ルミナスの手記

 三人はラタシティを目指して3番道路を目指していた。
「そうだ、あれ使おうよ」
 そこでミケがポケバーを出して言った。
「『あれ?』」
 エミールは首を傾げたがシェリーは思い当たったようだった。
「対戦マッチングですか?」
「そう! トレーナーって普通に歩いてると見えないところで休んでたりするし、折角だから使ってみようと思って」
「バトル向けの拡張アプリか……いいんじゃないか」
「じゃあ早速」
 ミケがアプリを起動させると、数人のトレーナーの情報がヒットした。
「えーっと……」
「私の方でも起動してみましたが、どうやらトレーナーのレベルによって表示されるトレーナーは違うようですね」
「なら、どうする?」
「私は私で近くで出てきたトレーナーさんと戦ってみます」
 エミールは目をぱちくりとした。
「シェリーくん、なんかこう、活動的になったね」
「そ、そうでしょうか」
「エミールさん、シェリーについてあげて」
「それは構わないが……」
「じゃ、バトルが終わったらここでまた集合する感じで!」
「あ、ああ……」
 ミケがさっさと行ってしまったので気おくれがしていると、今度はシェリーから声がかかった。
「さっさと行きましょう! エミールさん!」
「……子供の成長は目まぐるしいな」
 シェリーに引っ張られながら、エミールは苦笑した。

★★★

「うーん、この辺、かな」
 ミケはマップを見ながら歩く。近くに『バルド砂丘』と表示された砂地があるようだが、エミールからはヘリアルを出る時に『そこには行かないように』と言われているので、そちらには向かわず辺りを見回す。
「お前、ミケランジェロか?」
 同時に声をかけられる。振り返ると赤茶の髪の体格のいい男性がいた。
「あ、もしかして、『ラキ』さん?」
「ああ、俺たちはお互い対戦マッチングを使っている。後は言葉はいらないだろう」
「そうですね!」
 ミケがボールを構えると、ラキと名乗った男性はにやりと笑う。
「『島巡り』で鍛えたポケモンたちを見せてやるよ!」
 そう言って彼が出したのは大きな、甲冑のようなものを纏ったポケモン。
「俺のグソクムシャに対抗できるかな?」
「グソクムシャって言うんだ」
 それに頷き、ミケはボールを取る。
「ブニャット!」
「にゃあん!?」
 ボールから出てきたブニャットはボールから出るなり、信じられない、といった声を出した。そしてミケを威嚇する。
「なんだ。全然懐いてないじゃないか、貰い者か」
「このブニャットは強いですよ」
「にゃ!」
 ミケの言葉はちゃんと聞いているようで、『強い』のところでブニャットは尻尾を反応させた。そこでミケはすかさず言葉を続けた。
「負けたくないよね? バトルの時だけは言うことを聞いてくれると嬉しいな。僕のことは嫌いでいいから」
「ぶにゃ……」
 不満そうに鳴いた後、ブニャットはグソクムシャに向き直る。
「話はついたようだな。グソクムシャ!!」
「お願いブニャット!」
「“であいがしら”!」
 一瞬でグソクムシャが距離を詰め、ブニャットに重い腕の一撃を加えた。
「なっ!」
「一回こっきりだがな。ダメージソースとしては悪くなかろう!」
 ラキが笑う。どうやら二回目はないらしい。しかし、凄まじい攻撃力だ。
「恐らくむしポケモン! “つばめがえし”!」
 タイプ相性はバーバラに叩き込まれている! 体躯に似合わぬブニャットの素早い動きがグソクムシャを捕える!
「よし、そのまま──」
「あ、やべ」
 ミケとラキが同時に声を上げた。
 それと同時に、グソクムシャがラキのボールに戻って行った。
「え、なに!?」
「すまん! バトルはここまでだ!」
「え、だからなに?」
 ラキは手を合わせ謝罪の姿勢を取る。
「『ききかいひ』だ……」
「?」
「特性だ。体力が減ると、グソクムシャはボールに戻って行ってしまうんだ……。しかもどういう訳か、普通のグソクムシャはそんなことないのに、へそを曲げてしまう……俺にも他に戦えるポケモンがいない訳じゃないが、正直君のブニャットに突っ張れないと思う……」
 ラキはしょもしょもとしながらミケに再び手を合わせる。
「え、と」
「本当にすまん!」
「ぶにゃ!」
 ラキになんと声をかけようか迷っていると、ブニャットがミケの膝を強く叩く。痛い。
「にゃ!」
「わかったわかった。ありがとうね、ブニャット」
 ブニャットはそっぽを向く。まるで『お前のためじゃない』と言っているようで。仲良くなれるのはまだ時間がかかりそうだ。
 ブニャットをボールに戻すと、まだうんうん唸っているラキの方に向かった。
「あの、気にしてないんで」
「うううん……」
 ラキは頭を抱え唸っているばかりだ。
「あの」
「いや、わかってるんだよ。こんなんじゃだめだって。グソクムシャ以外もレベル上げるべきだってのもわかってるし、グソクムシャの悪い癖も治さなきゃって……」
 どうやら自己嫌悪に相当飲まれているようだ。最初の強そうな印象とは真逆の印象に、ミケはくすっと笑った。
「みんな俺を笑う……」
「い、いやそういう意味じゃないですよ! 頑張ってるなーと思っただけで」
「頑張ってない! 俺が頑張ってたら頑張ってる人に失礼だ!」
「えー、面倒臭いな……」
「自覚はある……」
 ラキは地面に視線を落とすと、溜息を吐いた。
「俺、ポケモン向いてないのかな……」
「僕も最初からバトルできた訳じゃないんですけどね。因みに何持ってるんですか?」
 ラキはボールをふたつ取る。
「ケララッパ、ネマシュ」
 中から出てきた鳥のポケモンとキノコのようなポケモンをミケはポケバーのカメラで撮る。
「え、なんで急に撮るん。怖」
「え、いや。図鑑に載るんで……」
「図鑑作ってる……しごできだ……こわ……」
「そんなことは……あ、ケララッパってうちのピジョンとタイプ一緒なんだ。ネマシュは毒にさえ気をつければタイプは優秀ですね」
「あ、ああ、まあな。祖国のアローラで捕まえたポケモンなんだ」
「アローラ、レアさんが確かそこの出身だったなー」
「レアってコップ遺跡のレアか?」
「? 知ってるんですか」
「昔馴染みだ。あいつのベトベターには泣かされたよ」
「へぇ! そういえばさっき島巡り?って言ってましたけど」
「そういえばあれ、アローラでしかやらないんだったな。大体ジム巡りみたいなものだよ」
 そう言うとラキは変わった飾りを見せてくる。
「これが島巡りのあかし。それでこっちがZパワーリングだ。Z技って知ってるかな。まあ機会があったらな」
 そう言って更に見せられた腕輪をしげしげと眺めているとラキは少し気恥ずかしそうにする。
「まあ、形だけなんだけど。俺は島巡り、完遂できなかったから」
「でも挑戦したんでしょう? 偉いですよ」
 特になんの疑問も含みもなくミケから発された言葉に、ラキは一瞬動きを止めると真っ赤になった。
「えらくないえらくない!! そ、そそそそんな」
「え?」
「い、いやその! この話やめよう!」
「? はい」
「ところで他のトレーナーのところに行かなくていいのか? 全然まだ反応あったと思うけどな」
「そうですね、そろそろ友達が戻ってきてるかもしれないし、集合場所行こうかな」
「なんか悪いな……」
「いえ! また会ったら戦いましょ~!!」
「……子供って眩しいなあ……」
 ラキがそう言った時だった。

 ズモモモ……。
「え、なんの音?」
「バルド砂丘の方からだな……?」
 何かが砂を巻き上げて転がってくる音。
 砂埃の中で、微かに見えるのは深い紫で、棘で覆われた外殻。
「オオオオオッ!!」
 それが鳴いた時には既に、二人の前で巨体を晒した姿だった。
「なんだこのポケモン!?」
「ど、どどドンファンというポケモンに似ているが、なんか違うな……!?」
 そのポケモンは二人を視界に捕え、まだ一声鳴いた。
「……ひょっとして、やばい?」
「逃がしてくれそうにはありませんね」
 肯定するように、ポケモンはもう一度鳴いた。


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