盲信4
妹とジョンウとの仲は悪くなっているようだった。
当初、ジョンウも自分たちの息子であるリオがジェヒョンに預けられ、その分妻である妹が仕事ができるようになったことを素直に喜んでくれた。しかし、預けるのが頻繁になり、その分妹が1人でジェヒョンの家に沢山訪れるようになると、良い顔をしないようになった。
ジョンウとしては妹に、ジェヒョンに息子を預ける頻度を減らすようにと言うのだが、妹の方はそれを受け入れることなく、首を振る。彼女も彼女で仕事が好きなので、反発するのだ。
それがまたジョンウの不安を煽り、誤解を受け、ジョンウの中ではジェヒョンに対する印象が「悪い人ではないかもしれないが得体の知れない胡散臭い人」へと変わり、「そんな人へ息子を預けるなんて!」と喧嘩へと発展していく。
ここのところ、ずっと甥を寝かしつけると、妹夫婦は喧嘩が続いている。
その時にある程度互いに歩み寄ったり、解決策を出せばよいのだが、若い2人の事である。感情のままに言い合っては、喧嘩したままその場を終わらせてしまう。
悠太としては頭を抱えたくなる事案である。
「っつーわけなんだよ、テヨンア〜」
「うーん、それは確かに大変だけど…」
悠太はテヨンと居酒屋にいた。個室の居酒屋のため、大きな声を出してもあまり迷惑は掛からない。おまけに料理もそこそこ美味しいので、悠太たちは職場から近いこの居酒屋を贔屓にしていた。
悠太からの相談という名の愚痴を聞かされるや、テヨンは生ビールを一口煽り、眉間に皺を寄せた。
「でもそういうのは妹さん夫婦同士の問題じゃない?」
「んまぁ、そりゃそうなんだけど」
テヨンの言うことも至極尤もだ。
悠太だって本来ならそれで収めておいてほしいところだ。しかしそうもいかない。妻の兄である自分に、ジョンウが泣きついてくるようになったのだ。
「まさかジョンウだって、親父に妹の事相談するわけにいかねーだろォ?ってなると、やっぱ必然的に俺のとこ来るって感じになるわけよ。『お義兄さん、僕、元々は妹さんのこと一目惚れだったんです』って泣きつかれてさぁ。俺もアイツが良い奴で妹の事大事にしてくれてるって思ってるから、何か可哀想になってきてさあ」
っつっても、俺は何もしてやれねーけど、と悠太が溜息を吐くと、テヨンは刺身をつまみながら口角を上げた。
「まぁ悠太は優しいからね。無下に切り捨てたりできないんでしょ?」
「だァっていくら他人ったって身内だし、しゃーないやろ?でもまぁ、あいつももうちょっと家族サービス?ってヤツ?した方が良いとは思うけどな。あの様子じゃマジでチビのヤツ、ジェヒョンに取られそうだわ」
ジェヒョン、というワードにテヨンは眉をピクリとさせて反応した。
初め、悠太の家の隣にジェヒョンが越してきたと知った時も、彼は驚いていたが、以降、悠太がジェヒョンの名を口にすると、テヨンはチラリと悠太の顔を覗き見るようになった。その度に悠太はテヨンに「何だよ?」と尋ねるのだが、その度に「何が?」とテヨンにはぐらかされてしまう。
しかし今回は少し、言及する気になったようだ。
「でも、まあ考えてみると。ジェヒョンさんっていうのは不思議な人だね、悠太」
「あ?まぁ義理堅い奴だとは思うけど?」
「…君がそれでいいならいいか」
「ハァ?」
意味ありげなテヨンの発言に悠太が目を見開くと、テヨンは視線をつい、と逸らした。
「まぁ、一度その有名な作家先生に僕も会ってみたいな」
是非とも紹介してね、というテヨンに悠太は違和感を覚えながらも、悠太は「まぁそのうちな」と、気のない返事をするのだった。