ルミナスの手記

 翌日。
「それじゃ、ピチューが産まれたんですね」
「ピ……」
 シェリーに顔を向けられ、ピチューはミケの足に隠れてしまった。
「恥ずかしがり屋さんなんですね」
「そうみたい」
「はよー……あーなんか変な夢見た……」
「変な夢?」
「……グソクムシャがボールから一切出なくなっちゃう夢」
「あ……」
 起きてきたラキは少し疲れたようにキッチンに消えて行った。
「気にしてるんですね……」
「うん……」
 そう言い合っていると、ミケのポケバーが着信した。
「レアさんだ」
「タイムリーですね」
 そのメールの文面を見た二人は、顔を見合わせた。

★★★

 4番道路を経て、バルド砂丘。
「本当にイダイナキバがいっぱいるねー」
「俺もヘリアル側から来たから砂丘はわかんないやぁ……」
 エミールが遠くを見渡しながら言う。
「……古い蔵書では『神』側のポケモンと『巨人』側のポケモンが鎬を削り、人間は恐れてユグドラシル──……今のユグドタウンに暮らしていたという。しかしたった一夜にして『神』も『巨人』も相討ちになり、死んで消えてしまったんだ。そこに最初に死んだ神が人間に転生した姿、『バルド』が指導者となり、ラティス地方を人間の住む国としたというのが、ラティスの最初の歴史だ。ここはバルドが転生した場所と言われているらしいね」
「こんなところで復活したら煙いけどなぁ」
「ラキくんの感性は独特だね」
 ラキが一歩進んだ時、ミケが声をかけた。
「あの、ラキさん……」
「ん?」
「グソクムシャのひきこもりの理由、本当に思い当たんないです?」
「ん、ないよ?」
「それですね……」
「へ?」
「ホクラニ岳で、怪我したんですよね……?」
 ラキは目を見開いた。
「おまっ……、なんで、それ」
「ごめんなさい、レアさんから聞きました」
 ミケはポケバーのメール画面を見せる。

『ミケくんへ
メール、受け取りました。私にも、ラキには先に進んで欲しいから、事情を話します。
推測でしかないけど、一番線が濃いのが、ラキの怪我で島巡りを断念することになったことだと思います。
ホクラニ岳というところで、ラキは崖から転落し、左腕には麻痺が残りました。今ではそんなの感じさせないくらい料理とかるするけど、当時はリハビリとか大変で。
多分、転落する直前、グソクムシャはききかいひで引っ込んでいたんです。その時のことを思い出すから、グソクムシャは自分のとくせいで、悩んじゃうんだと思います。 レア』

「な、んだよこれ……」
「ラキさん……」
「ち、違う、あれは足滑らせた俺が悪くて、グソクムシャは悪くないんだ、本当なんだ」
「でもポケモンはそう思わないよ」
 エミールが言った。
「グソクムシャはラキくんが好きなんだね」
「え……」
「自分が原因だと思っていなければそういうことにはならないだろうし、君が向き合わないとグソクムシャは苦しいまんまだよ?」
「う……」
 ラキは俯いてしまった。大柄な体躯に似合わず、服の裾をきゅっと掴む。
 きっといっぱい悩んだんだ、とミケは思った。
「まあ、ゆくゆくね」
 エミールがその頭にぽんと手を置く。
「うん……」
「さて、砂丘を行こうか。ここから先はイダイナキバとの連戦になるぞ」
 エミールがギモーを出す。
「あれ、ギモー使うんです?」
「ガオガエンと戦わせて思ったんだけどこいつバトル好きっぽいんだよな」
「へー、そうだなぁ。僕はよし、ピジョンで!」
「よろしくお願いします、リオル」
「ラキくんは?」
「え、えと……ネマシュ続投で……」
「よし、みんな行こう!」
 四人はそれぞれパートナーを出し、イダイナキバたちを倒しながら砂丘を進んで行った。
 幾つかの砂の山を越えた時だった。
「ピィ……」
「しゅしゅ~」
「ピジョン?」
「どした、ネマシュ!? お腹痛いのか!?」
「いや、多分これは……」
「進化だな」
 光に包まれてそれが晴れた先は二匹とも姿を変えていた。
「ピジョットに、マシェードだな」
 ひと際大きくなった鳥ポケモンとフォルムが大分変わったキノコのポケモン。
「やったね、ピジョット!!」
「ポーゥ!」
「へぇ……やったな、マシェード?」
「しぇーぇど」
 それを見たギモーが突然マシェードを小突いた。
「こら! やめなさい!!」
 すかさずエミールが抱えて回収するとギモーは少し不満そうだ。
「……もしかして進化が羨ましいんじゃ?」
「そうかもな、後一段階進化するからな……」
「ぎーっ!」
「こらこら」
 微笑ましい様子に一行は噴き出した。

★★★

 小高い丘で、一行は休憩することになった。キャンプ慣れしたラキがてきぱきとカレーを作ってくれる。ポケモンたちは匂いだけで騒いでいる。
「ピチュー、わかるかな。カレーっていうんだよ」
「ピ……」
 ミケに抱えられたピチューは興味深そうにカレーの鍋を見ている。その隣にはゴリランダー。最終進化してからじゃれついたり他のポケモンに怒ることはなくなったが、その代わりミケの隣で余裕そうにするようになった。エミールからは『本妻の風格』と言われている。

「そういえばなんですけど」
 ピチューを抱えたままミケはエミールに近づく。
「なんだいミケくん」
「その、大した話ではないんですが……バルドという方が転生? したところでパラドックスポケモンが群生してるってなにかあるんですかね?」
「ああ……その件はたまに学会で上がっているな。ハミズ博士も一回論文出してた気がする」
「ハミズ博士!」
「そういえばミケくんを送り出してくれた人だったな」
「ですねー」
「おーい、カレーできたぞー。並べ並べー!」
「あ、はい!」
「行こうか」
 エミールはミケと話しながらキャンプの近くを闊歩しているイダイナキバを見た。
「……古代種。まさかな」

★★★

「うおー! 砂丘越えたぞー!!」
 青空をバックにラキがバンザイする。
「よく頑張ったね皆。ギモーもまあお疲れ様」
「ぎっ!」
「ここから5番道路を下ればトールシティだ。ジムはないがスタジアムがある。主にレート戦で使われるね」
「ジムリーダーが全員いるんですっけ」
「そうだね。全員の試合を見るのは難しいかもしれないが」
「ミケはあれだろ? 写真写真」
「あ、そうですね。なんか既存の奴から持ってこようかな」
「折角だから、ここでみんなと撮ったら?」
「え?」
「あ、俺余計か!?」
「いえ、そんなことは! むしろすごいいい提案です!」
「そ、そっか……」
「おーいみんなー!!」
 写真を集合して撮ったミケは、あのアップローダーにそのまま写真をアップすると、トールシティに足を運ぶことになった。

 さあ、レート戦だ!


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