ルミナスの手記
「ここまで来ればっ……大丈夫だろう」
「ありがとう、君がいなかったらまだあそこに残ったかもしれない」
数十分の全力疾走で二人は息が上がっていた。バジーリオは、はあ~と大きい溜息をついた後、どっかりと座り込む。さすがにエミールも疲れていたので特に許可も求めず、バジーリオの隣に座った。
「ああ、それはいいよ」
座った瞬間感謝に対するレスポンスが返ってきた。
「借りを作るのは嫌いじゃないからね~。いつか役に立ちます」
「なんでこの男シェリーくんは好きなんだ」
「素直でいいこだからじゃなぁ~い?」
「それには同意するが……」
バジーリオは暫くうんうんと頷くエミールを見ていたが、やがてその額を指で弾いた。デコピンという奴だ。
「いたっ!」
「無理しいは俺嫌いだよ~」
「え」
「怪我してるでしょ。足かな」
「そ、そんなことは……」
ぎくりとしているとバジーリオは黙っていきなりエミールを押し倒した。
「!?」
「そっちのケは余裕であるけど私はちゃんと彼氏いるから安心してね~」
「なにもかも初耳だが!? いった!」
さらっと言われた告白に突っ込もうとした瞬間バジーリオの手が右足をひねり痛みに声を出してしまった。それを確認したバジーリオはエミールの革靴と靴下ををすぐ様脱がせる。捻挫によるものか、赤くなって膨らんでいる。
「よく走れたね。それとも走ったから悪くなっちゃったのかな」
「君が気にすることじゃない」
エミールがバジーリオから視線を逸らすとバジーリオは、暫し黙った後、言った。
「君さ、隠してること多いでしょ」
「……」
その無言は肯定か否定か。バジーリオは続ける。手持ちの布などでエミールの足の手当てをしながら。
「ミケくんは君を信頼してる」
「わかってる」
「何を隠してるかは知らないけど、それが彼を悲しませることならしない方がいいと思う」
「わかってる!」
悲壮さが多分に含まれた怒声だった。しかしその後エミールははっとした後視線を床に落とす。
「わかってる……怒鳴ってすまない……」
「わかってるならいいんだ」
そのタイミングで手当が終わり、バジーリオはボールを手に取る。
「オニゴーリ、ユキメノコ」
中から出てきたのは二匹の氷ポケモン。佇まいからよく訓練されているとわかる。
「そういえば君は……こおりタイプのマイナーリーグジムリーダーだったな」
「そう、姉さんが縦横無尽の矛なら私は不動の盾。まあその話は置いといて。オニゴーリはエミーを乗せてあげて。ユキメノコ、“おにび”。洞窟を照らしてくれ」
「おにご」
「めのー」
オニゴーリが頭を傾けて体を預けてきたのでエミールはおっかなびっくりその上に乗った。それに続きユキメノコが発した小さな炎は洞窟を照らすにはうってつけだ。
「あ、あの。バジーリオ」
「『バジル』」
「え?」
「そう呼んでくれたら嬉しいなあ」
「え、えと」
「それとも、やっぱりこんな胡散臭い男に心は許せない?」
「! ば、バジル……」
小声で呼ばれた愛称に、バジーリオはにっこりとした。
「一応、私のポケモンを出しとく……」
そう言ってエミールはアブソルとベロバーを出す。
ベロバーがエミールに飛びついてきたのでオニゴーリは自然と一緒にそれを運ぶことになる。
「なんかごめん……」
「ふふ」
★★★
「キルリア、踏ん張って!」
アリカが走りながら指示を出すとキルリアが後ろに向かって技を放つ。現在、ミケ、シェリー、アリカの三人はオヤブンヤミラミに追いかけられていた。
「僕も手伝うよ! ピジョン!!」
「……カルボウ、お願い!!」
アリカのキルリアも安定して技を放っているが事態が事態。ミケとシェリーも手持ちのポケモンをボールから放つ。
攻撃を受けながらもヤミラミの進撃は止まらない。
「おかしい……いつもより狂暴になってるわ! いつもは逃げたら追ってこないのに……」
「とりあえず追いかけられないようにしましょう! “すなかけ”!」
ピジョンが遺跡の土を引っかけると、ヤミラミの視界を潰したのか動きが悪くなる。そこにシェリーがダメ押しをした。
「“ニトロチャージ”! 相手の足元に!!」
「ボウ!」
カルボウの渾身の突進が足に当たった瞬間ヤミラミはひっくり返る。三人は顔を見合わせて、それぞれボールに相棒を戻した。
「一気に走るわよ! 着いてきて!!」
「はい!」
「……はい!」
★★★
数分後、開けた場所に出た三人はアリカから貰ったサイコソーダを飲みながら休んでいた。少し離れたところでポケバーで誰かに連絡を取っていたアリカは電話が終わると二人の元へ戻ってきた。
「先輩たちに応援を要請したから離れた大きいのとオヤブンヤミラミのことはもう大丈夫な筈。あたしたちはこのままロリエ遺跡を出ましょう」
「で、でもぉ……」
正直エミールとバジーリオは心配だ。アリカは心配そうなミケを見て腰に手を当てる。
「ごめんなさい、情けないところ見せちゃったね。でも先輩たちは頼りになるから、このまま出て大丈夫な筈だよ」
「はい……」
「もう一度捕まったら……逃げられるかわかりません……。バジーリオ様も、エミールさんもバトルは強いですし。私たちが無事でいることを望むと思うから……」
シェリーもそう言うとミケの手を引く。暫く俯いていたミケは、迷いを振り切るように頭を振るとうん、と頷いた。
「行こう。出口へ!」
「なーんだ。お前ら。うまいこと逃げたんだな」
決心して顔を上げた瞬間、少し奥の方から声が聞こえた。
そこにいたのは黒いフードの男。
「……誰だ」
アリカが警戒し、ボールを構える。それを見た後、男はふふっと笑ってフードを後ろにやった。当然顔が露わになる訳だが。
「っ……きゃ」
シェリーが声を上げる。男の顔は壮絶な傷跡と、包帯によって顔半分が隠れている、あまりにも異端な顔をしていた。見えている目と、口が顕しているのは人への愉悦。本能的にミケは察してしまう。
「こいつ……話が通じない奴だよ!」
「ちげーねぇ。お前らが死ねばいいとすら思ってたからな」
アリカが無言でボールからキルリアを出す。それを見て男はひゅうと口笛を吹いた。
「わかりやすいのは嫌いじゃねーがもうちょっと話せる余地くらい残させてくれよ。名前とかさー」
「必要ない。オヤブンヤミラミの狂暴化に携わったのなら、一緒に警察に来てもらう」
「やれやれ。どっちが野蛮なんだか。遊んでやれ。ゲンガー」
男もボールを投げると中から紫色のポケモンが現れる。
「キルリア! “チャームボイス”!」
「防げ」
男が一言発するとゲンガーはその技を腕でブロックする。特にダメージは受けていないようだ。
「あれ、“まもる”です。あんまりゲンガーには覚えさせない技だけど……」
男はシェリーのその言葉を聞くとかろうじて包帯の隙間から見えている口角を上げた。
「試合を見る目があるね嬢ちゃん。これがおじさんの戦い方よ。わかってんだろ、暴れろよ、ゲンガー」
「ガアア!」
ゲンガーの腕がキルリアを捕え、身動きをさせなくさせる。逃れようと暴れるキルリアをものともせず、一瞬だけ上げた腕についていた鋭いツメがキルリアを切り裂いた。
「キルリア!」
キルリアは呼ばれてもぴくぴくとするだけである。ひんしだ。
「……“シャドークロー”。物理型ゲンガー……?」
シェリーが呟く。
「嬢ちゃん本当に見る目があるね、うちに欲しいくらいだ」
男はそう言うと懐から出した煙草を呑気に吸った。煙をふうと吐き出すと言った。
「アッファル。おじさんの名前。本当はさっき名乗りたかったんだけどね? 因みにヴァルキュリア・ファミリーの幹部の一人だから、偉いんだよー」
「……やはり、ヴァルキュリア・ファミリーなんですね」
「知識まであると見た。どこかで会ったかな?」
「一体なんのために? ヤミラミを暴走させたのは貴方ですか?」
「暴走させたけど、暴走が目的ではないよ~」
「あんたの仲間、ポケモンを盗ろうとしてたけど……まさかヤミラミを?」
ミケがシェリーを庇うように前に出て言うとアッファルは一瞬真顔になった後笑った。
「仲間? あっははおもしれェーこと言うなぁ! それ他の幹部のしたっぱだろ! おじさんとこはそこまで一枚岩ではねーよ!!」
「……」
「でもそうだなぁ……何匹いても困らないからお前らのポケモンを盗っちまうのもありっちゃありだなぁ」
「やめろ! あたしはどうなってもいい! だけどキルリアとこの子たちに手を出すな!!」
「おじさんどんだけ獣だと思われてるんだろうなー。でも望むならあんたみたいな生意気な女わからせるのもやぶさかではねーぜ」
「っ……」
一体どうしたら、誰がどう見たって絶対絶命だ。
一歩後ろにミケが下がった時だった。
「“つじぎり”!!」
「“れいとうビーム”!」
二人の前に踊り出たポケモンがアッファルのポケモンに攻撃をした。一匹はメガシンカしたアブソル、もう一匹は妖艶な白いポケモン。二匹からの集中砲火を受けきってしまい、ゲンガーは転がって目を回した。
「あ?」
「やあうちの子が世話になったようだね」
「俺のお気に入りに手を出そうだなんて×××が! てめぇには屈辱のナンバーが似合うようだなぁ!!」
何故かポケモンの上に乗ったエミールと、隣でキレているバジーリオの登場に形勢は一気に変わる。しかしアッファルは大して焦ってはいないようだった。
「やー若いっていーね。じゃあおじさん帰るから」
「待て! 手持ちがいなくなった訳じゃねぇだろ! てめーの泣き言ラジオで流すまで腹に据えかねてるんだよこっちは!!」
「やめときな。汚いだけよー?」
そう言うとアッファルはゲンガーをボールに戻し、アイテムを翳した。
「あ」
「あなぬけのヒモって余分に持っとくもんよねー?」
次の瞬間、アッファルの姿はその場にはいなかった。
「畜生×××の×××が!!」
「あんまり小さい子の前でガチの罵倒しないでくれないかバジル」
「なんでオニゴーリの上に乗ってるんですか……エミールさん」
「ああ、これは……」
「……はぁー。すっきりした。ああ、エミーが足挫いちゃってね」
エミールは罰が悪そうに頭を掻くと呟いた。
「すまない……私が不甲斐ないばかりに」
「ええ、でも助けてくれたじゃないですか!」
「もっとうまくやれる道があった」
バジーリオがクソデカ溜息を吐く。
「本当に面倒臭い男ですね。そこは『ありがとう』とか『無事でよかった』でしょー?」
「そうですよ!」
「……」
エミールは何も言わなかった。
そこでキルリアをボールに戻したアリカが言う。
「リーグ本部への報告は終わりました。先輩たちが来るまで、あたしたちは待機とのことです。大きい人たち、ありがとうございました。お陰でロリショタが守られました」
「なんか胡乱なんだよな」
「ラジオで話すネタが増えたなぁ」
次の瞬間、一同はあんなことがあったにも関わらず、穏やかな声で笑い出した。
【260116】
「ありがとう、君がいなかったらまだあそこに残ったかもしれない」
数十分の全力疾走で二人は息が上がっていた。バジーリオは、はあ~と大きい溜息をついた後、どっかりと座り込む。さすがにエミールも疲れていたので特に許可も求めず、バジーリオの隣に座った。
「ああ、それはいいよ」
座った瞬間感謝に対するレスポンスが返ってきた。
「借りを作るのは嫌いじゃないからね~。いつか役に立ちます」
「なんでこの男シェリーくんは好きなんだ」
「素直でいいこだからじゃなぁ~い?」
「それには同意するが……」
バジーリオは暫くうんうんと頷くエミールを見ていたが、やがてその額を指で弾いた。デコピンという奴だ。
「いたっ!」
「無理しいは俺嫌いだよ~」
「え」
「怪我してるでしょ。足かな」
「そ、そんなことは……」
ぎくりとしているとバジーリオは黙っていきなりエミールを押し倒した。
「!?」
「そっちのケは余裕であるけど私はちゃんと彼氏いるから安心してね~」
「なにもかも初耳だが!? いった!」
さらっと言われた告白に突っ込もうとした瞬間バジーリオの手が右足をひねり痛みに声を出してしまった。それを確認したバジーリオはエミールの革靴と靴下ををすぐ様脱がせる。捻挫によるものか、赤くなって膨らんでいる。
「よく走れたね。それとも走ったから悪くなっちゃったのかな」
「君が気にすることじゃない」
エミールがバジーリオから視線を逸らすとバジーリオは、暫し黙った後、言った。
「君さ、隠してること多いでしょ」
「……」
その無言は肯定か否定か。バジーリオは続ける。手持ちの布などでエミールの足の手当てをしながら。
「ミケくんは君を信頼してる」
「わかってる」
「何を隠してるかは知らないけど、それが彼を悲しませることならしない方がいいと思う」
「わかってる!」
悲壮さが多分に含まれた怒声だった。しかしその後エミールははっとした後視線を床に落とす。
「わかってる……怒鳴ってすまない……」
「わかってるならいいんだ」
そのタイミングで手当が終わり、バジーリオはボールを手に取る。
「オニゴーリ、ユキメノコ」
中から出てきたのは二匹の氷ポケモン。佇まいからよく訓練されているとわかる。
「そういえば君は……こおりタイプのマイナーリーグジムリーダーだったな」
「そう、姉さんが縦横無尽の矛なら私は不動の盾。まあその話は置いといて。オニゴーリはエミーを乗せてあげて。ユキメノコ、“おにび”。洞窟を照らしてくれ」
「おにご」
「めのー」
オニゴーリが頭を傾けて体を預けてきたのでエミールはおっかなびっくりその上に乗った。それに続きユキメノコが発した小さな炎は洞窟を照らすにはうってつけだ。
「あ、あの。バジーリオ」
「『バジル』」
「え?」
「そう呼んでくれたら嬉しいなあ」
「え、えと」
「それとも、やっぱりこんな胡散臭い男に心は許せない?」
「! ば、バジル……」
小声で呼ばれた愛称に、バジーリオはにっこりとした。
「一応、私のポケモンを出しとく……」
そう言ってエミールはアブソルとベロバーを出す。
ベロバーがエミールに飛びついてきたのでオニゴーリは自然と一緒にそれを運ぶことになる。
「なんかごめん……」
「ふふ」
★★★
「キルリア、踏ん張って!」
アリカが走りながら指示を出すとキルリアが後ろに向かって技を放つ。現在、ミケ、シェリー、アリカの三人はオヤブンヤミラミに追いかけられていた。
「僕も手伝うよ! ピジョン!!」
「……カルボウ、お願い!!」
アリカのキルリアも安定して技を放っているが事態が事態。ミケとシェリーも手持ちのポケモンをボールから放つ。
攻撃を受けながらもヤミラミの進撃は止まらない。
「おかしい……いつもより狂暴になってるわ! いつもは逃げたら追ってこないのに……」
「とりあえず追いかけられないようにしましょう! “すなかけ”!」
ピジョンが遺跡の土を引っかけると、ヤミラミの視界を潰したのか動きが悪くなる。そこにシェリーがダメ押しをした。
「“ニトロチャージ”! 相手の足元に!!」
「ボウ!」
カルボウの渾身の突進が足に当たった瞬間ヤミラミはひっくり返る。三人は顔を見合わせて、それぞれボールに相棒を戻した。
「一気に走るわよ! 着いてきて!!」
「はい!」
「……はい!」
★★★
数分後、開けた場所に出た三人はアリカから貰ったサイコソーダを飲みながら休んでいた。少し離れたところでポケバーで誰かに連絡を取っていたアリカは電話が終わると二人の元へ戻ってきた。
「先輩たちに応援を要請したから離れた大きいのとオヤブンヤミラミのことはもう大丈夫な筈。あたしたちはこのままロリエ遺跡を出ましょう」
「で、でもぉ……」
正直エミールとバジーリオは心配だ。アリカは心配そうなミケを見て腰に手を当てる。
「ごめんなさい、情けないところ見せちゃったね。でも先輩たちは頼りになるから、このまま出て大丈夫な筈だよ」
「はい……」
「もう一度捕まったら……逃げられるかわかりません……。バジーリオ様も、エミールさんもバトルは強いですし。私たちが無事でいることを望むと思うから……」
シェリーもそう言うとミケの手を引く。暫く俯いていたミケは、迷いを振り切るように頭を振るとうん、と頷いた。
「行こう。出口へ!」
「なーんだ。お前ら。うまいこと逃げたんだな」
決心して顔を上げた瞬間、少し奥の方から声が聞こえた。
そこにいたのは黒いフードの男。
「……誰だ」
アリカが警戒し、ボールを構える。それを見た後、男はふふっと笑ってフードを後ろにやった。当然顔が露わになる訳だが。
「っ……きゃ」
シェリーが声を上げる。男の顔は壮絶な傷跡と、包帯によって顔半分が隠れている、あまりにも異端な顔をしていた。見えている目と、口が顕しているのは人への愉悦。本能的にミケは察してしまう。
「こいつ……話が通じない奴だよ!」
「ちげーねぇ。お前らが死ねばいいとすら思ってたからな」
アリカが無言でボールからキルリアを出す。それを見て男はひゅうと口笛を吹いた。
「わかりやすいのは嫌いじゃねーがもうちょっと話せる余地くらい残させてくれよ。名前とかさー」
「必要ない。オヤブンヤミラミの狂暴化に携わったのなら、一緒に警察に来てもらう」
「やれやれ。どっちが野蛮なんだか。遊んでやれ。ゲンガー」
男もボールを投げると中から紫色のポケモンが現れる。
「キルリア! “チャームボイス”!」
「防げ」
男が一言発するとゲンガーはその技を腕でブロックする。特にダメージは受けていないようだ。
「あれ、“まもる”です。あんまりゲンガーには覚えさせない技だけど……」
男はシェリーのその言葉を聞くとかろうじて包帯の隙間から見えている口角を上げた。
「試合を見る目があるね嬢ちゃん。これがおじさんの戦い方よ。わかってんだろ、暴れろよ、ゲンガー」
「ガアア!」
ゲンガーの腕がキルリアを捕え、身動きをさせなくさせる。逃れようと暴れるキルリアをものともせず、一瞬だけ上げた腕についていた鋭いツメがキルリアを切り裂いた。
「キルリア!」
キルリアは呼ばれてもぴくぴくとするだけである。ひんしだ。
「……“シャドークロー”。物理型ゲンガー……?」
シェリーが呟く。
「嬢ちゃん本当に見る目があるね、うちに欲しいくらいだ」
男はそう言うと懐から出した煙草を呑気に吸った。煙をふうと吐き出すと言った。
「アッファル。おじさんの名前。本当はさっき名乗りたかったんだけどね? 因みにヴァルキュリア・ファミリーの幹部の一人だから、偉いんだよー」
「……やはり、ヴァルキュリア・ファミリーなんですね」
「知識まであると見た。どこかで会ったかな?」
「一体なんのために? ヤミラミを暴走させたのは貴方ですか?」
「暴走させたけど、暴走が目的ではないよ~」
「あんたの仲間、ポケモンを盗ろうとしてたけど……まさかヤミラミを?」
ミケがシェリーを庇うように前に出て言うとアッファルは一瞬真顔になった後笑った。
「仲間? あっははおもしれェーこと言うなぁ! それ他の幹部のしたっぱだろ! おじさんとこはそこまで一枚岩ではねーよ!!」
「……」
「でもそうだなぁ……何匹いても困らないからお前らのポケモンを盗っちまうのもありっちゃありだなぁ」
「やめろ! あたしはどうなってもいい! だけどキルリアとこの子たちに手を出すな!!」
「おじさんどんだけ獣だと思われてるんだろうなー。でも望むならあんたみたいな生意気な女わからせるのもやぶさかではねーぜ」
「っ……」
一体どうしたら、誰がどう見たって絶対絶命だ。
一歩後ろにミケが下がった時だった。
「“つじぎり”!!」
「“れいとうビーム”!」
二人の前に踊り出たポケモンがアッファルのポケモンに攻撃をした。一匹はメガシンカしたアブソル、もう一匹は妖艶な白いポケモン。二匹からの集中砲火を受けきってしまい、ゲンガーは転がって目を回した。
「あ?」
「やあうちの子が世話になったようだね」
「俺のお気に入りに手を出そうだなんて×××が! てめぇには屈辱のナンバーが似合うようだなぁ!!」
何故かポケモンの上に乗ったエミールと、隣でキレているバジーリオの登場に形勢は一気に変わる。しかしアッファルは大して焦ってはいないようだった。
「やー若いっていーね。じゃあおじさん帰るから」
「待て! 手持ちがいなくなった訳じゃねぇだろ! てめーの泣き言ラジオで流すまで腹に据えかねてるんだよこっちは!!」
「やめときな。汚いだけよー?」
そう言うとアッファルはゲンガーをボールに戻し、アイテムを翳した。
「あ」
「あなぬけのヒモって余分に持っとくもんよねー?」
次の瞬間、アッファルの姿はその場にはいなかった。
「畜生×××の×××が!!」
「あんまり小さい子の前でガチの罵倒しないでくれないかバジル」
「なんでオニゴーリの上に乗ってるんですか……エミールさん」
「ああ、これは……」
「……はぁー。すっきりした。ああ、エミーが足挫いちゃってね」
エミールは罰が悪そうに頭を掻くと呟いた。
「すまない……私が不甲斐ないばかりに」
「ええ、でも助けてくれたじゃないですか!」
「もっとうまくやれる道があった」
バジーリオがクソデカ溜息を吐く。
「本当に面倒臭い男ですね。そこは『ありがとう』とか『無事でよかった』でしょー?」
「そうですよ!」
「……」
エミールは何も言わなかった。
そこでキルリアをボールに戻したアリカが言う。
「リーグ本部への報告は終わりました。先輩たちが来るまで、あたしたちは待機とのことです。大きい人たち、ありがとうございました。お陰でロリショタが守られました」
「なんか胡乱なんだよな」
「ラジオで話すネタが増えたなぁ」
次の瞬間、一同はあんなことがあったにも関わらず、穏やかな声で笑い出した。
【260116】
