あの子に幸せを
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どうしたものか、と頭を抱えた。
目の前にはトナカイやサンタクロースがデフォルメされて描かれた可愛い便箋をニコニコと掲げているみぬきがいる。
“サンタさんへ! 弟か妹がほしいです”……そう書かれている便箋を。
「サンタさん、ちゃんとプレゼントしてくれるかなあ」
「ど、どうだろうね……。みぬきがいいこにしてたらの話だからさ」
「みぬきいいこにするもん!」
「でも流石に弟か妹をプレゼントするのは難し……」
難しいと思うよ、と言い終わる前に眉を下げたみぬきに見つめられて言葉を引っ込める。うう、ぼくのムスメは可愛いな……。
「パパ、サンタさんはお願いきいてくれないの?」
……子供の夢を壊せる親がいたら見てみたいものだ。
「……それで、きっとサンタさんは叶えてくれるよって言ったわけね」
「うん……というか、それ以外言えるわけないよ……。あ、でも」
ん? と彼女がぼくを見る。
「今じゃないってのはわかってる。生活安定してないし、子育て経験の浅いぼくたちじゃみぬきだけで正直手一杯だ。そもそも結婚してないし……。いや、きみとの子供が欲しくないわけじゃない。いつかは、もちろん欲しいけど……。っていうかそもそも今からじゃ間に合わな……」
「ふふ、わかってるわかってる。落ち着いてよ龍一くん」
誤解のないように伝えたいぼくの気持ちを、彼女はちゃんと察してくれているらしく、にこにこと笑ってくれた。
昔から、ぼくは彼女に対してうまく話せなくなることがある。彼女を傷つけたくないとか、勘違いされたくないとか、見栄とか、いろんなことを纏められなくなってしまって。ピンチのときの法廷での方がうまく口が回るんじゃないだろうか。
そんなことなど知らない彼女は続けた。
「でもどうしようかしらね。みぬきの期待を裏切る訳にはいかないし、かといって弟や妹なんて簡単に準備できるものじゃないし」
「うーん……困ったなあ……」
二人揃って腕を組んで悩む。みぬきが喜ぶ顔を見れるなら何だってしたいところだけど、現実問題として叶えてあげられるものではない。
「……まあ、なんとかするしかないよね」
呟かれた一言に、ぼくは彼女の方を向く。困っている割には幸せそうな顔だ。
「人形とかぬいぐるみを代わりに用意するかい? ……いや、幼稚すぎるかな」
みぬきも10歳を越えた。それだけでなく、元々かなり大人びた子だ。おもちゃを妹や弟だと言ってプレゼントするのは気が引ける。
「みぬきは優しい子だし、それも喜んでくれるとは思うんだけど……ひとつ思い付いたことがあるの」
「お、なにかな」
彼女の気づきには今までも何度も助けてもらった覚えがある。きっと今回も導いてくれる予感がぼくにはあった。
「パパ! 早く起きてっ!」
ゆさゆさと体を揺さぶられて目が覚める。体を起こすと、興奮した様子のみぬきがいた。
昨日の夜、つまりクリスマスイブもケーキを食べてご満悦だったのを思い出す。
横で寝ていたはずの彼女もいつの間にか起きていて、みぬきの後ろからこっそり目配せをした。なるほど、気づいたのか。
「……どうしたんだい、みぬき。朝から随分元気だね」
「サンタさんがみぬきに弟をくれたの!」
「なんだって? 弟?」
「ほら早く早く!」
引っ張られて連れて行かれたみぬきの寝室には、かごが置いてあり、中にはうさぎが一羽入っていた。
先程は驚いてみせたが、弟とは何のことか本当はわかっていた。明け方頃、ぼくと彼女でそっとみぬきの枕元に置いたものだからだ。
もちろんそれを知らないみぬきは寝癖も直さずぼくらを起こしに来たらしい。本当に可愛いものだ。
「みぬきのお手紙、ちゃんとサンタさんに届いたんだよ! ほら、お返事もくれたの」
みぬきが掲げたクリスマスカードには弟として雄のうさぎをプレゼントすることや、いつもいいこでいるみぬきを褒める言葉とみぬきの幸せを願う言葉が並んでいた。
彼女が用意してくれたものだ。サンタさんにしては親目線が過ぎる気がして笑ってしまった。
「よかったじゃないか」
「うん! うさぎさん、いつかはみぬきのマジックに出演してくれるかなあ……。えへへ、プロのマジシャンらしい弟ができちゃった」
嬉しそうにかごの中のうさぎを見つめるみぬきを見るぼくたちも、きっと大層嬉しそうなんだろうと思う。
朝ごはんを食べながら、彼女と話をする。みぬきは未だに自分の寝室だ。朝ごはんどころではないらしい。
「よかった、成功して」
「きみのおかげだよ」
「もう、二人で相談したでしょ」
あの日。彼女にみぬきのお願い事を打ち明けたあと、彼女はペットをプレゼントすることを提案してくれた。
インターネットで調べたり、2人でペットショップに行って店員さんに相談したりしてうさぎをプレゼントすることに決めたのだ。
「でも、本当にきみがいてくれてよかったと思うんだ」
今回だけではない。みぬきを養子として迎えたときから、彼女がいてくれてよかったと思った回数は数えきれない程だ。
……いいや、みぬきを迎える前から、そうだったか。
「……じゃあどういたしましてって言っておこうかな」
目を細めた彼女の顔は、朝の光に照らされてとても綺麗だった。
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