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盲信11

1人の男が死んだ。

被害者は都内大手法律事務所の弁護士、イ・テヨン。
死因は刃渡り25㎝はあろうかという鋭利な刃物によって心臓を一突きにされ、即死。
現場には特にテヨンと犯人が争ったような形跡は無く、恐らく顔見知りの人間の犯行であろうと思われる。死体が発見されたのは、今を時めく人気小説作家チョン・ジェヒョンの箱根にある別荘のガレージにある物置の中だった。

約2カ月ほど前より被害者であるテヨンは行方が分からなくなっており、行方不明者として家族より警察の方に捜索願が出されていた。
そして今回、山奥の別荘地で遺体が発見されたのである。死体の状況から見て、テヨンが殺されたのは別荘の家主であるチョン・ジェヒョンより通報があったその日であり、彼の遺体の周囲では食べかけの食事などが見つかったことから、テヨンはその物置で何日かに渡り監禁されていた可能性があるということが分かっている。

犯人として逮捕されたのは、テヨンの同僚であり、友人でもあった同じ事務所に勤める弁護士、中本悠太である。
彼は恋人であるジェヒョンと長期休暇をこのジェヒョンの別荘で過ごしていたとのこと。
彼はテヨンからは親友であると慕われていたらしい。

この別荘の家主であるジェヒョンによると、彼は一週間前よりこの別荘で過ごしていたが、まさか遺体が物置の中にあるとは思っていなかったとのこと。
いつもと同じように都内の仕事から帰って来て、何気なくジェヒョンが物置を確認するとテヨンの遺体を発見。
そのことについて悠太本人に問い詰め地元の神奈川県警に通報すると、彼の様子が急変し、家に備え付けてあった薪ストーブ火かき棒を振り回して暴れ、ジェヒョンを滅多打ちにしたのだという。
「うるさい!」と半狂乱に繰り返し叫びながらジェヒョンを鉄製の棒で打つ悠太を駆け付けた警察が発見し、現行犯逮捕した。

ジェヒョンの怪我は棒で殴打された鎖骨、肩、脇腹、太腿など数か所の骨のヒビや骨折で、全治3か月は固いと言われている。

ジェヒョンの別荘は他の別荘群からは離れているため、外部から人間が密かに入って来て犯行を行ったとは考えにくい。
ジェヒョンに問い詰められた際の悠太の反応から、恐らく彼が犯人であろうという線が濃厚であるが、当の中本は警察官によって取り押さえられ現行犯逮捕された時から、呆然としてまるで精神が壊れてしまったかのように全く何も話さなくなってしまった。よって2カ月にわたるテヨンの監禁場所、拉致の方法などについては不明な点が多い。
テヨンが箱根に行くにあたって使用されたのはジェヒョンが所持していた自家用車であり、トランクにテヨンの毛髪が残されていた。
彼は生きながらにトランクに乗せられ、運ばれたのだ。
ゆえに勿論、ジェヒョン自身も容疑者として名前は上がったものの、彼自身も悠太による暴行事件の被害者であり、テヨンが拉致されていたとされる2カ月の間は自身の小説の新作のプロモーション活動で忙しくしており、当時は仕事の時だけでなく自宅内に出版社の編集担当も忙しく出入りするほど、自分のための時間もあまりとれないような有様だった。
そして何よりジェヒョンはテヨン本人とは悠太の紹介で一度あったことがある程度であるとのことで特に疑わしい点も無く、容疑者からは外され、本件は悠太一人の犯行であると結論された 。

テヨンと中本は同僚である以外に元々友人同士で、仕事以外でも度々一緒に外食している姿を職場の同僚たちが目撃している。
何か月か前にはテヨンが中本を自身が所持している軽井沢の別荘に招待しており、その後も仲の良い様子だったという。特に険悪なムードになっているようなことは今までに見たことがなく、むしろ2人は気心の知れた親友、という雰囲気だったらしい。
故に、今回の犯行について関係者は多かれ少なかれショックを受けたようだった。
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