ルミナスの手記

 翌日、朝一番でトレーナーズスクールに向かったミケとシェリーはトレーナーズスクールの前でマリルリをあしらったジョウロで花に水をやる橙髪の少年、確かヨシノに会った。ヨシノはちら、と二人を見たが二人に声をかけず、水をやる作業に戻った。
「えと、ヨシノくんだよね?」
「……」
「えと……」
「あんた、ポケモン強いん」
「え」
「スタンプ持っとるんやろ。昨日荷物から見えたで」
「え、ええっと……」
 ヨシノはここで水をやる手をやめた。そのタイミングで不意に風が強く吹く。ミケは帽子を押さえた。
「……オレとやり合えや」
 ヨシノはジョウロを置き、ボールをミケの前に差し出した。
「え」
「強いんやろ。先生が用意する前に片付けたるわ」
 ミケは戸惑う素振りを一瞬見せたが、次の瞬間には、真剣になった。
「……こちらこそ。でも片付かないかもしれないよ」
「言いはるやん。この上なく情けないほえ面かかせたるわ」
 ヨシノはそう言うと嘲るような笑顔を見せると、あっちや、とポケモンスクール脇のバトルコートの方に向かった。

★★★

「使用ポケモンは一対一でええな? さっさと始めるで」
「うん」
 二人はバトルコードの定位置につくとボールを手に取った。シェリーはハラハラとした様子で見守っている。
 ミケはボールを握ると、一瞬頷いて、ボールを投げた。同時にヨシノもボールを投げる。
「マッギョ! 頼む!」
「暴れてこい、ブニャット」
「ぷぴぃ」
「シャーっ」
 出てきたのはマッギョと、ブニャットと呼ばれた猫のポケモンだった。
 先に動いたのはヨシノだった。
「暴れさせてもらうで! “じゃれつく”!」
「マッギョ、“ほうでん”! 面を狙え!!」
 突進するブニャットにマッギョは一面の電撃で応える。
 一瞬どかんと大きな音がした後、マッギョがブニャットと倒れ込んでいる。しかしマッギョはすぐ復帰し、反対にブニャットはダメージを大分受けてしまったようだ。
「麻痺してないだけマシや! そのまま“のしかかり”!」
 その声にブニャットは立ち上がり、位置的に近くにいたマッギョに体重をかける。
「ぶぴぃ!」
「耐えろマッギョ、もう一度、“ほうでん”!!」
「させるか、そのまま“みだれひっかき”や!」
「なぁー!」
 容赦ないツメの攻撃がマッギョに降り注ぐ。まだ耐えられているが、このままだとまずいだろう。
(ええい! いちかばちかだ!!)
「マッギョ、“とびはねる”!」
「なっ……」
 ヨシノの反応が一歩遅れる。
「にゃっ!?」
 マッギョが上にジャンプする。ツメをたてていたブニャットが一緒に連れてかれる。
「そのまま落とせ!」
「ブニャット、なんとかせぇ!!」
「なああ!」
「ぷぴっ!」
 マッギョがなにもできずにいるブニャットを下に叩きつけ、そのまま体全体でとびはねるの着地ダメージも喰らわせる。コートに砂埃が産まれる。それが晴れた頃にはブニャットが倒れ伏していた。
「ミケさんの勝ちです!」
「……」
「よし! バトルお疲れ様、ヨシノくん」
「……ん」
「え?」
 ヨシノは震える拳を握り込み、叫んだ。
「オレは負けてへん!!」
「ヨシノくん……」
「いいえ、負けよ」
 後ろからよく通る凛とした声が響いた。シェリーが振り向き、その名前を呼ぶ。
「バーバラさん」
 バーバラは昨日とは打って変わって厳しい表情でヨシノの方を見ている。
「焦ってなにも考えず突っ込んでしまっているし、なに? 『なんとかせぇ』って? ブニャットはあなたの指示を待っていたのよ」
 その言葉にヨシノは目を見開き、唇を噛む。そして無言でゆっくりとブニャットをボールに戻すと、言った。
「ポケモンセンター……行ってくるから」
 その声は後悔に苛まれているようにミケには聞こえた。
 その場を去ってしまったヨシノを見送りながらバーバラは息を吐くと、二人に向き直った。
「ごめんね二人共~! あの子ちょっと頭でっかちなのよ! 気を悪くしてない?」
「い、いえ……」
「なんか、悪いことしちゃったかな」
「とんでもない! あの子も今回のことはいい勉強になった筈よ。そろそろ十時だし、体験行っちゃう?」
「は、はい!」
「よ、よろしくお願いします!」
 いつの間にかミケの足元に来ていたマッギョが一声鳴いた。

★★★

「ところで、プレゼントがあるのよ」
 空いた教室に入るなり、バーバラは二人に向き直った。
「え?」
「ポケバーを出して。二人とも」
 言われた通りにポケバーを出すとバーバラは二人の端末にコードを繋いだ。
「なにを?」
「拡張アプリよ。『対戦マッチング』っていうんだけど、自分の位置情報から、1km圏内のバトルしたい素敵な子たちを表示してくれるの。簡単なプロフィールや戦績が見れるから、バトルをしたくなったら、『対戦希望』ボタンを押すと、丁度二人がいる真ん中の場所を探してくれるの」
「お母さんはポケバー持ってなかったからなぁ。存在も知らなかったんだよなぁ」
「珍しいとは思ったけど、ダンテ先生は、貰ってたとしたら旧世代の大きい奴かもね。あれうちでも新しくしてから家で眠ってるわ」
「はは……」
 バーバラははい終わり、とコードを引き抜く。
「じゃあ、まずはタイプ相性の基本から学びましょうか! 二人のポケモンを出して頂戴! 何が得意で何が苦手か、じっくり教えてあげるから!」
「はい!」
「よろしくお願いします!」

★★★

「くそっ……」
 ヨシノはポケモンセンターを出た後、壁をドンと叩いた。
「あんな温室育ちにっ!」
「……よう」
「誰だ」
 フードの男はヨシノをフードの奥から見つめ、ふっと笑った。
「かわいそーな坊主に、いい話があるんだけど」


【250201】
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