ルミナスの手記
「マアアアア!!」
マッシブーンが腕を振り上げ建物を破壊していく。四人のポケモンも巻き込まれ大きなダメージを受ける。一言で表すなら、『剥き出しの暴力』。
「技は効いてる筈なのに……なんてパワー……! これが、ウルトラビースト……」
バーバラが呟く。それと同時に隣でアオイが叫ぶ。
「ライチュウ、メガシンカ!!」
彼女がマフラーに隠れていたチョーカーのキーストーンを触るとメガシンカの光が迸った。
ライチュウは光に包まれ、どこかアルファベットのXを彷彿とするポケモンとなった。
「“ボルテッカー”!!」
光弾となったライチュウの体がマッシブーンに突っ込んでいく。それにやっとマッシブーンがよろめく。シェリーが声を上げた。
「アオイさん!! 反動技ですよね?」
「きっかけくらいは作る! 今だ叩き込め!」
ミケが叫ぶと残りの三人は素早く反応した。
「“つばさでうつ”だ、ピジョン!」
「ソウブレイズ、“むねんのつるぎ”でダメージを取り返しなさい!!」
「……カルボウ、やりますよ!」
技を放つ二人の傍でシェリーはテラスタルオーブをかざす。風と光が空間を薙いで、美しい灯の宝石を頭に纏いカルボウは結晶化して、吼える。
「“ニトロチャージ”!!」
カルボウが突っ込んでいくと、蓄積ダメージから、マッシブーンがよろめきだした。
「嘘やろ! お前『最強のポケモン』なんやろ!?」
「ヨシノ……」
「あれ、可愛いね。信じちゃったんだー」
不意に上から声が聞こえた。男が砕かれた天井から顔を出して、にこにこと笑っているようだ。『ようだ』なのは彼の顔の傷跡と包帯で顔がよく見えないことだ。
ミケとシェリーは彼を知っている。
「アッファル……!」
「お、うれしー。覚えててくれたんだ。ほら、おじさんって無害で影薄いからさぁ」
「どの口が言ってるの? ヨシノに変なことしたのはあんた!?」
「変なことしたのは君じゃない? ヨシノくんのこと負かして病ませたじゃん」
「……! ……あんた、嫌いだ」
「お、落ち込まないんだ。君もできれば我々ヴァルキュリア・ファミリーに欲しいねー」
「お断りだっ!」
ミケが自分で思うより大きい声で叫ぶとアッファルは口笛を鳴らした。
「子供って奴は生き方が拙くて可愛いね」
「『アッファル』。……つい先日指名手配された男か。罪状が追加されたな。罰点だよ」
アオイが冷静に言い放つとアッファルは頭を掻いた。
「おじさん、有名人? まま、ちょっとオヤブンに小細工させただけじゃないですかー。ヨシノくーん、ここで捕まったら『強くなれなくなっちゃう』ねー」
ぴくりとヨシノの体が反応した。顔が暗い影に染まっていく。目に光がなくなっていく。
「……ヨシノちゃんっ!?」
「まぅん!!」
バーバラがヨシノの方に走り出そうとするとマッシブーンが妨害した。
「ヨシノくん、逃げよ」
アッファルのその言葉に、様子のおかしいヨシノは頷き、マッシブーンに乗った。アッファルも天井から降りてきて、マッシブーンに乗っかる。皆がアクションを取る前にマッシブーンの筋肉が胎動したと思うと、飛び上がり、やがて空に消えて行った。
「逃げられちゃったわね……」
「……ヨシノ」
ミケは拳をぎゅっと握る。こんな筈じゃなかった。
「僕は、確かにヨシノくんと仲良くなかったよ。でも、このままなんて、引き下がれない……!」
「ミケ……、その、あれ」
シェリーがミケの服の裾を握ると一か所を指差す。そちらを見やるとモンスターボールが転がっていた。ミケが近づいて中を確認すると、猫のポケモンが蹲っているのを見えた。
「ヨシノの……ブニャット」
「犯人の持ち物か」
アオイが近寄ってきて、そのボールを見つめる。
「……その、ポケモンに酷いことしないですよね?」
「どうだろう。君の言う『酷いこと』と俺の主観は違うかもだし。ああ、でも」
アオイは一瞬考えた後、言った。
「君、レオを倒したミケランジェロって子でしょ」
「なんで、名前」
「レオからすごいと聞いているからね。土壇場の返しがうまいって。後、うん、ピジョンがよく懐いているね。ならいいだろう」
「へ?」
「ブニャットを預かるね。簡単にバイタルチェックしてから明日バーバラ氏に預けておくので取りに来てね」
「いいのですか、ジムリーダー・アオイ!」
青髪のガーディアン・トレーナーが声を上げると、アオイは頷いた。
「特例だから、リーグに意見を求めるし、バイタル次第だけどね。やらかしたのはポケモンじゃないから。ミケ、俺は行くよ。ソメイ・ヨシノの手配と、アッファルが言っていた、『ヴァルキュリア・ファミリー』について対策を打たないと。……ミケ。次は楽しくバトルができると嬉しいな」
「あ、はい!」
「それじゃ」
アオイはにこっと笑うとガーディアン・トレーナーたちと共に去って行った。
「融通の効く人でよかったですね……」
「アオイちゃんは仕事熱心で優しいのよね……ソウエンジムのレオちゃんは幼馴染よ。同じくパルデアのチャンピオンランクは持っていたようね」
「レオさんと同じ、か。……はは、次のジム大変そう」
力なく笑った後、ミケはシェリーに向き直った。
「僕のために怒ってくれてありがとう」
「え、えと。すみません私ったらはしたないっ!」
「ふふ」
「さて、スクールが休校期間でよかったわ。状況が状況だしリーグから助成金降りるだろうし、いっそのこと最新設備叩き込んじゃおうかしら」
「はは、図太いですねバーバラさんは。……ヨシノ、一人で自習してたんだ」
「そうねぇ。ただ、片親で、お母様はリーグで働いてるんじゃなかったかしら。だからウチにも推薦で来たんだけど……」
「お母さんは、どこに?」
「それがね、リーグから『この子を入れてやってくれ』って、推薦されてきたのよ。素性も知らないわ。……ただ、推薦された筋が確かだったから、受け入れたの。その噂が流れたのか周りとも馴染めなくてね。バトルもなまじ強くてミケちゃんまでは負けなしだったから、こっちもケアしたつもりだけど、強すぎて避けられる子、珍しくないのよ。まだトレーナーになりたてってそういう時の心の面が強くないから……」
「そうですね……」
さっきも思った。
(君はとても寂しそうにポケモンを使うんだね、ヨシノ)
★★★
「ウルトラビーストォ!?」
ことの顛末を聞いたエミールはそれは大音量の大声量で叫んだ。
「ワオ」
後ろでバジーリオが呟くように言った。
「リーグに報告しといてよかったなぁ。しかし仕事早すぎてリーグ怖いなあ」
「あの、ウルトラビースト……って?」
ああ、とバジーリオはカップにコーヒーをとぽとぽと入れた後、一口飲むと言った。
「アローラで出現が確認された。次元の彼方から……これもちょっと言い方あれなんだけど、『遥か遠くから来ためっちゃ強いポケモン』って認識でいいよ。しかもマッシブーンってかくとうも入ってたじゃん。戦いたくねー」
エミールはそこでやっと話に入ってきた。
「ウルトラビーストはラティスでは所持を禁止されてるんだ。罪は重くはないが……、前歴はつくな……」
「ところで、そのヨシノって子のブニャット本当に引き取るの?」
「……できれば」
「ふーん。ブニャットは気難しい個体だぜ。気ぃ付けなー」
反対はされなかったことに、安心した。隣のピジョンは不満そうだが。それをたしなめるように、シェリーのカルボウが足でピジョンを軽くつついた。
【260214】
マッシブーンが腕を振り上げ建物を破壊していく。四人のポケモンも巻き込まれ大きなダメージを受ける。一言で表すなら、『剥き出しの暴力』。
「技は効いてる筈なのに……なんてパワー……! これが、ウルトラビースト……」
バーバラが呟く。それと同時に隣でアオイが叫ぶ。
「ライチュウ、メガシンカ!!」
彼女がマフラーに隠れていたチョーカーのキーストーンを触るとメガシンカの光が迸った。
ライチュウは光に包まれ、どこかアルファベットのXを彷彿とするポケモンとなった。
「“ボルテッカー”!!」
光弾となったライチュウの体がマッシブーンに突っ込んでいく。それにやっとマッシブーンがよろめく。シェリーが声を上げた。
「アオイさん!! 反動技ですよね?」
「きっかけくらいは作る! 今だ叩き込め!」
ミケが叫ぶと残りの三人は素早く反応した。
「“つばさでうつ”だ、ピジョン!」
「ソウブレイズ、“むねんのつるぎ”でダメージを取り返しなさい!!」
「……カルボウ、やりますよ!」
技を放つ二人の傍でシェリーはテラスタルオーブをかざす。風と光が空間を薙いで、美しい灯の宝石を頭に纏いカルボウは結晶化して、吼える。
「“ニトロチャージ”!!」
カルボウが突っ込んでいくと、蓄積ダメージから、マッシブーンがよろめきだした。
「嘘やろ! お前『最強のポケモン』なんやろ!?」
「ヨシノ……」
「あれ、可愛いね。信じちゃったんだー」
不意に上から声が聞こえた。男が砕かれた天井から顔を出して、にこにこと笑っているようだ。『ようだ』なのは彼の顔の傷跡と包帯で顔がよく見えないことだ。
ミケとシェリーは彼を知っている。
「アッファル……!」
「お、うれしー。覚えててくれたんだ。ほら、おじさんって無害で影薄いからさぁ」
「どの口が言ってるの? ヨシノに変なことしたのはあんた!?」
「変なことしたのは君じゃない? ヨシノくんのこと負かして病ませたじゃん」
「……! ……あんた、嫌いだ」
「お、落ち込まないんだ。君もできれば我々ヴァルキュリア・ファミリーに欲しいねー」
「お断りだっ!」
ミケが自分で思うより大きい声で叫ぶとアッファルは口笛を鳴らした。
「子供って奴は生き方が拙くて可愛いね」
「『アッファル』。……つい先日指名手配された男か。罪状が追加されたな。罰点だよ」
アオイが冷静に言い放つとアッファルは頭を掻いた。
「おじさん、有名人? まま、ちょっとオヤブンに小細工させただけじゃないですかー。ヨシノくーん、ここで捕まったら『強くなれなくなっちゃう』ねー」
ぴくりとヨシノの体が反応した。顔が暗い影に染まっていく。目に光がなくなっていく。
「……ヨシノちゃんっ!?」
「まぅん!!」
バーバラがヨシノの方に走り出そうとするとマッシブーンが妨害した。
「ヨシノくん、逃げよ」
アッファルのその言葉に、様子のおかしいヨシノは頷き、マッシブーンに乗った。アッファルも天井から降りてきて、マッシブーンに乗っかる。皆がアクションを取る前にマッシブーンの筋肉が胎動したと思うと、飛び上がり、やがて空に消えて行った。
「逃げられちゃったわね……」
「……ヨシノ」
ミケは拳をぎゅっと握る。こんな筈じゃなかった。
「僕は、確かにヨシノくんと仲良くなかったよ。でも、このままなんて、引き下がれない……!」
「ミケ……、その、あれ」
シェリーがミケの服の裾を握ると一か所を指差す。そちらを見やるとモンスターボールが転がっていた。ミケが近づいて中を確認すると、猫のポケモンが蹲っているのを見えた。
「ヨシノの……ブニャット」
「犯人の持ち物か」
アオイが近寄ってきて、そのボールを見つめる。
「……その、ポケモンに酷いことしないですよね?」
「どうだろう。君の言う『酷いこと』と俺の主観は違うかもだし。ああ、でも」
アオイは一瞬考えた後、言った。
「君、レオを倒したミケランジェロって子でしょ」
「なんで、名前」
「レオからすごいと聞いているからね。土壇場の返しがうまいって。後、うん、ピジョンがよく懐いているね。ならいいだろう」
「へ?」
「ブニャットを預かるね。簡単にバイタルチェックしてから明日バーバラ氏に預けておくので取りに来てね」
「いいのですか、ジムリーダー・アオイ!」
青髪のガーディアン・トレーナーが声を上げると、アオイは頷いた。
「特例だから、リーグに意見を求めるし、バイタル次第だけどね。やらかしたのはポケモンじゃないから。ミケ、俺は行くよ。ソメイ・ヨシノの手配と、アッファルが言っていた、『ヴァルキュリア・ファミリー』について対策を打たないと。……ミケ。次は楽しくバトルができると嬉しいな」
「あ、はい!」
「それじゃ」
アオイはにこっと笑うとガーディアン・トレーナーたちと共に去って行った。
「融通の効く人でよかったですね……」
「アオイちゃんは仕事熱心で優しいのよね……ソウエンジムのレオちゃんは幼馴染よ。同じくパルデアのチャンピオンランクは持っていたようね」
「レオさんと同じ、か。……はは、次のジム大変そう」
力なく笑った後、ミケはシェリーに向き直った。
「僕のために怒ってくれてありがとう」
「え、えと。すみません私ったらはしたないっ!」
「ふふ」
「さて、スクールが休校期間でよかったわ。状況が状況だしリーグから助成金降りるだろうし、いっそのこと最新設備叩き込んじゃおうかしら」
「はは、図太いですねバーバラさんは。……ヨシノ、一人で自習してたんだ」
「そうねぇ。ただ、片親で、お母様はリーグで働いてるんじゃなかったかしら。だからウチにも推薦で来たんだけど……」
「お母さんは、どこに?」
「それがね、リーグから『この子を入れてやってくれ』って、推薦されてきたのよ。素性も知らないわ。……ただ、推薦された筋が確かだったから、受け入れたの。その噂が流れたのか周りとも馴染めなくてね。バトルもなまじ強くてミケちゃんまでは負けなしだったから、こっちもケアしたつもりだけど、強すぎて避けられる子、珍しくないのよ。まだトレーナーになりたてってそういう時の心の面が強くないから……」
「そうですね……」
さっきも思った。
(君はとても寂しそうにポケモンを使うんだね、ヨシノ)
★★★
「ウルトラビーストォ!?」
ことの顛末を聞いたエミールはそれは大音量の大声量で叫んだ。
「ワオ」
後ろでバジーリオが呟くように言った。
「リーグに報告しといてよかったなぁ。しかし仕事早すぎてリーグ怖いなあ」
「あの、ウルトラビースト……って?」
ああ、とバジーリオはカップにコーヒーをとぽとぽと入れた後、一口飲むと言った。
「アローラで出現が確認された。次元の彼方から……これもちょっと言い方あれなんだけど、『遥か遠くから来ためっちゃ強いポケモン』って認識でいいよ。しかもマッシブーンってかくとうも入ってたじゃん。戦いたくねー」
エミールはそこでやっと話に入ってきた。
「ウルトラビーストはラティスでは所持を禁止されてるんだ。罪は重くはないが……、前歴はつくな……」
「ところで、そのヨシノって子のブニャット本当に引き取るの?」
「……できれば」
「ふーん。ブニャットは気難しい個体だぜ。気ぃ付けなー」
反対はされなかったことに、安心した。隣のピジョンは不満そうだが。それをたしなめるように、シェリーのカルボウが足でピジョンを軽くつついた。
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