ルミナスの手記
ジャーニータウン。旅人が踏みしめる大地。
そんな触れ込みのその町は、田園風景広がる牧歌的な町だ。牧場らしき広場ではメェークルとウールーが仲良く草を食んでいた。今は収穫の次期らしく、畑の方では作物を刈り取る人が何人か散見される。
「わぁ~メェークルとウールーの写真撮らせてもらいたいな~!」
キラキラとした顔のミケにシェリーは辺りを見回した。
「あの方に訊いてみたらどうかしら……?」
青いツナギの少年がメェークルに餌をあげているところだった。
「そうだね! あの、すみませーん!!」
「お、どうしたい」
「牧場の子たちの写真を撮りたいんですが……」
「そういうことならええでよ。お前らメェークルとウールーが好きか!」
「可愛いですよね」
「……」
ミケの隣でシェリーが困ったような顔をしている。
「シェリー?」
「あの……サトル様ですよね……この町のジムリーダーの」
「え!」
少年はそれを聞くと大笑いした。
「隠した訳でもねぇけど、こういうこと言われると人気になったみたいで、ええね!」
そして二人に向き直った。
「ジャーニータウンジムリーダーのサトルだ! よろしくねぃ」
「あ、ミケランジェロっていいます。こっちはシェリー!」
「ミケくんとシェリーくんだな! よろしゅう!」
ミケの中に迷いが産まれた。
(本当にバトルして勝てるのかな……)
「ミケさん? 挑戦にしないのですか?」
ミケの心を読み取ったようなシェリーの言葉にミケは俯く。
「まだバトル二回しかしたことないし……」
「あんれ。もしかしてバトルに必ず勝たなくちゃって思ってる?」
サトルはミケの顔を覗き込むと、額をこつんと小突いた。
「わ!」
「バトルしたら楽しいかんね、負けても勝っても、最後はナイスファイト! で分かち合うんだわ」
「……」
「おれこの後暇だけんど」
「あ、お、お願いします!」
「待ってな、手持ち初心者用に調整すっから。ジムはここの突き当たりだから先行っとって」
「はぁい」
「行きましょう。ミケさん」
二人はジムへの道を歩き出した。
★★★
ジャーニージム、バトルコート。
レフェリーがサトルとミケが位置についたのを見ると、旗を上げた。
「これよりジャーニージム公式戦を始めます! 挑戦者の名前はミケランジェロ! 戦闘形式はシングル二対二。挑戦者のみポケモンの交代を許可します! それでは、始め!」
笛が吹かれた。
「頼む、ポッポ!」
「ゆけ、マダツボミ!」
ひこう対くさ。ポッポの方が優勢だ。
「“かぜおこし”!」
「よけれ、マダツボミ!」
ポッポが風を起こしても、マダツボミはするどい動きで避けてしまう。
「くっ、遠隔攻撃じゃ捕えられないか……ポッポ、“でんこうせっか”で捕まえろ!」
「ぽーっ」
素早く攻撃を仕掛け、なんとかマダツボミを捕えた時、サトルはにいと笑った。
「“まきつく”」
マダツボミがポッポに絡み付き、ツルで縛ってしまった。
「しまった!」
「交代はできなくなっちまったねぇ」
「くっ……」
(考えろ! ミケランジェロ!)
そうだ。
「もう一度“でんこうせっか”! 上に上がれ!」
「!」
ポッポはマダツボミに巻き付かれたまま上に飛んだ」
「そのまま落とせ!!」
「マダツボミっ」
サトルよりポッポが早かった。
地面に押し付けられるように落とされたマダツボミは目をぐるぐると回している。
「マダツボミ、戦闘不能!」
「あちゃ~、なんだ、ちゃんと強いじゃん」
「……へへ!」
サトルはボールを取り出す。
「頼むな、メェークル!」
「メェー」
続いて出されたのは、牧場にもいたポケモン。
「今度はこっちから行くぞ! “やどりぎのたね”!」
「えっ」
聞いたことのない技に、一瞬反応が遅れた。
メェークルの撒いた種がポッポに刺さり、そこから草が生える。そこから漏れたエネルギーはメェークルに吸収されているようだ。
「続いて“せいちょう”!」
今度は力を貯めている、まずい!
「ポッポ。“かぜおこし”!」
「“たいあたり”!」
ポッポの技が当たる前にメェークルが距離を詰めてきた。さっきと逆だ。
メェークルのしなやかなボディがポッポにクリーンヒットする。ポッポは地面に落ちた。
「ポッポ、戦闘不能!」
「にゃはは、お返し~」
「さすが強いですね!」
「そりゃジムリーダーだかんね」
思わず口角が上がる。
楽しい。
ポケモンバトルって楽しい。でもできれば負けたくない。
「頼む、サルノリ」
「へぇ~くさタイプか。こりゃやどりぎ封じられたなぁ」
そうか、くさタイプにはくさの技が一部効かないんだった。
「タイプのアドバンテージを最大限に活かす! サルノリ、“なきごえ”!」
「きゃっきゃ~」
可愛く鳴いたサルノリの声を聞き、メェークルが一瞬よろめいた。せいちょうで上がった攻撃を的確に下げていく。
「“たいあたり”の後足元に“えだづき”!」
「こっちも“たいあたり”! 追加の攻撃は跳んで避けろ!」
二体の体がぶつかり、互いにダメージを受ける。
その後メェークルが飛んだ。
「バチを投げろ! サルノリ!」
「なっ!」
「きゃ!」
えだづき体勢を持ち替えて、メェークルに向かってバチを投げる。それがメェークルの頭に当たり、メェークルはふらふらとする。
「しまった!」
「サルノリ! 信じてるぞ! “たいあたり”!!」
渾身の距離の長さを助走に使ったたいあたりがサルノリに炸裂する。
「めぇ……」
メェークルが静かに倒れた。
「メェークル、戦闘不能! よってこのバトル、挑戦者ミケランジェロの勝利!」
「やった!」
「おめでとうございますミケさん!」
客席にいたシェリーも駆け寄ってくる。
「二匹が頑張ってくれたおかげだよ」
「謙遜もいいけど多分君はすごく勝負強いぜ」
サトルが二人の方に歩いてくる。
「おめでとう、これがグラススタンプ。俺に勝った証だよん」
差し出されたのは切手のようなもの。
「スタンプ……」
「あ、そっか。最初のジムだもんな。ほれ」
そう言って一冊の手帳も一緒に出す。開くと町の名前が書かれているようで、その上に空白があった。サトルはさっき差し出した切手を『ジャーニータウン』の上の空欄に貼った。大きさはぴったりだ。
「スタンプは手に入れたらこれに貼ってな」
「はい! ありがとうございます!」
「あー……そうだ」
サトルがなにかを思いついたように頷くと、手紙を差し出した。
「これは?」
「その内会うと思うからルスって奴に会ったら渡して」
「? はい!」
「それじゃ~メェークルとウールー撮ってくかい?」
「はい、是非!!」
★★★
「めぇー」
「可愛いなぁ、ここは角度をつけて……」
ポケバーをあっちこっちに向けているミケを微笑ましく見ていると、サトルがシェリーに寄ってきた。
「なあ、君」
「はい」
「これ」
そう言って渡されたのはモンスターボール。
「……これは?」
「牧場に迷いこんできたポケモン。どくタイプだからメェークルたちみたく放牧できなくてさ」
中を覗くとヘドロのポケモンが寝ていた。
「ベトベター、ですね」
「そう。ミケくんに渡してもいいんだけど、君ポケモン一匹しかもってないみたいだから。女の子が危ないでしょ?」
「ありがとうございます……でも私なんかで釣り合うでしょうか」
「おれがいいって言ってんだからいーの。この子にいろんな景色を見せてやってよ」
「はい……」
「ほら、ミケくん! 女の子待たせちゃいけないよー」
そう言われて、やっとミケはポケバーをしまった。
「次はソウエンシティだな! あそこにもジムリーダーがいるから、きばれよ!」
「はい!」
「途中のハーメルンの森には悪戯するポケモンがいるから気をつけろよ」
「はい、色々ありがとうございました!」
そうして、二人は地を踏みしめ、ジャーニータウンを出発した。
……一つの影がそれを見ていたことには誰も気づいていなかった。
【251210】
そんな触れ込みのその町は、田園風景広がる牧歌的な町だ。牧場らしき広場ではメェークルとウールーが仲良く草を食んでいた。今は収穫の次期らしく、畑の方では作物を刈り取る人が何人か散見される。
「わぁ~メェークルとウールーの写真撮らせてもらいたいな~!」
キラキラとした顔のミケにシェリーは辺りを見回した。
「あの方に訊いてみたらどうかしら……?」
青いツナギの少年がメェークルに餌をあげているところだった。
「そうだね! あの、すみませーん!!」
「お、どうしたい」
「牧場の子たちの写真を撮りたいんですが……」
「そういうことならええでよ。お前らメェークルとウールーが好きか!」
「可愛いですよね」
「……」
ミケの隣でシェリーが困ったような顔をしている。
「シェリー?」
「あの……サトル様ですよね……この町のジムリーダーの」
「え!」
少年はそれを聞くと大笑いした。
「隠した訳でもねぇけど、こういうこと言われると人気になったみたいで、ええね!」
そして二人に向き直った。
「ジャーニータウンジムリーダーのサトルだ! よろしくねぃ」
「あ、ミケランジェロっていいます。こっちはシェリー!」
「ミケくんとシェリーくんだな! よろしゅう!」
ミケの中に迷いが産まれた。
(本当にバトルして勝てるのかな……)
「ミケさん? 挑戦にしないのですか?」
ミケの心を読み取ったようなシェリーの言葉にミケは俯く。
「まだバトル二回しかしたことないし……」
「あんれ。もしかしてバトルに必ず勝たなくちゃって思ってる?」
サトルはミケの顔を覗き込むと、額をこつんと小突いた。
「わ!」
「バトルしたら楽しいかんね、負けても勝っても、最後はナイスファイト! で分かち合うんだわ」
「……」
「おれこの後暇だけんど」
「あ、お、お願いします!」
「待ってな、手持ち初心者用に調整すっから。ジムはここの突き当たりだから先行っとって」
「はぁい」
「行きましょう。ミケさん」
二人はジムへの道を歩き出した。
★★★
ジャーニージム、バトルコート。
レフェリーがサトルとミケが位置についたのを見ると、旗を上げた。
「これよりジャーニージム公式戦を始めます! 挑戦者の名前はミケランジェロ! 戦闘形式はシングル二対二。挑戦者のみポケモンの交代を許可します! それでは、始め!」
笛が吹かれた。
「頼む、ポッポ!」
「ゆけ、マダツボミ!」
ひこう対くさ。ポッポの方が優勢だ。
「“かぜおこし”!」
「よけれ、マダツボミ!」
ポッポが風を起こしても、マダツボミはするどい動きで避けてしまう。
「くっ、遠隔攻撃じゃ捕えられないか……ポッポ、“でんこうせっか”で捕まえろ!」
「ぽーっ」
素早く攻撃を仕掛け、なんとかマダツボミを捕えた時、サトルはにいと笑った。
「“まきつく”」
マダツボミがポッポに絡み付き、ツルで縛ってしまった。
「しまった!」
「交代はできなくなっちまったねぇ」
「くっ……」
(考えろ! ミケランジェロ!)
そうだ。
「もう一度“でんこうせっか”! 上に上がれ!」
「!」
ポッポはマダツボミに巻き付かれたまま上に飛んだ」
「そのまま落とせ!!」
「マダツボミっ」
サトルよりポッポが早かった。
地面に押し付けられるように落とされたマダツボミは目をぐるぐると回している。
「マダツボミ、戦闘不能!」
「あちゃ~、なんだ、ちゃんと強いじゃん」
「……へへ!」
サトルはボールを取り出す。
「頼むな、メェークル!」
「メェー」
続いて出されたのは、牧場にもいたポケモン。
「今度はこっちから行くぞ! “やどりぎのたね”!」
「えっ」
聞いたことのない技に、一瞬反応が遅れた。
メェークルの撒いた種がポッポに刺さり、そこから草が生える。そこから漏れたエネルギーはメェークルに吸収されているようだ。
「続いて“せいちょう”!」
今度は力を貯めている、まずい!
「ポッポ。“かぜおこし”!」
「“たいあたり”!」
ポッポの技が当たる前にメェークルが距離を詰めてきた。さっきと逆だ。
メェークルのしなやかなボディがポッポにクリーンヒットする。ポッポは地面に落ちた。
「ポッポ、戦闘不能!」
「にゃはは、お返し~」
「さすが強いですね!」
「そりゃジムリーダーだかんね」
思わず口角が上がる。
楽しい。
ポケモンバトルって楽しい。でもできれば負けたくない。
「頼む、サルノリ」
「へぇ~くさタイプか。こりゃやどりぎ封じられたなぁ」
そうか、くさタイプにはくさの技が一部効かないんだった。
「タイプのアドバンテージを最大限に活かす! サルノリ、“なきごえ”!」
「きゃっきゃ~」
可愛く鳴いたサルノリの声を聞き、メェークルが一瞬よろめいた。せいちょうで上がった攻撃を的確に下げていく。
「“たいあたり”の後足元に“えだづき”!」
「こっちも“たいあたり”! 追加の攻撃は跳んで避けろ!」
二体の体がぶつかり、互いにダメージを受ける。
その後メェークルが飛んだ。
「バチを投げろ! サルノリ!」
「なっ!」
「きゃ!」
えだづき体勢を持ち替えて、メェークルに向かってバチを投げる。それがメェークルの頭に当たり、メェークルはふらふらとする。
「しまった!」
「サルノリ! 信じてるぞ! “たいあたり”!!」
渾身の距離の長さを助走に使ったたいあたりがサルノリに炸裂する。
「めぇ……」
メェークルが静かに倒れた。
「メェークル、戦闘不能! よってこのバトル、挑戦者ミケランジェロの勝利!」
「やった!」
「おめでとうございますミケさん!」
客席にいたシェリーも駆け寄ってくる。
「二匹が頑張ってくれたおかげだよ」
「謙遜もいいけど多分君はすごく勝負強いぜ」
サトルが二人の方に歩いてくる。
「おめでとう、これがグラススタンプ。俺に勝った証だよん」
差し出されたのは切手のようなもの。
「スタンプ……」
「あ、そっか。最初のジムだもんな。ほれ」
そう言って一冊の手帳も一緒に出す。開くと町の名前が書かれているようで、その上に空白があった。サトルはさっき差し出した切手を『ジャーニータウン』の上の空欄に貼った。大きさはぴったりだ。
「スタンプは手に入れたらこれに貼ってな」
「はい! ありがとうございます!」
「あー……そうだ」
サトルがなにかを思いついたように頷くと、手紙を差し出した。
「これは?」
「その内会うと思うからルスって奴に会ったら渡して」
「? はい!」
「それじゃ~メェークルとウールー撮ってくかい?」
「はい、是非!!」
★★★
「めぇー」
「可愛いなぁ、ここは角度をつけて……」
ポケバーをあっちこっちに向けているミケを微笑ましく見ていると、サトルがシェリーに寄ってきた。
「なあ、君」
「はい」
「これ」
そう言って渡されたのはモンスターボール。
「……これは?」
「牧場に迷いこんできたポケモン。どくタイプだからメェークルたちみたく放牧できなくてさ」
中を覗くとヘドロのポケモンが寝ていた。
「ベトベター、ですね」
「そう。ミケくんに渡してもいいんだけど、君ポケモン一匹しかもってないみたいだから。女の子が危ないでしょ?」
「ありがとうございます……でも私なんかで釣り合うでしょうか」
「おれがいいって言ってんだからいーの。この子にいろんな景色を見せてやってよ」
「はい……」
「ほら、ミケくん! 女の子待たせちゃいけないよー」
そう言われて、やっとミケはポケバーをしまった。
「次はソウエンシティだな! あそこにもジムリーダーがいるから、きばれよ!」
「はい!」
「途中のハーメルンの森には悪戯するポケモンがいるから気をつけろよ」
「はい、色々ありがとうございました!」
そうして、二人は地を踏みしめ、ジャーニータウンを出発した。
……一つの影がそれを見ていたことには誰も気づいていなかった。
【251210】
