盲信5

櫻井の殺人事件は今頃になって進展を見せたようだった。

元々はジェヒョンが容疑者として挙げられていた事件だったが、新たな容疑者として、当時その付近に住んでいたらしい大学生が挙げられたようだ。逮捕されたものの、彼はまだ、この件に関する容疑を否認しているらしい。
彼は他の事件で、婦女暴行と強盗の容疑で検挙されたのだが、住んでいた場所が、あの事件のあったジェヒョンのアパートのすぐ近くであり、そのためにかつての事件の容疑もかけられたという。
とはいえ、現場には十分な証拠がなかったことは、前回のジェヒョンの裁判の際にも分かっている。そのために、彼が犯人であるという証拠も、そうではないという証拠もないのが現状だ。

悠太がそのことを初めて知ったのは、自宅で見ていたテレビを見ていた時であった。裁判を担当したものの、あまりひとつの事件に入れ込み過ぎるのは良くない。悠太は特に大きな感情を抱くこともなく、ニュースを見ていた。
強いて言うなら、もし真犯人がいたのだとすれば、ジェヒョンを救った自分の仕事も価値があったのだ、と安心した。テヨンにそのことを話しても、彼はあまり浮かない顔をしていたが。
世間からは忘れられようとしているこの事件だが、こうして久々に聞くと不思議な気分になる。
事件は忘れられがちだが、ジェヒョンは未だ世間の注目を浴びる存在のままだ。彼がこの事件がキッカケで有名になった作家であるということを一体何人が覚えているだろう。

そんな彼は今、中本家の姉と絶賛デート中である。今日の朝ルンルンと踊りだしそうなテンションの姉を、本日休暇中で遅い起床だった悠太は眠い目を擦りながら見送ったのだ。

朝は晴れていたが、昼過ぎ辺りから暗雲が立ち込めてきた。そして今は…。

「雨、か…」

しとしとと雨が降って肌寒くなってきた。
何か上に羽織れるものを部屋に取りに行こうと体を起こした悠太が、チラリと目を外に向けると、自宅の門からこちらへ向かってくる人影が見えた。
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