盲信10

そう思っていたし、そう信じて居た。
反面、本当に疑う気持ちがなかったわけではない。あの風俗店に赴いた時点で相当怪しいと思っていたし、もしかしたら、とも思った。
しかしそれを完全に追求できるほど、悠太は強くなかった。そうするにはあまりにも、悠太とジェヒョンは近くなりすぎた。彼が犯罪者であると認めたくない気持が勝ってしまったのだ。
法廷でジェヒョンがたった一人であった時に悠太がジェヒョンの唯一の味方であったように、今は家族の中であぶれてしまい、且つ、テヨンの失踪を受けた自分のたった一人の味方がジェヒョンだったのだ。

そう、思っていたのに。

悠太はテヨンの死体の傍らにある資料に目を通した。そしてそれを見たという痕跡を残さないよう、元に戻して物置を出た。
思ったよりも長く時間が経っていたらしい。
日はすっかり傾き、外は寒くなっていた。
しかし、悠太はそれどころではない。

自分のスマートホンを確認すると、ジェヒョンから数分前にもうすぐ帰ってくる旨のメールが来ていた。少し震える手で返信を打ち、すぐ家の中に入った。
部屋の電気を点け、仕事の資料を広げて、いかにも今の今まで仕事をしていた風な状況を作った。
本当は今日進めるはずだった調べ物が文字の羅列となって目に飛び込んできたが、それだけで意味は全く理解できなかった。

全く何もせずに、放心状態のまま、過ごしていたのだろう。意識が戻ったのは庭に車を乗り入れる音を聞いたからだ。
ジェヒョンの車だ。口の中に溜まった唾を飲み込むと、喉が大仰にゴクリと音を立てた。緊張しているのかもしれない。

ジェヒョンは車をガレージに停めると、まっすぐ家に帰ってきた。

「おかえり」
「ごめんね遅くなっちゃった。すぐ夕飯作るね」

別に急がなくてもいい、と言った自分の声は変に響いていなかっただろうか。

普段気にも留めないことが今の悠太には妙に気になるのだ。
そんなことを悠太が思っていることなど露知らず、良い恋人の皮を被った彼は笑った。そして肌寒い室内に気付いたようだ。

「あれ?ストーブ点けないの?」
「ああ、俺点け方知らんから」
「言ってなかったっけ?玄関の靴脱ぐとこの傍に木箱あるでしょ。あの中に細かく割ったの入ってるんだ。それと着火剤入れて火点けるだけ。簡単でしょう?」
「ああ、そうなんか…」

願わくば、それを早く知っていたかった。
であれば自分は今も幸せなままだっただろう、と悠太はその皮肉さに思わず笑った。
それをどう受け取ったのか、ジェヒョンは「しょうがないなあ」と、自分が説明した手順を踏んでストーブに着火した。
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