ルミナスの手記

 戦場の町、トールシティ。大きなスタジアムが遠くからも臨める歓喜のある町だ。
「ラッキーのタマゴで作ったフレンチトーストだよ~!」
「ダルマッカ弁当、売れてるよ!!」
「カミッチュ林檎飴、如何かね~!」
 あちこちで出店が建ち、呼び込みが行われている。ラキが興味津々であちこちをキョロキョロしているし、シェリーも目を輝かせている。
 しかしミケの興味はどっちかというとスタジアムの方に向いていた。それを察したエミールがミケの顔を覗き込む。
「レート戦、気になる?」
「え、あ、はい! バトルのことばっかりですね、僕」
「写真も好きだろ。本当、トレーナーになってから少ししか経っていないのに、たいしたもんだな」
「えへへ……」
「レート戦のジムリーダーの手持ちは挑戦者用ではない本気の奴だから、勉強にはなると思うよ」
「ジムリーダーは本気で挑戦者とバトルする訳ではないんですか?」
「難しい質問ではあるね、元々ここのリーグは『強いトレーナーを絶えず発掘したい』という思考だから、あんまりジムリーダーがずっと居つくことをよしとしないんだよね。厳しい話だけどね」
「そう、マイナーリーグのジムリーダーが突然メジャーリーグに上がったりもする訳だよ」
 聞き覚えのある声がした。この声は。
「バジル!」
「バジーリオさん!」
「久しぶりだねエーミール!」
「エミールだ。わざと間違えてるだろ」
「はは、冗談さエミー、ミケくんもシェリーくんも元気そうだね!」
 前、暫く行動を共にしていたマイナーリーグ氷タイプジムリーダー且つラジオパーソナリティ、バジーリオがそこにいた。
「バジーリオ様!」
 シェリーが崇拝モードに入ったようだ。
「誰?」
「おっ、僕を知らないモグリがいるね?」
「も、モグリ……」
「ラキさんです。アローラの方だそうです」
「まあ、五年くらい帰ってないけど……」
「ほうほう、もしかしてイダイナキバ捕まえた子?」
「そ、そうです」
「へぇ~」
 バジーリオはラキの頭から足をじろじろと見る。ラキは大変気まずそうだ。
「まだ未熟……ではあるけどポテンシャル自体では化けそうですね」
「はわわ……」
「やっぱそう思う?」
「うん、なんと言っても──……」
「バジルさん!」
 急に大声がバジーリオの背後の方から聞こえた。バジーリオが露骨に嫌そうな顔をする。
「なんだい、エル」
 奥からやってきたのは、黒髪に金メッシュ、褐色の肌の軽薄そうな男だった。軽薄そうではあるが、ミケたちもわかる程度には佇まいがしっかりしている。
「急に駆けだすからなにかと思ったじゃねぇかよ~」
「知り合いがいたんだ。いいだろ」
「それってオレより大事な用事?」
「そうだよ!」
 バジーリオが苛立っていたように返すので大分珍しく感じる。エミールがにやりと笑った。
「君、バジルの彼氏か?」
「? そうだよ」
「……不本意なことにね。こいつはエレクトリシテート。エルって呼んでやって。エル。この人たちが前言ってた子たち」
「ああ~! じゃあ帽子の君がミケかな? おもしろいバトルするんだってね!」
「ええと……帽子なら僕です、そうです。おもしろいかどうかは分かんないですけど……」
「うんうん、オレ、でんきタイプのマイナーリーグジムリーダーなんだ。マイナー上がったの去年からだけど、色々刺激になると嬉しいな!」
「はい! 是非!」
「素直だね~バジルにも見習ってほし~」
「それには同感」
「エル! エミー!」
 珍しく余裕のないバジーリオは初めて見た気がする。これが恋か。
「はえ~、よく考えたらすげーよな。ジムリーダーたちめちゃくちゃバトルするってことだろ」
 ラキの言葉にエルが手をひらひらとする。
「ラティスのお祭りみたいなものだからね。キミたちも出店でなんか買ったら?」
「……林檎飴買ってきていい?」
 控えめに手を上げるラキである。
「いいと思いますよ」
「カミッチュ林檎飴人気っすね~」
「みんなはいる?」
 ラキが訊くとシェリーが控えめに手を上げた。
「カタログで見たことあったので……」
「おっけー買ってくる」
 ラキが皆から離れた時だった。エミールのポケバーが着信する。何気なく確認したエミールの顔が険しくなる。
「ごめん、私、少し外す。バジル、スタジアムまでの案内を頼めるかい?」
「僕を使うの?」
「意地悪言わないで、頼むよ~」
「仕方ないな……」
「うわ、バジルって人の頼み事聞くことあるんだ……」
「エル」
「な~んでもないっすよ! お兄さんがみんなを連れてってあげますからね~」
「シェリー! この林檎飴めっちゃうまい!」
「あ、ありがとうございます。もう半分も食べちゃったんですか……」
「シェリーのはね、青林檎!」
「色違いですね」
「無邪気っすね~」
「いいからスタジアムに行くよ。今日だってレート戦やってるんだから」
「へーい」
 少し機嫌の悪いバジーリオに着いてくエル。シェリーが二人を林檎飴を持ったまま見つめている。
(やっぱ推しの恋人ってショックなのかな……)
 ミケが心配そうに見ていると、シェリーは呟いた。
「……る」
「ん?」
「余裕のないバジーリオ様、エル様とセットで推せる!!」
「……林檎飴食べたら?」
 さすがにエミールのようにうまくは突っ込めなかった。

★★★

 スタジアムに入ると、丁度快活な声で場内アナウンスが入った。
『続いてはレオVSアオイ! お互いを知り尽くした幼馴染のパルデアコンビがどのように戦うか、見ものだぞ~!!』
「レオさんとアオイさんですって!」
「ああ、行こうねー。あの二人に俺ボコボコにされちゃった」
「私はアオイさんとはまだまだだな。レオさんには負けたけど」
「戦績どうですか?」
「去年よりはいいかなー。エルもそうだよね?」
「っすねー」
「とりあえず行きましょう!」
 一行はスタジアムの観客席まで進む。周りの人々はスタジアムに熱狂している、こちらまで熱に浮かされそうだ。
 スタジアムにはレオとアオイがそれぞれコートに立っていた。
『バトル、スタートォォォ! 待たせたなみんな!!』
 わああと歓声が上がる。レオとアオイの映像と声はスマホロトムが拾ってスタジアムのシアターに映しているようだ。
「負けないよ、アオイ」
「こっちこそ、手加減なんてしないでよね、レオ!」
 そう言葉を交わすと二人はボールを投げた。
 出てきたのはコータスと、オレンジ色のポケモン。
「パーモットだ。アネットという名前がついている。パルデアでの旅を支えたそうだ」
「コータスはひでり要員っすねー。あついいわ持ってるから、本当怖いんだから」
 動いたのはアオイが先だった。
「アネット、“インファイト”!!」
 懐に入り込んだパーモット、アネットの怒涛の突きがコータスに当たる。されるがままのコータスはくたりとのびてしまう。
「一撃で……」
「アオイくん、思いきったなあ。インファイトは守りが弱くなるから……」
「でもあのコータス一撃で沈めたくなる気持ちわかりますよ。俺もパーモット使おうかなあ」
「レート戦シングル3VS3だからな。択は選べよ」
「わかってますよ~」
 ミケはそのバトルを見ながら、自身が高揚した気持ちになっていくのを感じた。
「あれが……本気のジムリーダー……」
「ふふ、僕らちゃんとすごいんだよ」
「はい……! はい!」
「さて、レオくんはどう出るかな?」
「グレンアルマ!!」
 レオが出したのは、鎧の黄色いポケモン。
「グレンアルマですね」
 いつの間にかシェリーが膝に乗せていたカルボウが強く反応する。
「カルッ」
「カルボウ、じっとしていてください」
「ボウ……」
「さて、どう出る、グレンアルマ、パーモット!」
 バジーリオが煽るように言うのと二匹が地面を蹴るのは同時だった。

★★★

「いやー、ちゃんとデートには来てくれて、ミゲル嬉しいなー」
 エミールが公園のベンチに向かうと先客がいた。先ほどポケバーでメールをよこしてき相手だ。
「要件は」
「釣れない奴だねぇ、まああれよ」
「要件は」
 ミゲルは大きい溜息を吐く。
「本当おもしろくねぇな。あれだよあれ」
「あれ?」
 ミゲルはにっと笑った。
「『ルミナスの手記』、実在するらしいぜ」


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