の奥で忍田が笑う。名無しの怒る気力も無くなっていった。そもそも、怒る気があったかどうかという話だが。
ひとしきり笑ったあと、忍田が息を吐いて名無しを見つめ直す。
「……名無し。好きだ、愛している」
「……私も」
「ずっと一緒にいて欲しい」
「……忍田さんこそ、私を一人にしないでね」
「ああ、約束するよ」
そう言ってまたキスをする。そのまま二人はシーツの海に沈んだ。
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