ルミナスの手記
あの後到着したガーディアントレーナーと警察に一同は起こったことを全て伝えた。彼らは『無事でよかった』『アッファルという男を指名手配する』と言ってくれた。
オヤブンヤミラミはなにをされたのかはよくわからないが、今では落ち着きを取り戻しているという。気をつけて、と見送ってくれたアリカたちに感謝を述べ、四人は洞窟の外に歩み出した。
★★★
そこから五分くらい歩くと小さめの町と看板がある。
喧噪と闘争の町、ヘリアルタウン。
石畳の床に、他の町よりずっと多いトレーナーとポケモンがあちこちで歩いたり、話したり、買い物をしたりしている。
「おい、ところで、私はいつオニゴーリから降ろしてくれるんだ?」
「無理すると悪化するよ~病院に運ぶからね」
「いや! いいって!!」
「も~、ワガママプリンセスなんだから~」
「お前のその語り口どうにかならんのか!?」
「バジーリオ様、お優しくていらっしゃいます……」
「強火じゃない程よい距離感のファンは助かるね」
バジーリオはシェリーにウインクする。シェリーは心臓を抑えた。
「なに見せられてるんだ」
「えと、エミールさん」
呆れるエミールにミケが近づいて言う。
「あの……この町は故郷だしジムもないので……シェリーは案内できます。ちゃんと診てもらってください」
「あ、ああ……」
「ミケくんはどっかのエミーと違って賢いですねえ」
「あのなあ……」
「じゃけんオニゴーリ、彼を落とさないようによろしくね~」
「ガっ」
「おいおいおいおい」
抵抗したがエミールはバジーリオと一緒に去って行った。病院の方だ。
「じゃ、行こうか。ヘリアルタウンは町としては少し小さいけど、『ポケモンファイトクラブ』とかが有名なんだよ」
シェリーは頷く。
「存在だけは聞き及んでいます。遠いイッシュでしかやってないトリプルバトルとローテーションバトルも組み込んでいるとか……。……」
そう言ったシェリーが急に俯く。声をかけようとしていると、シェリーは急に顔を上げた。
「私、強くなりたい!」
「え?」
「アッファル……さんに対して私たち、なにもできなかった。大人たちに頼らないと生きていけない私なんて、欲しくない!」
彼女にしては珍しい感情の起伏だった。本気だ、ミケは思った ……自分は、どうだろうか。
「うん、強くなりたい。僕も」
「ミケさん……」
「それならポケモンファイトクラブじゃなくてあそこに行った方がいいな……」
「あそこ?」
「トレーナーズスクール」
こっちだよ、と道を歩き始めると、シェリーがいつにも増して真剣な顔でミケさん、と彼を呼び止めた。
「どうしたの?」
少しだけ長い沈黙と逡巡の後、シェリーは言った。
「ここでポケモントレーナーになる道も条件もあったのに、なんでイチヨウシティでまでトレーナーになっていなかったんですか?」
確かに、シェリーの立場ならそれは気になるとミケも思う。そろそろ自分の感情も整理するべきだろう。
「お母さんの『仕事』。トレーナーズスクールのスタッフ、ポケモンファイトクラブの時給とか参加者としてのファイトマネーだったんだ」
「そうだったんですか……そういえばお父様にはお金を渡していたとか……」
「うん、そのお金。どのくらい行ってたかはわからないけど、小さい頃はお母さんはずっと家にいなかったから、僕、僕からお母さんを奪うポケモンバトルが嫌いだった」
「……」
「でもポケモンは好きだったっていうのと、そんなことバレないようにポケモンの写真を撮ってたんだ。……いつの間にか、本当に写真撮るの好きになっちゃったけど」
「では、バチンキーは……」
「うん、運命の出会いだったと思う」
ミケのバチンキーのボールが物凄く揺れた。
「いつかお母様のポケモンとも戦えると嬉しいですね」
「家ではあまりボールから出してないけどガチ勢なんだよ……」
「ふふ、でもお父様が定職について引退を……?」
「そこはちょっと揉めたけど、『次はないからね』って引っ越したんだよ。でもお父さんに会う前に旅に出ちゃったなぁ……」
「……それ、は」
シェリーが胸元で手をきゅっと握る。
「でも、ミケさんの異常な勝負強さの理由がわかりました。ほっとしました」
「ほっと?」
シェリーは慌てて手をばたつかせる。
「いえ、なんでもないんです、なんでもないんですよ……! ほら、早くスクールに行きましょう?」
「う、うん」
訝しみながらも、ミケはスクールへの道を先導するように進んだ。
★★★
「『あ~結構がっつり捻ってますね。一週間は安静にしてくださいね』」
「医者の真似するな。ていうかそろそろ降ろせ」
病院帰りもエミールはオニゴーリの上に乗っていた。
「安静に」
「一週間もここで停滞してたら、ミケくん達にも悪いじゃないか!」
「自己肯定感低いの? あの二人にベッドに括り付けられても知らないからね」
「うう……」
ぐうの音も出ず俯いたエミールだったがやがて言った。
「重荷にはなりたくない……あの子たちの旅だって私が無理やり着いていったようなものだし」
するとエミールのボールからベロバーが飛び出してきた。心配そうにエミールの頭に乗り、頻りに顔を撫でている。
「ベロバー……」
「心配してくれてるんですね。そういうポケモンは大事にすべきですよ」
「ああ、そうだな……ベロバー、今まで雑に扱ってすまない」
「バァ!!」
ベロバーは嬉しそうに一鳴きした。
「あ、そーだー」
「?」
「エミー、是非俺と──……」
★★★
少し町の奥の方、町の真ん中で立つであろう場所に建つ大きな建物。それがトレーナーズスクールだった。
「さ、入ろ」
「はい」
入ると、受付には誰もおらずベルがある。ミケが慣れたようにそれを押すと、チンという音の後、恰幅のいいピンクブラウンのおかっぱの男性が現れた。
「あら、あらあらあら~ミケちゃんじゃないの!」
「ご無沙汰しています、バーバラさん」
「相変わらずちっちゃいのにしっかりしてるぅ! それにしても貴方やるわね、もうガールフレンドを連れてくるなんて! シティボーイになるとみんなそうなのかしら?」
「そんなじゃないですよ」
「にべもないわね~相手に気持ちがあったらどうするのよ」
「そ、そんな!」
シェリーがぼんっと煙が出そうなくらい真っ赤になった。
「かわい~子ねぇ。あたしはバーバラ。ここの塾長、と言ってもあたししか正規教師はいないわ。基礎的なことを詰めたら、ファイトクラブで勝手に強くなっていくから、あたし一人とバイトちゃんでなんとかなるのよね~ミケちゃんのお母さんは特に有能だったから、辞められちゃうのちょっと悲しかったわ~」
「はは……」
「その様子、冷やかしじゃないと見るわ」
バーバラがミケの腰のボールを見る。
「大方、ちょっと高めの壁に当たっちゃったんでしょう。うちで学んでいくなら歓迎するわ」
「……! はい、よろしくお願いします」
「し、シェリーです」
「んも~可愛い名前!」
なんかこの感じアリカの時も見たな、とシェリーはひっそり思った。
「バーバラ先生。関係ない話を進めはるんなら学費返却を求めますよ」
そう言うと奥の部屋から出てきた橙髪の少年にバーバラは『あら!』と声を上げる。
「違うのよヨシノくん~! ほら、ダンテ先生覚えてる? その息子さんなのよ」
「関係あらへん。こちとら強くなりたくて通っとるんです。そもそももういない先生の息子とか他人も他人やわ」
「もう! いけない子。今戻るから待っててね~」
「ならええですわ」
ヨシノと呼ばれていた生徒はスン、とした様子で教室の方に向かって行った。バーバラは溜息を吐く。
「あの子、ミケくんが引っ越して行ったくらいの時に入った子なんだけど、どうも馴染めていないのよねぇ。ジョウトのエンジュから来たから奥ゆかしいのかしら? とと、こうしてるとまた怒られちゃうわね! 明日の十時から体験授業を設けておくから、忘れずに来てね~」
「はい!」
「……はい」
★★★
「よっと……」
その日は小さなホテルに泊まった。
ミケが写真をネットワークにアップしていると、別室でシェリーと話していたらしいバジーリオが戻ってくる。
「いやー、シェリーくんは素晴らしい! 古参ファンだけどマウントは取らないし知識をひけらかさない。私の前じゃ正気失うけど」
「シェリーが様子おかしくなるのバジーリオさんの前だけですからね」
「かわいいね~ああそれと、エミーから聞いてない?」
何が、と視線を返すとバジーリオはやれやれと溜息を吐いた。
「話してないのかそうだろうな。マイナーリーグに彼を誘ったんだけど」
「え!」
「というか、エミー自体はどこ? 私動かないで、って言ったんだけどねぇ!」
「バルコニーにいるみたいです。戻ってくるまで来ないで、って。なんかナイーブな雰囲気でしたねぇ……」
「まあシーズンが切り替わるのには時間あるし、全然待てるけどね」
「でも、もしエミールさんがそうなったら、素敵な話です」
「そうだよねー」
★★★
『貴方は普通の子じゃないの』
「クソっ……」
エミールはバルコニーに座りながら、呟くように呪詛を吐いた。
「くーん?」
「ああ、アブソル。なんでもない……」
すり寄ってくるアブソルを撫で、エミールは空を見上げた。
「おれがおれじゃなかったら、バジルにも応えてやれたのかなあ……」
【260118】
オヤブンヤミラミはなにをされたのかはよくわからないが、今では落ち着きを取り戻しているという。気をつけて、と見送ってくれたアリカたちに感謝を述べ、四人は洞窟の外に歩み出した。
★★★
そこから五分くらい歩くと小さめの町と看板がある。
喧噪と闘争の町、ヘリアルタウン。
石畳の床に、他の町よりずっと多いトレーナーとポケモンがあちこちで歩いたり、話したり、買い物をしたりしている。
「おい、ところで、私はいつオニゴーリから降ろしてくれるんだ?」
「無理すると悪化するよ~病院に運ぶからね」
「いや! いいって!!」
「も~、ワガママプリンセスなんだから~」
「お前のその語り口どうにかならんのか!?」
「バジーリオ様、お優しくていらっしゃいます……」
「強火じゃない程よい距離感のファンは助かるね」
バジーリオはシェリーにウインクする。シェリーは心臓を抑えた。
「なに見せられてるんだ」
「えと、エミールさん」
呆れるエミールにミケが近づいて言う。
「あの……この町は故郷だしジムもないので……シェリーは案内できます。ちゃんと診てもらってください」
「あ、ああ……」
「ミケくんはどっかのエミーと違って賢いですねえ」
「あのなあ……」
「じゃけんオニゴーリ、彼を落とさないようによろしくね~」
「ガっ」
「おいおいおいおい」
抵抗したがエミールはバジーリオと一緒に去って行った。病院の方だ。
「じゃ、行こうか。ヘリアルタウンは町としては少し小さいけど、『ポケモンファイトクラブ』とかが有名なんだよ」
シェリーは頷く。
「存在だけは聞き及んでいます。遠いイッシュでしかやってないトリプルバトルとローテーションバトルも組み込んでいるとか……。……」
そう言ったシェリーが急に俯く。声をかけようとしていると、シェリーは急に顔を上げた。
「私、強くなりたい!」
「え?」
「アッファル……さんに対して私たち、なにもできなかった。大人たちに頼らないと生きていけない私なんて、欲しくない!」
彼女にしては珍しい感情の起伏だった。本気だ、ミケは思った ……自分は、どうだろうか。
「うん、強くなりたい。僕も」
「ミケさん……」
「それならポケモンファイトクラブじゃなくてあそこに行った方がいいな……」
「あそこ?」
「トレーナーズスクール」
こっちだよ、と道を歩き始めると、シェリーがいつにも増して真剣な顔でミケさん、と彼を呼び止めた。
「どうしたの?」
少しだけ長い沈黙と逡巡の後、シェリーは言った。
「ここでポケモントレーナーになる道も条件もあったのに、なんでイチヨウシティでまでトレーナーになっていなかったんですか?」
確かに、シェリーの立場ならそれは気になるとミケも思う。そろそろ自分の感情も整理するべきだろう。
「お母さんの『仕事』。トレーナーズスクールのスタッフ、ポケモンファイトクラブの時給とか参加者としてのファイトマネーだったんだ」
「そうだったんですか……そういえばお父様にはお金を渡していたとか……」
「うん、そのお金。どのくらい行ってたかはわからないけど、小さい頃はお母さんはずっと家にいなかったから、僕、僕からお母さんを奪うポケモンバトルが嫌いだった」
「……」
「でもポケモンは好きだったっていうのと、そんなことバレないようにポケモンの写真を撮ってたんだ。……いつの間にか、本当に写真撮るの好きになっちゃったけど」
「では、バチンキーは……」
「うん、運命の出会いだったと思う」
ミケのバチンキーのボールが物凄く揺れた。
「いつかお母様のポケモンとも戦えると嬉しいですね」
「家ではあまりボールから出してないけどガチ勢なんだよ……」
「ふふ、でもお父様が定職について引退を……?」
「そこはちょっと揉めたけど、『次はないからね』って引っ越したんだよ。でもお父さんに会う前に旅に出ちゃったなぁ……」
「……それ、は」
シェリーが胸元で手をきゅっと握る。
「でも、ミケさんの異常な勝負強さの理由がわかりました。ほっとしました」
「ほっと?」
シェリーは慌てて手をばたつかせる。
「いえ、なんでもないんです、なんでもないんですよ……! ほら、早くスクールに行きましょう?」
「う、うん」
訝しみながらも、ミケはスクールへの道を先導するように進んだ。
★★★
「『あ~結構がっつり捻ってますね。一週間は安静にしてくださいね』」
「医者の真似するな。ていうかそろそろ降ろせ」
病院帰りもエミールはオニゴーリの上に乗っていた。
「安静に」
「一週間もここで停滞してたら、ミケくん達にも悪いじゃないか!」
「自己肯定感低いの? あの二人にベッドに括り付けられても知らないからね」
「うう……」
ぐうの音も出ず俯いたエミールだったがやがて言った。
「重荷にはなりたくない……あの子たちの旅だって私が無理やり着いていったようなものだし」
するとエミールのボールからベロバーが飛び出してきた。心配そうにエミールの頭に乗り、頻りに顔を撫でている。
「ベロバー……」
「心配してくれてるんですね。そういうポケモンは大事にすべきですよ」
「ああ、そうだな……ベロバー、今まで雑に扱ってすまない」
「バァ!!」
ベロバーは嬉しそうに一鳴きした。
「あ、そーだー」
「?」
「エミー、是非俺と──……」
★★★
少し町の奥の方、町の真ん中で立つであろう場所に建つ大きな建物。それがトレーナーズスクールだった。
「さ、入ろ」
「はい」
入ると、受付には誰もおらずベルがある。ミケが慣れたようにそれを押すと、チンという音の後、恰幅のいいピンクブラウンのおかっぱの男性が現れた。
「あら、あらあらあら~ミケちゃんじゃないの!」
「ご無沙汰しています、バーバラさん」
「相変わらずちっちゃいのにしっかりしてるぅ! それにしても貴方やるわね、もうガールフレンドを連れてくるなんて! シティボーイになるとみんなそうなのかしら?」
「そんなじゃないですよ」
「にべもないわね~相手に気持ちがあったらどうするのよ」
「そ、そんな!」
シェリーがぼんっと煙が出そうなくらい真っ赤になった。
「かわい~子ねぇ。あたしはバーバラ。ここの塾長、と言ってもあたししか正規教師はいないわ。基礎的なことを詰めたら、ファイトクラブで勝手に強くなっていくから、あたし一人とバイトちゃんでなんとかなるのよね~ミケちゃんのお母さんは特に有能だったから、辞められちゃうのちょっと悲しかったわ~」
「はは……」
「その様子、冷やかしじゃないと見るわ」
バーバラがミケの腰のボールを見る。
「大方、ちょっと高めの壁に当たっちゃったんでしょう。うちで学んでいくなら歓迎するわ」
「……! はい、よろしくお願いします」
「し、シェリーです」
「んも~可愛い名前!」
なんかこの感じアリカの時も見たな、とシェリーはひっそり思った。
「バーバラ先生。関係ない話を進めはるんなら学費返却を求めますよ」
そう言うと奥の部屋から出てきた橙髪の少年にバーバラは『あら!』と声を上げる。
「違うのよヨシノくん~! ほら、ダンテ先生覚えてる? その息子さんなのよ」
「関係あらへん。こちとら強くなりたくて通っとるんです。そもそももういない先生の息子とか他人も他人やわ」
「もう! いけない子。今戻るから待っててね~」
「ならええですわ」
ヨシノと呼ばれていた生徒はスン、とした様子で教室の方に向かって行った。バーバラは溜息を吐く。
「あの子、ミケくんが引っ越して行ったくらいの時に入った子なんだけど、どうも馴染めていないのよねぇ。ジョウトのエンジュから来たから奥ゆかしいのかしら? とと、こうしてるとまた怒られちゃうわね! 明日の十時から体験授業を設けておくから、忘れずに来てね~」
「はい!」
「……はい」
★★★
「よっと……」
その日は小さなホテルに泊まった。
ミケが写真をネットワークにアップしていると、別室でシェリーと話していたらしいバジーリオが戻ってくる。
「いやー、シェリーくんは素晴らしい! 古参ファンだけどマウントは取らないし知識をひけらかさない。私の前じゃ正気失うけど」
「シェリーが様子おかしくなるのバジーリオさんの前だけですからね」
「かわいいね~ああそれと、エミーから聞いてない?」
何が、と視線を返すとバジーリオはやれやれと溜息を吐いた。
「話してないのかそうだろうな。マイナーリーグに彼を誘ったんだけど」
「え!」
「というか、エミー自体はどこ? 私動かないで、って言ったんだけどねぇ!」
「バルコニーにいるみたいです。戻ってくるまで来ないで、って。なんかナイーブな雰囲気でしたねぇ……」
「まあシーズンが切り替わるのには時間あるし、全然待てるけどね」
「でも、もしエミールさんがそうなったら、素敵な話です」
「そうだよねー」
★★★
『貴方は普通の子じゃないの』
「クソっ……」
エミールはバルコニーに座りながら、呟くように呪詛を吐いた。
「くーん?」
「ああ、アブソル。なんでもない……」
すり寄ってくるアブソルを撫で、エミールは空を見上げた。
「おれがおれじゃなかったら、バジルにも応えてやれたのかなあ……」
【260118】
