ペンキを平らに塗るような〜遊園地編〜
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秋が終わって、冬になる時期。
ふと触れたガラス窓は冷たく、窓辺から外を眺めるのを止めてソファに腰かけた。
特に抱えている事件もなく、いいんだか悪いんだか、なんの変哲もない時間を過ごしている。
真宵ちゃんや春美ちゃんも里へ帰っていて、事務所はここのところ静けさを保っていた。
「成歩堂くん、コーヒー飲む?」
ソファで呆けていると、そう声をかけられる。
そう、霊媒師はいなくとも、この事務所に弁護士一人という訳ではない。
視線を上げると二人分のコーヒーを持った茉黒ちゃんが立っていた。
いろいろあったけど、変わらずぼくを支え続けてくれた大切な人だ。
ありがとう、そう言って温かいマグカップを受け取ると、彼女もぼくの隣へ腰掛ける。そしてふうふうと息でコーヒーを冷ましながら不意に問いかけてきた。
「成歩堂くんって、遊園地デートしたことある?」
「え?」
「だから、遊園地デート。したことある?」
突然の質問に驚いて抜けた返事をしてしまったぼくに、茉黒ちゃんは再度質問を繰り返した。
「あ、ああ……ない、けど」
遊園地デートの経験という前に、そもそも茉黒ちゃん以外とのデートの経験がほとんどない。せいぜい、大学内を散歩したくらいか。
今思えば、デートというデートをしなかったのも当然だ。……あの時のぼくは、全く疑問に思わなかったけど。
かつてのその恋愛は、まるで毒薬のようにぼくの心を蝕んでいる。遊園地に行ったとか行かないとか、それ以前の問題で。少しだけノイズが走るが、すぐに振り払う。
ぼくの返事を聞いた彼女は、ほっとしたように続けた。
「それならさ、今度遊園地デートしようよ」
「もちろんいいけど……突然だね」
「ちょっと憧れだったんだよね、成歩堂くんと遊園地デートするの」
「大袈裟だな」
「だって本当のことなんだもん」
「……別に、デートくらいいつでもしようよ」
自分とのデートが憧れる程希少なものになってしまっているのか、という後ろめたさをなくすための言葉は、ぼくらしくなかったのかもしれない。
彼女は目を丸くしたが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。
「へえ、そしたら次は成歩堂くんが誘ってくれるの楽しみにしてるね」
「あー……あんまり過度な期待はしないでほしいかな」
「大丈夫大丈夫。私は、成歩堂くんが誘ってくれるならどこだって嬉しいよ」
そう言って笑う彼女に対して、何も言えなかった。
ぼくに偽りのない愛情を向けてくれる人がいることがあまりに幸せすぎて、言葉が出なかった。
そんなぼくの気持ちを察していたかはわからないが、彼女は返事を促すことなくただ優しく目を細めている。
デートに着ていけるような服、あったっけな。
なんて、普段服装に無頓着なくせに、クローゼットの中身を思い出すほど、ぼくは浮かれているんだろう。
ふと触れたガラス窓は冷たく、窓辺から外を眺めるのを止めてソファに腰かけた。
特に抱えている事件もなく、いいんだか悪いんだか、なんの変哲もない時間を過ごしている。
真宵ちゃんや春美ちゃんも里へ帰っていて、事務所はここのところ静けさを保っていた。
「成歩堂くん、コーヒー飲む?」
ソファで呆けていると、そう声をかけられる。
そう、霊媒師はいなくとも、この事務所に弁護士一人という訳ではない。
視線を上げると二人分のコーヒーを持った茉黒ちゃんが立っていた。
いろいろあったけど、変わらずぼくを支え続けてくれた大切な人だ。
ありがとう、そう言って温かいマグカップを受け取ると、彼女もぼくの隣へ腰掛ける。そしてふうふうと息でコーヒーを冷ましながら不意に問いかけてきた。
「成歩堂くんって、遊園地デートしたことある?」
「え?」
「だから、遊園地デート。したことある?」
突然の質問に驚いて抜けた返事をしてしまったぼくに、茉黒ちゃんは再度質問を繰り返した。
「あ、ああ……ない、けど」
遊園地デートの経験という前に、そもそも茉黒ちゃん以外とのデートの経験がほとんどない。せいぜい、大学内を散歩したくらいか。
今思えば、デートというデートをしなかったのも当然だ。……あの時のぼくは、全く疑問に思わなかったけど。
かつてのその恋愛は、まるで毒薬のようにぼくの心を蝕んでいる。遊園地に行ったとか行かないとか、それ以前の問題で。少しだけノイズが走るが、すぐに振り払う。
ぼくの返事を聞いた彼女は、ほっとしたように続けた。
「それならさ、今度遊園地デートしようよ」
「もちろんいいけど……突然だね」
「ちょっと憧れだったんだよね、成歩堂くんと遊園地デートするの」
「大袈裟だな」
「だって本当のことなんだもん」
「……別に、デートくらいいつでもしようよ」
自分とのデートが憧れる程希少なものになってしまっているのか、という後ろめたさをなくすための言葉は、ぼくらしくなかったのかもしれない。
彼女は目を丸くしたが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。
「へえ、そしたら次は成歩堂くんが誘ってくれるの楽しみにしてるね」
「あー……あんまり過度な期待はしないでほしいかな」
「大丈夫大丈夫。私は、成歩堂くんが誘ってくれるならどこだって嬉しいよ」
そう言って笑う彼女に対して、何も言えなかった。
ぼくに偽りのない愛情を向けてくれる人がいることがあまりに幸せすぎて、言葉が出なかった。
そんなぼくの気持ちを察していたかはわからないが、彼女は返事を促すことなくただ優しく目を細めている。
デートに着ていけるような服、あったっけな。
なんて、普段服装に無頓着なくせに、クローゼットの中身を思い出すほど、ぼくは浮かれているんだろう。
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