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「うううう……。散々な目にあったぜ……」
「そりゃお前が取ったらダメだろ」
「うム。貴様が手にするべきではない」
「何だよ2人して! オレの味方はいないのかよお……」
うるうると目に涙を貯めている矢張くんを見て、彼には悪いがつい笑ってしまった。
雫さんと来人さんの3回目の結婚式に参列させてもらった私たちは、ブーケトスの話題で盛り上がっていた。
「ちぇっ。名無しちゃんも笑ってないで助けてくれよなー……」
「ごめんごめん。でもあの3人には敵わないわよ」
はじめはお互い闘志を燃やしていた真宵ちゃん、茜ちゃん、そして心音ちゃんは、『自分が狙っていたブーケを受け取った矢張くん』という共通の敵によって仲間意識が芽生えたのか、今は3人で取り返したブーケを持ってはしゃいでいる。
「欲しくねえの? ブーケ。名無しちゃんが一番可能性あるだろ?」
なあ? と矢張くんに振られたのは、龍一くんだ。
「……なんだよ」
「つうか! むしろお前が取りに行くべきなんじゃないのか?」
「そんなおぞましい場面見たくないぞ……」
「いいや、オレだったらそうするね」
「ぼくはお前と違ってトラブルメーカーじゃないんだ」
「なんだと!」
ぎゃいぎゃいと再び騒ぎ出した矢張くんと、耳をふさぐ龍一くんをよそに、御剣くんが私にこっそり問いかける。
「……本当に興味がないのか? 確かに、キミはブーケトスに参加していなかったが」
「ううん、素敵だと思うし、もし受け取れたら嬉しい」
でも、と私も小声で答える。
「ブーケがなくても、結婚しなくても、私は龍一くんと一緒にいられればいいの。結婚は、目的じゃないから」
「……見せつけてくれるな、キミたちも」
「へへ、ごめんなさい。下手に受け取ってプレッシャーを与えたくもないもの」
「……“愛のチカラ”か……」
「お、御剣検事殿も認めますか?」
「フン、法廷では証拠が全てだ」
だが、と御剣くんは続ける。
「法廷以外では、そうとも限らない。……おい矢張、貴様いい加減大人しくしておけ」
憤慨している矢張くんの元へ見かねた御剣くんが行ったのと入れ替わりに、龍一くんが戻ってくる。
「矢張はいくつになったら落ち着くんだ……?」
「矢張くんは矢張くんのままなんじゃないかなあ、ずっと」
「うげえ……」
今後もアイツが事件に絡んでくる未来が容易く想像できる、なんて苦い表情をした龍一くんは、続けて私に聞く。
「そういえば、今御剣とすれ違ったときに生ぬるい目で見られた気がしたんだけど……何か話してた?」
「ううん、……特に何も」
「ふうん……アイツにああいう表情で見られるなんて気味が悪いなあ」
「そんなこと言わないの」
「おおい、名無しちゃん!」
そうたしなめた直後、真宵ちゃんが手をぶんぶんと振りながら私を呼んだ。
龍一くんと目を合わせると、彼も視線だけで私を促す。
何だろう、と思いながら私は真宵ちゃんの元へ向かった。
「はい! これ!」
真宵ちゃんの元に辿り着くと、小さなブーケを手渡された。
側にいる茜ちゃんや心音ちゃんも、同じようなブーケを持っている。
「え? これは……?」
「雫さんのブーケ、みんなで分けることにしたんです!」
「スタッフさんが綺麗に小さなブーケにしてくれたのよね」
ブーケというにはだいぶ小さくなっちゃったけど、と茜ちゃんが肩をすくめる。
「せっかくだから名無しちゃんの分も含めて4つにしてもらったんだ」
そこで真宵ちゃんがニヤリと口角を上げて私に詰め寄る。
「次はなるほどくんと名無しちゃんの結婚式かな~?」
「ま、真宵ちゃん……!」
「んふふー、顔が真っ赤だよ?」
慌てて火照った顔をパタパタと手で仰ぐ私を、真宵ちゃんはにこにこ……いや、ニヤニヤとした顔で見つめる。
「おおっ、またご馳走食べ放題ですね!」
「心音さん、アナタ食べ物のことしか考えてないの……?」
ガッツポーズを決めた心音ちゃんにツッコんだあと、茜ちゃんは心配そうに続けた。
「うーん、成歩堂さんの結婚式かあ……。……悪いけど、既に事件が起きる予感がするわ」
ルミノールと指紋検出粉は必須ね、あとは手の空いてる鑑識もあらかじめ呼んで……宝月班の編成も考えなきゃ……と、ドレスを纏った科学捜査官は止まらなくなってしまった。
「あ、ありがとう……。……なんか照れるね、こういうの」
でも、嬉しい。そう言うと3人は笑顔で頷いてくれた。
「ね、なるほどくんにも見せてきなよ!」
「そうですよ! ナルホドさん、女性の気持ちに鈍感そうだからコッチからアピールした方がいいです!」
「アピールシタホウガイイヨ!」
「私もそう思うわ。……そしてやっぱり気になるのよね、そのキカイ。カガク的に」
茜ちゃんの興味が心音ちゃんの胸に下がるモニ太に移ったところで、私は再び龍一くんの元へ戻ることにした。
「どうしたの、それ」
「貰っちゃった。茜ちゃんがスタッフさんに頼んで4つにしてもらったんだって」
真宵ちゃんと、茜ちゃんと、心音ちゃんと、私。
そう言ったところで、矢張くんが両手をバタバタさせながら抗議してくる。
「あー! オレの分はないのかよ!」
「うるさいぞ矢張」
矢張くんを一蹴した龍一くんは、再び私の持つ小さなブーケに目を向ける。
「そういうの、4つにしちゃっても効果あるのかな……?」
「どうだろうね。……龍一くん次第かな?」
そうおどけてみせると、彼は照れたようにそっぽを向いた。
「…………参ったな」
「あはは、冗談。プレッシャーなんて感じないでよ。……結婚しなくても、一緒にいてくれれば、私はそれだけで」
「……そんなの当たり前だろ。ブーケなんかなくても、さ」
横を向いたまま答えてくれた成歩堂くんを見る私の顔は、きっとゆるゆるなんだろう。
こっちを見てくれないままで良かった、なんて思った矢先、いつもの彼が騒ぎ出す。
「あーあー、失恋したオレの目の前でイチャイチャしないでくれるかなぁ!?」
「今回に至っては、失恋も何も始まってないからな」
「うわっ、謝るどころか追い討ちなんて……。それでも友達か!?」
「友達だからこそ、遠慮なく言えるんだよ」
「ぐぬぬ……! ありがとよ!」
怒りながらお礼を言っている。相変わらず忙しい人だ。
「大丈夫、矢張くんならブーケがなくても素敵な人と会えるよ」
「……ふん。テキトーなことを言ってもオレは機嫌直さないぞっ!」
「子供かよ」
「テキトーじゃないよ。矢張くんはなんだかんだ女の子が途切れないじゃない。それって、やっぱり魅力があるからだと思うんだよね。優しいし、付き合えばその子に一途だし、オシャレだし」
「…………」
「そういう魅力がない人は、そもそも誰とも付き合えないよ。今回みたいにすこーし思い込みが強くなっちゃうときもあるけど……矢張くんはイイ男だと思うよ。心から」
「……名無しちゃん……!」
うるうると目を潤ませながら、顎の下で両手を握っている。機嫌は直ったらしい。
「ううっ……! なんていい女なんだよ……!」
「そんなことないよ」
「早く結婚しろ成歩堂! こんないい女を放っておくな!」
「放っておいてくれるか、ぼくたちのことは」
「きーっ!」
機嫌が直ったかと思えばまたもや怒り出した矢張くんを無視して、龍一くんがこちらを向く。
不意に右手を掴まれ、まじまじと見られた。
「な、何? 急に手なんか気にして」
「……決して矢張に言われたからじゃないけど」
そう前置きした龍一くんは、片方の手で私の薬指を撫でながら続ける。
「今度、指輪見に行こうか」
「……えっ」
「結婚とか、婚約とか、そういう指輪は……もう少し準備させてほしい。ごめん。……でも、きみにはぼくがいるってことを示すための指輪とか、どう、かな」
「……」
「確かに、きみに何かしらシルシを付けておかないと、危ないなって」
「……」
「……ダメ?」
首を傾げて不安そうな表情を浮かべる彼を見て、私は思わず吹き出してしまう。
「……ふふっ、ふふふっ!」
「な、なんで笑うんだよ……」
「だって、プロポーズみたいなんだもん」
「プ、プロポーズはまたその時にちゃんとする」
「ふふ……うん、ありがとう。……指輪、欲し……」
「えっ、ちょっと名無しちゃん?!」
「あーあ、成歩堂が名無しちゃん泣かした!」
ポロポロと泣き出した私を見た龍一くんは驚き、矢張くんはそんな彼を指差す。慌てる彼に抱きついて、胸元に顔を埋めた。
「矢張、お前は黙ってろ! ね、ねえ、どうしたの」
「……龍一くんが泣かしたあ……」
「き、きみまでそんな……」
スーツ、汚しちゃうな。そう思ったけれど、どうせクリーニングに出すのだから許して欲しい。
困り果てている彼の胸元からそっと顔を横に向けると、大声につられたのかいつの間にか皆が集まって来ていたことに気づいた。慌てて彼から離れ、涙を拭う。
「ほんとだ、なるほどくんが名無しちゃんを泣かせてるー!」
「これは有罪ね」
「有罪ですね」
「検察側も異議なし、だ」
「うう……。名無しちゃん、弁護を頼んでもいいかい……?」
龍一くんを見上げると肩を落とし、冷や汗を垂らしていた。
だが、残念ながら私は弁護士ではない。
「……うーん。でも、私はどっちかって言うと原告じゃないかな」
「……これは、いつものやつかな」
「いいよ。叫んでも」
周りの皆も思い思いに頷いている。
龍一くんが軽く咳払いをした後、口を開いた。
「異議あり!!」
「そりゃお前が取ったらダメだろ」
「うム。貴様が手にするべきではない」
「何だよ2人して! オレの味方はいないのかよお……」
うるうると目に涙を貯めている矢張くんを見て、彼には悪いがつい笑ってしまった。
雫さんと来人さんの3回目の結婚式に参列させてもらった私たちは、ブーケトスの話題で盛り上がっていた。
「ちぇっ。名無しちゃんも笑ってないで助けてくれよなー……」
「ごめんごめん。でもあの3人には敵わないわよ」
はじめはお互い闘志を燃やしていた真宵ちゃん、茜ちゃん、そして心音ちゃんは、『自分が狙っていたブーケを受け取った矢張くん』という共通の敵によって仲間意識が芽生えたのか、今は3人で取り返したブーケを持ってはしゃいでいる。
「欲しくねえの? ブーケ。名無しちゃんが一番可能性あるだろ?」
なあ? と矢張くんに振られたのは、龍一くんだ。
「……なんだよ」
「つうか! むしろお前が取りに行くべきなんじゃないのか?」
「そんなおぞましい場面見たくないぞ……」
「いいや、オレだったらそうするね」
「ぼくはお前と違ってトラブルメーカーじゃないんだ」
「なんだと!」
ぎゃいぎゃいと再び騒ぎ出した矢張くんと、耳をふさぐ龍一くんをよそに、御剣くんが私にこっそり問いかける。
「……本当に興味がないのか? 確かに、キミはブーケトスに参加していなかったが」
「ううん、素敵だと思うし、もし受け取れたら嬉しい」
でも、と私も小声で答える。
「ブーケがなくても、結婚しなくても、私は龍一くんと一緒にいられればいいの。結婚は、目的じゃないから」
「……見せつけてくれるな、キミたちも」
「へへ、ごめんなさい。下手に受け取ってプレッシャーを与えたくもないもの」
「……“愛のチカラ”か……」
「お、御剣検事殿も認めますか?」
「フン、法廷では証拠が全てだ」
だが、と御剣くんは続ける。
「法廷以外では、そうとも限らない。……おい矢張、貴様いい加減大人しくしておけ」
憤慨している矢張くんの元へ見かねた御剣くんが行ったのと入れ替わりに、龍一くんが戻ってくる。
「矢張はいくつになったら落ち着くんだ……?」
「矢張くんは矢張くんのままなんじゃないかなあ、ずっと」
「うげえ……」
今後もアイツが事件に絡んでくる未来が容易く想像できる、なんて苦い表情をした龍一くんは、続けて私に聞く。
「そういえば、今御剣とすれ違ったときに生ぬるい目で見られた気がしたんだけど……何か話してた?」
「ううん、……特に何も」
「ふうん……アイツにああいう表情で見られるなんて気味が悪いなあ」
「そんなこと言わないの」
「おおい、名無しちゃん!」
そうたしなめた直後、真宵ちゃんが手をぶんぶんと振りながら私を呼んだ。
龍一くんと目を合わせると、彼も視線だけで私を促す。
何だろう、と思いながら私は真宵ちゃんの元へ向かった。
「はい! これ!」
真宵ちゃんの元に辿り着くと、小さなブーケを手渡された。
側にいる茜ちゃんや心音ちゃんも、同じようなブーケを持っている。
「え? これは……?」
「雫さんのブーケ、みんなで分けることにしたんです!」
「スタッフさんが綺麗に小さなブーケにしてくれたのよね」
ブーケというにはだいぶ小さくなっちゃったけど、と茜ちゃんが肩をすくめる。
「せっかくだから名無しちゃんの分も含めて4つにしてもらったんだ」
そこで真宵ちゃんがニヤリと口角を上げて私に詰め寄る。
「次はなるほどくんと名無しちゃんの結婚式かな~?」
「ま、真宵ちゃん……!」
「んふふー、顔が真っ赤だよ?」
慌てて火照った顔をパタパタと手で仰ぐ私を、真宵ちゃんはにこにこ……いや、ニヤニヤとした顔で見つめる。
「おおっ、またご馳走食べ放題ですね!」
「心音さん、アナタ食べ物のことしか考えてないの……?」
ガッツポーズを決めた心音ちゃんにツッコんだあと、茜ちゃんは心配そうに続けた。
「うーん、成歩堂さんの結婚式かあ……。……悪いけど、既に事件が起きる予感がするわ」
ルミノールと指紋検出粉は必須ね、あとは手の空いてる鑑識もあらかじめ呼んで……宝月班の編成も考えなきゃ……と、ドレスを纏った科学捜査官は止まらなくなってしまった。
「あ、ありがとう……。……なんか照れるね、こういうの」
でも、嬉しい。そう言うと3人は笑顔で頷いてくれた。
「ね、なるほどくんにも見せてきなよ!」
「そうですよ! ナルホドさん、女性の気持ちに鈍感そうだからコッチからアピールした方がいいです!」
「アピールシタホウガイイヨ!」
「私もそう思うわ。……そしてやっぱり気になるのよね、そのキカイ。カガク的に」
茜ちゃんの興味が心音ちゃんの胸に下がるモニ太に移ったところで、私は再び龍一くんの元へ戻ることにした。
「どうしたの、それ」
「貰っちゃった。茜ちゃんがスタッフさんに頼んで4つにしてもらったんだって」
真宵ちゃんと、茜ちゃんと、心音ちゃんと、私。
そう言ったところで、矢張くんが両手をバタバタさせながら抗議してくる。
「あー! オレの分はないのかよ!」
「うるさいぞ矢張」
矢張くんを一蹴した龍一くんは、再び私の持つ小さなブーケに目を向ける。
「そういうの、4つにしちゃっても効果あるのかな……?」
「どうだろうね。……龍一くん次第かな?」
そうおどけてみせると、彼は照れたようにそっぽを向いた。
「…………参ったな」
「あはは、冗談。プレッシャーなんて感じないでよ。……結婚しなくても、一緒にいてくれれば、私はそれだけで」
「……そんなの当たり前だろ。ブーケなんかなくても、さ」
横を向いたまま答えてくれた成歩堂くんを見る私の顔は、きっとゆるゆるなんだろう。
こっちを見てくれないままで良かった、なんて思った矢先、いつもの彼が騒ぎ出す。
「あーあー、失恋したオレの目の前でイチャイチャしないでくれるかなぁ!?」
「今回に至っては、失恋も何も始まってないからな」
「うわっ、謝るどころか追い討ちなんて……。それでも友達か!?」
「友達だからこそ、遠慮なく言えるんだよ」
「ぐぬぬ……! ありがとよ!」
怒りながらお礼を言っている。相変わらず忙しい人だ。
「大丈夫、矢張くんならブーケがなくても素敵な人と会えるよ」
「……ふん。テキトーなことを言ってもオレは機嫌直さないぞっ!」
「子供かよ」
「テキトーじゃないよ。矢張くんはなんだかんだ女の子が途切れないじゃない。それって、やっぱり魅力があるからだと思うんだよね。優しいし、付き合えばその子に一途だし、オシャレだし」
「…………」
「そういう魅力がない人は、そもそも誰とも付き合えないよ。今回みたいにすこーし思い込みが強くなっちゃうときもあるけど……矢張くんはイイ男だと思うよ。心から」
「……名無しちゃん……!」
うるうると目を潤ませながら、顎の下で両手を握っている。機嫌は直ったらしい。
「ううっ……! なんていい女なんだよ……!」
「そんなことないよ」
「早く結婚しろ成歩堂! こんないい女を放っておくな!」
「放っておいてくれるか、ぼくたちのことは」
「きーっ!」
機嫌が直ったかと思えばまたもや怒り出した矢張くんを無視して、龍一くんがこちらを向く。
不意に右手を掴まれ、まじまじと見られた。
「な、何? 急に手なんか気にして」
「……決して矢張に言われたからじゃないけど」
そう前置きした龍一くんは、片方の手で私の薬指を撫でながら続ける。
「今度、指輪見に行こうか」
「……えっ」
「結婚とか、婚約とか、そういう指輪は……もう少し準備させてほしい。ごめん。……でも、きみにはぼくがいるってことを示すための指輪とか、どう、かな」
「……」
「確かに、きみに何かしらシルシを付けておかないと、危ないなって」
「……」
「……ダメ?」
首を傾げて不安そうな表情を浮かべる彼を見て、私は思わず吹き出してしまう。
「……ふふっ、ふふふっ!」
「な、なんで笑うんだよ……」
「だって、プロポーズみたいなんだもん」
「プ、プロポーズはまたその時にちゃんとする」
「ふふ……うん、ありがとう。……指輪、欲し……」
「えっ、ちょっと名無しちゃん?!」
「あーあ、成歩堂が名無しちゃん泣かした!」
ポロポロと泣き出した私を見た龍一くんは驚き、矢張くんはそんな彼を指差す。慌てる彼に抱きついて、胸元に顔を埋めた。
「矢張、お前は黙ってろ! ね、ねえ、どうしたの」
「……龍一くんが泣かしたあ……」
「き、きみまでそんな……」
スーツ、汚しちゃうな。そう思ったけれど、どうせクリーニングに出すのだから許して欲しい。
困り果てている彼の胸元からそっと顔を横に向けると、大声につられたのかいつの間にか皆が集まって来ていたことに気づいた。慌てて彼から離れ、涙を拭う。
「ほんとだ、なるほどくんが名無しちゃんを泣かせてるー!」
「これは有罪ね」
「有罪ですね」
「検察側も異議なし、だ」
「うう……。名無しちゃん、弁護を頼んでもいいかい……?」
龍一くんを見上げると肩を落とし、冷や汗を垂らしていた。
だが、残念ながら私は弁護士ではない。
「……うーん。でも、私はどっちかって言うと原告じゃないかな」
「……これは、いつものやつかな」
「いいよ。叫んでも」
周りの皆も思い思いに頷いている。
龍一くんが軽く咳払いをした後、口を開いた。
「異議あり!!」
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