ルミナスの手記
「るくんぬ」
「ああ、こらこら」
タイガシティの喫茶店で皆で一服をしているとルカリオはずっとミケにすり寄っていた。
「オム・ファタルかなにかなのか君は」
暴れるバチンキーはエミールのアブソルにくわえられている。
「お、おむ……?」
「魔性の男って意味だよ」
「そんなまさか」
「どーだか!」
エミールがにやにやした後、急に真顔になった。
「さて次はここのジムリーダーのナズナだが」
「あ、ゴシップピッカーが拾ってた」
「然様。水タイプの使い手だ。バチンキーとマッギョが相性もいいが、マッギョは水タイプも弱点なのをちゃんと考えるんだぞ」
「はい」
「さて。腹も膨れたしジムへ向かおう。特に観光すべきところはない」
三人は立ち上がった。
「るぅん♪」
「ぎーっ!」
ルカリオがミケを抱きしめ、バチンキーは益々暴れた。
★★★
タイガシティジム。
そこには一人の女性が立っていた。
「あれ、ヴィットーレさん?」
「やあ! うまいことルカリオが手に入ったようだね! 全く君は運がいい!」
「あ、ヴィットーレさん。ありがとうございま……」
「……」
エミールは子供たち二人を自分とアブソルの後ろに隠した。
「エミールさん……」
「御託はいい。何が目的だ」
「エミールさん、ヴィットーレさんのおかげで……」
「だからだよ」
「え?」
見るとエミールは見たこともない鋭い目つきでヴィットーレを見ていた。
「……『デウス・エクス・マキナ』」
「え?」
「あまりにも都合が良すぎる。特にミケランジェロくんに対して」
「……んー」
ヴィットーレは腕を組んでエミールを見た。
「I got it! 『無理矢理なハッピーエンド』は私も好きじゃない。タネを明かそう」
「そうして頂けると助かる」
「まず、あの石だが早い段階で『ルカリオナイトZ』だということはわかっていた。知り合いに目利きが利く奴がいてね。疑うならそいつと連絡を取ってもいい」
「いや、そこまでの提示は必要ない」
ヴィットーレはこほんと息を吐いた。
「ここからは不確定要素の話になる」
ヴィットーレはひとつのボールを出した。中から出てきたのは。
「りおっ!」
「リオル……色違いか」
その黄色いポケモンを撫でて、ヴィットーレは続ける。
「ミケくんがルカリオナイトZ、そして運よくキーストーンを手にしたらこの子を進呈するつもりだった」
ヴィットーレはミケの後ろに隠れてしまったルカリオを見た。
「ミケくん、本当にいいのかい?」
「え」
「その子と今メガシンカしてみなよ」
「えっと……はい」
ルカリオにはメガストーンを持たせてある。
「え、とこうかな……ルカリオ! メガシンカ!」
「くんぬ……」
光が集まったネックレスのキーストーンを押す、ルカリオが光に包まれ。包まれ……。
光が収まってもルカリオは元の姿のままだ。
「ルカリオ?」
「戦う力が足りない」
ヴィットーレは言い放った。
「メガシンカは絆だけではできない。現にそのルカリオは拒否した。恐らく、戦いたくない、と思っている。何が原因かは知らないがね。Understand?」
「それじゃ……今のミケランジェロくんは『メガシンカの環境が整っただけ』ってことか……?」
「Exactly! そこで提案だが、そちらのルカリオは手放して、こっちのリオルを……」
「断ります!」
自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。
「僕はこのルカリオがいい!!」
「I see. 君ならそう言うと思ってた。それじゃこのリオルはこのお嬢さんに渡そうかな」
「……え!」
急に話を振られ、ミケの方を心配そうに見ていたシェリーがびっくりした声を上げる。一歩下がって、頭を振る。
「そのような……私、ベトベターも貰ったばっかりで……育てられないです……」
「まあまあ、子供たちの旅に仲間は多い方がいいじゃないか。『利用しようとしている大人』もいることだしね」
エミールの肩がびくりと動いた。
「とととにかくっ! リオルは受け取るといい! お前これ以上変なことしたら本当にリーグにチクるからな!」
「ははは、で、リオルのボールはこれさ。次はバトルもしようね!」
そう言うと悠々とヴィットーレは町の奥に消えた。
「ムカつく……」
「エミールさん。だめですよ。協力してくれてる方なんですから」
「……ミケランジェロくんならこのジムも突破できるだろう。私はちょっと風に当たって頭冷やしてくるよ。アブソルは二人に着いてて。バチンキーはバトルの時返すんだぞ」
「そるる」
「あ、はい……」
「ではね」
エミールは手をひらひらとして行ってしまった。
後に残れされたのはミケとシェリーとバチンキーをくわえたアブソル。色違いのリオルと。
「ルカリオ……」
「るん……」
「大丈夫だよ! いきなりだったもん、その内慣れるよ!」
「くん……」
ルカリオの落ち込み用に毒気を抜かれたのか、バチンキーも何も言わない。
「なんだ、なんだ、あたしの町で辛気臭い面をするなんざ、とんだ命知らずがいたもんだね!」
そう声をかけてきたのは青緑の髪の強気そうな女性。かなり美人だ。
「あなたは……」
「オマケにあたしを知らないと来た! ここのジムリーダーのナズナだよ! よく覚えておきな!」
ミケランジェロは居住まいを正す。
「僕はミケランジェロって言います! 挑戦させてください!」
「やっと馴染みのある話になってきたね。 レギュレーションは受付に寄って紙確認しな!」
ナズナは豪快に天を仰いでジムに入って行ってしまった。
「あの、ミケさん……」
「大丈夫だって! 俺も頑張るから! メガシンカだけが全てじゃないよ!」
「は、はい……」
「とにかく? 行こう?」
二人は気づかなかった。それを見ていた人間が今回もいたことに。一人はヴィットーレ、もう一人は──……。
★★★
「ほら、飴でも食ってろ」
けいけんアメを差し出され、ベロバーはエミールの肩で嬉しそうにいそいそと食べ出す。
「……いるんだろ。ミゲル」
そう言われて木陰から現れたのは柄の悪いヘッドバンドの男性。フーディンを連れている。背が高く、エミールとは身長が頭一個分違う。
「お前って結構面倒見いいタイプなんだなぁって感激してるよ」
「ふん。……言伝とはないのか」
「ねぇよ。お前期待されてねぇもん。やらかしたとき報せろとしか言われてない」
忌々し気にエミールは舌打ちした。
「にしても考えたなぁ? そうだよなぁ。自分でスタンプ集めるより楽だもんなー」
「……それだけじゃ」
「『それだけ』だろ?」
ミゲルは距離を詰め、エミールの額に人差し指をこつんと当てた。
「奢っちゃだめだぜ。エミー、自分の生まれを考えろよ」
エミールの顔が苦しそうに歪む。
「ダイジョブ。俺はちゃんとお前の味方だぜ。変な癇癪を起こさなければな。一旦森に逃げられた時はどうしようかと思ったが、ガキにやらせてるって言ったらお前のお家は納得してくれたよ」
「……」
「じゃあな。『理解のある大人』さん」
ミゲルはにやりと笑うと去って行く。
ベロバーはもうアメを食べ終わっており、エミールの頭を困ったようにくしくしとした。
「やめろ。撫でるな」
「バー」
「ったく……」
ベロバーを持ち上げて高い高いをしてやるとそれはもうこのピンクのポケモンは喜んだ。
「赤ちゃんかよ。……でも一人じゃないって大事だよな」
「バー!」
「はいはい」
もっととせがむベロバーに、エミールは本当に少しだけ、笑った。
【251221】
「ああ、こらこら」
タイガシティの喫茶店で皆で一服をしているとルカリオはずっとミケにすり寄っていた。
「オム・ファタルかなにかなのか君は」
暴れるバチンキーはエミールのアブソルにくわえられている。
「お、おむ……?」
「魔性の男って意味だよ」
「そんなまさか」
「どーだか!」
エミールがにやにやした後、急に真顔になった。
「さて次はここのジムリーダーのナズナだが」
「あ、ゴシップピッカーが拾ってた」
「然様。水タイプの使い手だ。バチンキーとマッギョが相性もいいが、マッギョは水タイプも弱点なのをちゃんと考えるんだぞ」
「はい」
「さて。腹も膨れたしジムへ向かおう。特に観光すべきところはない」
三人は立ち上がった。
「るぅん♪」
「ぎーっ!」
ルカリオがミケを抱きしめ、バチンキーは益々暴れた。
★★★
タイガシティジム。
そこには一人の女性が立っていた。
「あれ、ヴィットーレさん?」
「やあ! うまいことルカリオが手に入ったようだね! 全く君は運がいい!」
「あ、ヴィットーレさん。ありがとうございま……」
「……」
エミールは子供たち二人を自分とアブソルの後ろに隠した。
「エミールさん……」
「御託はいい。何が目的だ」
「エミールさん、ヴィットーレさんのおかげで……」
「だからだよ」
「え?」
見るとエミールは見たこともない鋭い目つきでヴィットーレを見ていた。
「……『デウス・エクス・マキナ』」
「え?」
「あまりにも都合が良すぎる。特にミケランジェロくんに対して」
「……んー」
ヴィットーレは腕を組んでエミールを見た。
「I got it! 『無理矢理なハッピーエンド』は私も好きじゃない。タネを明かそう」
「そうして頂けると助かる」
「まず、あの石だが早い段階で『ルカリオナイトZ』だということはわかっていた。知り合いに目利きが利く奴がいてね。疑うならそいつと連絡を取ってもいい」
「いや、そこまでの提示は必要ない」
ヴィットーレはこほんと息を吐いた。
「ここからは不確定要素の話になる」
ヴィットーレはひとつのボールを出した。中から出てきたのは。
「りおっ!」
「リオル……色違いか」
その黄色いポケモンを撫でて、ヴィットーレは続ける。
「ミケくんがルカリオナイトZ、そして運よくキーストーンを手にしたらこの子を進呈するつもりだった」
ヴィットーレはミケの後ろに隠れてしまったルカリオを見た。
「ミケくん、本当にいいのかい?」
「え」
「その子と今メガシンカしてみなよ」
「えっと……はい」
ルカリオにはメガストーンを持たせてある。
「え、とこうかな……ルカリオ! メガシンカ!」
「くんぬ……」
光が集まったネックレスのキーストーンを押す、ルカリオが光に包まれ。包まれ……。
光が収まってもルカリオは元の姿のままだ。
「ルカリオ?」
「戦う力が足りない」
ヴィットーレは言い放った。
「メガシンカは絆だけではできない。現にそのルカリオは拒否した。恐らく、戦いたくない、と思っている。何が原因かは知らないがね。Understand?」
「それじゃ……今のミケランジェロくんは『メガシンカの環境が整っただけ』ってことか……?」
「Exactly! そこで提案だが、そちらのルカリオは手放して、こっちのリオルを……」
「断ります!」
自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。
「僕はこのルカリオがいい!!」
「I see. 君ならそう言うと思ってた。それじゃこのリオルはこのお嬢さんに渡そうかな」
「……え!」
急に話を振られ、ミケの方を心配そうに見ていたシェリーがびっくりした声を上げる。一歩下がって、頭を振る。
「そのような……私、ベトベターも貰ったばっかりで……育てられないです……」
「まあまあ、子供たちの旅に仲間は多い方がいいじゃないか。『利用しようとしている大人』もいることだしね」
エミールの肩がびくりと動いた。
「とととにかくっ! リオルは受け取るといい! お前これ以上変なことしたら本当にリーグにチクるからな!」
「ははは、で、リオルのボールはこれさ。次はバトルもしようね!」
そう言うと悠々とヴィットーレは町の奥に消えた。
「ムカつく……」
「エミールさん。だめですよ。協力してくれてる方なんですから」
「……ミケランジェロくんならこのジムも突破できるだろう。私はちょっと風に当たって頭冷やしてくるよ。アブソルは二人に着いてて。バチンキーはバトルの時返すんだぞ」
「そるる」
「あ、はい……」
「ではね」
エミールは手をひらひらとして行ってしまった。
後に残れされたのはミケとシェリーとバチンキーをくわえたアブソル。色違いのリオルと。
「ルカリオ……」
「るん……」
「大丈夫だよ! いきなりだったもん、その内慣れるよ!」
「くん……」
ルカリオの落ち込み用に毒気を抜かれたのか、バチンキーも何も言わない。
「なんだ、なんだ、あたしの町で辛気臭い面をするなんざ、とんだ命知らずがいたもんだね!」
そう声をかけてきたのは青緑の髪の強気そうな女性。かなり美人だ。
「あなたは……」
「オマケにあたしを知らないと来た! ここのジムリーダーのナズナだよ! よく覚えておきな!」
ミケランジェロは居住まいを正す。
「僕はミケランジェロって言います! 挑戦させてください!」
「やっと馴染みのある話になってきたね。 レギュレーションは受付に寄って紙確認しな!」
ナズナは豪快に天を仰いでジムに入って行ってしまった。
「あの、ミケさん……」
「大丈夫だって! 俺も頑張るから! メガシンカだけが全てじゃないよ!」
「は、はい……」
「とにかく? 行こう?」
二人は気づかなかった。それを見ていた人間が今回もいたことに。一人はヴィットーレ、もう一人は──……。
★★★
「ほら、飴でも食ってろ」
けいけんアメを差し出され、ベロバーはエミールの肩で嬉しそうにいそいそと食べ出す。
「……いるんだろ。ミゲル」
そう言われて木陰から現れたのは柄の悪いヘッドバンドの男性。フーディンを連れている。背が高く、エミールとは身長が頭一個分違う。
「お前って結構面倒見いいタイプなんだなぁって感激してるよ」
「ふん。……言伝とはないのか」
「ねぇよ。お前期待されてねぇもん。やらかしたとき報せろとしか言われてない」
忌々し気にエミールは舌打ちした。
「にしても考えたなぁ? そうだよなぁ。自分でスタンプ集めるより楽だもんなー」
「……それだけじゃ」
「『それだけ』だろ?」
ミゲルは距離を詰め、エミールの額に人差し指をこつんと当てた。
「奢っちゃだめだぜ。エミー、自分の生まれを考えろよ」
エミールの顔が苦しそうに歪む。
「ダイジョブ。俺はちゃんとお前の味方だぜ。変な癇癪を起こさなければな。一旦森に逃げられた時はどうしようかと思ったが、ガキにやらせてるって言ったらお前のお家は納得してくれたよ」
「……」
「じゃあな。『理解のある大人』さん」
ミゲルはにやりと笑うと去って行く。
ベロバーはもうアメを食べ終わっており、エミールの頭を困ったようにくしくしとした。
「やめろ。撫でるな」
「バー」
「ったく……」
ベロバーを持ち上げて高い高いをしてやるとそれはもうこのピンクのポケモンは喜んだ。
「赤ちゃんかよ。……でも一人じゃないって大事だよな」
「バー!」
「はいはい」
もっととせがむベロバーに、エミールは本当に少しだけ、笑った。
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