ルミナスの手記

 ラタシティの発電所は、町を臨める高台にあった。ラタシティの電気は落ちている。発電所でなにがあったのだろう。
「ほ、本当に行くのか?」
 ラキが発電所の前でオドオドしだす。
「大丈夫ですよ! Z技があるじゃないですか!」
「やりたくない……俺だけ踊るんだよ……」
「行くよ、ピジョン」
「ポウ!」
「カルボウ、行けますか?」
「ボ!」
「やだよぉ~」
 ラキはまだ渋っている。
「今アオイさんいないんですから、頑張りましょうよ」
「ん~! グソクムシャ~頼む~……」
「ぐっそ!」
 それぞれパートナーを出した三人は発電所に足を踏み入れた。

「機械がいっぱいでうまく進めないじゃねーか!」
「ぐっ!」
「ああっグソクムシャが頭打った!」
 確かにごちゃごちゃしていて歩きにくい。
「カルボウ、炎で照らせますか?」
「ボウ!」
 カルボウが炎を手元に出し、発電所内を照らす。
「お、よかった、進める進める」
「行きましょう!」
 三人が進み出した時だった。
「あらあら、コバエが入り込んだみたいね!」
 聞こえたのは女性の声。
 照らされた先に踵の高いブーツが見えた。そのまま視線を上げると。
 乗馬服を着た女性がなんだか嫌な、にやにやとした笑顔を浮かべて立っていた。
「……貴方は」
「ああ、貴方、アッファルが会った子供ね、特徴が一致しているわ。デカい男はわからないけど……」
「美人だけどなんかこええよ~」
「……アッファル!?」
 ミケは身構える。
「お前、ヴァルキュリア・ファミリーか!」
「ご名答。名前を名乗っておこうかしら。ファミリーの華憐な花。ペチュニアよ」
「名前なんていい。ヨシノを返して」
「あら、自己紹介の場すら与えてもらえないのかしら? まあいいわ。わたくし、生意気なガキを黙らすのは好きだから!」
「来る!」
「ミケ、先に行ってください! ここは私とカルボウが引き受けます!」
「あら、お嬢さんが相手してくれるの? でも残念!」
「モジャンボーッ!」
 天井を突き抜けて、大きな青いポケモンが落ちてきた。
「わたくしのモジャンボはとびきり強いですわよ!」
「モジャンボ……戦えない相手ではありません!」
「本当かしら?」
「行って! ミケ! 直にエミールさんも来ます!」
「わかった!」
「わかるなよ! シェリーちゃんは女の子だぞ!」
 ラキがぎゃんぎゃん言うがペチュニアはクスクス笑った。
「今は女も強い時代ですのよ~? そのZパワーリング、島国は考えが本当遅れてるわね!」
「!」
「ラキさん、挑発だよ」
「わかってるよ……」
 シェリーがテラスタルオーブを出す。
「行って! 走って!!」
 叫ばれ、光を集めだしたシェリーのオーブを見て、ミケは走り出した。ラキも遅れて着いてくる。
 奥にはなにが待ち構えているのだろうか。

★★★

 炎がないので、躓いたり頭をぶつけたりしながら辿り着いた最奥にはレバーの下げられた発電機があった。
「これを上げれば電力は復旧するのかな……?」
「多分……? 俺やろうか?」
「あ、お願いします」
 ラキがレバーに手をかけ、思い切り上げる。
 しかし、電気は復旧しない。
「あれー?」
「ああ、ペチュニアの通信の通りですね」
 後ろから声が聞こえた。振り返ると黒いカバーのスマートホンがぷかぷかと浮いている。
「誰だ!」
「この状況でヴァルキュリア・ファミリーでないことあります? ツユクサと申します」
「なんで発電所を狙った!」
「必要だからですかねぇ」
「はっきり言え!」
「やれやれ、結論を急ぐ方だ。その愚かさに免じて教えてさしあげますが、発電所の動力源に用がありました」
「動力源……?」
「この町に詳しい人……ああ、そうだ、ジムリーダーに聞いてみるといいんじゃないでしょうか。彼がいたらそれも骨が折れたでしょうね」
 おそらく、レート戦で町を空ける留守を狙ったのだろう。白々しいにも程がある。
「くそ……」
「“でんげきは”」
 スマホから突然なにかが飛び出してきて、ピジョンとグソクムシャに雷撃を浴びせる。素早かったがラキは理解したらしい。
「スマホの中に入ってたロトムだ!」
「ピジョン!! 大丈夫!?」
「ぴ、ぴぃ……」
「ここでここを去れば、見逃すしペチュニアを退かせましょう。どうしますか?」
「そんなのっ」
「“であいがしら”!」
 ラキが叫んだ。素早く反応したグソクムシャがその場を漂っていたロトムに重い一撃を喰らわせる。
「ラキさん……」
「え、あ、だめだった!?」
「いえ、先越されちゃいましたね」
「え、えへ……」
「交渉決裂ですか。ロトム、スマホに戻りなさい」
「ケテー」
 ロトムがスマホに入り直し、スマホが跳ねた後、その場をすごい勢いで飛び去って行った。追いかけようとした時には暗闇にスマホは溶けて見えなくなっていた。
「どうしよう、結局なにも解決してないし……」
「うーん……」
「ミケ! ラキさん!」
「大丈夫だったか?」
 そこにシェリーとエミールが到着した。エミールのアブソルはメガシンカしている。
「あ、ペチュニアは……?」
「少し相手をしたら逃げて行った。あいつらの目的は動力だろうからな」
「知ってたんですか?」
 エミールは頭を掻く。
「その、一般公開はされてない情報だ。『巨人の力』を使っているらしい」
「巨人? 神話の?」
「ん、まあそうかもしれないというか……あー、その『レジエレキ』の力が硬質化した……なんていうんだろうな。力の結晶、みたいな?」
「れじえれき?」
「うーん……」
 ラキがあ、と声を上げた。
「ガラルのカンムリ雪原で一度有名になった奴だ!」
 エミールはああ、と言う。
「それも有名だね。どういう経緯で、どんな形かは知らされていないが、この地方には巨人のポケモンの痕跡が残っているんだよ」
「へー……」
「ただ、動力源がなくても、この町のライフラインが死んじゃうから、電気か何かを供給させた方がいいだろうな」
「んー、マッギョいないしなあ……」
「ずっと発電し続けるのは幾らでんきタイプでも無茶だろうしな」
「どうしたら……」
「あ、あの……Zクリスタルだったらどうだろう」
 ラキが控えめにはい、と手を上げた。
「俺、持ってるよデンキZ。Z技にどれくらい可能性があるのかはわからないけど……」
「なんと! ホクラニ天文台をクリアしたか!」
「く、詳しいッスね……」
「あらゆるところのあらゆる知識はその、叩き込まれているからね……さて」
 そう呟くとエミールはがちゃがちゃと発電装置をいじりだした。
「あー、ここにあったんだな動力源。機械は幸い壊れてないな。ラキくん、ちょっとデンキZを貸してくれ」
「あ、はい!」
 ラキがリングから外した黄色いひし形の石を、エミールは装置に繋ぐ。すると。
『ラタ発電所、省エネモードで機能回復』
 そのアナウンスの後、施設内に電気が点いた。
「ふむ、最低限の電力供給は問題なさそうだね。さすがアローラの力の結晶」
「よ、よかったぁ……」
「ラキさんがいてくれて、よかった」
「えへ、えへへ、えへぇ……」
「喜び方独特だな」
「とにかく、ヴァルキュリア・ファミリーも本気を見せてきましたね……」
「そうだな……」
「? 二人はヴァルキュリア・ファミリーの目的を知っているの?」
 ミケがその言葉尻に首を傾げシェリーとエミールに尋ねると、二人は顔を見合わせた。
「ミケ、その」
「僕から話そう。実はね……」
 その場で打ち明けられた話は、シェリーとエミールが『ジーニアス手術』で脳を弄られていること、シェリーの父親がヴァルキュリア・ファミリーを支援していて、その中のひとつにエミールの家があったこと、だった。
「びっくりだなぁ」
 全てを聞いたミケの一言にシェリーは目を伏せる。
「アッファルが出た時に話さなきゃいけなかったんですけど……あの頃はまだ色々自信を持ててなくて……」
「うーん、僕がシェリーの立場でも話しにくいと思うよ?」
「実はミケのことも施術者だと思っていたので……違うって気づいたんのはヘリアルタウンからなんですけど……それも申し訳なくて……」
「ただ、僕の家も裕福な家庭ではあるけどヴァルキュリア・ファミリーが絡んでいる可能性についてはシェリーくんの話で初めて知ったよ。実はね」
「なんかめちゃくちゃ大変なことだけわかったけど、ファミリー自体の目的は結局知ってるのか? 知らないのか?」
 ラキの最もな質問にシェリーとエミールは首を振った。
「今回のことから『何かエネルギーを使うこと』をするんじゃないかとは思うんだけどね……」
「私の方でも、父はファミリーの情報だけは言ってくれませんでしたから……」
「つまり『なにもわからん』がわかるってことだな」
「そうですね……」
 二人は俯いてしまう。ミケはとりあえず、と提案した。
「一旦出ようよ。外に行ってちゃんとライフラインが大丈夫か見ないといけないし」
「そうだな」
「ラキさんも、色々頑張ってくれてありがとう」
「うん……でも俺ダメだな。レアだったらあのスマホロトム逃がさなかったと思う」
「レアさんって強いんですか?」
「つええよ。アローラじゃ一回も勝てなかった」
「へー……」
 そんな話をしながら、四人は発電所を出た。
 町の電気は前より控えめであるが復旧しているようであり、前のような煩い色彩を放っていた。
「とりあえず、リーグに連絡だな」
「なんかリーグって処理すること多くて大変だなあ……」
「どこの地方にだってルール通りに動かない奴はいるから……」
「ラキさんのアローラでもそうだったんですか?」
「ああ、まあ……エーテル財団ってとこでちょっとした事件があって……」
「へー」
 遠くでポケバーで話していたエミールがそこで戻ってきた。
「今レート変動の時期だから対応は遅れるらしい。ついでに私たちもトールシティに行くか。ジムリーダーたちが集まっている筈だ」


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