ルミナスの手記
その日のレート戦が終わり、スタジアムを出た一行に、声をかける存在がいた。アブソルとエミールだ。よく見るとアブソルの背中にはギモーがいる。
「大丈夫だったか!? ミケくん、シェリーくん!」
「エミールさん」
「子供たちのお守りを俺に押し付けて、なにをしていたのかな?」
バジーリオが半目で問うとやってきたエミールはしどろもどろになった。
「そう意地悪言うなよ。私にだってプライベートくらいあるんだから」
「ふーん、まあいいけど? ホテルなら取っておいたからここに向かいたまえ」
「ああ、ありがとう」
ポケバーに住所を受け取ったエミールが礼を言うと『じゃあこれで』とバジーリオは踵を返す。しかしエルは立ち止まったままだった。黙ってエミールの方を見ている。
「なにか?」
エミールが居心地が悪かったのか尋ねると、エルは一言。
「自分を騙してる?」
とだけ言った。
「え」
「まあバジルに害にならなきゃいいっすよ」
エルがそう言って一行に背を向けてバジーリオの方へ向かった。対するエミールはなにも言わずに二人が去った方向を見つめていた。
「くん」
アブソルがエミールの腰辺りを鼻でつつくと、やっとエミールははっとする。
「と、とりあえず、ホテルに向かうぞ!」
「ええと、大丈夫ですか?」
ミケが心配そうに尋ねるがエミールは既に歩き始めていた。アブソルがミケの方を見て、またくん、と鳴いた。
「アブソル?」
ミケが近づくと、ギモーがミケの手になにかを押し付けてきた。それは本のようななにかだったが、ボロボロ過ぎてよくわからない。エミールに声をかけようとすると、アブソルがミケの服の裾を噛んだ。やんわりと止められたようだ。
「うーん……」
「ミケ……ひょっとしてギモー、盗ってきちゃったんじゃないでしょうか?」
「え!?」
「でもそれだけならアブソルが返す筈です。なにかあったのかもしれません」
「うん……とりあえず持ってようか」
ミケが鞄にその本をしまうと、ミケの足元にいたピチューが鳴いた。
「ピッ!」
「ピチュー?」
「珍しく大声ですね……」
「ピ……」
ピチューはミケのお腹まで這い上がり、もぞもぞとする。
「だっこして欲しいのかな?」
抱えるとピチューはものすごく不機嫌そうな顔になった。違うらしい。
「おーい、お前ら行くぞー!!」
既に大分進んだラキに声をかけられ、二人も顔を見合わせた後ホテルに向かった。
★★★
少し大きな高そうなホテルの食堂で出てきたご飯を皆で食べている最中、エミールが発言した。
「ヴァルキュリア・ファミリーの変な干渉があったそうだが」
ピリついた雰囲気を感じたのか、人間だけでなくポケモンたちも何匹か食べるのをやめる。食べるのをやめて膝に這ってきたピチューの頭を撫でると、ゴリランダーが後ろで息を吐いた。やはりもう嫉妬したりはしないようだ。
「はい、なんか人々を黄昏、聖地? に導くらしいです」
「そうか……」
「Oh! それはあまりいい話じゃなさそうだね!!」
重くなりかけた空気を一変させたのはどこかで聞いたような女性の声。
「ヴ、ヴィットーレさん!?」
あのルカリオナイトZをくれた女性だった。
「覚えてくれて嬉しいよ! 益々強くなったようだね!」
「あんたは……」
ラキが不思議そうに彼女を見つめる。
「おや、ハニーフェイスを仲間に加えたようだね! 私はヴィットーレ! 君の名前は?」
「は、ハニーフェイス……?」
ラキが背後に宇宙を背負う。
「まあちょっと顔ガキ臭くもなくはないか……年齢の割に」
「エミールさん!? 19ですよ!?」
「私より年下だからなんとも……」
「ウワーッ年齢マウント取ってきたーっ!」
「で、名前は?」
ヴィットーレが腕を組んでニコニコと尋ねる。ラキは観念したように名乗った。
「ラキです……」
「その訛りはアローラかな? うん、やっぱり、Zパワーリングも付けてる!」
「詳しいですね……」
「何せ私はリーグの職員だからね!」
「嘘をつくな。ジムリーダーレオが警戒してたじゃないか」
エミールが指摘するとヴィットーレは首を傾げた。
「ジムリーダーが職員のことを丸暗記していると本気で思うのかい?」
「いや、ジムリーダーレオがさすがにそんなこと」
「……Sorry! 厳密には違うんだ」
「ほれ見ろ」
「正確には『リーグに雇われた国際警察』だ。それ故色々支援できるのさ! Q.E.D!」
「国際警察!?」
エミールが突然立ちあがったため膝のギモーが転げ落ちた。それを察したアブソルが背中でキャッチする。ギモーは怒っているようだが、空気を読んだのかエミールを睨むだけに留めた。
「はは。実は今日は後輩を紹介したくてね」
「あのー……国際警察って、ただの警察ではないんですか……?」
ミケが手を控えめに手を上げて尋ねると、ラキがそっと耳打ちした。
「世界を股にかけていろんな難事件を解決するエリート」
「へ、へえ~! エリート……」
何やらすごい女性だったようだ。
「ふふ、ヴィットーレというのはコードネームさ。割と本名っぽいコードネームだから疑われなくて助かるんだ。今から紹介する後輩はちょっと毛色が違うがね。入っておいで、アルビノ!」
そう呼ばれて登場したのは大人にしては少し背の低く感じる。一人の中性的な容姿の白い髪に赤い目のトレーナーだった。
「アルビノです。どうぞよろしくお願いします」
礼をし、挨拶する声まで中性的でイマイチ性別の判断がつかない。しかし性別を聞いたらそれはそれで失礼な気がする。
「ミケさん……ですね」
「え!」
アルビノが突然ミケの方を向いて名前を呼んだので、思考が逸れていたミケは声を上げてしまった。
「貴方のジム戦を先輩とずっと見届けていました。……強く、なりましたね。スタンプももう折り返しです」
「あ、は、はい。なんか恥ずかしいな……」
「実はヴィットーレ先輩と私が貴方に目をつけたのは、ヴァルキュリア・ファミリーの動きを追っていたのに関係してるんですが、もう彼らは大事を起こしているので、隠す必要もないかと」
「ツーマンセルだからね。ジム戦は途中からアルビノが見届けていて、私は色々情報を集めていたよ」
ずっと立ち上がって目を見張っていたエミールがやっと座る。座った際ギモーに小突かれた。
「話が見えないが」
「実は……ヴァルキュリア・ファミリーのボスは昔ジム巡りをしていた少女と言われているんだ」
皆が目を見開いた。
「そ、それは何年前……の話だ……?」
特にエミールの動揺が酷い。
「Ah……何年前だったかな。確かここにリーグが開設された当初の話だと思うから……」
「二十年前ですね」
「そうそう! でもフシギなことに! そのトレーナーの名前、リーグから除籍されてるんだよね。チャンピオンや四天王の力も借りて探してみたんだけど、本当に根柢から消されてるみたいで、全然名前わかんなかったんだよね!」
アルビノが補足する。
「当時のリーグと違う方々ですから。移り代わりやすいリーグ体系が仇になりましたね」
「……でも、ならなんでボスが彼女だとわかったんですか?」
ミケがまた尋ねるとヴィットーレは困ったように頭を掻いた。
「非常に申し訳ないことに……これ、ヴァルキュリア・ファミリー側からの予告なんだよね」
「情報を鵜呑みにしたってことです」
アルビノがまた補足する。
「丁度去年のレート戦中、リーグに予告が届きました。『私は初代チャンピオンと戦った女。人々を一年半以内に黄昏、聖地へ連れ戻す。私は私と同じ、ラティスリーグを制したものの前にしか現れない』と……実は公にはされていないだけで数年前からヴァルキュリア・ファミリーは警戒されていたんですよ。最近だとジムリーダーレオの辺りで出たかな。でもそれとは別に色々な実験を繰り返していた跡も残ってるんですよ」
途方もない話だ、とミケは思った。
その瞬間。
「色々なことを試したんだけど、非常に申し訳ないことに、この件はミケランジェロ・ダンテくん。君に任せることになったんだ」
【260516】
「大丈夫だったか!? ミケくん、シェリーくん!」
「エミールさん」
「子供たちのお守りを俺に押し付けて、なにをしていたのかな?」
バジーリオが半目で問うとやってきたエミールはしどろもどろになった。
「そう意地悪言うなよ。私にだってプライベートくらいあるんだから」
「ふーん、まあいいけど? ホテルなら取っておいたからここに向かいたまえ」
「ああ、ありがとう」
ポケバーに住所を受け取ったエミールが礼を言うと『じゃあこれで』とバジーリオは踵を返す。しかしエルは立ち止まったままだった。黙ってエミールの方を見ている。
「なにか?」
エミールが居心地が悪かったのか尋ねると、エルは一言。
「自分を騙してる?」
とだけ言った。
「え」
「まあバジルに害にならなきゃいいっすよ」
エルがそう言って一行に背を向けてバジーリオの方へ向かった。対するエミールはなにも言わずに二人が去った方向を見つめていた。
「くん」
アブソルがエミールの腰辺りを鼻でつつくと、やっとエミールははっとする。
「と、とりあえず、ホテルに向かうぞ!」
「ええと、大丈夫ですか?」
ミケが心配そうに尋ねるがエミールは既に歩き始めていた。アブソルがミケの方を見て、またくん、と鳴いた。
「アブソル?」
ミケが近づくと、ギモーがミケの手になにかを押し付けてきた。それは本のようななにかだったが、ボロボロ過ぎてよくわからない。エミールに声をかけようとすると、アブソルがミケの服の裾を噛んだ。やんわりと止められたようだ。
「うーん……」
「ミケ……ひょっとしてギモー、盗ってきちゃったんじゃないでしょうか?」
「え!?」
「でもそれだけならアブソルが返す筈です。なにかあったのかもしれません」
「うん……とりあえず持ってようか」
ミケが鞄にその本をしまうと、ミケの足元にいたピチューが鳴いた。
「ピッ!」
「ピチュー?」
「珍しく大声ですね……」
「ピ……」
ピチューはミケのお腹まで這い上がり、もぞもぞとする。
「だっこして欲しいのかな?」
抱えるとピチューはものすごく不機嫌そうな顔になった。違うらしい。
「おーい、お前ら行くぞー!!」
既に大分進んだラキに声をかけられ、二人も顔を見合わせた後ホテルに向かった。
★★★
少し大きな高そうなホテルの食堂で出てきたご飯を皆で食べている最中、エミールが発言した。
「ヴァルキュリア・ファミリーの変な干渉があったそうだが」
ピリついた雰囲気を感じたのか、人間だけでなくポケモンたちも何匹か食べるのをやめる。食べるのをやめて膝に這ってきたピチューの頭を撫でると、ゴリランダーが後ろで息を吐いた。やはりもう嫉妬したりはしないようだ。
「はい、なんか人々を黄昏、聖地? に導くらしいです」
「そうか……」
「Oh! それはあまりいい話じゃなさそうだね!!」
重くなりかけた空気を一変させたのはどこかで聞いたような女性の声。
「ヴ、ヴィットーレさん!?」
あのルカリオナイトZをくれた女性だった。
「覚えてくれて嬉しいよ! 益々強くなったようだね!」
「あんたは……」
ラキが不思議そうに彼女を見つめる。
「おや、ハニーフェイスを仲間に加えたようだね! 私はヴィットーレ! 君の名前は?」
「は、ハニーフェイス……?」
ラキが背後に宇宙を背負う。
「まあちょっと顔ガキ臭くもなくはないか……年齢の割に」
「エミールさん!? 19ですよ!?」
「私より年下だからなんとも……」
「ウワーッ年齢マウント取ってきたーっ!」
「で、名前は?」
ヴィットーレが腕を組んでニコニコと尋ねる。ラキは観念したように名乗った。
「ラキです……」
「その訛りはアローラかな? うん、やっぱり、Zパワーリングも付けてる!」
「詳しいですね……」
「何せ私はリーグの職員だからね!」
「嘘をつくな。ジムリーダーレオが警戒してたじゃないか」
エミールが指摘するとヴィットーレは首を傾げた。
「ジムリーダーが職員のことを丸暗記していると本気で思うのかい?」
「いや、ジムリーダーレオがさすがにそんなこと」
「……Sorry! 厳密には違うんだ」
「ほれ見ろ」
「正確には『リーグに雇われた国際警察』だ。それ故色々支援できるのさ! Q.E.D!」
「国際警察!?」
エミールが突然立ちあがったため膝のギモーが転げ落ちた。それを察したアブソルが背中でキャッチする。ギモーは怒っているようだが、空気を読んだのかエミールを睨むだけに留めた。
「はは。実は今日は後輩を紹介したくてね」
「あのー……国際警察って、ただの警察ではないんですか……?」
ミケが手を控えめに手を上げて尋ねると、ラキがそっと耳打ちした。
「世界を股にかけていろんな難事件を解決するエリート」
「へ、へえ~! エリート……」
何やらすごい女性だったようだ。
「ふふ、ヴィットーレというのはコードネームさ。割と本名っぽいコードネームだから疑われなくて助かるんだ。今から紹介する後輩はちょっと毛色が違うがね。入っておいで、アルビノ!」
そう呼ばれて登場したのは大人にしては少し背の低く感じる。一人の中性的な容姿の白い髪に赤い目のトレーナーだった。
「アルビノです。どうぞよろしくお願いします」
礼をし、挨拶する声まで中性的でイマイチ性別の判断がつかない。しかし性別を聞いたらそれはそれで失礼な気がする。
「ミケさん……ですね」
「え!」
アルビノが突然ミケの方を向いて名前を呼んだので、思考が逸れていたミケは声を上げてしまった。
「貴方のジム戦を先輩とずっと見届けていました。……強く、なりましたね。スタンプももう折り返しです」
「あ、は、はい。なんか恥ずかしいな……」
「実はヴィットーレ先輩と私が貴方に目をつけたのは、ヴァルキュリア・ファミリーの動きを追っていたのに関係してるんですが、もう彼らは大事を起こしているので、隠す必要もないかと」
「ツーマンセルだからね。ジム戦は途中からアルビノが見届けていて、私は色々情報を集めていたよ」
ずっと立ち上がって目を見張っていたエミールがやっと座る。座った際ギモーに小突かれた。
「話が見えないが」
「実は……ヴァルキュリア・ファミリーのボスは昔ジム巡りをしていた少女と言われているんだ」
皆が目を見開いた。
「そ、それは何年前……の話だ……?」
特にエミールの動揺が酷い。
「Ah……何年前だったかな。確かここにリーグが開設された当初の話だと思うから……」
「二十年前ですね」
「そうそう! でもフシギなことに! そのトレーナーの名前、リーグから除籍されてるんだよね。チャンピオンや四天王の力も借りて探してみたんだけど、本当に根柢から消されてるみたいで、全然名前わかんなかったんだよね!」
アルビノが補足する。
「当時のリーグと違う方々ですから。移り代わりやすいリーグ体系が仇になりましたね」
「……でも、ならなんでボスが彼女だとわかったんですか?」
ミケがまた尋ねるとヴィットーレは困ったように頭を掻いた。
「非常に申し訳ないことに……これ、ヴァルキュリア・ファミリー側からの予告なんだよね」
「情報を鵜呑みにしたってことです」
アルビノがまた補足する。
「丁度去年のレート戦中、リーグに予告が届きました。『私は初代チャンピオンと戦った女。人々を一年半以内に黄昏、聖地へ連れ戻す。私は私と同じ、ラティスリーグを制したものの前にしか現れない』と……実は公にはされていないだけで数年前からヴァルキュリア・ファミリーは警戒されていたんですよ。最近だとジムリーダーレオの辺りで出たかな。でもそれとは別に色々な実験を繰り返していた跡も残ってるんですよ」
途方もない話だ、とミケは思った。
その瞬間。
「色々なことを試したんだけど、非常に申し訳ないことに、この件はミケランジェロ・ダンテくん。君に任せることになったんだ」
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