ルミナスの手記

 ロリエ遺跡、入口付近。
「ていうかお前本当に着いてくるんだ?」
「だってヘリアルに用事あるもーん」
 エミールがジト目でバジーリオを見ると、バジーリオは当然のように返す。
「遺跡にはガーディアントレーナーの同行が必須だ。五人って旅には多すぎだろ。ミケランジェロくんとシェリーくんは物分かりがいいから大人は私だけで十分なんだよ!」
「……」
 バジーリオはとても生暖かい目でエミールを見た。
「なんだよ」
「自分以外が子供たちに頼られるのがいやなのかい?」
「なっ……」
「欲張りなお兄さんですねぇ」
「違っ、おま、馬鹿!!」
 エミールが怒鳴ると、シェリーと並んでいたミケが心配そうに歩み寄ってくる。
「その……エミールさん。喧嘩はだめですよ?」
「あ、ああ! 勿論してなど……」
「ミケく~ん、エミーは私のこと嫌いなんですって」
「……そうなんです?」
「信じない、『エミー』って呼ばない!」
「因みに、私は貴方のこと結構好きだよ。エミー?」
「……! だったら喧嘩売ってくるな!」
「喧嘩しちゃダメですよ~!」
「ミケランジェロくん! 違くてだな!!」
「ふふっ」

★★★

 ロリエ遺跡の前の詰め所では同じ服を着たトレーナーが何人か話している。そして一人の女性が気がつくと歩み寄ってきた。綺麗な長さのプラチナイエローの髪を後ろで結んだ活発そうな女性だ。
「コップ遺跡通過をご希望のお客様ですか? ロリエ遺跡は迷いやすく、強いポケモンが多いのでガーディアントレーナーの同行が義務づけられています! 皆さんの護衛はあたし、アリカが担当させて頂きます!」
「よろしくお願いします!」
「よろしく……です」
「わー可愛いショタロリだぁ!」
 間。
「しょた……ろり?」
「一緒にいるのはその他二人ですね! 名前は興味ないけど決まりなので名簿に記入お願いします~。ちっちゃい子たちは名前なにかな?」
「? ミケランジェロです」
「シェリーです」
「ミケくんにシェリーちゃんね! なんて可愛いの!! できれば育たないでほし~!!」
「……ねぇ、エミー。これはアタリ?」
「ハズレだろ……」
 エミールは思った。さすがに胃が痛い。

★★★

「ロリエ遺跡はね、ここラティスで一番古い建築物と呼ばれているんですね。砦として使われていたので迷いやすくもあるんです」
「へぇ……」
「具体的にはー、碑文とか見つかってますね。ラティスの神話的文献です」
 それにはエミールが答えた。
「『ばんのうのきょじん すべて を はかいする。

やがて ひかりのかみ が あのよより きかんし、 せかいはうまれかわる』……だったかな?」
「へえー大人なのに勉強されているんですね」
「……チクチク言葉か?」
 エミールを半目で見ていたアリカはそれには答えず、またミケとシェリーに話しかけた。
「実はラティスの成り立ちってこの碑文でしか語られてないんです。だからラティス地方の神話については殆どが開拓史になってるんです」
「へえ!」
 ミケが感心していると、様子を見るだけだったバジーリオが突然真面目な顔で言った。
「でもさ、おかしいよね」
「……バジーリオさん?」
「幾ら昔の人でももうちょっと文献残ってる筈でしょ。もみ消されたんだったらその碑文も騙りの可能性はありますよね」
「貴方、大きいだけあってありえないこと言いますね」
「俺としてはそれを貴重だなんだと拝んでる方がよっぽど気持ち悪いですけど~?」
「へーえ?」
 バジーリオとアリカが睨み合って一触即発、というところをエミールが慌てて止めようと口を開いた時だった。
「きゃっ!」
 一番前を歩いていたシェリーが悲鳴を上げた。
「どうしたの!? シェリー!」
 ミケが慌ててシェリーのところへ行くとシェリーは困ったように言った。
「な、なんか……赤いなにかが光りました。宝石みたいな……」
「赤い宝石?」
 それを聞いた途端、アリカがボールを手に取って前に出た。
「それはヤミラミですね」
「ヤミラミ?」
「あくとゴーストの複合タイプのポケモンだな。鉱石が鉱物でよく食べてる筈だ」
 エミーの解説にかぶせるようにバジーリオが続けた。
「なんというか、コップ遺跡に生息していたら最悪だったよね!」
「確かに」
 アリカがこほんと咳払いして皆の注意を引いた。
「実はヤミラミを見たら警戒しなくちゃいけなくて」
「?」
「『オヤブン』って呼ばれてるヤミラミの個体がいるんですよね」
 ミケは首を傾げる。そんな彼の肩を置き、バジーリオがミケの視線辺りまで屈んで、笑顔で言った。
「君たちはボコボコにされるでしょうね」
「そ、そんなに」
「デカいだけではありませんから。稀に人間も襲ってくる危険な存在です。ガーディアントレーナーが置かれていることには意味があるのですよ」
「そんな訳でこれからあたしが先導するのでロリショタちゃんたちは着いてきてください。面倒になるので育ちきってる方もはぐれないでくださいね」
「合点承知!」
「なんだかなぁ」
 エミールが呟いた時だった。
「しゃああああっ!!」
 大きな声が上から突然聞こえた。それを確認する前に、それは皆の並んでいる列に降りてきた。赤い大きな宝石が一瞬だけ見えたが後はすぐに砂埃で隠れてしまった。
「オヤブンヤミラミですっ!」
 アリカが叫んだが、砂埃でなにもわからない。ただ、その砂埃の中に『とんでもなく狂暴な何か』がいるのはその場にいる皆が直感で思っていた。
「ミケランジェロくん! シェリーくん!」
 位置的にアリカ、ミケ、シェリーとエミール、バジーリオで分断されているようだ。
「エミー。ここは離れよう! 遠回りすれば合流できる道は知ってるから」
「でも……」
「ガーディアントレーナーがいるし大丈夫ですよ! むしろ我々が足手まといになる!」
 珍しく真剣なバジーリオの声色にエミールも毒気を抜かれたように頷く。
「無事でいてくれよ!」
「そっちこそ!」
「二人はあたしに任せてください!」
 叫んだ声の返答を聞いて、エミールは先に走り出したバジーリオを追ってロリエ遺跡の迷路に足を向けることになった。


【260116】
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