セーターで弁護士を殺せるか
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「あの、さ、新しいパジャマ、買ったんだよね」
ぼくが風呂から上がったのと入れ替わりに風呂場へ向かおうとした彼女が、足を止めてそう言った。
「へえ、いいじゃないか」
「着てもいいかな……?」
「? 別にぼくの許可は要らないだろ」
「……成歩堂くんのシュミじゃなかったらどうしようと思って」
「大丈夫だよ。……というか、それってつまり……ぼくのために新調してきてくれたってこと? 楽しみだな」
「う……、あんまり期待されるとプレッシャーだなあ……。ねえ、もしイヤだったら正直に言ってね? ほんと、自分でもアレかなって思うしお世辞言われるより……」
「わかったわかった、湯船冷めちゃうよ?」
うだうだと続ける名無しちゃんを風呂場へと促す。
準備してくれた彼女には悪いが、生憎ぼくはファッションに疎い。
だから、どんなパジャマだろうとそんなに気にならない。
今日、ぼくの家に泊まるために新しいパジャマを買ってきて、いざとなるとぼくの評価が気になって怖気づいてしまうなんて。
それだけでもう、いじらしくて可愛いからいいんじゃないかな、と思う。
ドライヤーの音が止まってから数分、足音がしたので振り返ると、名無しちゃんが立っていた。
ワンピースタイプのセーターを着ている。
「……セーター? パジャマにしてはめず……」
珍しいね、そう言おうとしたが思わず言葉が途切れた。
おかしい、彼女の胸が隠れきっていない。
そのうえ、太ももが露わになるほど丈は短く少し腕を動かすだけで裾が持ち上がる。
今にも見ちゃいけないものが見えてしまいそうだ。
慌てて手で自分の視界を塞ぐ。
「ちょ、ちょっと待った! それ……」
「……可愛いかなって、思ったんだけど」
「いや、可愛い、可愛いけど……!」
指の隙間から彼女の姿を覗く。
可愛い。もちろん可愛いのだが刺激が強すぎる。
そして確実にパジャマとしての機能はない。
どんなパジャマでも、と思ったが、これはネグリジェとかベビードールとか、そういう類いのものだ。
ああ、そうか、そうきたか。
再び視界を隠して心を落ち着けようとする。
……落ち着けようとしているのに、彼女が近づく気配がした。
ふわりと香ったシャンプーの香りに惑わされそうになる。
「可愛いけど……? やっぱりこういうのは、違った?」
その声に再び目を開ける。
ベッドに座っているぼくと目線を合わせようと屈んだ彼女と目があった。
視線をどこに向けていいかわからず、顔を横に向けた。
それでもついつい彼女の胸や腰、太もものあたりを見てしまうのが、オトコの悲しいサガだ。
そして気づいてしまった。
コイツ、ブラジャー付けてないな……。
こんなの、据え膳どころじゃない。
ふーっ、と息を吐いたあと、彼女を見つめ直す。
不安げで、完全に自信をなくした表情の彼女を、自分の膝を叩くことで促した。
「名無しちゃん、……ダメかも、それ」
戸惑いの表情のままぼくの膝に座る彼女にそう告げると、途端に泣きそうな顔になったので急いで言葉を繋ぐ。
「違うんだ、気に入らないとかじゃなくて。…………イロイロ、我慢できそうにない」
「……うー……もう、ハズしたかと思ったじゃない」
少しむくれた彼女の背中に手を回してギョッとした。
自分の指が素肌に触れたからだ。
まさかとは思っていたが本当に前部分にしか生地は無いらしい。
「……名無しちゃん」
「なに?」
「これ、汚してもいいヤツ?」
「…………ケダモノ」
「けっ……!? 誘ってるのはきみの方だろ!」
思わぬ言い分にそう抗議すると、名無しちゃんはぼくの首に手を回して抱きついた。
そしてポツリと告げられる。
「……いいよ、汚しても」
……もう限界だ。
添えていただけの腕に力を入れる。
「あー…………くそっ。……知らないぞ」
「実はね、1000円くらいしかしないんだ、この服。だから大丈夫だよ」
へへ、と笑った彼女と裏腹に、ぼくは若干の苛立ちすら覚える。
抱きしめたおかげで見えた彼女の後ろ姿は、かろうじてお尻の部分が隠れているだけだ。
はあ、とため息をつく。
すっかり自分の単純さを知らされてしまった。
……ああでも、思い返してみればこういうあざといの好きだったか、ぼく。
「してほしいのは服の心配だけじゃないんだけどなあ……」
呟いた言葉が彼女に聞こえたかどうかはわからなかった。
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