盲信7

悠太の期待とは裏腹に、姉は未だに自室に引きこもっており、妹だけが部屋の出入りを許されて甲斐甲斐しく世話をしている。
食事やその他の話し相手などもすべて妹が請け負っているようだった。

ジェヒョンの家から帰ってきたあの日の朝から、すでに妹からも冷ややかな視線を送られていた悠太は、恐らくあの日のジェヒョンと姉の六本木デートの詳細や、ジェヒョンが悠太に抱いていた感情についてのあれやこれやを聞いてしまったのだろう。
あの冷静さを欠いた状態の姉がジェヒョンの言い分を冷静に聞いていたのだろうとは思えないし、現にこうして今もかつては仲の良かった兄を徹底的に避けている様子から、まともな状態ではないことは明らかなので、彼女が妹に対して悠太とジェヒョンに関してあることないこと吹き込んだのだろうということは想像に難くなかった。
それが連日悠太に注がれている妹からの軽蔑的するようなあの視線に表れているのだ。 
この手のものは下手に刺激してはいけない。時間が解決してくれるのを待つべきだ、というのが悠太の持論である。
故に悠太は特に何かを正したり、異議を申し立てようとは思わなかった。

しかし、中本家で起こっている厄介な出来事というのは、姉の一軒だけではない。

悠太とジェヒョンの蜜月とは対照的に、妹とジョンウの夫婦仲は冷え切っているようだった。
我が子の前では表にしないまでも、2人の間のピリピリとした空気は以前よりも深刻化しているようだった。
一見冷静そうに見えるジョンウもあれでいて感情に流されやすいところがあり、妻に手を上げることはしないが、売り言葉に買い言葉、ますます険悪になるばかりである。悠太もジョンウに泣き付かれる頻度もさらに増したように感じる。

最近になっては、息子のリオの方が空気を読んで、夜になると素直に風呂に入り、眠りにつくようになっている。子供にまで余計なストレスをかけている彼らには心底呆れるが、以前この件に関してテヨンから「妹さん夫婦の問題だろう」と一刀両断されてしまってからは、なんとなく口を出すのが憚られるようになってしまった。
事実、悠太が指図したところで、事が収まるとは到底思えない。
父母も同じような考えなのか、妹夫婦の件に関しては我関せずというスタンスを貫いているようだった。
母はたまに妹の相談に乗ってやっているようだったが、特にこれといて状況は変わらないようだった。
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