ルミナスの手記

 淡く燃える熱気の街、ソウエンシティ。港に面しており、船が何艘か停泊している。
「ソウエンシティは貿易の街。お香や進化の石、珍しいボールなどが売ってるぞ!」
 石畳の道を歩きながらエミールが得意気に人差し指を立てて説明した。
「へー!」
「お小遣いをあげるから少し見てまわるといい。ポケバーを出しなさい」
 そう言いエミールもポケバーを取り出す。
「へ?」
「『リーグポケコイン』を知らないのかね? 本当に新人なんだなあ」
 ミケが首を傾げていると、シェリーがあの、と声をかける。
「現金以外にも、お買い物のできる電子通貨です」
「へー」
 ポケバーを出し合うと、ミケとシェリーの端末に『ポケコイン決済:エミール様より、10000コイン追加』の表示。
「10000円も!?」
「少なくてすまないね」
「……さすがセレブ……?」
 紳士然としていると散々言っているが、そこはあまり確認をしていないのいだ。
「ふふん、多いに感謝したまえよ」
 得意気にするエミールにミケは素直に賞賛の顔を浮かべる。シェリーは何故か微妙そうだ。微妙というか、複雑?
「あの、私……お小遣いなどはいいので」
「そう言うな。施しは大人の責務。好きなものを買ってきなさい」
「……へー。大人ってお金くれるんだー」
 不意にぼやかれた言葉。エミールはミケを不思議そうな目で見る。シェリーが声をかけた。
「ミケさん?」
「うちお父さんにお母さんがお金渡してたからさー」
 一瞬の間。
「もっとあげよう! 使え使え!!」
「ミケさん僭越ながら私の分も!」
「え? え?」
 泣きそうなエミールと慌てるシェリーにミケは慌ててしまった。

★★★

「参ったな……15000円も貰っちゃった」
 ミケがポケバーを見てごちるとバチンキーは傍らで首を傾げた。なに困ってるの、という顔だ。
「バチンキーとポッポのご飯でも買おうかな」
 バチンキーを抱き上げて、角を曲がった時だった。
「退けっ、クソガキ!」
 なにかにぶつかった。
「わっ」
 角から飛び出してきた影に肩を押されたようだ。尻もちをついてしまっているとバチンキーと男性の声が聞こえた。
「ききぅーっ!!」
「うわっ! なんだお前!!」
「バチンキー!?」
 顔を上げると自分を突き飛ばしたのであろう男をバチンキーが首根っこを掴み引きずり倒していた。
「こ、こらやめなさい!」
「てめぇー! 俺にこんなことしてただで済むとでも……っ!」
「捕まえた」
 よく通る声が辺りに響いた。 
 声の主、男がやってきた方の角から出てきたのは茶髪に杏子色の目の青年。
「ひっ」
「お店の料金、払ってないよね? 出るとこ出よっか」
 そう言うと青年はボールからポケモンを出す、緑の大きなポケモン、目は鋭く、じっとりと男を睨んでいる。確か名前はジュカインだ。
「ジュカイン、これを警察まで連れて行って」
 そう言われるとジュカインは意味を理解したように男を担ぐと、暴れる男をものともせずのしのしと歩いて行った。それを見送った青年はミケの方に屈み手を差し出した。
「怪我とかしてない?」
 優しい声だった。
「へ、平気です」
 手を取ると、ちょっと温かかった。
「君のバチンキー、ホットな性格なんだな。メスだけど、ちゃんとバチンキーなんだね」
「やんちゃで困るんです」
「はは、でもここのジムに挑戦するには、タイプ相性が不利かも」
「ジム……ですか」
 彼はうん、と頷き話を続ける。
「うん、ここはほのおタイプのジムだからね。バチンキーだと単純計算で二倍のダメージを受けてしまうんだ」
 相性の話はハーメルンの森でもエミールが言及している。
「うわ……」
「ポケモンを増やすか、そのまま戦うかは自由だけど」
 そう言うと、彼はミケのポケットから出ているスタンプ帳をつついた。そして悪戯っぽく笑った。
「まー弱点突かれたくらいでここのジムリーダーは怯まないけどね!」
 彼がそう言ってウインクした時、ジュカインがのっしのっしと戻ってきた。
「あ、終わった? じゃあ帰ろうか」
 彼はジュカインと共に去って行こうとしている。慌てて声をかける。
「あ、あの! お名前は」
「……ソウエンシティジムリーダー、レオ」
「え!?」
「じゃあね、挑戦者さん」
 彼、レオはクスクス笑うと、今度こそ去って行った。

★★★

「ぬなっ!? ジムリーダー直々に言われたのか!? それもう増やした方がいいってことじゃないか!!」
 皆で合流してカフェで昼ご飯をとっている時にレオと会ったことを告げるとエミールはバン!とテーブルを叩いて立ち上がった。周りの視線を感じ、おとなしく座ったエミールは腕を組み考えた。
「私情報ではジムリーダー、レオはパルデアリーグチャンピオンだったこともあると聞く! その後ラティスに移って新規にほのお専業で始めたということも。それが二年前だった筈だがもうメジャーリーグジムリーダーだ!」
「え、と、もしかして強い」
 エミールは目を剥いた。
「当たり前だ!!」
 エミールは再びテーブルを叩いて皆に白い目で見られた。
「とにかく、対策を講じねばならんな。実際にバチンキーを見て言われたのなら、まだ敵わんということだ」
 エミールと考え込んでしまう。
「どうしようかな……」
「あ」
 黙ってポケバーを見ていたシェリーが声を上げた。
「ありました、丁度2番道路に、じめんタイプの大量発生!」
「本当か!? みずかじめんならほのおに対策できるぞ!」
「ええ」
「シェリー、ずっと探しててくれたの?」
「え、ええまあ……近くにないかと……」
 シェリーは恥ずかしそうに言う。
「ありがとう!!」
 ミケの笑顔と感謝にシェリーは戸惑うと、静かに。
「ありがとう……ございます?」
 という何故か疑問形の返しをした。
「よーし、ならば2番道路に向かうか!」
 エミールは会計の紙を手に取りながら元気に立ち上がる。
「ていうかずっと喋ってて食べてないじゃないですか、ご飯は大事にしてくださいよ」
「……正論故、なにも返せないっ……」

★★★

 2番道路、大量発生現場。
 そこには平べったい茶色のポケモンがあちこちでうごうごと蠢いていた。
「ほう、これは……マッギョだな」
「マッギョ」
 見慣れないし聞き慣れないポケモンだ。
「じめん、でんきタイプのなかなか優秀なポケモンだ。今後の役には立つだろう。くさタイプが弱点だからバチンキーで事足りるな」
「へー。よし、行くぞバチンキー!」
 指示を出すとバチンキーが元気にバチを振り回しマッギョたちに攻撃する。攻撃を受けた一匹が目を回す。
「ブミィ……」
「よし、後はボールで……っ」
 慣れない手つきながら急いでボールを投げると、マッギョが捕獲されちゃんと三回揺れ、捕まる。人生で三匹目の仲間だ。
「やった!」
「おめでとうミケランジェロくん! さっさと回復してジムに行くぞ!!」
 シェリーも笑っている。
「はぁい! バチンキーありがとう、暫く休んでね」
「ききゃ!」
「じゃあ、帰りましょうか」
 バチンキーもボールに戻し、三人はまたソウエンシティに戻って行った。

★★★

 戦力を整え、向かったソウエンジムは商店街の並びにあった。建物の中に入ると、あのジュカインが受付にいる。
「あの時のジュカインだ」
「え……とほのおジムですよね」
「でもこれもちゃんとレオさんの手持ちだよ」
「ジムリーダーレオはジムの手伝いをレフェリー以外は全てポケモンにやらせているんだ。このジュカイン、ちゃんと受付の仕事するぜ」
 そう言われた瞬間、ジュカインは受付から出てきて『挑戦者氏名』と書かれている紙を差し出している。
「あ、はい」
 ミケが署名するとジュカインはあんたたちは?という顔でシェリーとエミールを見た。二人が首を振ると納得したように受付に戻ると右手側を動かした。見ると黒い豚のポケモンがぷひぷひ鳴いていた。
「んん、あれはパフュートンだな。ラティスでは珍しいが……」
 パフュートンは後ろを向き首を前に振ると廊下の奥に消えて行った。
「ついてこい……ってことですかね」
「恐らく……」

 着いていくと、そこはバトルフィールド。
 あの青年が奥に立っていて、優しい目つきでパフュートンの頭を撫でている。
「お疲れホエー。やあ、来たんだね。さっきは食い逃げ犯確保に協力ありがとう。ホエー、ちょっとそっちいてね」
 ホエーというニックネームらしいパフュートンがコート外にはける。
「あれ食い逃げ犯だったんだ」
「改めてよろしく。『熱の貴公子』レオです」
 しゃんと立ち、片手を腰に当ててレオは恭しく礼をした。
「み、ミケです」
「君は初めてかもしれないけどここはダブルバトル形式なんだ」
 ダブルバトル。同時に二体、だけではなくコミュニケーションを大事にされるバトル方式だ。マッギョは捕まえたばかりだが、大丈夫だろうか。
 しかし尻込みしていても始まらない。
「望むところです!」
 そう応えると、レオはあの爽やかな笑顔を浮かべた。
「俺の熱意で、勝ち筋をつかみ取るよ! それじゃあ、始めようか!」


【251215】
【251230】追記
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