cute complex
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「龍一くんって、相変わらず可愛い子好きだよね」
「は?」
私と龍一くんしかいない昼下がりの事務所。
思わず口に出してしまった思いに、ぽかんとした顔で答えられた。
「この間みぬきがマジックショーするって招かれたショッピングモールでの事件のとき、モモガヤさんってアイドルいたじゃない?」
「……ああ、いたね。その子がどうしたの?」
「その子のこと、さあ……」
「なに?」
「………………」
「待った、名無しちゃんまさか」
「ああああっ!もうなんでもない!やっぱなし!」
「いやいやいや、それはないだろう、ちゃんと聞かせてよ」
何かに気づいた彼はニヤニヤとしながら私の腕を掴む。
顔を逸らすも腕を離してくれる気配はない。
後悔先に立たず。もう後には引けなくなってしまった。
「耳まで真っ赤だけど大丈夫?」
「……うるさい」
「酷いなあ……。で?その子がどうしたって?」
すっかり追求モードに入ってしまったらしい。
このままだんまりを決め込んでも諦めてくれはしないだろう。
しつこいゆさぶりをかけられるだけだ。
もしくは、妖しく光る勾玉をつきつけられるか。
「……アイドルやってるだけあって、可愛いねって……言ってた」
そう言いながらゆっくり振り返る。
拗ねた態度の私に対して彼は随分上機嫌だ。
面白くない。
「それは一般論を唱えただけだよ。ぼく個人が女の子として可愛いと思ったわけじゃない」
「それはわかってるけど……」
「嫉妬したんだ?」
その言葉に肩が揺れる。
この年になって年下の女の子に嫉妬するなんて、かなり大人げない。
大人げないが、ずっと心に引っかかっているのだ。
「…………っ、だってずっとそうじゃない……」
「そうって?」
「昔っからああいう可愛い系に弱いよねって!」
事務所を盗聴してたピンクスーツの女の子とか、着ぐるみショーの司会のお姉さんとか、…………元カノとか。
私の腕を掴んでいた手を離し、自分の顎に添えて目線を斜め上にした彼は「そうだね、可愛い子に弱いかもね」などと抜かした。
自分で言ったことだが本人から認められると正直傷つく。
(否定してほしくて口に出すなんて、イヤな女になっちゃったな)
彼の答えと、自分のめんどくささどちらにも落ち込んでしまう。
ショックで黙っていると彼は私の頬に手を伸ばす。
「だからきみと結婚したんじゃないか」
「……は?」
今度は私がぽかんと答える番だった。
「……傷つくな、その反応」
「……いきなり変なこと言うから」
「きみが、ぼくにとって一番可愛いから結婚したんだ」
っていうのは変なことかな、としたり顔で聞いてくる。
「……変じゃな……い、けど、意地悪になったね……」
そう、元々皮肉屋だったり妙に冷めていたりといった部分はあったけれど、ピアニストとして7年過ごす間に余計意地が悪くなったように思う。
「心外だね」
未だニヤニヤしながら彼はそう答える。
「それで、機嫌は直ったかい?」
「知らないっ」
「困ったな、そんなに怒ってるの?」
「……別に、最初から怒ってないけど」
「ああ、ヤキモチ妬いてくれちゃっただけだったね」
「……ほんと意地悪」
「ごめんごめん、可愛いからつい、ね」
そう言って龍一くんは私の顔を両手で挟むようにして覗き込む。
「……キスで誤魔化すつもり?」
「まさか。優しくするだけだよ」
意地悪だと言われたままにしておけないだろ、そう言い終わると同時に、バタバタバタッ、バアンッと音がして事務所の扉が開いた。
そして元気な声が響く。
「ただいま戻りました!予定より早くなっちゃ……ってどうしたんですか?」
声の主、若い弁護士はそう言って首を傾げる。
バタバタと足音が聞こえた瞬間、私たちはばっと離れてお互いそっぽを向く形となった。
キスシーンを見られなかったのはいいが、どうしたんですか?と聞かれてしまうのも無理はない。
私は至って平静を装って答える。
「ううん、別に何も。おかえりなさい」
そして龍一くんが口を開く。
「…………おかえり、オドロキくん」
彼の声は、地をはうように低かった。
表情こそ見えないが、王泥喜くんの顔がひきつっているということは、そういうことなんだろう。
ただ、自宅を兼ねているとはいえ、事務所でキスする方が非常識な気もするので、王泥喜くんに当たっても仕方ないと思うけど。
後でどうフォローをいれようか、なんて考えて気づいた。
そもそも私が、可愛い子に弱い龍一くんになだめてもらうはずじゃなかったっけ。
やっぱり、龍一くんへのフォローはしばらくお預けでいいのかもしれない。
……王泥喜くんが八つ当たりされなければの話だけど。
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