ルミナスの手記

「パラドックスポケモンかぁ……」
 軽く頭を抑えるエミールに、ミケは苦笑する。
「バルド砂丘の方に立ち入った訳じゃないんですけどね……」
「ああ、そこは疑ってないから大丈夫。ラキくん、と言ったかな」
 エミールの態度に何故か怯えてしまっているラキはエミールの後ろで小さくなっているようだが、体がでか過ぎて全然できていない。
「君はイダイナキバをどうしたいかな?」
「えっ」
「このまま手持ちに入れるというなら、私の方でリーグに手続きを取っても構わない。そういうのは慣れているからね」
「て、てもちぃ……」
「いやならリーグの方に送ればいい。バルド砂丘はね、イダイナキバの群生地だからね」
「そうだったんだ」
「そう、オヤブン個体はでかいから出てきちゃったんだろうね」
 ラキは意外にも即問はしなかった。顎に手を当てて、唸っている。
「……う」
 やがてぽそりと言った。
「ん?」
「こいつ、おや、俺じゃないですか」
「……うん」
「いきなり、おやから離されてリーグ送られたら、寂しい、と思う……」
 一瞬だけ、ミケのブニャットのボールが揺れた。
「では、手続きをしておこう。トレーナーIDだけ教えてくれないかい」
「は、はい」
「えーと、特別なポケモンであることはわかったんですが、パラドックスポケモンってそもそもなんですか?」
「『タイムパラドックス』が語源だね。過去、未来、時間がずれてるポケモンたち。『古代種』や『未来種』ともいうかな。イダイナキバはドンファンに似ているから、ドンファンの古代のすがたなんじゃないか、と言われている」
「へー」
「いずれにせよ。ポケモンではあるから。UBみたく不可思議ではないし。大事にするんだよ」
「ッス……」
 ラキはイダイナキバの入ったボールを握って言う。
「少し安心した。ラキさん、怖いかもしれなかったから」
「怖くはある……」
「まあ怖いから手放さなきゃいけない訳じゃないからね」
「はい……」
「とりあえず、私たちは当初の予定通りラタシティを目指そうか」
「はい、じゃあラキさん。縁があったら、また」
「そのことなんだけど……」
 ラキは露骨にもじもじしだす。体がデカイので全然似合っていない。
「なんの動きだそれ」
「そ、その、三人に着いていっていいだろうか!!」
「ラキさん?
 ラキは拳をぎゅっと握り一歩前に足を出す。
「俺は強くない! だけど、あんた達、強そうだ! 勉強させて欲しい!」
 三人は目を丸くする。
「つ、強いか……私?」
「わ、私、そんなバトルは……」
「僕だって強くないです」
「それはない」
 ミケだけ即座に否定されて益々目を丸くした。
「まあ……ラキさんがそうなら、私は構いませんが……」
「私もまあ、ついこないだまでバジルがいたしな……」
「やった!」
「はは、よろしくお願いします、ラキさん」
「おう!」
 ラキはにっと笑った。思ったより幼い笑顔だ。

★★★

 ラタシティ。
「ここは通称、『夜を忘れた町』と言われてね」
「そうですね、目がチカチカして酔いそうだ」
「ラキさん偉そうに言うことじゃないです」
 そういうミケもぴかぴかと光るネオンの看板やあちこちに設置された電灯は眩しいようだ。
「クラブとかバーもあるから、大人だったらもっと楽しめたかもしれないな」
「あ、みんなー!」
 エミールが言った時、聞き覚えのある声が聞こえた、後ろから聞こえた。
「レオさん!」
 ソウエンシティでミケと火花を散らしたジムリーダー、レオだった。後ろには受けつけにいたあのジュカインがのっしのっしと歩いている。
「アオイから連絡貰ってさあ! そろそろ来るんじゃないかって」
「アオイさんと知り合いなんですか?」
「いやだってアオイって俺の彼女だし」
 間。
「えーっ!!」
「それじゃあの時デートしてたのって……」
「アオイだよ!」
「まあまあ」
「実は俺とアオイって同郷でね。同じチャンピオンランクだったんだよ」
「あー、言ってなかったな、そういえば。いや彼女は初めて知ったけど、いや彼女って……」
 エミールはなにやら煮え切らない態度だ。
「エミールさん?」
「あー……」
「えっ、ラタシティジムリーダーって男だよな!?」
 言い淀んでいたエミールに被せてラキが発言してしまった。
「ええ!?」
「あら……」
「お、お前―! 私が気を使ったのに!」
 思わずエミールはラキの頭をはたいてしまった。
「す、すいませ……?」
「ふふ、またアオイ間違えられてる」
 レオは気分は害していないようで、楽しそうに笑っている。
「その、『男の娘』って奴だな。最近はそういう言い方をするんだよな……」
「まあまあ。でもアオイは強いからね」
 ミケはレオのその言葉にははい、としゃんとした姿勢で答えた。
「でも負けません! ヨシノを助けるなら、強くならなくちゃいけないと思うから!」
 その様子にレオは満足げに頷く。
「友達のために強くなるんだね、いいと思う」
「はい!」
「あ、後バジーリオくんから頼まれて来たんですよね、エミールさん」
「ん?」
「ガオガエンです」
 突然投げられたボールを受け取った後、エミールは目を丸くした。
「な、なんで!?」
「んー、なんか本当に貴方をマイナーリーグに呼びたいみたいですよ? 適当なあくポケモン渡しといてくれって言われたんで」
「適当なのガオガエンなのエグイだろ!!」
「大丈夫。俺がしっかり調整した子ですから」
「ガチじゃないか!!」
「まあまあ、貰っといてくださいよ。バジーリオくんはしつこいよ」
「知ってる……」
 知ってるからこそ、エミールは返せないようだ。
「じゃ、俺はこれで」
「……ジム戦は見ないのか?」
「この後、サトルくんと会う約束あるんですよね。そろそろレート戦の期間だし」
「ああ、だからトールシティのあるこっちに来たのか」
「そう、レート戦はあそこのスタジアムでやりますからね。アオイにはよろしく言っておいてください」
「はい」
 そう言うとレオはジュカインと共に去って行った。
「ジムリーダー、って忙しいですよね」
「レートが下がるとジムリーダーできなくなったりするから、よく考えたらシビアだよな、ラティスリーグって……」
「……エミールさん、少しくらいバジーリオ様に乗ってあげてもいいんじゃないでしょうか」
「ってもなぁ……」
 ラキがあの、と控え目に手を上げた。
「ラタジム行きませんか……?」
「それもそうだな! よし行こう! こっちだ!」
 エミールはしめたとばかりに大股で去って行った。
「やったらいいのにー」
「ですよねー」
「そうなの? 俺あの人ちょっと怖いことしかわからん」
「身長はラキさんの方が高いですよ!?」

★★★

「来たね挑戦者!」
 ジム前にはアオイが立っていた。
「……本当に男?」
 ラキはぼやいた。
「よく言われます! 君はイダイナキバをゲットしたラキくんだね! リーグから連絡は来てる」
「情報早すぎて怖いよやだよ」
「因みになんだけど、俺のジム戦は少し変わった形式でバトルするよ!」
「少し変わった形式?」
 アオイは胸を張って、腰に両手を上げて言った。
「その名も、『トリプルバトル』!」


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