盲信2
その後、『悲劇のミステリー作家』としてチョン・ジェヒョンは売り出されることになったようだった。
事件の起こった当初は、不可解な事件としてワイドショーで取り上げられて、犯人像をあれやこれやと有識者を名乗る人々が議論していたものだが、ジェヒョンの裁判後は裁判でドヨンが持ち出したジェヒョンの「小篇集」が爆発的にヒットした。
今までは一応、作家として活動はしていたが、その知名度は低く、最低限の売り上げで最低限の生活をしていたらしいジェヒョンからすれば驚きだったことだろう。
表現の緻密さや、犯人の心情を繊細に描写した文体が人気を呼び、ジェヒョンはあっという間に無名の作家から文学賞を数々受賞するほどの作家に上り詰めていった。表現が的確過ぎて、ある種グロテスクな印象さえ受けるサスペンスのシーンも交えながら展開されるストーリーではあるが、その根底のテーマは、友情であったり、狂おしいまでの愛情であり、悲しい人間の狂気を描きながら綴られていく物語は、ミステリーファンだけでなく、老若男女を夢中にさせた。
極めつけはやはり彼の顔立ちである。
洗練された整った都会的な雰囲気と爽やかな男らしさを持ちつつも不思議と色気があり、なんとなく人の良さそうな笑みを浮かべているジェヒョンの書く文章があんなにも力強く、情熱的で、激しい衝動を描いているというギャップがまた良いのだ、と悠太に語ったのは悠太の姉だっただろうか。
そんな風なので創作活動以外の仕事が増え、ハイブランドのイメージモデルとして大きなポスターが駅に張り出されているのも見たことがある。
作家業に支障が出るので、モデルとしての仕事は次回作が出るまで休ませてほしい、とジェヒョンが会見で話したことがニュースになったのはつい最近のことだ。