出汁に使う
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「髪の毛、ボサボサになってきちゃったな……」
風呂上がり、乾かした毛先を触りながら呟く。
元々癖毛の酷い私は、美容師さんのススメで縮毛矯正をした。
それから約3ヶ月。矯正前よりは確実にマシだが、だいぶうねりが出てきてしまった。
今日も職場で、「チリチリで魔女みたい」「うねってるから海藻かもよ」などと言われてしまったことを思い出す。
私の名誉のために言うと、汚れているとか、職場にそぐわない髪型をしているとかではない。
ヘアケアも、インターネットや雑誌で情報を集めて、自分なりの努力をしているんだけど。
相手もからかっているだけの様子で、こちらも冗談と捉えて明るく返すが、まあショックは受ける。
一束摘んだ毛先を眺めていると、風呂からあがってきた成歩堂くんが隣に座る。
自身の髪の毛をタオルでガシガシと拭きながら、反対の手で私の髪を触った。
「どうしたの、そんなに熱心に髪の毛見て」
「うーん……またボサボサになってきちゃったなって」
「え、そうかな」
「今はオイルつけて乾かしたばかりだからまだマシだけど……日中はやっぱり気になるんだよね。職場でも言われちゃうし」
あはは、と笑うが彼は途端に怪訝そうな顔になる。
「なんだそれ、何て言われてるの?」
「あ、いや、多分冗談でだよ? 仲良い人だし……」
「いいから。教えてよ。……言うことできみが傷つくなら別だけど」
「……ぐしゃぐしゃの髪とか、魔女みたいとか。うるさい、って返せるからいいんだけど」
「いいワケないだろ」
成歩堂くんはそう言った後ため息をつく。
「失礼な奴らだな、十分サラサラなのに」
「私にしては、ね。世間の女の子はもっとサラサラなんだよ」
「だとしても、そんなこと言われなきゃいけない理由にはならないよ」
「……優しいね、成歩堂くんは。はい、後ろ向いて」
私の代わりに怒ってくれている成歩堂くんの髪にドライヤーをかけるため、タオルを預かって背中を向けさせる。
「ぼくは今のきみの髪だって好きだし、元の髪だってふわふわで好きだよ」
ドライヤーのスイッチを入れる瞬間、そう確かに聞こえて、今まで溜め込んでいたことが目から零れてしまった。
「うん……ありがとう」
彼の髪を乾かしながら、タオルでこっそり目元を拭いた。
「ぼくの髪も、よくツンツン頭とかギザギザ頭とか言われるんだよな」
成歩堂くんの髪を乾かした後、胡座をかいた彼の足の間に入り込んでテレビを眺めていると、頭上からそう声が降ってきた。
「オールバックかっこいいのにねえ」
「そう言うのはきみだけだよ」
「……みんな見る目がない」
「きみの髪を揶揄するヤツらもね」
「ふふ、成歩堂くんが好きだって言ってくれたから、何言われても、もうどうでもよくなっちゃった」
「それは良かった」
「……でも、今度は成歩堂くんの髪のことを変に言ってくる人たちにイライラしてきちゃったな」
「はは、ぼくは元から気にしてないよ」
「うー……でもなあ」
「……ぼくも、きみがかっこいいって言ってくれたから今後ももっと気にならないし。キミもそうなんだろ?」
だから落ち着いてよ、と優しく諭される。
確かに、これ以上イヤなことに頭の容量を使うのは馬鹿らしい。
頷いた私の髪を、成歩堂くんは指で鋤くように触る。
お前らのからかいは、私が彼に甘やかしてもらうダシに使われるんだ、ざまあみろ。
私は1人で話していたテレビをリモコンで消して、厚い胸板に頬を寄せたのだった。
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