ルミナスの手記
「貴方のカルボウもベトベターも強いわね!」
「ええ、そちらの戦い方も大変勉強になりました」
一人のトレーナーにダブルバトルで勝ったシェリーは相手と固い握手を交わしていた。
それを後方で見ているエミールは出したままのベトベターが震えているのに気がついた。
「おい、シェリーく……」
声をかけるより早く、ベトベターの体が光に包まれる。
その後現れたのは、ベトベターの頃よりヘドロの質量が増した紫のポケモン。
「ベトベトンだな。耐久と能力がより優秀になったぞ」
「やりましたね、ベトベトン」
「ベト!」
「君たちはいつの間にか、随分と仲良くなったみたいだね」
「バーバラさんのおかげですね」
シェリーはバトルした相手を見送り、ベトベトンの頭を撫でながら、やがて決心したようにエミールの方を向いた。ベトベトンは気持ちよさそうに撫でられている。
「……エミールさんに、言ってないことがあります」
エミールは目を細めた。
「奇遇だな。『僕』もだ」
「……私、貴方のこと、ヴァルキュリア・ファミリーだと思ってました」
「……」
「本当にごめんなさい」
「疑いが晴れたのは、いつから?」
「アッファルです」
「そっか」
「アッファルと接触した時、本当に貴方は何も知らないようだった。そもそも、不器用ながら、いつも私たちを導いてくれました」
「……」
「だから、ごめんなさい」
「謝るのはこっちだよ」
「へ?」
「僕、気づいてた。君は『ジーニアス手術』を受けた者だね?」
「……はい」
エミールは俯き座り、真剣な顔をしてエミールを見ているアブソルの頭を撫でて言った。
「僕もそうだったから」
「……はい。私は『ジーニアス手術』を十年前、3歳の頃受けたと聞き及んでいます」
「僕は十五年前だ。……昔リーグが行っていた、『優秀なトレーナーを人工的に作り出す、脳に干渉する実験』。十年前だと第三世代だね。最後に施術された第三世代は、何人か廃人になったのと、倫理観について疑問視する声が大きくなってた。リーグはこの実験を闇に葬った」
「……私のお父様が、提唱したんです」
エミールは無言で先を促す。
「率先して活動し、数々の被害者を出した。私のことも、人形のように家に一日の殆どを閉じ込めていました。父親と、バジーリオ様のラジオとたまに許される散歩でのイチヨウの街並みが私の世界の全てでした」
「……うん」
「でもミケと出会って、全てが新しいことの連続で、『家に帰りたくない』と初めて思うようになりました」
「うん、僕をヴァルキュリア・ファミリーだと思った理由は?」
「父の取引の書類に貴方の写真を見たことがあります。最初は気づかなかったんですけど。実は父は……目的はわからないですがヴァルキュリア・ファミリーに融資しているので」
「僕は『失敗作』だった」
「……!」
不意に発されたエミールの乾いた言葉にシェリーがはっとする。
「第二世代、僕だね。は手術担当の主任のやり方が悪かったのか、『人より少し強いね』といった個体しか出なかったんだ。僕の親は失望して、素で強かった弟に親の関心は行った」
「そう、だったんですか」
「多分ミケくんと同じ類だね。あの子は素面で強いから」
「……私、貴方に感づかれるほど、バトルはしていませんが……」
「感情の起伏がなかったり、急に激しかったりするのは第三世代の特徴なんだ。その、謝っとくと、『カマをかけた』」
「そうだったんですか……、ありがとうございますエミールさん、話してくれて」
「こちらこそ、『私』は怪しかったろうに」
「お互い様ですよ」
二人は笑い合う。そしてエミールはその肩に手を置く。
「例え、脳がいじられていたとしても、本当の気持ちかわからなくなっても、生きていかなきゃね」
「はい」
「それじゃ戻ろうか」
「くん」
「どうしたアブソル」
アブソルは不機嫌そうに地面を踏む。シェリーがクスっと笑った。
「足のこと、心配してるようですね」
「わかった、わかった、休むから」
★★★
「おわーっ、聞いてない聞いてない!! ヌシポケモン!? アローラじゃないんだぞ!?」
「あれ、多分オヤブンですね」
「ていうか、なんだ!? 絶妙にドンファンじゃないんだけど!!」
「落ち着いて、写真を撮りましょう」
ミケはそう言うとポケバーで写真を撮った。図鑑にロードされ、出てきた名前は。
「『イダイナキバ』……パラドックスポケモン?」
「益々わからん!」
「でも行くしかないですよ、向こうは襲ってきてるんですから! バチンキー!」
ボールから出したバチンキーが待ってましたと言わんばかりに相手に向かい、ミケの方を見て頷いた。
「え、俺グソクムシャはへそ曲げてんだけど……」
「経験積ませたいなら他の子出すしかないでしょ!」
「うう、スパルタ……ネマシュ、頑張ってくれ……」
「ネシュー!」
ポケモン、イダイナキバはより一層咆哮した。
★★★
暫く、一進一退の攻防が続いた。
バチンキーは小さいながら器用にあちこちに動き立ち回り、ネマシュもダメージを受けても『ギガドレイン』で体力を回復させるといった循環が続いた。しかし。
「全然倒れないんだけど!!」
「なんか、強いな……」
相手はジャイロボールやじだんだなどで確実にダメージを蓄積させてくる。
「こ、こうなったら!」
膠着する戦線に痺れを切らしたのか、ラキが動いた。
確かZパワーリングというらしいそれになにか緑の石をはめ、突然謎のポーズを取った。イメージ的にはぐんぐんと育つ芽といった感じだ。
「えと、なんですか?」
「いいから!」
ラキも恥ずかしいようだ。しかし次の瞬間。
ネマシュが凄まじい闘気を纏い、花が辺りを埋めていく。それがイダイナキバを包み込んだ。
「……これが」
「ブルームシャインエクストラ。Z技だ! ポーズだけなんとかならんかな!」
イダイナキバは大分ダメージを受けたようで、技を出す間にもふらついている。
そして、決着の時は来た。
「オオオオン……」
二匹の攻撃を受け続けたイダイナキバは、文字通り地面を揺らしながら、その場に倒れ伏した。
「はあ、はあ……なんとかなった……」
「お疲れバチンキー。……? どうしたの?」
バチンキーがミケの言葉に反応せず、空に向かって咆哮する。光がバチンキーを包んた。
数秒後、そこにいたのは。
「バ……」
「ゴリランダーだ、たまげたなぁ~」
「ごっす」
「おめでとう、バチ……ゴリランダー」
巨体と力強い声。サルノリだった頃を思い出すと随分大きくなったものだ。
「にしても強かったですねぇ! Z技!」
「そ、そうか? へへ、へへへ……」
ネマシュがラキの傍に来て、だっこ、とでも言うように揺れる。ラキも拒否せず、ネマシュを抱き上げた。そして横目でイダイナキバを見る。
「えっと……これ、どうしよう」
「捕まえてもいいのかな?」
「えっ」
「リーグに報告義務はあるかもしれないし、また暴れても困るし、捕まえましょう!」
「そ、そうかあ」
「お願いしますね、ラキさん」
「俺!?」
「僕ポケモンいっぱいですので……」
「ああ! もうわかったよ」
ラキはヤケクソになったようにモンスターボールを投げる。三回揺れ、カチ、と音が鳴った。
「あわわ……捕まえちまった……」
「おめでとうございます!」
「嬉しくない……」
そこでミケのポケバーが鳴り出した。着信の時の音だ。『シェリー』とディスプレイには書かれている。
「あ、待たせちゃったな」
「?」
「もしもし、シェリー?」
『ミケ。バトルに熱中してる感じですか?』
「うーん、近からず遠からずかな。友達ができたからこれから連れてくよ」
ラキの頭の上に『!?』マークが出るのが見えるようだ。
『? わかりました。引き続き約束の場所で待ってます』
「うん!」
通話は切れた。逃げようとするラキをゴリランダーが空気を読んで捕まえている。
「覚悟決めてくださいラキさん。無関係ではないです」
「い~っ」
青空にラキの寄声が響いた。
【260315】
「ええ、そちらの戦い方も大変勉強になりました」
一人のトレーナーにダブルバトルで勝ったシェリーは相手と固い握手を交わしていた。
それを後方で見ているエミールは出したままのベトベターが震えているのに気がついた。
「おい、シェリーく……」
声をかけるより早く、ベトベターの体が光に包まれる。
その後現れたのは、ベトベターの頃よりヘドロの質量が増した紫のポケモン。
「ベトベトンだな。耐久と能力がより優秀になったぞ」
「やりましたね、ベトベトン」
「ベト!」
「君たちはいつの間にか、随分と仲良くなったみたいだね」
「バーバラさんのおかげですね」
シェリーはバトルした相手を見送り、ベトベトンの頭を撫でながら、やがて決心したようにエミールの方を向いた。ベトベトンは気持ちよさそうに撫でられている。
「……エミールさんに、言ってないことがあります」
エミールは目を細めた。
「奇遇だな。『僕』もだ」
「……私、貴方のこと、ヴァルキュリア・ファミリーだと思ってました」
「……」
「本当にごめんなさい」
「疑いが晴れたのは、いつから?」
「アッファルです」
「そっか」
「アッファルと接触した時、本当に貴方は何も知らないようだった。そもそも、不器用ながら、いつも私たちを導いてくれました」
「……」
「だから、ごめんなさい」
「謝るのはこっちだよ」
「へ?」
「僕、気づいてた。君は『ジーニアス手術』を受けた者だね?」
「……はい」
エミールは俯き座り、真剣な顔をしてエミールを見ているアブソルの頭を撫でて言った。
「僕もそうだったから」
「……はい。私は『ジーニアス手術』を十年前、3歳の頃受けたと聞き及んでいます」
「僕は十五年前だ。……昔リーグが行っていた、『優秀なトレーナーを人工的に作り出す、脳に干渉する実験』。十年前だと第三世代だね。最後に施術された第三世代は、何人か廃人になったのと、倫理観について疑問視する声が大きくなってた。リーグはこの実験を闇に葬った」
「……私のお父様が、提唱したんです」
エミールは無言で先を促す。
「率先して活動し、数々の被害者を出した。私のことも、人形のように家に一日の殆どを閉じ込めていました。父親と、バジーリオ様のラジオとたまに許される散歩でのイチヨウの街並みが私の世界の全てでした」
「……うん」
「でもミケと出会って、全てが新しいことの連続で、『家に帰りたくない』と初めて思うようになりました」
「うん、僕をヴァルキュリア・ファミリーだと思った理由は?」
「父の取引の書類に貴方の写真を見たことがあります。最初は気づかなかったんですけど。実は父は……目的はわからないですがヴァルキュリア・ファミリーに融資しているので」
「僕は『失敗作』だった」
「……!」
不意に発されたエミールの乾いた言葉にシェリーがはっとする。
「第二世代、僕だね。は手術担当の主任のやり方が悪かったのか、『人より少し強いね』といった個体しか出なかったんだ。僕の親は失望して、素で強かった弟に親の関心は行った」
「そう、だったんですか」
「多分ミケくんと同じ類だね。あの子は素面で強いから」
「……私、貴方に感づかれるほど、バトルはしていませんが……」
「感情の起伏がなかったり、急に激しかったりするのは第三世代の特徴なんだ。その、謝っとくと、『カマをかけた』」
「そうだったんですか……、ありがとうございますエミールさん、話してくれて」
「こちらこそ、『私』は怪しかったろうに」
「お互い様ですよ」
二人は笑い合う。そしてエミールはその肩に手を置く。
「例え、脳がいじられていたとしても、本当の気持ちかわからなくなっても、生きていかなきゃね」
「はい」
「それじゃ戻ろうか」
「くん」
「どうしたアブソル」
アブソルは不機嫌そうに地面を踏む。シェリーがクスっと笑った。
「足のこと、心配してるようですね」
「わかった、わかった、休むから」
★★★
「おわーっ、聞いてない聞いてない!! ヌシポケモン!? アローラじゃないんだぞ!?」
「あれ、多分オヤブンですね」
「ていうか、なんだ!? 絶妙にドンファンじゃないんだけど!!」
「落ち着いて、写真を撮りましょう」
ミケはそう言うとポケバーで写真を撮った。図鑑にロードされ、出てきた名前は。
「『イダイナキバ』……パラドックスポケモン?」
「益々わからん!」
「でも行くしかないですよ、向こうは襲ってきてるんですから! バチンキー!」
ボールから出したバチンキーが待ってましたと言わんばかりに相手に向かい、ミケの方を見て頷いた。
「え、俺グソクムシャはへそ曲げてんだけど……」
「経験積ませたいなら他の子出すしかないでしょ!」
「うう、スパルタ……ネマシュ、頑張ってくれ……」
「ネシュー!」
ポケモン、イダイナキバはより一層咆哮した。
★★★
暫く、一進一退の攻防が続いた。
バチンキーは小さいながら器用にあちこちに動き立ち回り、ネマシュもダメージを受けても『ギガドレイン』で体力を回復させるといった循環が続いた。しかし。
「全然倒れないんだけど!!」
「なんか、強いな……」
相手はジャイロボールやじだんだなどで確実にダメージを蓄積させてくる。
「こ、こうなったら!」
膠着する戦線に痺れを切らしたのか、ラキが動いた。
確かZパワーリングというらしいそれになにか緑の石をはめ、突然謎のポーズを取った。イメージ的にはぐんぐんと育つ芽といった感じだ。
「えと、なんですか?」
「いいから!」
ラキも恥ずかしいようだ。しかし次の瞬間。
ネマシュが凄まじい闘気を纏い、花が辺りを埋めていく。それがイダイナキバを包み込んだ。
「……これが」
「ブルームシャインエクストラ。Z技だ! ポーズだけなんとかならんかな!」
イダイナキバは大分ダメージを受けたようで、技を出す間にもふらついている。
そして、決着の時は来た。
「オオオオン……」
二匹の攻撃を受け続けたイダイナキバは、文字通り地面を揺らしながら、その場に倒れ伏した。
「はあ、はあ……なんとかなった……」
「お疲れバチンキー。……? どうしたの?」
バチンキーがミケの言葉に反応せず、空に向かって咆哮する。光がバチンキーを包んた。
数秒後、そこにいたのは。
「バ……」
「ゴリランダーだ、たまげたなぁ~」
「ごっす」
「おめでとう、バチ……ゴリランダー」
巨体と力強い声。サルノリだった頃を思い出すと随分大きくなったものだ。
「にしても強かったですねぇ! Z技!」
「そ、そうか? へへ、へへへ……」
ネマシュがラキの傍に来て、だっこ、とでも言うように揺れる。ラキも拒否せず、ネマシュを抱き上げた。そして横目でイダイナキバを見る。
「えっと……これ、どうしよう」
「捕まえてもいいのかな?」
「えっ」
「リーグに報告義務はあるかもしれないし、また暴れても困るし、捕まえましょう!」
「そ、そうかあ」
「お願いしますね、ラキさん」
「俺!?」
「僕ポケモンいっぱいですので……」
「ああ! もうわかったよ」
ラキはヤケクソになったようにモンスターボールを投げる。三回揺れ、カチ、と音が鳴った。
「あわわ……捕まえちまった……」
「おめでとうございます!」
「嬉しくない……」
そこでミケのポケバーが鳴り出した。着信の時の音だ。『シェリー』とディスプレイには書かれている。
「あ、待たせちゃったな」
「?」
「もしもし、シェリー?」
『ミケ。バトルに熱中してる感じですか?』
「うーん、近からず遠からずかな。友達ができたからこれから連れてくよ」
ラキの頭の上に『!?』マークが出るのが見えるようだ。
『? わかりました。引き続き約束の場所で待ってます』
「うん!」
通話は切れた。逃げようとするラキをゴリランダーが空気を読んで捕まえている。
「覚悟決めてくださいラキさん。無関係ではないです」
「い~っ」
青空にラキの寄声が響いた。
【260315】
